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RFO1-13【青騎士】

 妹にアイスを投げ渡した後、自室で自分の分のアイスを食べながらしばしボーッとしていたが、再び武器を手に取って玄関へと向かう。


「あれ? どうしたの?」

「……障壁外で狩りしてくる」


 決して星斗に触発された訳では無い。ただ、先日の例外ゴブリンとの戦闘で少なからず苦戦したということに危機感を覚えた。これからも相手をするのは殆どが例外モンスターになるとすれば、例外ゴブリン程度に苦戦をしているのはマズイだろう。


「先輩みたいに中ボスクラスの例外すら一捻りで倒す……流石にそこまでは無理としても、少しは実力を上げてた方が良さそうだしな」


 既に食べ終わっているだろうアイスの棒をピコピコさせながら話を聞いていた風菜は……いや、ていうか捨てろよ。


「なるほどねー。私も昨日は迷惑かけちゃったし……私も行こうっと。ていうかその怪我した右手の状態で1人じゃ行かせない」


 誰を護った故の怪我だ、というのは心の内に留めておく。


「なら行くぞ。武器大丈夫か?」

「あ」


 ちょっと待っててー! と自室に駆け込む妹を見て無意識のうちにため息が出た。10秒ほどで戻ってきたが。


「……風菜、ホルスターでも作って常に身に付けておけばいいんじゃないのか?」

「はっ! その手があったか! でもホルスター作るのもお金かかりそう……」

「無駄遣いしないタイプだから金有り余ってんだろ」

「うーん……口座に何十万あったかなぁ……」


 中学生が口座に何十万あったかと呟くのが今の時代だ。一昔前ならブルジョワの子供でもない限りは有り得ない発言だろう。まあ命の危険と引き換えのモンスター狩りだから多少は稼げないと割に合わないのだが。


「まあいいや。後で考えよう! いこ、お兄ちゃん!」

「……まあお前次第だから何も言わんが……行くか」


 そして外に出れば相変わらずの灼熱地獄が待っていた。うんざりしつつ歩きだそうとすると後ろから声が。


「……あっつい……【ウォーターヴェール】」

「おい卑怯だぞ」


 後ろを向けば水の膜を自分に貼って涼を得ている妹の姿。こいつも先輩も何故夏に有用な魔法を持っているのか。光属性魔法など夏も冬も役に立たんというのに。


「あんまり体感温度変わってないけど要る?」

「じゃあ要らん。濡れるだけだし」

「水も滴るいい女ってね!」


 無視、歩き出す。


「ちょ、待ってよー!」


 ***


 メンテしてもらうために店に向かった方とは逆に歩き、障壁外へと向かう。少し距離は遠いが、別段バテるほどのものでもないので30分から40分ほど歩けば障壁が見えてくる。


「さて……と」


 障壁を超える前に1度武器を確認する。腰に着けてある鞘から抜き取り、魔力を流し……正常に動作するのをチェック。最悪この機能さえ生きていればまともに剣が振れずとも戦える。右手で持つと若干痛みを感じるので左手で持つ。違和感はあるがしょうがない。

 後ろでは風菜も銃を確認しているようだ。時折カチャカチャと弄る音が聞こえる。


「魔力吸引機能よし、マガジンの弾自動生成機能よし……うん、完璧!」

「俺も大丈夫だ。入るぞ」


 魔力で作られた障壁を何の抵抗も感じずに通り抜ける。周囲は相変わらず荒廃した街並みが見える。整備の必要性が全くない以上、長い年月をかければ建物等は跡形もなくなるのかもしれない。


「暑いねー……」

「……障壁外だからな」


 目的は特訓だ。観光に来たわけではないので、モンスターを見つけなければ話にならない。風菜の言う通りクソ暑い状況であまり歩きたくはないが、仕方ないと自分に言い聞かせてゆっくりと歩き始める。

 ちなみに障壁はドーム状なため、障壁内だとほんの僅かに日差しが遮られるが外に出ればそんな恩恵も無くなる。体感温度が2度ぐらいは上昇している気がする。


「お兄ちゃん、あれ」


 若干暑さに負けながらボーッと歩いており、風菜の言葉にもあまり反応する気が起きなかったが、風菜が示す先を見て意識が切り替わった。


「オークが4体か……」

「どうする?」

「どうするもなにも、戦闘訓練のために来てるんだ。【サンダーボルト】」


 オークはゴブリンを二回りほど大きくしたようなモンスターだ。そのサイズ故に撃った魔法は寸分違わずに1体の頭に命中した。が、光の玉にならない辺りまだ倒せてはいないようだ。4体全員が一斉にこっちに振り向き、持っている武器を構えだした。

