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RFO1-10【変化】

「なんだ……?」


 聞こえてきた警報音にハッと上を向くが、その方向に何かある訳でもなく。だが抱えた疑問はすぐに解消された。


『緊急警告、緊急警告。街の中に複数のモンスターが確認されました。外出禁止令を発令します。屋外に居る方は即座に近くの建物へと避難してください。繰り返します...』


「……例外モンスターかな」

「だろうな」


 フェルトに聞こえないよう、小さな声で確認を取ってくる風菜。ただの素人なので断言できる筈もないが、恐らくは例外モンスターだろう。今頃先輩達は対処に追われてそうだ。


「フェルト、どうする?」

「私は……外に居て……も、大丈夫……。このまま魔法……障壁調べに……行ってくる。2人は避難、してね」


 まさかあのブルーナイトレベルの奴が彷徨いてるとは思わんが、このまま外にいても危ないだけだろう。幸い俺らなら自衛ぐらいは出来る。大人しく家に帰った方が良さそうだ。


「風菜、帰るぞ」

「うん。フェルトちゃん、気を付けてね」

「のーぷろぶれむ……あ」


 と、拙い英語で何か言っていたフェルトが俺らの後ろに視線を向けた。何事かと振り向いてみれば、


「グルル......」


「おいおい……来るの早いな……。警告遅れてたのか?」


 となると多少の被害……下手すると犠牲者が出ていてもおかしくはないが。それより目下の問題は目の前に居る小型狼タイプのモンスター、ライトウルフが3体も居ること。


「倒すか。【ライトニング……」

「待っ……て」

「待った」


 女子2人に止められた。


「璃緒……まだ身体、が危ない。さっきも言った……けど、治したんじゃ、なくて……痛みを抑えてる……だけ、だから」

「無茶禁止だよ、お兄ちゃん」


 はぁ……そういやそうだったな。時間が経つにつれて痛みがどんどん引いていくから身体強化魔法の副作用なぞ完璧に忘れていた。


「じゃ……高みの見物させてもらうか」

「おっけー!【アクアスライド】!!」


 叫びながらかざした手からは大量の水流が出てきた。どういう仕組みなのか毎度疑問だが、魔法という類にそういうツッコミは無粋なのだろう。

 物凄い勢いで流れていく3匹の狼。魔法の規模も威力もさっき絡んできた不良に放ったのとは全然違う。恐らくこれでも本気ではないと思うが。


「私も……見物しよう……風菜、頑張……れ」

「ちょ! 私1人に丸投げ!?【プールフォールト】!」


 まさかの見捨てである。若干傷ついた表情になりながら放った魔法はその名の通りプールをひっくり返したかのような大量の水がライトウルフの頭上に降ってきた。あれだけ体積があるとちょっとした鈍器だろう。


「グルル……ガウッ!!」

「速っ……!」

「【ライトソード】」


 最初の魔法でだいぶ距離が開いていた筈だが、1匹がその距離を有り得ないスピードで詰めてきた。流石の風菜も反応が遅れたが、見物宣言をあっさり放棄したのかフェルトがカバーに入った。光元素で作られた剣でライトウルフの1匹があっさりと絶命する。


「だいじょう……ぶ?」

「う、うん……びっくりしたぁ……」


 例外モンスターは通常のモンスターよりも強化されている、というのは俺も星斗と共に殺されかけた身としてよく知っているが、雑魚モンスターでさえかなり強くなるようだ。ライトウルフとはやりあったことはあるが、あそこまで速くはなかったはず。


「うー……ん。ライ……トウルフってこんなに……速かった……っけ?」

「……さあな」


 知らん振りを続けるしかない。余計な迷惑をかけたくはない。


「風菜……下がって……。ちょっと、いつもと……違うっぽい……」

「いや、大丈夫だよ。たまには身体動かしとかないとね……ちょうどいいし、アレ使お」

「おい風菜、それは……」

「お兄ちゃんも【サンダーアトラクト】使ったみたいだし。あまり放置してると使い方忘れるんだよねー。ダメ?」


 やる気か。いくら例外とはいえ、雑魚モンスターだぞ。まあ……、


「……人前で【サンダーアトラクト】使った俺がどうこう言うことではないしな。好きにすればいい」

「ほいほーい。それじゃ……」

「へぇ……風菜……あれ、覚えた……んだ。すご……い」


 両手の親指と人差し指でフレームを作り、写真を撮るかのように遠くで警戒しているライトウルフ2匹を捉える。その構えだけでフェルトには何の魔法か分かったようだ。俺と風菜の魔法に関する実力は五分五分。俺が準最上級魔法を使えるなら……、


