RFO1-5 【夕凪璃緒】
「そこまで。ドローンの勝利とする。つぎは……夕凪璃緒だな、入ってこい」
「……はい」
前の男子が完膚なきまでに叩き潰され、俺の順番となった。正直勝てる気はしないが、武器を握ったのは世界が変わってからそんなに時間は経ってない以上、そこらへんの人間よりは戦闘に自信はある。
何よりあの人に見られている。余りにひどい負け方をするわけにはいかない。
「……」
「頑張れー!」
先輩は無言で腕組みしながらじっと俺を見ている(若松先輩は大声上げているが)。ただ俺の実力がどれくらいか気になっているだけなのか、それとも……。
「(ダメだな、戦闘前に余計な事考えるもんじゃない)」
一応先輩二人には頭を下げ、結界へと向かっていく。入れ替わりで出て言った奴が激励の言葉を送ってきていた気がしたが、俺からしたら誰だお前なので無反応。いや、入学してもう4ヶ月経つのに他人の名前を覚えようとしない俺が悪い……訳でもないな。俺の自由だ。
「準備いいか? 夕凪」
教師のその言葉に返事はせず、腰に付けてある鞘からサウンドブレードを抜き、構える。
それを肯定と受け取ったのだろう。教師が一度頷き、
「では、始め!!」
開始と同時にドローンが【ファイアボール】を放ってきた。今までの模擬戦を見ても最初は絶対にこれだったため、予想はしていた。いざ相対してみると初級魔法の割には無駄にスピードが早いが、対処出来ない程ではない。
「【ファイアボール】」
こちらも同じ魔法を打ち、相手のとぶつけて相殺する。俺は親友とは違い、身体能力には自信がない。魔法で補うしか方法がない。
相殺された魔法は大爆発、とまでは行かないが火属性特有の相殺時に起きた煙で前が見えない。
「……ブルーナイトの時も、こんな感じだったっけか」
あの時は【エクスプロージョン】を放った結果、同じく煙で前が見えずにそのまま奇襲された。
警戒していると……後ろから風切り音。
「ちっ! 【ファイアボール】!!」
やはりこの煙に紛れて回り込んでいたようだ。向こうは機械である以上、こういう視界の悪さは関係ないのかもしれない。風切り音は何かしらの魔法が飛んでくると判断した。もう一度相殺狙いで魔法を……。
「!?」
【ファイアボール】が打ち消された。飛んできたのは水属性初級魔法【ウォーターボール】。
属性の相性が悪い。あれを火属性で相殺しようとするなら中級レベルは要る。
「くっ……」
為すすべもなく一発貰ってしまった。咄嗟に水属性魔法を使おうとはしたのだが水属性の扱いは苦手だ。魔力を練るのが間に合わなかった。水属性が得意な奴と言ったら俺の妹ぐらいか。
元より接近戦を挑むつもりはない。相手の武器は非実態ゆえ、ブロック出来ないなら蹂躙される未来しか見えない。
サウンドブレードは俺の魔力を使って超高速で振動し、切れ味を跳ね上げる武器だが今は一切剣には魔力を流していない。
それでも俺の魔力量は多くはない。早めに仕留めれなければジリ貧だ。
「出し惜しみナシだな……【ライトニングボルト】!」
準上級光属性魔法。3本の雷を自身の周囲から発生させ、飛ばすが予測されていたようだ、綺麗に避けられた。
そのまま相手がカウンターで【ウォータースピア】を放ってきたがこれは事前察知出来ていたので普通に回避。
近づこうとしてるのが丸分かりなので接近されないよう間髪入れず魔法を放ち続ける。接近されたら終わりだ。
とある人のお陰というべきか、光属性に関してはそこらの奴には負けないレベルの適性がある。それでも最上級まで使えるわけではないが。
「当たらんな……距離が遠いか?」
煽ってんのかと思いたくなる程にちょこまかと動き回って的を絞らせないようにしてきてやがる。このまま時間切れまでずっとちょこまかしてくれればいいんだが。
と、思ってたがやはり甘くはなかったようだ。
ちょっとした爆発音が聞こえたかと思ったらドローンが大ジャンプで迫ってきた。風属性で飛んだようだ。
