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RFO1-3 【模擬戦の開始】

 次の日、8月3日。

 何故こんな日が、と思わずにはいられない夏季休暇中の出校日。


「いってらっしゃーい」と呑気に玄関前で手を振りながら見送る風菜を尻目に外へと一歩。

 瞬間、やかましいほどの蝉の大合唱と熱気が襲来。このまま180度回転して戻りたくなるが当然そういうわけにもいかないのでゆっくりと歩く。

 今回は模擬戦ということもあって自分の武器である"サウンドブレード"も持っている。日本刀に近いため、重量も割とあり……こんな炎天下の中で正直振り回したくはない。

 模擬戦をする魔法結界内が涼しければいいんだけどな……。

 星斗の家も近くにあるのだが、アイツは部活の関係上朝早くに登校するため一緒に登下校することは珍しい。既に今日も学校に着いている頃だろう。

 普段なら隣に風菜がいるが、中学校も当然だが休みだ。完全に俺一人となる。

 まぁ、だからなんだという話ではあるが。


「暑いな……」


 そうぼやきながら風属性最初級魔法【ソフトウインド】を使ってみるが所詮は最初級、そよ風程度しか起きないしただの熱風だ。


「……」


 変わらない状況にウンザリしつつ、教室までの我慢だと自分に言い聞かせ、少し歩調を早めたところで、


「ん?」


 冷たい追い風を感じた。普段ならたまたま風が吹いた、で済ませるところだが風に若干の魔力を感じたので振り向く。


「あぁ、深緑先輩でしたか。おはようございます」

「ん、おはよう。璃緒くん」

「今の風は先輩が?」

「そうだよ、何やら悪足掻きみたいなことしてたからちょっとね」


 どうやらしょぼすぎる風魔法を使ったことがしっかりとバレていたらしい。

 他の属性は知らないが風なら準最上級すら扱って見せたこの人のことだ。あんな強めの風など簡単に起こせるのだろう。

 取り敢えず横に並んで歩く……と、気付いた。

 先輩の周りだけ強風が吹き荒れている。


「涼しそうなことしてますね……」

「そりゃー涼しくないとね。暑いの大嫌いだし」

「そのロングヘアーが乱れまくってますけど」

「髪型とか気にしないし」

「スカートとか危険ですよ?」


 ピタっと先輩の動きが止まった。何かマズイこと言ったか?

 確かにデリカシーがなかったかとも思い……。


「ふふん。実は起こしてる風は私の緻密な計算によってスカートが靡いても下着は決してギリギリ見えないというようになっているのだ!」


 ドヤ顔で何を言っているんだこの人は。確かに見えてはいないけど。

 いや、ていうか。


「後ろ辺りに居る2年生らしき人が少ししゃがみながらちらちら先輩見てますけどあれでもセーフなんですか?」

「は……?」


 再びこの人の時が止まった……いや、首がギギギっと擬音が付きそうな感じで動いてはいるな。

 で、後ろを向いた先には2年生の男子が二人。(通学鞄の取っ手の色で判断できる。1年が緑、2年が青。3年が赤)

 すると先輩が若干頬を朱に染めて……何故か持ってた鞄を真上に放り投げた。


「…………【ベトリーブ・ヴェンタス】」


 そう唱えた瞬間、鞄が突然高速で飛んでいった。行先は男子生徒の内一人の頭部。


「げふぁ!?」


 おいおい……ハードバッグだぞ……。そんなギャグみたいな断末魔で済むもんなのか。

 で、鞄は地面に落ちる……かと思いきやなぜか重力に逆らって上昇。そのままもう一人の頭の上へストライク。そして鞄は先輩の手元へ。意志を持ったブーメランみたいな挙動だが……。【ベトリーブ・ヴェンタス】確か風速風向を好きに操作出来る魔法だったはずだ。やり手になれば風を発生させるポイントも精密になり、物も飛ばせるとは聞いたが……。