「……水よ、滴れ、全てを消せ【アクアノヴァ】」


 こいつも使うことが出来るのは想像に難くない。

 風菜が指で覗いていた空間が正真正銘、大爆発に巻き込まれた。爆心地にいた残りの2匹は跡形もないだろう。そもそもモンスターは絶命したら光の玉となって消えるのだが。


 水属性準最上級魔法である【アクアノヴァ】風菜が扱う中でも間違いなく最高火力を誇る魔法だ。空間が爆発したように見えるが、正確にはライトウルフの体内にある『水分』が大爆発を起こしている。詳しい原理は知らんが、指のフレームに捉えた生物に含まれる水分を一瞬で気化、その際に起こる圧倒的な体積膨張が生物の身体を引き裂きながら水蒸気爆発を起こす、という非人道的極まりない魔法……らしい。アイツが自分で卑下していた。殺傷力に関しては間違いなく俺の【サンダーアトラクト】よりも上だ。


「つーか、まだフレーム必要なんだな」

「じゃないと狙いがつかなくて危ないからねー。お兄ちゃんの身体消し飛ばしたりしちゃったら私ショック死するよ?」

「やめろ、想像したくねぇ」


 指でフレームを作り対象を選ぶ……というのは必須の作業ではないらしい。フェルトレベルなら恐らくフレーム無しでも的確に対象を選択して爆発四散させれるだろう。

 フレームの中にだけ意識を向け、その中にいる生物すべてを対象としていることで狙いを付けているとのこと。俺が【サンダーアトラクト】で落雷位置を指差しで決定しているのとほぼ同じ原理だ。実際は指差しなど要らない。

 そのくらいまだ精度が曖昧なので人前では使う気にはならないのだ。下手をすると巻き込む可能性すらある。模擬戦時は結界があったから使えたが……。よくよく考えれば教師を殺ってしまう可能性もあった訳だ。


「まあ撃退出来たからいいだろ。また襲われたりする前にさっさと帰ろう」

「そだね。じゃ、フェルトちゃんまたね!」

「ん……ばいばい……。気をつけて、ね」

「おう。それと擬似ヒール魔法サンキューな」


 こくりと頷くフェルトを横目に見ながら俺達は小走りで帰路についた。途中、ちょくちょく遠くから爆発音が聞こえたが恐らくは先輩の所属するマジッカーフォースメントの連中が処理に当たってるんだろう。

 もともと遠くないこともあり、家にはすぐにたどり着いた。カードキーを取り出してリーダーにあて、解錠して即座に家へと入る。力が抜けるのを感じた辺り、知らず知らずのうちにだいぶ気を張っていたようだ。


「お兄ちゃん、お風呂どうする?」

「後で入る。先良いぞ」

「りょうかーい」


 トコトコと自分の部屋に向かい、数十秒後には着替えを持って部屋から出てきた。下着姿で。


「毎度のことだがな。服くらい脱衣所で脱げ」

「下着は脱衣所で脱いでるし、どうせ家族だから問題なし!」


 どう考えてもそういう問題ではないのだが。シッシッと手を振ってさっさと風呂場へと向かってもらった。


「さて……」


 どうも例外モンスターの数が増え、動きが活発化している感じがある。先輩が言うには例外モンスターは作られている……要は魔法か何かでモンスターを作っているか、既存のモンスターを例外へと変えているのだろう。今までは魔法障壁内にモンスターが入るなど殆どなかったのだが、最低でも3匹以上が同時に入ってくるのは初めてだ。モンスター作成者の目的は知らんが、本気でこの街を潰しに来ているかもしれない。


