RFO1-14【青騎士の強さ】
「兄さん! 大丈夫ですか!?」
「……生きてるから大丈夫だ」
あれほどの重量から放たれるプレス攻撃など受け止めれるはずも無いので咄嗟にその場から飛び退った……例の身体強化魔法も一瞬だけ使って。
「無事で良かったです……土煙が酷すぎて何も見えませんが……あれで自壊しててくれたりしませんかね?」
「それならどれだけ有難いことか」
「ですよねぇ……【アイシクルソード】」
風菜が手に氷剣を握ったのと土煙の中から奴の剣が突き出されてくるのはほぼ同時だった。
「「っ!」」
金属が擦れる嫌な音を発しながら剣の側面でギリギリ切っ先を逸らし、風菜の剣で完璧に受け流す。こんな煙の中でどうやってこっちの位置を把握してんだ……っ!
「煙を晴らします! 【レイン】!」
文字通り雨が降り、煙が少しずつ晴れていってナイトの赤い目がはっきりと見えた。こっちもびしょ濡れだが……。
「よし【ライトニングスピア】!」
「【アクアバースト】!」
再度雷の槍を放つ。寸分違わず頭の部分にクリーンヒットし、仰け反っている。その一瞬後に風菜の魔法も直撃。使える……!
「【ライトニングスピア・バースト】!」
相手の頭で爆発。大ダメージには見えるが……大きく怯んだだけでその後すぐに赤い目を一層光らせてこっちを睨んできた、ように見える。それに嫌な予感を感じて俺は左に、風菜は右に回避する。
「うぉっ……!」
突風を感じたと思ったらナイトがさっきまで俺の居た場所を轢き殺す勢いで突撃していたようだった。その後に右腕から少し痛み感じる。
「なん……」
「兄さん、右腕が!」
肘の辺りからつーっと血が流れていた。斬られた感触なんざ一切なかったぞ……!? 風魔法の【カマイタチ】でもあるまいし、ただの風で斬れるとでも……。
「……いや、それしかないか」
回避はかなり大きくする必要がありそうだ。しかし前に戦った時はここまで速かったか……?
「兄さん! 怪我が!」
「これくらいなら大丈夫だ! お前は大丈夫か!?」
「私は無傷なんで大丈夫です!」
それを聞いて一安心した。とにかく、長期戦になれば疲れ知らずの向こうが有利になってくる。こっちの動きが鈍り始める前に倒してしまいたいが、あの防御力をどうやって貫くか……。先輩はどうやって斬り倒したんだ……あの鎧すら斬れる程の斬れ味の武器だったのか……?
「……けど先輩は『君の武器ほど斬れる武器も見たことがないな』って言ってた記憶が……つーことは……風菜!」
再びこっちに向かってきたナイトの攻撃を何とかあしらいながら声を張り上げる。模擬戦のゴブリンもどきのドローンが速すぎたお陰でコイツの攻撃もギリギリ捌けるようにはなっている。
「ナイトの解析を頼む! コイツの攻撃は俺が受け続ける!」
「兄さ…………了解です。任せてください!」
妹の足りない力は俺の武力でカバーしてきた。俺の足りない頭は妹の知力でカバーしてきた。今までがそうだったし、今もそうするのが一番ベストだろう。どっちかが組み合い、その隙に魔法攻撃を使うというのは同士討ちの危険がある。片方だけで戦闘をするのが良さそうと判断した。
恐らくコイツを斬る何らかの方法がある筈。あの時先輩に聞いてれば良かったと少し後悔しながら攻撃を捌き続ける。
「この魔力…………兄さん! そいつから魔法の反応が!」
「はぁ!? コイツ魔法使え……」
そこまで言って言葉を止めた。ナイトの目が一際ギラリと光ったのを感じて再度嫌な予感を覚え、身体強化魔法を使った大ジャンプ。