「俺らとあの人らの距離……10mぐらいあるはずだが……」

「あー、スッキリした……ん? 何か言った?」

「いえ、何でもないです」


 10m先にある鞄だけを正確に真上へ吹き飛ばす精度。もはや魔法の扱いがエルフレベルだ。


「ほら、行こうか璃緒くん」

「あぁ……はい。それよりあの二人は? 完全に気絶してますけど」

「自業自得だよ。遅刻しようが私の知ったことじゃない」


 覗かれるのもある意味自業自得では……と思ったが俺にまで鞄が飛んできても困るので黙っておこう。

 改めてこの人の強さを知った。敵に回したらまず間違いなく勝てねぇな……。


 ***


「よし、そこまで! 解答用紙は後ろから回収しろ。問題用紙は持ち帰って自己採点するなり破るなりシュレッダーに入れるなり燃やすなりヤギの餌にするなり自由にしてくれ」


 響き渡るチャイムの音と担任の声。たった今魔法テストの筆記試験が終わった。

 周囲の「難しかったねー」等々の声を聴きながらずっと同じ姿勢でいたために強張った体をほぐしていると、


「や、璃緒。テストどうだった?」

「星斗か。まぁまぁってところだな」

「まぁ、そんなものだよね。夏休み入る前に貰ってた問題集やってればそこまでひどくもならないだろうし」

「だな。それより次は実技試験だが何か策とかあるか?」

「いやいや、初めてなのにそんなもの立てようもないって」


 苦笑いを浮かべる星斗。まぁそれもそうか。


「よし、30枚あるな。おーい、お前ら聞けー」


 提出された答案用紙の枚数を確認していた担任が声をあげ、教室内の生徒全員の視線を集める。


「次は実技試験だが、みんなは初めてだろうから概要の説明をしておく。プリントも配るからいちど席についてくれー」

「じゃ璃緒。また後で」

「あぁ」


 そそくさと自分の席に星斗は戻り、担任がプリントを回し始める。


「一応そのプリントにすべて書いてはあるんだが、俺の口から説明しておこう。実技試験は教員が作ったマジックドローンとの模擬戦闘だ。ゴブリンみたいな亜獣人をイメージしてくれ」


 あの背が低くていかにも雑魚そうな見た目で実際に雑魚な奴か。ゲームでも定番のモンスターだな。


「が、侮るなよ。武器や魔法は普通に使ってくる。素早さも実際のゴブリンとは桁違いと思っておいた方がいいかもな」

「ちょ、ちょっと待ってください。下手したら私たち大怪我とかしちゃうんじゃ……」


 まさに俺が今気になった所だ。聞こうと思ったら先に前に座ってる女子が質問してくれたな。

 武器や魔法を普通に使ってくるとなると模擬戦というよりは実践だ。ましてやクラス内には戦闘をしたこともない者も少なからず居る。俺や星斗みたいに自分からモンスター狩りに行く奴の方が少ないのだ。


「あぁ、武器は魔力を可視状態で武器の形にしてるだけだから殺傷力ゼロ。魔法も似たようなもんだ。当たってもすぐに霧散する。見た目だけで実害は一切ない。お前らが心配する要素はなしだ」


 質問した生徒がほっと胸をなでおろしているような気がした。アイツも恐らく戦闘経験は殆どないだろう。

 だが戦闘経験がないなら例え無害と分かっていても飛んでくる魔法に対して恐怖心を抱くだろうが……。


「……いや、俺も魔法使うようなモンスターとは殆ど対峙したことないな」


 ヤバい気がする。当然勝つつもりでやるが、飛んでくる魔法への対処というのは全くと言っていいほどやったことがない。

 色々考えが巡るが取り敢えずは担任の話に集中しておく。


「他に質問はないな? んじゃ勝利条件だが……"ドローンを破壊する、もしくは5分間ドローンの攻撃に10回以上被弾しない"だ。戦闘に自信がなければ5分間逃げ回れ。10回被弾すればお前らの負けとみなされる。プリントに詳しく書いてるから見ておいてくれ」


 逃げるか倒すか、か……。勝ったときの成績への加点はかなり高いらしいからそう甘くはないだろうが……。


「が、ドローンの武器や魔法はさっき言った通り無害だ。被弾しても当たったような感触がほとんどしない。結界内に教員が3人居る。ドローンの攻撃に当たったと判断したら教員が持ってる旗を揚げる。二人以上旗を揚げたらヒット判定だ」


 やれやれ……想像以上にめんどくさそうだ。さっさと帰りてぇ……。

 その後も続く担任からの注意の言葉を聞き流していき、いよいよグラウンドへ。

 3年2年、と順番にやっていくみたいだが、3年は筆記試験がないので既に終了しているようだ。今は2年生がやっている。

 1学年につき3クラスで30人在籍。1クラスにつき結界が5個用意されているので5人同時に試験が出来る……ってことは長くても1学年に30分ぐらいしかかからないのだろう。

