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きんもんのへん

元治元年 7月19日。



夜明け前の慌ただしい足音に目が覚めた。一人ではなく大勢の足音。何かあったのかもしれない。

足音の元へ行こうとするがまだ寝着だったため慌てて袴に手を通す。すっかり袴の着付けが上手くなってしまったなぁなんてしみじみ感じる。

そんな感傷に浸る暇もなく部屋を抜け出せば、足音は広間へと向かっていた。

広間にはすでにほとんどの大使の人たちが集まっていて、みんな浅葱色の隊服を身に付けている。広間の雰囲気はピリピリとしたものだ。肌を刺すような緊張感にのまれつつも部屋の中を見回してみる。

土方さんや近藤さん、山南さんも見当たらない。



「あれ?咲良?」

「平助。」

隊服を身にまとった平助が入口に立っていた。


「咲良も呼ばれたのか?」

「足音が聞こえたから、来てみたんだけど。これは一体?」

「それは…」

平助が説明しようとすれば、近藤さん、土方さん、山南さんの三人が広間に入ってきた。

土方さんは私を見ると驚いたように目を見開くが、山南さんは座るように口を動かした。

「わりぃ。俺、隊長だから前に座んねぇと」

そう言って平助は前の方に行ってしまった。私はそのまま後ろの端に座る。

「今朝方、長州藩の者たちが朝廷に対し弓を引き、今もなお混戦中だと監察方より報告が上がっている。」

「今、会津と薩摩で御所をお守りしている。」

「そこで、我々新選組も出動の銘が下った。」


近藤さんたちの言葉に広間がざわつく。長州を討つ。勝鬨を挙げる。そんな声が広間のあちこちから聞こえる。




「新撰組、いざ出陣!」

「おう!」


そう言って隊士の人たちは動き出した。

齋藤さんや沖田、平助の声が響く。


私はどうしたらいいんだろう。

「咲良」

動けない私に声がかかる。慌てて前に行けば、そこには厳しい眼差しの土方さん。

「何で来た」

「足音が聞こえて…」

「部屋で待機しておけばよかっただろう」

「でもっ…」

「まぁトシ、そんなこと言うな」

取りつく島もない土方さんを宥めるように近藤さんが声を上げる。


「…このことは戻ってから改めて話を聞く。お前はこのまま待機だ」

「…」

みんなが戦禍に向かう中で私だけ待機。

「お前は自分の身すら守れない。そんな奴は足手まといにしかならない。」

足手まとい。その言葉が胸に刺さる。


土方さんが言うことは正論だ。自分の身すら守れない人間は周囲の人に迷惑をかける。

もし、庇われたことで誰かを危険な目に合わせることになってしまったら?そう思うと連れて行ってなんて言えない。

「返事は」

「わかりました。……ご武運を」

私はそれだけしか言えなかった。


門の前で隊士を見送る。どうか無事に帰ってきてくれるように願うことしかできなかった。


けれど私は戦いというものを全く理解できていなかった。


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