「ちっ……」
いきなり三次元の機動をされて狙いを付けれる程優秀ではない。つい癖でサウンドブレードを構えるが……。
当然すり抜ける。大急ぎで離脱を狙うがドローン特有の速度で即座に5回攻撃され、更に追撃で、
「マジか……っ!! 速すぎだろうが!」
風属性中級魔法【ソニックカッター】を放ってきやがった。カマイタチのようなものを3個放ってくる魔法。目視はしやすいが、速度が非常に早いため、今の俺に確実な対処をする余裕はない。
「【サンダーボルト】!」
【ライトニングボルト】の下位互換である中級魔法。こっちは雷を一本しか出せない。相殺できたのは一つだけ。残り二つはどうすることも出来ずに食らってしまった。
「被弾8回目! 制限時間残り3分!」
教師の言葉が響く。かなりまずい状況なのは間違いない。まだ二分しか経過していないのに被弾は8回だ。魔法の弾幕で抑えていたつもりになっていたのが失敗だったか……。いきなりあんなに飛ぶとか思わねぇだろ。
ちらっと結界の外に居る先輩を見てみたが先程と全く変わらない表情で俺を見ているだけ。はっきり言って不甲斐ないとしか表現出来ない俺を見て何を思っているのか、全く読み取ることは出来ない。
「……俺は何を考えてんだ」
あの人からの評価が怖いのか? 失望されることに恐れているのか? 意味が分からん。所詮ただの先輩後輩で、あの人はあの人でちょっとした問題を解決しようと奮闘しているだけ。
そんな考え事をしていたのがまずかった。当然ドローンは待ってはくれない。【ウォータースピア】が2つ飛んできていた。
「ファイア……じゃ、消せないな、【ライトニングボルト】!」
一本は相殺し、もう一本は身体を捻って回避した。つもりだった。
「っ!?」
突風が吹いた。恐らくドローンの風属性魔法であろうものが強風を操作し、あろうことか水の槍の機動を無理矢理変更してきた。対応できるはずもなく被弾。
「馬鹿か……もう曲芸の域じゃねえか」
こんなものを1年生にぶつけてきてたのか。どんだけ加点させたくないんだよ。
これで敗北へリーチがかかった。別に負けた所で成績に変更はない。勝てばプラスアルファされるだけなのだ。そこまで必死になるほどのことではない。
「……はぁ」
そのはずなんだが。
「やることやらずに負けるのも癪だな……」
戦闘慣れしてる自負はあるんだ。少しは粘らせてもらおう。
相手の動きに全神経を集中させつつ、準備を開始する。
***
「へぇ、1年生とは思えないぐらい戦闘慣れしてるんだねぇ」
「全くだ。璃緒くんがあそこまでやれるとは思ってなかったよ」
優菜達2人はひたすらじっと理緒の戦闘を眺めていた。ほぼ大半の1年が1分と保てずに脱落してる中、かなり善戦しているのではないだろうか。
「とか言ってー。実はあの子の強さ最初から知ってたんじゃないの?」
「まさか。私はエスパーじゃないんだし」
「ふぅん……」
華がじとっと優菜を見つめる。明らかに疑ってる様子だ。
「待て華、その視線が怖い」
「えー、別に睨んでる訳じゃないのに……まあいいや。そろそろ終わるんじゃない?」
その言葉で優菜は視線を結界内に向ける。
まさにいまドローンの水の槍が不自然な軌道を描いて理緒に命中した所だった。これで9回目。
華の言葉通り、そろそろ決着がつきそうな状況だ。
「うわぁ、1年生用のドローンであんなことしてくるんだ」
「まだ優しい方だろう。対3年生のドローンは最早チートらしいぞ。生徒会長ぐらいしか勝ててないらしいし」
「……あたしはもう2年用のドローンでお腹いっぱいなんだけど。あれも十分チートだと思う」
「まあ、同意だな。しかしおよそ3分で9回目か……1年生とは思えないぐらい耐えてるな」
実のところ星斗の方はほぼ時間切れ間近まで耐え、1,2年の間で既に噂になってたりするのだが2人の耳に届いてはいなかったようだ。
