特訓
灯也は生徒手帳を仕舞い、視線を前に向けると楓がA4サイズの紙を二枚、取り出していた。
「問題が無ければこちらにサインをお願いします」
彼女は一枚を綾女に、もう一枚を灯也に差し出す。
目の前に来た紙を見ると、誓約書という文字が大きく書かれその下には『誓います』との文言と氏名の欄がある。
この誓約書は、実際に試合に参加する生徒だけが署名するので、今回は綾女と灯也の二人が該当する。
灯也はペンケースからボールペンと取り出してフルネームを書き込む。綾女は高級そうな万年筆で名前を書き込んでいた。
すると誓約書が糸のように解け、右手首にぐるぐると絡みつく。
それは最終的に、幾何学的な模様となり手首に固定される。
理解の範疇を超えている学校だと理解が追いつき始めていたので、情けない悲鳴等は上げずに済んだ。
それでも不思議なものには変わらず、自分の右手首を眺めている灯也に綾女が言う。
「それは契約の具現化よ。生徒会の持つ付与された能力の一つね。試合が終了すれば解けるわ」
その説明に安心を見せる灯也。
「では、以上で生徒会からの言伝を終了します」
そこで楓は、緊張から解放されたように息を吐き、肩の力も抜く。
「お疲れ様。貴女は一年生よね? どうだった、初めてのメッセンジャーは?」
綾女が労うように問いかける。
「はい、緊張しました。でも実は昼休みに菅野君で軽く練習させてもらったんです」
灯也は昼休みの光景を思い出して納得する。
「確かに練習だと聞けば、そうだったように思えるよ」
「あら、知り合いだったの。委員会同士の繋がりは重要よ。何かあっても話合いで解決できる場合があるわ」
確かに何処何処の委員会、部活に知り合いがいる、と言うのはそれだけで色々と有利だろう。
綾女に言われて納得していた灯也だが、横から人数分のティーカップをトレーに乗せた悠が、
「損得で計るのは良くないですよ」
そう言ってカップを配る。もちろん楓の前にも置かれ、どうぞと進める。
「ありがとうございます。頂きます」
先程までの、少し張り詰めたような雰囲気は無く、和やかなお茶会が始まる。
始まってから十分程、綾女の作ったクッキーも皆で美味しく食べ、一段落した頃に楓が席を立つ。
「そろそろ生徒会室に戻ります。美味しい紅茶とクッキーごちそうさまでした」
楓が司書室から出て行った後、今度こそ試合の為の訓練が開始された。
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現在の場所は校舎の地下、無機質にも白一色の床、壁、天上。広さは体育館ほどで高さもある。
ここは、校憑から借り受けた能力を練習で使用できる施設の一つで、使用予約を取れば誰でも使える第二訓練室。そこに先ほど、司書さんから能力を借りたジャージ姿の綾女と灯也がいる。
「今から始めるのは普通の運動でも殴り合いでもないわ。筋力だけなら私は貴方に勝てないだろうけど、能力ありなら負ける事は無いわ」
単純な話だった。なんでも有り、それはこの世界の法則など当てはまらないという事。体格や筋力は関係なく、能力をいかに把握し上手く使うかにかかってくる。
「今日は能力がどういうものかを把握しなさい」
いきなり見た事も無い楽器を渡されても正しく演奏できないのと同様に、まずは実物を操る事の出来る綾女の能力の使い方を見て学ぶ。
「痛くても治るから逃げない!」
灯也の左腕に鈍い衝撃音と共に激痛が走る。
「無理に決まってるじゃないですか! さっきから何回激痛に悶えてると思ってるんですか!」