「協力ね……ホントになにをすりゃいいのやら」


 断続的に聞こえてくる戦闘音を聞きながらごちる。恐らく先輩も戦闘に参加しているのだろう。未だに終わっていないということは強めのモンスターがいるのか、数が多いのか。

 まあ、そこまで心配する必要もあるまいだろう。重く考えすぎかもしれない。頭が痛くなってきた。

 ポケットから携帯を取り出して時間を確認。およそ19時半か……30分ぐらい寝るか。どうせ夏休みだ、夜更かしするハメになっても何の問題もない。

 リビングから自室へと移動し、ベッドにダイビング。疲れがたまっていたか、意識が遠のくのを感じる。これやばいな、気づいたら朝とか、な……。


 ***


「……ーん」


 ふと聞こえてきた声に意識が少し上昇した。


「お兄ちゃーん」


 同時に頬をペチペチと叩かれる感覚に意識が完全に覚醒。目を開くとパジャマ姿の風菜が目の前にいた。流石に朝にはなってなさそうだが……。


「ん……今何時だ?」

「22時ぐらいだね。起こそうか迷ったけどお風呂入らないままってのもマズイし」

「あぁ……。起こしてくれて助かった、風呂行ってくる」


 ベッドからのそのそと起き上がり、着替えを取りに行こうと立ち上がると少しふらっとしてしまった。寝起きなせいだろうか。


「大丈夫? 疲れてるなら無理はしない方が……」

「大丈夫だ。どっちかと言えば大魔法使ったお前の方が疲れてんだろ、早めに寝とけよ」


 それだけ言ってそそくさと着替えを持って風呂場へと向かった。


「昨日大魔法に加えて身体強化まで使って無理した人が私の心配するなんてねー……シスコン? だったら嬉しいけど」


 しっかり聞こえてるぞブラコン。兄として妹の心配してるだけでシスコン扱いされるとかたまったもんじゃないな。


「はぁ……」


 洗面台に映る自分の女顔に相変わらずため息を吐きつつ服を脱いで風呂へと入った。

 張られているお湯を掬って身体にかけてみるが、


「……?」


 熱をあまり感じない。まさか風菜のイタズラでかなりの冷水が足されてるのかと思ったが過去にはそんなことは一度もなく……まあ水属性魔法が得意なあいつならそもそも液体の温度など自由自在だろうし。

 が、気になるものは気になるので壁に設置してあるリビングとの通話機器のボタンを押し、


「おい、風菜」

『ほい、どうしたの? 痛みが再発して身体洗いにくいから洗って欲しいとか?』



「お湯の温度を殆ど感じないが何かしたか?」

『完全無視された……。別に何もしてないよ?』


 まあ予測してた答えだ。しかし何で……。


『アレじゃない? フェルトちゃんの』

「……あ」


 それだ。確か傷みの感覚を感じないようにしてるだけと言っていたが、それの効果で熱とかも感じにくくなっているのかもしれない。


「それだな。助かった、危うく温度上げすぎて知らぬ間に火傷負ってる所だった」

『まあその時は私の水魔法容赦なく浴びせるから安心して』


 溺れかねん。そう思いつつ通話を切った。

 湯舟に浸かってもイマイチリラックスは出来んが、これがなければそもそも痛みで風呂など入ってる余裕もなかっただろうしどっちにしろフェルトには感謝だな。

 さっと洗い流し、軽く身体を拭いてから風呂を出て手早く着替えた後にリビングへ。


「上がったね、じゃ掃除してくるー」


 ほぼ濡れた髪のまま戻った俺を見て風菜が再び風呂場へ。掃除とは言ったが、


「【クリーンウォーター】!」


 という声が風呂場から聞こえた後、ばっしゃーんという派手な水音。名の通り綺麗な水で洗い流している。その後水を少しずつ気化させて掃除とは言えんような掃除が完了。技術を手にする度に人はダメになっていくんだなと実感する。

 タオルで髪を拭きながら自室に入り、暇なので据え置きゲーム機を起動。もう8月終わりまで学校があることもない、のんびりしても別にいいだろう。



「……そういや外出禁止令ってまだ解除されてないのか」

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