 視線はオーク達に向けたまま尋ねる。


「捌けるか?」

「例外じゃないなら余裕だよ」


 同じく視線は相手に集中したまま短く返してくる。例外かどうか俺達には分からないが、反応速度的に見れば通常のモンスターだろう。【サンダーボルト】を頭に食らってなお、まだ生きてるというのは違和感を感じるが、オークの耐久力なら有り得ないことでもない。だが当分は動けないだろう。残りは3体。


「……じゃ、行くぞ」


 相手が持ってる武器は全て木で出来た棍棒のようだ。

 向こうに来られるよりも先にこちらから走り出す。剣に魔力は流さずに一番近くに居たオークへと振るう。


「グルアッ!!」


 凶暴な声を上げながら棍棒でガードを試みているが……


「……シッ!」


 木で出来た武器など、魔力を流していないサウンドブレードでも斬り飛ばせる。僅かな気迫と共に振るった剣は相手の棍棒ごと右腕を斬り飛ばした。血は全く流れていないが、断面がなかなかグロテスクだ。腕を斬られたオーク自身も地面で蹲っている。放っておいても消滅するだろう。


「次は……」


 殺意を剥き出しにしながらこっちへと向かう次のオークを視認し……、


「お前だ!!」


 振りかぶってきた棍棒を容赦なく斬り飛ばそうとこちらも剣を振るい、


「……!?」


 止められた。何故だ……さっきのヤツと同じ武器じゃないのか!?


「そいつの武器、魔法で強化されてるよ!」

「くそ……そういうことか!」


 3体目がこちらに向かってきているのを確認したが、俺も1人で戦っている訳ではないので目の前のヤツに集中する。

 直後に銃声が3回ほど響いた。こっちに向かっていた3体目が風菜の方へと向かったのが見える。


「よし……振動しろ、サウンドブレード!」


 サウンドブレードに魔力を流し、高速振動をさせて相手の武器破壊を狙う。よほど強化されてる武器なのか、それでもなかなか斬ることが出来ない。押し込んではいるのでこのまま力任せに断ち切ろうとする。


「グル……」


 不利を察したのかその場からオークが後ろへと飛んだ。だが元々身体がデカいモンスターだ、その動きは鈍い。


「逃がさねえよ」


 即座に間合いを詰め、もう一度全力で武器を叩き付ける。未だに硬い手応えしか感じないが、二度三度と何度も破壊を狙う。


「グルッ……!」

「……悪いな。動物を殺すのは精神的にキツイんだが、モンスターなら容赦はしないぞ」


 思いっきり武器を叩き付け、そのインパクトで相手を怯ませる。そのまま大きく振りかぶって……。


「ハァッ!」


 強化された棍棒ごと相手の首を切り落した。即座に絶命した証として首が身体から離れる前に光の玉となって消滅。


「……」


「グアアッ!!」

「貰った!!」


 そのまま無言で風菜の方を見てみればあちらも優勢。あのオークも武器を強化しているらしく、風菜の【アイシクルソード】を受けとめているが……剣と銃を同時に扱う相手に鍔迫り合いは無謀だ。


「ごめんね。以前、兄に迷惑を掛けてからはどんな雑魚でも一切手加減しないことにしたんだ」

「まだ気にしてんのか……」


 右手の氷剣で棍棒を受け止めながら、左手の銃でオークの頭を照準し、先程の宣告通り手加減なく5発ほど撃ち込んだ。断末魔も上げずに地面に倒れ……る前に消滅した。


「ふぅ……」

「お疲れ」

「あ、お兄ちゃん! お疲れー!」


 剣を腰に付けている鞘に収めて風菜の元へと歩き、軽くハイタッチを交わす。


「特に問題もなかったみたいだな」

「まあね! 例外でもない奴に苦戦するような私じゃないよ! 【ウォーターバースト】」


 突然手を前に構えて放たれた水塊の魔法は俺……の後ろから飛びかかってきていたオークに直撃し、吹き飛ばした。

 実を言うと気付いていた。1体目、【サンダーボルト】を喰らった奴がいつまで経っても消える気配がないので戦闘中も少し意識を向けていた。4体全てを倒した後はほぼ全神経をそいつに集中させていたので、後ろを向かずとも飛びかかってきているのを普通に感じた。


「……お前が撃ったの、【ウォーターバースト】だったな?」

「そうだよ」

「なら使えるか。【サンダーボルト・バースト】」


 指をパチンと鳴らし、直後に倒れていたオークの頭で爆発が起きた。今度こそ生きてはいないだろう。

 俺の光属性雷系列の魔法は風菜の一部の水魔法と呼応する。何かしらの雷魔法が命中すれば対象には少なからず俺の魔力が入ることになる。そこに【ウォーターバースト】という火薬をぶち込めば後は俺の意思で敵の中に入った魔力を炸裂させることが出来る。


