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RFO1-16【先輩……?】

 本当に大人しく家で過ごし、気付けば8月16日。特に何かがあったわけでもなく、自堕落な生活を続けながら魔法の改良を続けていった。1週間以上もかければ……。


「傷、完璧に治ったな……どういう包帯なんだ……」


 右手を剣で貫かれた傷は跡も残らずに完治していた。特別な包帯とは言っていたが、どういう仕組みなのか謎だ。ついでに全身の筋肉痛も完全に治った。

 ただ、正直暇だ。外には出る気にならんし、魔法の改良と言っても家の中でぶっぱなす訳にはいかないし。

 現在時刻11時45分。風菜は中学の友人と何処かへ遊びに行っているらしいので家には俺一人。ぼけーっと過ごしているとポケットの携帯が震えた。


「電話か……」


 魔力を携帯と繋げる。目には見えないが、魔力の線を携帯に繋げ、それをそのまま耳と口辺りに持っていく。魔力でヘッドセットを作るイメージ。


「……母さん?」


 電話の相手は母親だった。まだ仕事中なはずだが、今は休憩時間なのだろうか。珍しいことではないので用件を聞いていく。


「……ああ。分かった」


 線をぶった切って通話終了。端的には買い出しに行ってきてくれという内容だった。

 外気温32度……あまり気は進まないが、どうせ暇なのも事実なので手早く準備をして家を出る。


「……あっつい」


 ナイトと戦闘をしたあの日から1度も家を出てなかった俺は冷房に慣れきっていたらしい。外に出たら一瞬だけクラっと来た。

 貧弱になってた自分の身体に少し苦笑しながら近所のスーパーに向けて足を動かす。


 ***


 暑い中10分ほど歩いてスーパーに到着。中に入ると丁度いい冷気が出迎えてくれた。

 夏休み真っ只中というのもあるのか、人はかなり多いようだ。大きいスーパーだから元より客は多いのだが。


「……何買えばいいんだっけか」


 1回聞いただけで頭にインプット出来るはずも無いので、通話後に母親から送られてきたメールを確認する。大した量でもなさそうなのでカゴだけ持って移動。




「…………ん?」


 半分程探し終えた所で後ろから肩を叩かれた。誰だと思いながら後ろを振り向くと。


「あ、やっぱり璃緒くんだった」

「……先輩?」


 同じく買い物カゴ……じゃないな、エコバッグを右手にぶら下げた深緑先輩が居た。何故かニコニコと笑顔で。


「こんなに人居るのによく分かりましたね」

「いやぁ、なんか見知った女の子が居るなーと思ってよく見たら、ね」

「……」


 ニコニコ笑顔から悪戯心を含んだ笑顔に変えた先輩がそう告げた。まあそりゃ顔的には見知った男の子とはならないんだろうが……。


「君、顔はかなり可愛いから結構目立つんだよ?」

「不細工もいやですけどそれもあんまり嬉しくはないですね……」


 その言葉に苦笑した先輩はチラッと俺の右手を見ていた。


「怪我、治ったかい?」


 跡すらも残らず完治した右手を軽く振りながら答える。


「お陰様で。包帯ありがとうございました……すごい効果ですね、アレ」

「だろう。あれには私もよくお世話になってるからね」

「俺よりも明らかに危険な戦闘繰り返してる割には怪我の跡とかがない理由を理解出来ました」

「ふふん。女の子の肌に傷跡なんて付けちゃダメだからな」


 俺は男ですけどね。


「ところで璃緒くん。何でここに?」

「親に頼まれて買い出しです。先輩は?」


 聞いたところで顔を背けられた。別に変なことは聞いてないよな……。


「…………まあ、色々あるのさ」

「はあ……?」


 なぜ顔が赤いのか。スーパーに来てるからには何かしら買いには来てるんだろうが、エコバッグなせいで中身が分からない。


「そ、そうだ璃緒くん」


 この人がどこか抜けてるのは充分理解してるので深くは気にしない方向にする。

 そんなふうに考えてると先輩が携帯端末らしきものを取り出しながら声をかけてきた。


「完全に忘れてたのだが……連絡先の交換してもらっていいかな?」

「あぁ、そういえば……。いいですよ」


 よくよく考えたらした覚えがなかったな。

 こっちもポケットから携帯を取り出し、手早く画面を操作して先輩と連絡先を交換する。


「よし、ありがとう。何かあったら連絡するよ」

「分かりました。といっても最近なにかありました?」

「んー……特にはないかな。例外も街の中に入ってこないし」


 やっぱりか。例外が街の中に入ると大体ニュースが流れるもんだが、ニートみたいに生活してる時はそれを一切見なかった。ひっそりと倒されてるのかと思ったが、先輩の話を聞く限りそもそも入ってきてすらいないのだろう。


