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RFO1-6 【璃緒の秘密】

 周りの視線が鬱陶しい。

 大魔法ぐらいで大袈裟だな、などと思っていたが。これは多分……。

 あーだこーだ思考を巡らせていると星斗が近付いてきた。


「璃緒、お疲れ様。お見事だったね」


『くそっ! 先を越された!』『いや、あれは知り合い同士だろ。ノーカンなはずだ』などと意味の分からん声が聞こえてきたが……なんなんだ?


「おう、お前こそお疲れ。勝てたか?」

「後一歩ってとこでやられたよ。魔法の練習もしないとダメだねぇ」

「逆に言えば魔法なしで後一歩まで行ったってコトか。やっぱおかしいな」

「それはこっちのセリフだよ。何さあの魔法」


 俺は顔を顰めた。やはり見られていたようだ。意図的に派手な自然現象を起こしてるもんだから見られてない方が凄いかもしれんが。


「切り札だよ、滅多に使わないが」

「それブルーナイトの時に使えば良かったんじゃ……」


 星斗の言うことはごもっともだ。【サンダーアトラクト】は俺が使える魔法の中では圧倒的に火力を誇る。が、どっちかといえばデメリットの方が多いわけで。


「詠唱に時間がかかり過ぎるし魔力消費量も尋常じゃないからな。さっきのドローンの数倍早かったアイツ相手に使うのは無理だ」


 言いながら肩をぐるぐる回す。もう痛くなってきたな……。


「まあいいか……食堂行こうぜ、先輩も待ってるだろうし」

「あぁ、そうだね。流石にお腹も空いたよ」


 何より早くこの場を去りたい。なんなんだこの視線。

 いや、原因はなんとなく分かってる。俺の容姿だろう。傍から見れば『女のくせにとんでもねぇ魔法使ってやがる』って感じだろうか。ましてや今は模擬戦用に体操服姿である。男女別ではなく学年別で短パンの色が違うから何も知らなければ女と見られるのも無理ない……が。


「星斗、先に制服に着替えよう」

「ん……? あぁ、なるほどね」

「察しが良すぎだ」


 俺の言葉に若干疑問を抱いた星斗が少し周りを見たら一瞬で理解したらしい。

 制服なら男女別だ。長ズボンかスカートかのれっきとした違いがある。


 ほぼ誰も居ない教室へ行き、ちゃっちゃと着替える。若干教室に残っていた男子女子共に絶対に俺を見ようとしない。


 入学して初のホームルームでの自己紹介で男だと発言した時の周りの顔。体育で着替えるために服を脱いだら一気に逸らされる視線。男女共に謎の羞恥心があるらしい。


「あほらしい……」

「え? 何か言った?」

「何でもねぇ。ほら行くぞ」


 少し遅れて着替え終わった星斗と共に教室を出て食堂へと向かう。


「いっつ……」

「璃緒、大丈夫?」


 星斗が心配そうな表情でのぞき込んできた。

 身体能力強化魔法の副作用がそろそろ強くなってやがった。全身を軽い筋肉痛に襲われている。これがまだまだ強くなると思うと憂鬱だな……。


「あぁ、大丈夫だ」

「なんならおぶるけど」

「やめろ、ハズイから」


 有難い提案なのかも知れないが、俺の容姿が容姿なせいで間違いなく周りから変な目で見られることだろう。それは勘弁願いたい。


 少し遅いペースで歩き、目の前には食堂のドア。腕の痛みを感じながら開けると人が大量だった。


「多いね……」

「だな。帰ってる奴が大半だと思ったんだが」


 昼食をここで済ませてから帰ろうという奴が多いみたいだ。空いてる席あんのか……?


「あ、璃緒くん。星斗くん、こっちこっち」


 大量の生徒が談笑してて音が聞こえにくいが、微かに聞き取れた声の方角へ顔を向けてみればこれまた軽く手を振っている深緑先輩と若松先輩の姿。その向かい側の席が2つ空いていた。そこに移動して腰掛ける。


「星斗、先になんか買ってこい」

「ん、そう? んじゃお言葉に甘えて」


 鞄だけ椅子の下に置いてそそくさと移動……する前に振り向いてきた。


「確か魔法の副作用で身体痛めてたろ? 一緒に買ってくるよ、何がいい?」

「いや、別にそこまでしなくとも……」

「いいっていいって」


 有無を言わさぬ雰囲気。深緑先輩も「素直に甘えればいいものを」と言ってくる。


「……はぁ、んじゃ日替わり定食頼むよ。ほれ」


 諦め6割、感謝4割を含んだため息を吐きながら代金の500円玉を指で弾き、それを星斗が見事にキャッチ。


「じゃ、行ってくるよ」


 魔法無しで戦った以上、肉体の疲労度はほかの生徒よりきつい筈なのだがそんなことを思わせないような動きだ。


「璃緒くん」


 アイツの体力は無限エネルギー論、を頭の中で考えていたら深緑先輩に呼ばれた。


「はい?」

「模擬戦勝利おめでとう。しかもかなりハイレベルな魔法を使っていたね」

「あぁ……まぁ、あれは」


 何をどう説明したものか。視線を泳がせつつ色々思案する。


「確か【サンダーアトラクト】だね。名前だけは知っている」


 隠し通すのは無理だな。うん。そもそもあんなド派手な魔法を隠せるわけもないのだが。


「はい、光属性準最上級です。先輩と違って詠唱に時間がかかり過ぎますけど」

「はは、私も詠唱が早いわけではないよ。並行して下位魔法を撃って隙を減らしてるだけだからね」

「あ、野菜がさらっと『並行詠唱(サイドスペル)』自慢してる」

「や、野菜って言うなと何度言えば! 後自慢してる訳じゃないし!」


 聞いていただけの若松先輩がフェードイン。そしてさらっと明かされた深緑先輩のさらなるスペック。


並行詠唱(サイドスペル)』その名の通り、二つ以上の魔法を同時詠唱すること。どの位やばいのかというと、出来る人を今まで一人しか知らなかった。これで二人目だが。


「まあそんなことより璃緒くん」


 何やら物凄い真剣な表情でこっちを見ている。何かマズイことしたか……?


