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げんじょうはあく


「つまり、君は未来から来たと」

「はい」

「近藤さん、信じるのかよ?こんな得体の知れない…」

「土方?」

山南さんが土方さんを見ると、土方さんはばつが悪そうな顔で

「ちっ…こんな戯言を」

言い直し、険しい顔で私を睨みつけた。

「信じてくれなんていいません。私自身信じられていませんから」

タイムスリップなんて非現実的なこと信じられるわけないだろう。けれどこの現状を考えれば、それ以外には考えられない。

悪い夢なら早く醒めて欲しい。

「嘘をついているとは思えないが、にわかに信じがたいな。タイムスリップなど」

山南さんの言葉に反論できなかった。突拍子のないことを言っている自覚もある。

なにか、身分を証明できるものがあれば、現状を打破できるのかもしれないけど。

不意に自分のポケットに手を当てると硬いものが触れる。

「あ! これならどうですか?」

取り出したのは携帯電話と学生証。

「これは?なにやら箱のような物と…君が描かれた紙、ではないが」

興味深そうに二つを見る近藤さんと山南さん。土方さんは触ろうともしない

「こっちは携帯電話といって、遠くの人と話したり手紙を送ったり出来ます。こっちは学生証で私の身分を証明出来ます。」

「確かに、二つとも今までに見たこともないものだ。」

「どうやら、本当にタイムスリップをしてきたようだな、君は。」

携帯電話と学生証を返しながら近藤さんと山南さんが納得したように頷く。土方さんは相変わらずの仏頂面で黙っている。

「それで、これからどうするつもりだい?」

「え?」

疑いは晴れたところで問題は振り出しに戻る。

これからどうするか。帰る手立てを見つけないといけない。ここには私の居場所はないのだから。けれど、帰り方の見当なんて付かないし、すぐ見つかるとは限らない。


「とりあえず、帰り方を探します。」

「当てはないのにかい?今の京は物騒だ」

「最近では辻斬りも横行していると報告があがっている。」

近藤さんの言葉に合わせるように山南さんの言葉が続く。

幕末、しかも動乱の最中安全であるはずがない。けれど…

「…帰り方が分からないのならば仕方ないだろう。ここにいればいい」

ずっと仏頂面のまま沈黙を貫いていた土方さんが声をあげる。

「へ?」

意味が分からず間抜けな声を溢しながら、土方さんを見る。

「だから、近藤さんや山南さん…誰かの小姓になるとか、炊事での手伝いになるなどしてここにいればいいと言ってる。」

そう言い放てば立ち上がりそそくさと部屋を出て行った。


え、や…爆弾を落としたまま立ち去って行くのはやめてくれないかな、あの人

恨みがましく土方さんが出て行った方を見る。

残された三人の間には沈黙が広がった。


「…ぷっ……はははっ!」

その沈黙を破ったのは近藤さんだった。

「まぁ、土方らしいな」

呆れるように山南さんも苦笑いを零す。

「あの…」

一人状況が分からない私は恐る恐る声を上げる。

「あぁ、悪い。あれはトシなりの謝罪だろうな」

謝罪?!あれが?

仏頂面で上からの物言いのどこが謝罪なのだろうか。どう好意的に解釈したって謝罪には思えない。

「あぁ見えて不器用だからな、土方は」

「『一方的に疑って悪かった。行く所がないならここにいればいい』ってところだろうか、あれは。」

いや、あれはそんな風に思っているような物言いじゃなかったような…。明らか仕方ないからって言い方だったし。けど。付き合いが長いだろう近藤さんが言うならそうなのか?

「気を悪くしないでくれ。トシは新撰組の要でな。俺がこんなんだから人を疑ってかかるきらいがあるんだ」

「はぁ…」

「土方がここにいることを許したんだ。君は合格なのだろう。さて、どの立場でここにいさせるか…」

「山南君、トシが言っていただろう。『誰かの小姓にでも』と」

近藤さんは楽しそうに笑う。山南さんはその意味が分かったのか「あんたって人は…」と呆れたように呟き、私を同情するような目で見た。


「咲良君、君には“副長付き小姓”になってもらうよ」

と今日一番の爆弾を落としたのだった。




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