「お陰で最近は暇なのさー」

「戦闘するよりかは全然マシでしょう。若松先輩とかと遊んだりはしないんですか?」

「華は星斗くんに教鞭を振るってる最中だろうからね。あんまり2人の邪魔はできないかなぁ」


 そういやそうだった……。しかし結構時間経ってるぞ。どれだけ力を入れて教えてるんだろうか……次に星斗と会った時いきなり土属性の高位魔法撃ってきたらビビるぞ。


「まあ、それもないか……。では先輩、俺はそろそろ行きますね」

「あ……ま、待った!」

「?」


 買い物の途中だったことを思い出し、そろそろ行こうかと背を向けて歩き出したら何故か呼び止められた。

 先輩の方を振り向くと、先輩の顔が少し赤くなっているように感じた。


「り、璃緒くん……今日暇かな?」

「まあ……することもないんで暇といえば暇ですけど」

「……ちょっと一緒に外に出ないかい?」


 外……? ああ、障壁外か。最近はまともに外には出てなかったし、肩慣らしついでに行ってもいいかもしれない。


「いいですよ。といっても荷物を家に置きたいんですが」

「あ、ああ! そういえばそうだったね!」


 というよりさっきから様子がおかしくないか?


「……先輩、大丈夫ですか? なんか顔も赤いし、熱とかあるんじゃ……ちょっと失礼しますね」


 少し気になったので失礼かとは思いつつ、右手で先輩の額を触る。


「~〜~〜~っ!」

「んー……熱ってほどでもないですね……」


 なんでこんなに赤いのか。


「だ、大丈夫だから! 心配してくれてありがとう!」

「そうですか……?」


 まあ本人が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。さっさと残りの買い物を済ませて1度家に戻らないといけない。