「っ!?」
先ほどと同じ超速の突進。飛ぶのが半刻遅れていたら間違いなく突き殺され……いや、轢き殺されていただろう。とはいえ、この突進をした後は少し動きが止まるようだ。
「ぐっ……」
「兄さん、やっぱりあれは……」
「ちっ、【カマイタチ】を身にまとって【ソニックブースト】で加速してんのか!」
通りで当たったつもりがなくても怪我をしていた訳だ。今回は左腕と左脚に少し切り傷が入った。大した痛みじゃないが……これを何度も貰うと流石にマズイ。
「というか【カマイタチ】って空気の刃を発射する魔法だったよな」
風菜が顎に手を当てて考え込み、
「……分かりません。【カマイタチ】と同等の速度で突進してるのか……それとも別の風魔法なのか。突進の方は【ソニックブースト】で間違いないはずです」
「そもそもアイツが魔法ってのが……以前戦った時は魔法なんざ一切使ってなかったぞ。例外じゃないブルーナイトも魔法は使えないし」
「だから例外なんでしょう。それに例外が作られてる、という優菜さんの言葉が正しいなら、そのモンスターの特性も自由に変えられると見るべきでしょうし」
厄介な相手になってるな……幸い魔法を使う時は目が強く輝くようだ。察知はしやすいはず。問題は……
「……使う魔法がアレだけかどうか……」
「ですね……【カマイタチ】の上位、【ソニックカッター】等を使ってきたらほぼ回避不可ですし……」
目が光ったのを見て動こうとした時には上半身と下半身が分断されていた、なんてことも有り得る。
「そろそろまた動き出します」
「あぁ【サンダースピア】」
ライトニングよりも出力を抑えた槍を放ち、注意をこちらに引きつける。とにかく一瞬たりとも風菜を狙わせる訳にはいかない。
ただ粉砕するだけなら俺や風菜の準最上級魔法で1発だろう。しかしこいつが詠唱の余裕を与えてくれるわけもないし、なにより精度が曖昧すぎる。下手すれば身内に当てかねない。
「一撃の重さが以前より落ちてるな……」
パワーがあるのは間違いないが、以前よりは楽に受け止める事が出来ている気がする。防御と速度はそのまま……攻撃力が落ちた代わりに魔法攻撃が追加……。
「……例外といってもポテンシャルに限界があるみたいだな」
「兄さん、もう一度魔法攻撃来ます!」
またか。今度はなんだ、突進か……?
違う、剣を握ってない左手を前にかざしている……あれは…………。
「遠距離タイプの発射モーションです! 兄さん!!」
「くそ……【ライトスピア】!!」
奴の目が光ったのと同時に下級魔法を放つ。下級魔法なら連射が出来る、とにかく数を撃って相殺するしかない。
風魔法は光属性ほどではないが速度があり、なにより目で視認しにくいというのが一番の強みだ。こういう命がけな戦闘で使われると恐怖でしかないが……。
「特に傷は無し……ギリギリ防ぎきったか」
奴に魔法が加わった代わりに直接的な戦闘力が落ちてるならビビらずに近接戦闘を続けるのがベストだろう。極力あいつに魔法を使わせないように組み合うしかない。
「硬いな……」
無意味と知りつつ武器を振動させてるが、相変わらずこの甲冑は断ち切れそうな感触がない。だいぶこいつの攻撃を受け流すにも余裕が出てきた。
そうやって数十回と剣を打ち合った後、ナイトの目が強く輝いた。
「ちっ……」
急いで距離を取る。
「魔法、来ます! この魔力……闇魔法!?」
「な……!?」
どこまで俺たちの予想を超えた行動をしてきやがるんだ……くそ、闇魔法は周りに使ってる人が居ないから殆ど知らねえぞ……!
