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RFO1-18【土の開花】

「暑い……」

「大丈夫かい?」

「誰のせいだと思ってるんですか……」


 言いながら軽く先輩を睨むと小さく舌を出しておどけた表情を返してきた。この人に対するイメージがだんだん変わってきたぞ。

 割とすぐに立ち止まった先輩だが、それでも短距離の全力疾走は大量の発汗を促すのに十分すぎる運動だった。


「いくら風を吹かせてるとはいえ……なんでそんなに汗かかないんですか」

「そこまで汗はかかない体質だからね。女の子だし」


 後半は関係ないでしょうと思いつつ、ポケットに突っ込んでいたハンカチで軽く汗を拭う。

 あまり素肌を晒したくないため、夏場でも基本的に長袖長ズボンを身に付けているが……流石に今回は半袖を着てくるべきだったかもしれない。


「【ベトリーブ・ヴェンタス】」


 しばらく座り込んで休憩していると先輩の方から冷たい風が。


「俺が使うのと違って相当な冷風ですね……ホントにどうやってるんです?」

「慣れれば風の温度は変えれるのさ。風菜ちゃんも水温はある程度自由が効いているだろう?」


 あぁ……なるほど。元素を混ぜてるわけではないんだな。


「水元素や火元素をエンチャントすることも出来るけど、辺りの気温が30度は上下するからな……」

「使わないでくださいよ」


 さらっと恐ろしいことを口走る先輩に釘を指しつつ、緩慢な動作で立ち上がる。


「そろそろ戻りましょう」

「もう平気か?」

「走ったりするのはやめてくださいよ」


 さっきと同じくじとーっと睨むと、先輩が両手を上げて首を振りながら苦笑しつつ、


「しないって、さっきのはちょっとイタズラしたくなってね」

「タチ悪いです……」


 この人の性格がホントに分からない。クールなのかお茶目なのか……。

 まあ嫌いかと言われたらそんなことはなく、むしろ好き——勿論先輩として、ではあるが。


「行きましょう」

「あぁ」


 ***


 障壁内に入るとほんの少しだけ暑さが和らいだ気がした。


「ふぅ……先輩は何か予定とかあります?」

「いや、別にそんなものは——」


 と、先輩の言葉を遮るようにどこからか無機質な着信音が聞こえてきた。


「すまない、私の端末だ」


 それだけ言って少し俺と距離を取ってから携帯端末を取り出し、耳に当てた……ん?