「子供の頃にお前が『兄妹らしく何か合体魔法作ろー!』としつこいから四苦八苦して作ったが……」

「割と便利でしょ?」


 否定出来ん。光属性魔法は全体的に攻撃速度が速いお陰でほぼ必中だし、【ウォーターバースト】は威力が低い分速度は速い。結構簡単に発動出来る強力な合体魔法だ。


「まあ、色んな魔法の精度を上げとかないといけないしな……これも練習と思っとこう」

「そういえば、新魔法は作ってるの?」

「一応、な。戦力増強に必要と思って考えてはいる」


 しかし、自分で魔法を作るのは色々と一苦労だ。俺が作った奴では【ライトニングスピア】があるが、これは世に浸透してる【サンダースピア】を自己流に改造したもので、ゼロから作ったわけではない。本当にゼロからとなると考える事が多過ぎて一朝一夕には完成しない。


「……ゼロから作るにしても中級魔法が限度だ」

「んー、なら改造とかでいいんじゃない? 準最上級の【サンダーアトラクト】を変えて最上級にしちゃうとか」

「簡単に言うな。アレを改造って、魔法に関する知識がエルフ並に必要だろ」


 それも数百年生きてきたレベルのエルフじゃないと……というのはしまっておこう。こいつも分かってて言ってるんだろうし。


「フェルトちゃんに聞くとか?」

「余計な迷惑掛けられん。ていうかなんで準最上級を改造する方向で話が進んでるんだ」

「お兄ちゃんが本気なら私も【アクアノヴァ】改造するよ?」

「……変な所で頑固だよな」


 にひひ、と風菜が小憎たらしい笑みを浮かべ、


「それはお兄ちゃんもでしょ?」

「かもな……しょうがない、やるだけやるか」


 風菜が1度決めたことは絶対に押し通し、俺はそのうち折れて受け入れる。いつも通りだ。

 周りからは相性の良い兄妹だと散々言われる。髪色や目色は同じで、性格も噛み合ってる……らしい。故に俺達の血は繋がってないと知れば大抵の人は相当驚く。しかしこいつは文字通り天才だ、俺とは頭の回転速度が違う。そこら辺を考えると……やっぱり義妹なんだなと実感してしまう。


「お兄ちゃーん?」

(お兄ちゃん……ね)


 強さ的な意味で兄として居続けられるのか甚だ疑問だが……その為の努力はしてた方がいいかもしれない。


「【サンダーアトラクト】、是が非にでも改造してやる。【アクアノヴァ】もちゃんとしとけよ」

「まっかせてー! 地球ぶっ壊しちゃうような威力の魔法にするから!」


 それはそれで困るが。


「あ…………“兄さん”……っ」

「……おいおい」


 どうやら例外だと一目で分かるモンスターも居るようだ。

 こいつ……。


「ブルーナイト・ラージ……まあこんな所に居る時点で例外確定か」

「……コイツですか。兄さんを殺しかけた例外は」

「……厳密にはそうだろうな。先輩が来なけりゃ死んでただろうし……にしても、久しぶりだな。それ」

「当然です。中ボス級の例外相手だと集中しないといけないので……なにより兄さんを殺しかけた奴ですし」


 ブラコンなのは変わってない。中の人が変わったわけでもない。これはコイツの単なる性格だ。

 命の危機に直結するような戦闘時、コイツはスイッチが切り替わったかのように性格が変わる。俺のことを兄さんと呼び、口調も敬語オンリー。ガチ戦闘モードとでも言うべきか。


「ま……当たり前か……」


 本当に今は生きるか死ぬかの瀬戸際だ。情けなく少し足も震えている。もしコイツの戦闘能力があの時と一緒なら……。


「来ます、兄さん!」

(逃げは街に被害が及ぶから論外……しかし倒すのもこっちの実力的に論外と言っていいぞ……どうする……)

「くそ、とりあえず防御主体だ。武器での攻撃は考えるな。お前の武器だと跳弾するかもしれない」

「了解です……っ」


 先輩はこいつをやすやすと切り伏せていた。見た目はチンケなダガーだったと認識してるが、そのダガーにトリックでもあったのか、それとも……。


「兄さんっ!!」

「っ!?」


 いきなり目の前に現れ、振り下ろしてきた剣をギリギリ受け止める。やはり速さは健在なようだ……パワーもかなりある。


「考え事しながらやれる相手じゃねぇ……【ライトニングスピア】!!」


 生成した雷の槍をぶつける。ノーダメージというわけでもないらしく、少し怯んだ隙に鍔迫り合いを押し返した。

 押し返した……ハズだ。


「くそ……どこに消えた……っ」


 あの時も消えたと思っていたら後ろから奇襲されていた。今は前後左右全てに意識を向けている……だがそれでも分からない。


「……兄さん、上!」


 言われて見上げれば剣は構えずにその巨体で押しつぶそうとしてきているブルーナイトの姿が。

 そして。

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