そう思ってると俺とナイトの間の空気が少し歪み始め……。
「おい……これ」
「まさか……!?」
目の前に現れたのは……表現がしにくい。わかりやすくいえば、ブラックホール。
「【ヴォイドループ】!?」
風菜の悲痛な叫びが聞こえる。この闇魔法は俺も知っている。というか闇魔法の中でもかなり有名な魔法だ。【ヴォイドループ】通称、ブラックホール魔法。
しかし……知ってる魔法だからと言って嬉しくはない。これは……。
「くそ、最上級クラスの闇魔法じゃねぇか! 風菜!!」
「逆方向の水流で私と兄さんの動きを鈍くします! そのうちにお願いします! 【アクアスライド】!!」
ブラックホールという通称のごとく、発生後は周りのものを少しずつ吸い込み始める。吞まれたらどうなるのかは分からない、無事で帰ってこれることはまずないだろう。
それに少しでも抗うべく風菜の【アクアスライド】で少しでも対抗する。この間に……。
「焦るな……」
魔力を練り始める。使用魔法は……。
「…………光よ……轟け、響け、すべてを貫け……【サンダーアトラクト】!!」
上空に雷雲を生成。右手で落雷の落下先を指定。頼む……。
「相殺しろ!!」
相手が最上級魔法でこっちは準最上級魔法と1段階低い……が、関係ない。
落雷特有の轟音を轟かせ、響かせ、ブラックホールを貫く勢いで落雷を5本一気に落とす。
光で一瞬目の前が見えなくなったが、すぐに視認可能になり……ブラックホールが消えてることを確認、水流も止まった。ギリギリ相殺しきれたようだ……が。
「くそ……さすがに力が……」
「ありがとうございます、兄さん。休んでてください」
待て、の言葉を発しようとして飲み込んだ。今のこいつにかける言葉はこれじゃない。
「……分かった。頼む」
「ふふ、お任せくださいな! 【アクアスピア・スタート】!」
少し性能をいじった水の槍をナイトに直撃させながら右手の氷剣を強く握って突撃していった。ナイトのタイプ的に疲れ知らずかと思っていたが、かなりへばっているように見える。最上級魔法を使ったことの代償はそれなりにあるようだ。
「くっ……虫の息なくせに硬いのは変わりませんね……」
「……虫の息なのか、そいつ?」
ぼそっと呟いたつもりだったのだが、
「発動途中の大魔法を無理やり相殺されて魔力が少し暴走したようです。体内……と言っていいのか知りませんが、内部にダメージがかなり入ってるはずですよ」
「あ、あぁ……なるほどな」
俺の周りの女性ってどうしてこうも地獄耳なのか。
「【アクアスピア・スタンバイ】!!」
もう一度水槍をナイトの頭部に直撃させた。そのまま氷剣を叩きつけるが……
「あぁ、もう……。硬いですねー……」
「風菜、多分斬り方があるはずだ。先輩は四肢をきれいに切り離していたから……」
「なるほど……っ!?」
虫の息だったナイトが鈍い動きながらも風菜に剣を振ってきた。鈍いゆえにあっさりと受け流したが、突然のことだったために少し驚いたようだ。
「四肢をきれいに切断……もしかして……【アクアスピア・ファイナルバースト】!」
3回目の水槍が右肩口に命中した瞬間、肩口から大爆発を起こし……右腕が落ちた。
「マジか……?」
「四肢を切断というのを聞いてピンときました。こいつが纏ってる魔力をよく見てみると四肢と胴で少し切れ目があるようです」
「……その隙間に武器なり魔法なりをねじ込めばあっさり分断出来るってことか」
「予測でしたけど……まぁ当たってたようでなによりです」
わざわざコンボ魔法の最終弾をねじ込んだのか……いや、タイミング的にはしょうがないか。
コンボ魔法というのは基本的には同じ魔法を連続で撃つだけ……なのだが、初弾で体内の魔力をその属性に近づけ、次段でその濃密度を高める。そして最終弾を放つことでその魔法の威力が劇的に跳ね上がる仕組みだ。コンボというだけあって威力はかなりのものだが、一度初弾を撃つと最終弾を撃つまでは他の魔法が使えなくなる欠点がある。スタートだの、スタンバイだの名前が付いていたが、あれは風菜が適当にカッコイイと思った言葉を付けているだけだろう。中3だからセンスがないのはしょうがない。
「っしょっと……」
まだ気怠さは残ってるが、かろうじて動けるぐらいには回復したようだ。右手を弾かれ、必然的に武器も失ったナイトの前に佇んでいる風菜の隣へ移動する。
「……ありがとう、お兄ちゃん。ブラックホールを相殺してくれなかったら、間違いなくやられてたよ」
「その時間を作ったのはお前の水流だけどな。悪いが俺は剣を振るほどの体力が残ってねぇ、お前に任せる」
「ん、わかった」
氷剣を再度構えなおし、正確に風菜曰くの魔力の隙間へと剣をねじ込んでいく。さっきまではガンガン弾かれていたのに今は面白いぐらいに剣が通っている。
四肢が完全に切断されて、最後には首すらも無慈悲に跳ね飛ばされたナイトはすぐに光球となって消えていった。
それをきっちりと確認し、周りに雑魚モンスター等が居ないこともきっちり確認してから、
「お疲れ、風菜」
「お疲れ様、お兄ちゃん!」
パチン、と音を高く鳴らしながらハイタッチを交わした。