休息
その声と共に十人程度の生徒がグラウンドになだれ込んでくる。
その誰もが倒れている緑化委員に駆け寄り、何かしらの処置を施している。
「あの人たちは?」
灯也の疑問に綾女が答える。
「保健委員会よ。治癒専門の能力で治療に当たるの。私たちは大した怪我はしていないから後回しだけど、痛い所があるなら伝えればすぐに治してくれるわよ」
灯也は肩を回してみたり、軽く腰を捻ってみるが特に痛いわけではない。負傷と言えるのは手に小さい掠り傷があるのみ。
「怪我は無いです」
「そうみたいね。なら司書室に行くわよ」
掠り傷一つない綾女はさっさとグラウンドを後にする。
応援に来ていたはずの図書委員会の面々もいない。恐らく司書室だろうと灯也は考えてグラウンドを後にする。
シャワールームで汗と土を洗い落とす。
さっぱりした気持で外に出ると、春に相応しい陽気だった事に気付く。暖かい日差しと暖かい風、そしてその風に乗って桜の花びらも舞っている。先程までそんな事には気付かないほどに緊張していた自分に気付き、深い安堵のため息が出る。
「ヤバい、良い疲労感が襲ってきた。眠い」
今ここで眠っていいと言われれば、間違いなく横になる自信があったが、そんなわけにもいかず、重い身体を引きずる様に司書室へと向かう。
何とか司書室までたどり着き扉を開ける。
「お疲れ様です」
その声に、先に居た全員が振り向く。その中には新聞部部長の咲の姿もあった。
まず最初にこの疲労感をもたらした張本人である司書さんが声を上げる。
「お疲れだな灯也! 間違いなく功労賞だぞ!」
次いで薫子。
「怪我はないですかぁ? 見てた感じ、結構無茶な飛ばされ方したように見えたんですけどぉ」
担任であり顧問の彼女に、上手く受け身は取れていたから怪我は無いと伝えると、薫子はホッとした表情を作る。
灯也は悠に淹れてもらった紅茶で、暫く休憩したところで咲の取材が始まる。
新聞部らしく相手から聞きだしたい情報を上手く聞きだし、絶妙の間で相の手を入れる。それが繰り返され、三十分が経ったころに控えめなノックがされて、失礼します、と楓が入室してくる。
しかし、取材中だと言う事に気付いた彼女は、慌てて出て行こうとしたが咲が止める。
「生徒会ね? 取材はもう終わりだから待ってなさい」
優しい口調で楓を引きとめて、咲は話をまとめる。
「取材協力ありがとう。綾女より素直に受け答えしてくたからやり易かったわ。後日新聞として配布するから見てね」
言って席を立ち司書室から出て行く。
立ち替わりに楓が席に座る。深呼吸を一つして彼女は自分の仕事を始める。
「緑化委員会との八百戦、お疲れ様でした。これから確定書にサインをしていただきます」
そして、右手を出すように促され灯也と綾女は黙って右手を差し出す。
右手に有るものは手首の誓約書だけ。その模様になっている誓約書に楓が触れると、また糸状に解け今度は機が織られるように紙に戻る。
それは、最初に見た誓約書では無く確定書に書き変わっていて、書かれている内容も『図書委員会の勝利の確定』と書かれており、氏名の欄もある。
自分の名前をサインとして書き、楓に渡す。楓は不備が無いかを確認し、問題なしとして受理される。
「以上で八百戦は終了です。勝利報酬は風紀委員会預かりでよろしいんですね?」
「ええ問題ないわ。いつも通り、学校の清掃とか備品チェックになるでしょう」
図書委員会には他の委員会から欲しいものはないので、風紀委員会に恩を売る事を選んでいる。風紀委員会預かりにしてしまえば、彼らが行う学校内外の清掃、細々とした書類の作成、等の面倒な作業を緑化委員会が代わりに行う事になり、風紀委員会にも図書委員会にも利が出る。図書委員会の具体的な利は、指定された校舎以外への持ち込みが禁止な私物に該当するコーヒーメイカー、紅茶ポッドなどの持ち込みを見逃してもらっている。学校の風紀を統べる委員会を味方につけた荒業で、司書室の午後のお茶会は成り立っていた。
「それでは、生徒会からは以上です。お疲れ様でした」
楓は軽く頭を下げ終了を告げる。
全てのことが終わり、一年生の二人は自分の役目を果たしたと一息つく。
上級生や先生は、それが可愛らしく見えたのか微笑が漏れる。
労いも込めて楓に紅茶と菓子が振る舞われる。楓が飲み終わる頃には、其々が談笑に花を咲かせていた。
正午を迎え、楓は生徒会室に帰り、図書委員会も色々と考える時間になった。
「さて、私はそろそろ学食に行くけど皆はどうする?」
綾女の問いかけに悠、司書さん、薫子は同行する旨を伝え、最後に灯也も学食に付いて行くことにした。