 結界が15個並ぶのはなかなか圧巻だが……。人間の教師はこういうのは殆ど作れないので大体エルフ族の教師が作っているのだろう。


「知り合いの先輩が居るなら応援にでも行ってやれ。模擬戦がどんなものかもわかりやすいだろうしな。2年全員が終了したらここに集合。それまでは自由に見学していってくれ」


 そんな担任の言葉を聞いて皆が結界の近くへと歩いていく。

 ……さて、どうせ見るならあの人のを見るべきだろうけど。どこだ。


「璃緒、深緑先輩はあっちみたい、2組だね。もう少しで順番が来るみたいだけど」

「お、そうか。見に行くか?」

「僕はちょっと部活の先輩の所行ってみるよ。どんな戦闘するのか気になるし」

「ん、了解」


 先に星斗が見つけてくれた。視力3.0なだけはある。

 2年2組が使っている結界の方へ。見学は自由と言われたとはいえ、上級生の所に向かうのは気楽ではない……が、よく見たらほかの1年も上級生に紛れて普通に会話等してるあたり俺の気にしすぎなのかもしれないが。

 そんな中で深緑先輩が先に俺に気付き、手を振っていた。そっちへと向かう。


「や、璃緒くん。今朝ぶりだね。どうかした?」

「いえ、どんなものかを見に、それと……まぁ要らないでしょうけど、応援を」

「あははっ! そうなんだ、ありがとう。そういう人が居てくれるだけで結構やる気だせるからね」


 この人の実力ならあっさり叩き潰すだろうし何の心配も要らないんだろう。というか強すぎて参考にならない未来が見える。


「おー野菜! 可愛い子じゃん! 後輩?」

「や、野菜言うな!! つい最近知り合った後輩だよ。あと間違えないように、男の子だからね」

「え……この顔立ちで男子……?」

「な、なんですか……」


 突如乱入してきた女子生徒にジロジロと見られている。恐らく先輩の友人だろうが……。


「おぉ、声は確かに男の子だね。どうも、野菜の親友、若松(ワカマツ) (ハナ)です。よろしくね」

「あ、はい……それよりさっきから野菜って何ですか?」

「あーほら、深緑優菜の緑と菜を合体させたらなんか野菜ってイメージがあたしの中に定着しちゃってね。以来そう呼んでる」

「だ、だからそんな理由でそんな呼び方しないでよ!」


 深緑先輩が手をバタバタさせながら抗議している。まぁ確かにそんな理由で不名誉なあだ名付けられたら確かに不服だろうな。たまに男の娘と呼ばれる身だから気持ちが少し分かる。


「まーいいじゃない。ね、優菜」

「と思ったら普通に名前で呼んで来たり……華の考えてることはよく分からないよ」

「はは……」


 傍から見たら非常に仲の良い二人だ。『強すぎて逆に周りから距離を置かれてる』というのは今のこの世界じゃ珍しいことではない。知り合いにも一人心当たりがある。故に生意気にも少し深緑先輩のことをそういう観点で心配していた。登校下校時はいつも一人という話も聞いていたしな。

 が、要らない心配だったみたいだ。


『次! 深緑優菜!』

「あ、私の番みたいだ。行ってくる」

「おー、頑張ってね野菜!」

「うるさーい!!」


 なんというか、本当に良い親友同士だと思う。若松先輩がしっかりと気を遣って、深緑先輩がそれに適度に甘えて。


「頑張ってください、先輩」

「うん、可愛い後輩の前だし、ちょっとカッコつけてくるよ」


 そう言って先輩は結界の元へ歩きながら両手を左右に振り……その瞬間には両手に短剣を持っていた……って。


「武器召喚魔法だと……?」

「ね、凄いよね優菜って。自分の武器がどこにあろうが即座に手元に呼べる……地味なようで相当難しい魔法すら使えるんだもん。あたしの自慢の大親友だよ」


 ぽつりと呟いたつもりだったが隣の若松先輩には聞かれていたようだ。


「(本当に凄いな……人間でここまで行けるものなのか……)」


 純粋に尊敬出来る。あの人からも魔法関連の彼是を教えてもらいたいもんだ……。


 結界内に入った深緑先輩からは先ほどのリラックスしていた表情は消え失せていた。

 結界内の教師が口を開く。


『では……始め!!』

8/12

1-1から1-7までの大幅な改稿をもとに、この話を1-8から1-3へと変更。

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