「俺はもう少し買う物あるので少し待っててもらえますか?」

「ああ、分かったよ……まぁ、そういうとこも璃緒くんか……」


 後半がよく聞き取れなかったが、それを気にして先輩をあんまり待たせるわけにもいかないので少し足早に移動する。




「こんなもんか……」


 頼まれた物は1通り揃え、後は自分の都合……主にお菓子の材料を買い揃えて外に出ると先輩が待っていた。


「暑いだろうし、別に店内で待ってても……」

「忘れたかい?」


 顔に冷たい突風を感じた。あぁ……この人ならそんな手段も取れたな。相変わらず長い髪が乱れまくってるし。

 しかし何か違和感がすると思うと……。


「先輩、さっき持ってたエコバッグはどこに……」


 察した。

 武器や救急箱を家から召喚出来るこの人のことだ。逆も可能なのだろう。


「……何でもないです」


 意味あり気に笑みを浮かべた後、『行こうか』と促してくる。

 何度か来たことがあるからか、俺の家の場所は完璧に把握してるようだ。少し遅れてから俺も歩き出し、先輩の隣に並ぶ。


「思ってたんですけど、その物をテレポートさせる魔法ってどうやってるんです?」

「んー……教えてあげたいのはやまやまだけど、こういう魔法って基本的に闇属性に分類される魔法だから……」

「なるほど……確かに俺が扱うのは難しそうですね」


 火、水、土、風の4つは才能さえあれば同時に扱えるが、光と闇は相反する属性のためにどちらか一方を使えるようにするともう片方が使いにくくなるという状態が起こる。

 不可能ではない。フェルトは難なく二つとも扱っているし、もしかしたら先輩も扱えるのかもしれない。


「闇は初級までしか扱えませんよ俺は。それ以上はどう頑張っても魔力の質が上がってくれないというか」

「体内の光元素が邪魔をしてるんだろうね。ましてや君の中には白虹元素すらあるんだし」

「はぁ……ちなみにそのテレポート系の魔法クラスって」


 先輩がニヤリと笑ったように見えた。


「上級魔法だよ」

「……諦めます」


 無理だな。闇は準中級すら扱える気がしないのに、上級など壁が高すぎる。


「闇元素を練る時に体内の光元素を消去するなり排出するなりすれば扱えるとは思うけどね」

「そんなハイレベルなこと出来ませんって……」

「うーん……確かに下級元素ならともかく、上級元素を排出するなんて私も知らないからなぁ」


 てことはこの人、下級元素の排出は出来るのか。


「……先輩は両方扱えるんですか?」

「同時は無理だね。順番になら出来るよ 【サンダースピア】」


 先輩が空に右手をかざし、雷の槍を発射する。気のせいであって欲しいが俺のより威力が高い気がする。

 光属性ですらこの人に負けてたら泣きそうになるんだが。


「んっ……【ダークスピア】」


 次は左手を同じく空にかざし、唱えると黒色の槍が発射された。雷と違ってかなりはっきりと見える。


「こんな感じだね。どうしても一瞬だけ元素排出の隙があるから普通はやらないけど」

「なるほど……」


 確かに黒槍を唱える前に一瞬目を閉じていた。あの間に排出していたんだろう。

 やはりこの人の話は色々参考になることが多い。そうこうしながら歩いてると家の前に到着……してる風菜が居た。


「ん、風菜ちゃんか?」

「みたいですね……何してるんだ」


 友人のところに遊びに行っていたはずだ。昼前に帰ってくるのはやたらと早い気がする。

 まあどうでもいいことなのであまり気にせずに家に近づくと向こうが気付いた。


「あれ、お兄ちゃん買い出し行ってたんだ。優菜さんもいるし」

「お前は遊び行ってたんじゃないのか?」

「友達の方で急な予定が入ったらしいから帰ってきた」

「ふーん……俺ら今から外に行くんだが、お前も来るか?」


 顎に手を当てながら『うーん』と唸る風菜。どこかわざとらしく感じるのは俺の気のせいか。

 そのままチラッと先輩を見てから。


「私はやめとくよ。あっついし」

「そうか。ならこれを適当に整理して冷蔵庫入れといてくれ」


 半ば押し付けるようにして買い物袋を渡し、そのまま踵を返す。


「あれ? 武器は要らないの?」

「今回は使わん。何かあったら【ライトソード】で代用する」

「分かったよー。優菜さん、頑張ってくださいね!」

「な、何のことか私にはさっぱりだな!」


 パチっと風菜が先輩に向けてウインク。それに動揺している先輩。

 俺にも何のことかさっぱりだ。この人が頑張ったら大抵の事は片付きそうな気もするが。


「先輩、行きますよ」

「あ、ああ! じゃあ行こうか」


 何故かニヤニヤとしている風菜に見送られながら魔法障壁の境界へと向かう。相変わらず陽射しが強くて気温が高いが、先輩の隣だと風魔法のお陰でかなり涼しかった。

 自分で体感して思ったが、やはり風力が強い気がする。


「先輩……外に出てる時ってずっとこの魔法使ってるんですか?」

「まあ人とすれ違う時は少し弱めたりはするけど……基本的にずっとだね。暑いの嫌だし」


 魔法が使えなくなったら家から出なくなりそうだな……。


「あと気になるのが……先輩って最上級魔法は使えますか?」


 ぴたっと先輩の動きが止まった。数歩歩いてからそれに気付いて俺も足を止める。

 なんか地雷踏んだか? 先輩の顔が少し険しい。


「いや、無理だよ。上級と準最上級の間にある壁は人間でも頑張れば乗り越えれるけど……」


 声質的に怒っているわけでもないようだ。

 それは実感している。俺自身も準最上級は扱える身だ。


「準最上級と最上級の間にある壁はおかしく感じるぐらい高いのさ。君は100mを10秒で走れるかい?」

「……俺は無理でしょうけど、世界トップレベルの陸上選手なら行けるんじゃないですかね」

「そう、それが準最上級。じゃあ最上級は?」


 先輩の例えに似せて少し考える。


「10kmを1000秒……とか? ペース的には不可能な気がしますが」

「残念だがそういう『理論的には可能』な難しさではないんだ」


 そう言ってから先輩が少し考える素振りをしていた。


「そうだな、君の例えで言うなら……10kmを600秒だ。これが最上級」


 その言葉を聞いて唖然とした。そこまで行くと、もう。


「……人間には不可能だと?」

「100%不可能だと断言は出来ないけど、まあ無理だと思うよ。私も殆ど諦めてる」


 この人ですら諦めてると言い切った。さっきの例えがなくとも、たったそれだけの事実で最上級魔法の習得がどれほどの難易度なのかが理解できる。


「けど、上級元素を持ってる君なら可能かもしれない。人間には不可能だけど、普通の人間とは違う物を持ってる君なら」

「俺が人外って言われてる気がします」

「ち、違う! 別にそういう訳じゃ!」

「あははっ! 冗談ですよ、分かってますって」


 久々に冗談など言ったような気もするが……。少し希望が持てた。

 上級元素は体内に入ってるとそれに対応する属性の魔法が強くなる……というのが先輩からの説明を受けた俺なりの解釈。要は上級元素そのものを使った魔法がある訳では無い。

 可能だろうか。上級元素そのものを使った魔法が……可能だとすれば、それは最上級クラスの魔法になるのだろうか。


 色々考えてると目の前には魔法障壁が。

 それをくぐり、障壁外に出ながらとりあえず思ったことを口に出す。


「……頑張ってみますよ」

「ああ、期待してる。人間初の最上級魔法行使者になってくれ」

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