ゆめなら…
「で、お前は誰だ」
一斉に視線が私に向く。探るような視線や不審そうな視線。そんな視線の中で、どうしてこうなったのか考えていた。
昨夜、私はひとつの建物に連れてこられ、建物には崩した字で文字が書かれていたが“屯所”と微かに読めるだけだった。一室に押し込まれて――もちろん手足は縛られていた――一夜を明かした。目が覚めれば目の前に昨日私を担いできた人がいて大部屋に連れて行かれ、今に至る。
「私は…咲良です」
「歳は。何処の者だ。何故あそこに座り込んでいた」
矢継ぎ早に投げられる質問に困惑する。
何故といわれても私が一番聞きたい。自分自身が分かっていないのに答えようがない。
「まぁまぁ、歳。そんなに質問しても答えられないだろう」
温和そうな男性が窘めるように口を開いた。
「けどな、」
「悪いな、お嬢さん。俺はここで局長をしている近藤 勇だ。で、こっちの目つきが悪いのが副長の土方 歳三。こっちに座っているのが総長の山南 敬助だ」
「おい、近藤さん。こんな得体の知れない奴に」
「土方、女性に対して得体の知れないなんて使うべきでない。」
「山南さんまで」
土方さんは口が悪いらしい。山南さんに注意されているが不服そうだ。
まぁ、得体の知れないというのは間違っていないし…。
「今度はお嬢さんの番だ。何故あそこにいたのか聞かせてくれるか?」
「私は…」
口籠ってしまう。どう答えたらいいのか分からない。
「正直に話した方がいい。それが君の身の潔白を証明する方法だ」
山南さんがそう言って私を見る。つまり、言い換えれば黙っているほど怪しいということだろう。黙っているのが不利になるのならば…意を決し口を開く。
「私は、何故あそこにいたのか分かりません。図書室で本を探していて、本を読んでいたら急にあそこにいて…。それに、ここがどこかも分からないし…」
「お前、嘘を付くとはいい度胸だな」
「なっ!嘘なんか付いてません!だいたい、嘘なんかついて何の得があるんですか!」
「倒幕を企む者なら、情報を得るために嘘をつくだろう。」
「倒幕?幕府なんてそんな昔の…は?」
「あ?」
今、倒幕って。
今思い返せばおかしい所だらけだ。純和風の家なのかと思ってたけどそれにしては違和感を覚える。車の音だって聞こえないし、ビルだってない。前に座っている三人の着ている服は着物――着流しっていったと思う だ。
「今、何年の何月何日ですか?」
「今日は元治元年6月6日だ」
不審そうに見る土方さんをよそに近藤さんが答えてくれる。
元治…聞き慣れない年号に戸惑いが隠せない。
「元治?平成ではなくて?」
「平成?いや、聞いたことないが…」
信じたくない。けれど、それが現実なら。
「私は、タイムスリップをしてきてしまったのかも」
私が呟いた言葉に3人は首を傾げたのだった。