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緊急招集

 翌、灯也は当番のため昼休みに図書館を訪れていた。

「お疲れ様です」

 図書館一階のカウンターで既に作業を開始していた悠に挨拶をして、灯也もカウンターの中に入る。


「お疲れ様、早速だけど作業をしてもらいますよ。昨日教えられた事しかやらないから安心してください」

 カウンター業務は主に貸出。生徒が借りに来る本のバーコードをリーダーで読み取り、返却期限が記された栞を挟んで渡す。この一連の流れがカウンター業務だ。


 昼休みは比較的生徒が少ないので余裕を持って対処出来た。

「どうですか? カウンターはけっこう簡単でしょ?」

「ですね。なんとかなりそうです」

 一時間の昼休みのうち五十分が過ぎた。

「さて、そろそろ昼休みも終わりです。司書室に行って司書さんに引き継いでもらいましょう」


 悠はカウンターに『休止中』のプレートを置いて司書室に向かう。

「おお、ご苦労だったな」

 司書室に来た灯也と悠に向けて司書さんは笑顔を見せる。

「悠、何か問題はあった?」

「何も無いですよ委員長。彼も通常業務をこなせていました」

 悠は報告をしながら自分の荷物をまとめていた。

「次、俺移動教室なんでお先に失礼します」

 荷物を持って颯爽と司書室を出て行く。続いて司書さんもカウンター業務の為に司書室を後にする。


 そこで灯也は一つの疑問を口にする。

「司書さんって、ずっと図書館に居るんですか?」

 それに答えたのは綾女だった。

「そうよ。校憑は学校の敷地からは出られないから図書館の一角、最上階が司書さんのプライベートルームよ」

 許可なく入らないようにね。と付け足し、自身もテーブルに広げていた教科書の類を仕舞う。

 しかし仕舞う手を止めて、綾女が少し真剣な口調で、

「一年生のうちに、あまり校憑に興味を持たないほうがいいわよ。今は学校に住んでるマスコットだと思いなさい」


 それだけ告げて、綾女は追い立てるように灯也を司書室から出す。無論、自分も学生なので司書室から出て施錠する。

「菅野、今日は委員会は無いし、当番でもないから来る必要は無いけど、私たちは大概司書室に集まってるから暇なら来なさい」


                   ●


 六限目の選択授業。灯也は美術を選択していた。絵を描く時の理論を学び初回の授業を終えた。

 すると、ポケットにしまっていた携帯が震えたのを感じ取り出す。

 点滅するランプの色は青、それはメールの着信を意味しているので、操作でメール画面を開く。


 メールの送り主は綾女。件名には『緊急招集』の四文字が収まっていた。

 緊急という案件に恐る恐る本文を開く。

『緊急事態が起きたから放課後に集合』

 それだけが書かれていた。


 いったいどのような事なのかは灯也には判断が付かなかったが、委員長の招集を無視できるほどの用事も無いので、『了解しました。放課後に図書館に向かいます』と、返信して携帯をポケットに仕舞う。

 ホームルームも終わり、緊急事態とは何なのかを想像しながら慣れた道を歩く。そして慣れた階段を昇り司書室に入る。しかし、そこには始めて見る綾女の姿があった。


 両肘をテーブルに付き、頭を抱えていた。

 今日は到着が早かった為に綾女以外はまだ来ていないようだった。

「お疲れ様です。緊急事態ってそんなに不味い事なんですか?」

 その声に顔を上げた綾女は、見た事のない鋭い目つきで灯也を見る。

 その眼光に灯也は思わず後ずさりをしてしまう。

「別に菅野に怒ってるわけじゃないから入ってきなさい」

 確実に何かに対して怒りを覚えている表情だが、下手に追及する必要は無いので黙って足を前に運ぶ。


 部屋に入って気付いた事だが、隅の方で司書さんが何故か正座をしていた。

「気になるだろうけど、全員が集まってから説明するわ」

 そうですか、と灯也は言ったものの、気不味いまま空間が固定される。取りあえず席に着くが、耐えられずに立ちあがりコーヒーを淹れる準備を始める。

 恐らくもう少しで悠が来て、紅茶を淹れてくれるかもしれないが、今は綾女から目をそむけたい。


 自宅から持って来たマグカップにコーヒーを注ぐ。立ち上がる湯気で多少落ち着いた。そこで綾女にコーヒーの有無を聞く。

「淹れてもらえるかしら」

「わかりました。あの、司書さんは?」

「もら」

「要らないわ」

 司書さんは貰うと言いたかったのだろうが、綾女がそれを許さなかった。

 灯也は無言で綾女の指示に従い、司書さんからの返答を聞かなかった事にした。二人分のカップをテーブルに置いて席に戻る。


 無言でコーヒーをすする生徒二人と、冷たい床に正座するフリルドレスの少女。

 数分間をその状態で過ごし、悠と薫子が揃ったところで綾女が緊急招集の理由は話す。


「実は、司書さんが緑化委員会に試合を申し込んだの」


 その言葉に反応しなかったのは灯也のみ。他は大なり小なりリアクションを取っていた。

 薫子は一瞬驚いていたものの、すぐに落着きを取り戻し灯也に説明してくれる。


「基本的に図書委員会は勝負を受ける側なんですぅ。当然相手が勝負を仕掛けるのには理由があるはずですよねぇ? 図書委員会に勝負を挑んでくる委員会や部活は自分たちの欲しい本の要望を通すためなんですよぉ」


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