「はい、もしもし……父上」


 今のスマホなら魔力の線で会話が可能な筈だ。わざわざ耳に当てる必要などない。

 しかしよく見たらあれはスマホタイプではなく……絶滅しているガラケーと言われていた奴だろうか。


「もしか……しなくても仕事用か」


 連絡先の交換をした時の端末とは明らかに違うしな。

 やがて端末をポケットに入れた先輩が近くに寄ってきた。


「すまない、緊急で呼び出しを食らったよ……ちょっと行ってくる」


 申し訳なさそうな……いや、残念そうな表情で先輩がそう告げてきた。まあ大方そんな所だろうとは思っていた。


「あ、分かりました。例外関係です?」

「そんなところだ……じゃあ、また」


 それに答える余裕もなく、先輩は身体能力強化魔法で素早く立ち去っていった。


「はっや……」


 隣で冷風を起こしていた人が居なくなったので急激に暑く感じてきた。さっさと帰った方がいいだろう。

 そう思って一歩踏み出したその時、


「——ッ!!」


 嫌な殺気を感じて咄嗟に飛び退いた。直後に障壁外から俺のいた場所に向かって何かが飛びかかってきた。


「ゴブリン……例外か」


 障壁を難なく通り抜けてきた時点で例外なのは間違いないだろう。咄嗟に鞘を取り付けてある左腰に右手を伸ばし……。


「……」


 忘却していた、今日はサウンドブレードを持ってきていない。例外相手に武器無しはちょっとキツイが……泣き言を言っている場合ではない。


「【ライトソード】」


 右手に光剣を生成し即座に斬りかかったが、素早い身のこなしで避けられてしまった。

 相手は武器を持っていないので避けるしか方法はないのだろうが……どうやら例外化してスピードが上昇しているらしい。


「面倒だな……【サンダースピア】」


 電撃特有の爆ぜる音と共に槍を放ったが……これも避けられる。スピードで言えば模擬戦のドローンレベルだろうか。

 アレは肉を切らせて骨を断つような勝ち方だったが、実践でそんな事をしてたら身が幾つあっても足りなくなってしまう。

 しばらく走りつつ、牽制で中級クラスの魔法を放ち続け……。


「っ!?」


 足元がふらついてバランスを崩してしまった。


「(くそ、ベアウルフの戦闘とこの暑さで体力を持ってかれてたか……!)」

「グアッ!!」


 その隙を見逃すほどコイツも馬鹿ではなかった。武器はないが例外モンスターだ、身体そのものが凶器と言っていいだろう……本気で殴られでもすれば無事では済むまい。

 持っていたライトソードで受け止めたが、不安定な体勢だった故に相手のスピードを完全に殺し切れない。

 ——押される前に魔法で貫く……!


「【ライトニング……」

「【グラウンドバースト】」

「ちょっ……【アースショット】!」


 完全に押し返される前に【ライトニングスピア】で貫こうとした瞬間、目の前の足元が勢い良く隆起してその上にいたゴブリンを跳ね飛ばした。

 更に追撃でガチガチに固められた土の塊が空中のゴブリンに命中。

 正直助かった。魔法のチョイスミスだが、恐らく詠唱完了する前に押されていただろうから。


「(誰だ……?)」


 おそらくは2人だろう。声のした方へ視線を向けると。


「うーん……もうちょい精度欲しいねー。今のはかすったってところかな?」

「すいません……けど空中に跳ねあげるなら最初に言って欲しかったですよ!」


 聞き覚えがありありな声、そこに立っていたのは。


「星斗と若松先輩……?」


 半分呆然としつつ呟くと、2人とも微笑を浮かべつつこっちに視線を向けてきた。


「久しぶり璃緒。大丈夫だった?」

「あ、あぁ……というかお前、さっきの魔法……」


 土属性はさほど得意ではないが……【アースショット】は俺でも扱える土属性準中級魔法だったはずだ。

 最初級すらままならなかった星斗が、僅か2,3週間程で準中級を扱えるようになったのか……?

 俺の表情からそんな事を読み取ったか、


「……ま、指導者が優秀だったからかな」

「ふふん!」


 星斗が遠回しに先輩を褒めると、当の先輩は両手を腰に当ててふんぞり返っている。『どやぁ!』の文字が見えてきそうだ。

 しかし指導者が優秀というだけではそんな短期間で魔法の扱いが上手くなるということもそうそうないだろう。


「お前……やっぱり魔法の才能もあるんだろ」


 ぼそっと呟いたつもりだったが、それに若松先輩が反応してきた。


「だろうね。土属性以外は全く扱えないだろうけど、それ一つに絞ればある程度は伸びると思うよ、これなら」

「璃緒にはまだ遠く及ばないけどね」

「当たり前だ。これで魔法まで追いつかれてたら自信なくすぞ」


 身体能力に関しては俺は星斗に全く及ばないというのに。


「さて、お喋りはここら辺にしておいて……まずはアイツを倒そうか。璃緒くんはそのまま休んでおいてね」

「いや、でも……」

「見た感じ、障壁内で既に1戦交えた後でしょ? この暑さだし、あんまり無理すると倒れちゃうよー」

「……」


 深緑先輩ほどではないかもしれないが、この人もどこか鋭い。それとも深緑先輩の近くに居るから鋭くなったのか。

 何にせよ疲労困憊なのは事実だ。向こうが大丈夫というのなら休ませてもらおう。


「分かってるとは思いますが、そいつ例外なので気を付けてください」


 若松先輩が頷き、


「行けるかな、星斗くん?」

「大丈夫です、華先輩」


 ようやく立ち上がろうとしているゴブリンへと2人とも走り出した。

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