だが、璃緒も相当耐えていることに違いはない。その他の1年はよくて1分耐えれるかどうかだった。
しかしそろそろ限界だろう。ゲームの世界ではない以上、疲労は確実に蓄積する。武器や魔法を全力で使っていれば3分経つ頃には息が上がってもおかしくない。
しかしそれでも粘り続ける璃緒を見ていた優菜が呟いた。
「……ふふ、すごいな……璃緒くん」
「え? 何が?」
「うーん、気付かないか?」
「いや、野菜ほど魔法詳しくないし」
「野菜言うな! じゃなくて、璃緒くん、自分の身体に電気を通して無理矢理身体能力を上げている」
名前すらない。そもそも魔法とは言えない魔法。ただ電気を身体に通して筋肉を刺激して速度を上げているだけ。
「それって負担大きいんじゃ?」
「それなりにはね。あんまり続けてると終わったあとの筋肉痛がやばいとは聞いた」
「あの子……かなり魔法使い慣れてるんだね……」
結界内で未だ奮戦を続ける璃緒を見ながら華は素直に賞賛を述べていた。
9回被弾してから、1分が経っていた。
***
「あっぶね!」
今度は雷の槍が2本目の前に迫っており、急いで身体を捻りながら回避、同じ魔法を使ってもう一本を相殺。
2本目が身体に触れるか否かだったので教師の一人が旗を揚げたが、2人以上揚げなければノーカンなのでセーフだ。
現状かなりの無茶をしている。使いたくなかった身体強化魔法で何とか逃げ回っている最中だ。
「(明日は湿布大量消費だな……風菜に買っといて貰うか)」
筋肉痛地獄を考えるだけで嫌になってくるがどうせ夏休みだ。1日中家に引きこもってりゃいい。
こんなバカなことをしているがやっていることは回避のみ。先ほど教師が残り1分と言っていたので1分は耐えた計算だ。
後10秒ぐらいか……。移動しながらの詠唱はどうしても時間がかかる。
時間切れ間近なせいかドローンの攻撃が非常に激しくなっている。強化していなければとっくに貰っていただろう。
「後5秒……光よ……」
その瞬間、ドローンの左手が動いたと思ったら急加速で距離を詰められた。例の風属性によるブースト。
「轟け、響け」
無我夢中でさっきまで一切使っていなかったサウンドブレードに一瞬だけ魔力を通し、がむしゃらに振るとドローンの武器を持っていた右腕が落ち、それに驚いたのか後ろに戻っていった。狙ったわけでもなく、完全な偶然だがこのチャンスは逃せない。
「すべてを貫け」
魔力は練り終わった。
「制限時間残り30秒!」
「仕留める! 【サンダーアトラクト】!!」
光属性、準最上級魔法。
とある人……ではなくエルフのお陰で光属性だけはここまで使える。あの先輩のように手軽に扱うことはできないが。
雷雲を魔力で精製し、最大で5本まで自分の意思で好きなところに落雷を発生させることが出来る。
「……まあ、残りの魔力じゃ2発が限度だな」
左手に武器を持ち替えたドローンの足元を左手で指差し、右手の剣を軽く振って落雷を起こす。そんな動作、本来は要らないのだが……こうすると狙った場所に落としやすい。
落雷特有の轟音が響く。周りを見ると皆耳を塞いでいる。まあ当然か。
「オーバーキルしとくか。2発目落ちろ」
1発で既に粉々になっているのは確認したが憂さ晴らしも含めて2発目もドローンが立っていた場所に打ち込む。ここで魔力がほぼ無くなって雷雲が溶けるように消えた。
「……ぁ、そこまで! ドローン破壊により、生徒側の勝利とする!」
おい、ぼーっとしてただろ。
「はぁ……」
疲れによるため息を吐きながら結界を出る。周りの視線が痛い。
魔法の種類は腐るほど考えてあるんですがぽんぽん出してると訳わからなくなってくるので出来うる限り少なくする方針です。
設定集にはその場勢いで考えたのがほんと大量
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1-1から1-7までの大幅な改稿をもとに、この話を1-10から1-5へと変更。