「少し身体を診させてくれ」

「……はい?」


 周りが明らかにざわつき始めた。いや、それより何を言っているんだこの人。俺男だぞ、こんな顔だけど。


「……優菜、学校内でソンナコトするのは良くないと思うなぁ」


 若松先輩のその一言で全てを察したらしい。トマトの如く顔が一瞬で赤くなり椅子をがたっと鳴らせながら立ち上がると、


「ち、ちちちちが、違う! 意味が違う!! 体内の魔力を調べるってことであってそんな邪な事では……っ!」

「あたしは別にソンナコトって言っただけだよー? 邪な事って何を考えたのかなぁ?」


 若松先輩のニヤニヤっぷりがすごい。恐らく隙あらばこんな感じで弄ってるんだろうな。

 一方の深緑先輩は顔から蒸気でも吹き出しそうな状態になりつつ、ストンと椅子に座り、そしてぼそっと。


「華のバカ……」


 涙目なのは果たして俺の気の所為なのか。


「なははは! ごめんごめん。そういう反応が可愛いからついついねー」

「全く……」


 南無三。この弄りの刃がいつまでも俺に向かないことを祈るのみだ。


「と、とにかく璃緒くん!」

「は、はい!?」


 しまった……ボーっとしてたせいで女みたいな裏声が出たぞ……若松先輩の目がキランと光った気がするが努めて無視する。


「調べさせてもらうぞ! 気になることがあるからな!」

「は、はぁ……どうぞ」


 先輩が椅子から立ってスタスタと俺の後ろへと歩いてきた。取り敢えず俺も立とうとしたところで。


「あぐっ……」


 筋肉痛に顔をしかめる。


「っと、座ったままで大丈夫だぞ」

「ん……すいません」


 肩を軽く押さえられ、そのままでいいというありがたいお言葉。


「じゃ、ちょっと失礼するよ」


 何をするつもりなのだろうか。特に身構えはせずにボーっとしていると。


「ちょ……!?」


 ぎゅっと後ろから抱きしめられた……というのが一番適切な表現か。

 思考が3秒ほど停止した。


「な……な……先輩何を……」

「しょうがないだろう……こうじゃないと調べられないんだから……」


 先輩の顔が赤い。いや恥ずかしいならなんでこの場でやるんですか!?

 やばい、これはやばい。主に俺の社会的地位がやばい。

 この先輩、贔屓目に見てもかなり美人な方で、そんな人に抱きつかれてるなどということが広まればクラスの連中には間違いなく冷ややかな目で見られるだろうし、巡り巡って風菜の耳に届いたりしたら……。


「「あ」」


 タイミング悪すぎだろ! 両手にトレーを持った星斗が帰ってきた。

 互いに目を合わせたまま固まり、しばらくしてから星斗がゆっくりと近付いて俺の前にトレーを置いた。


「ごゆっくりどうぞ」

「待った」

「大丈夫、僕は空気が読める人間だから安心して!」

「誤解だっつーの!」


『若松先輩、今あんな感じで隣に座る訳にはいかないのでそちらの隣でいいですか?』『どうぞどうぞー』と完全にこっちを無視していくスタイルに変更している。いや、よく見ると若松先輩の顔がニヤついている。ああ……話聞いたら全力で帰ろう。筋肉痛とか知らん。


「あ、あの……先輩?」

「……ん、すまない。終わったよ」


 目を閉じてやたらと集中してたらしい。ふっと目を開けて離れてくれた事に安堵しつつ先輩が、


「……あれ? 席が変わってる」


 そう小さく呟いてすとんと俺の隣の席に腰を下ろした。


「で、何かあったの? 優菜」

「あぁ……驚いたよ。璃緒くん、白虹元素が体内に入ってる。だから光属性の適応力があんなに高いんだ」


 ビャッコウ元素? なんだそれ。

 さっきまでニヤニヤしていた若松先輩すら何やら少し険しい顔になっている。俺と星斗は聞いたこともない言葉に頭を傾げるだけだ。


「ん? 2人とも上級元素を知らないのか?」

「優菜、それ2年で習うヤツだからこの子らは知らないと思うよ」

「あ、そっか」


「な……なんですか、その上級元素って?」


 言葉から察するには恐らく火の元素やら光の元素やらの上位互換な元素だろうか。


「その前に、2人は6つある魔法元素を覚えてるかな?」

「え、火と水と風と……」

「土、光、闇ですよね」


 前半3つを俺が答え、後半は星斗が継いでくれた。

 深緑先輩がこくりと頷いて、


「そう、そのうち風を除いた5つには上級元素というものの存在が確認されている。名前が……華、宜しく」

「忘れてるなら素直にそう言えば良いのに……。獄炎(ごくえん)水蓮(すいれん)龍土(りゅうど)白虹(びゃっこう)闇侵(りゃくしん)だね。」

「それだそれだ。で、その上級元素が体内に入ってると対応する魔法元素の魔法がかなり強化されるのさ」


 なるほどね……で。


「なんでそのうちの1つが俺の体内に?」

「それは分からない。そもそもエルフ領土にしか存在してない元素だし、かといってそこに行ったからって空気感染する訳でもないし。璃緒くん、何か心当たりないかい?」


 心当たりね……。

8/12

1-1から1-7までの大幅な改稿をもとに、この話を1-11から1-6へと変更。

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