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RFO1-9【再会】

 起きてみればまさかの次の日の13時。まあ休みだから大して気にすることもなく生活し、日が落ちかけてきた頃に風菜が話しかけてきた。


「今日も母さん遅いみたいだけどどうする?」

「マジか……」


 テーブルの上に無造作に置いてあったマジックメモに魔力を流して確認……確かに書いてある。

 現在時刻は17時半頃、夕食には少し早いが……。


「飯代の電子マネーコード入ってるな。風菜買ってきてくれ」

「えー! 私だけー!?」

「これ以上俺に動けってか……」

「正確には持つのが嫌だからお店で済ませたい」


 こいつ……。変な所で非常にめんどくさがりだ。

 そしてコイツとずっと過ごしてきて学んだ。こういう時は大人しく俺が折れる方が早い。


「……しょーがねぇ、行くか」


 ズボンのポケットに入っていた携帯を取り出してマネーコードを読み取ってチャージし、すたこらと玄関まで向かった。やっぱ痛いな……。


「あ、待ってー!」


 後ろからドタバタと音がするのを聞き流しながら風菜の準備が終わるのを待った。


 正直俺は妹と外出するのはあまり好きではない。(何だかんだ連れ出されるが)

 というのも……。


 ***


「おー、姉ちゃん達可愛いねぇ。俺らとちょっと遊んでかねぇ?」


 こういう輩に絡まれるからだ。

 不本意だが、訳を知らぬ奴らから見れば俺たち2人はただの美人姉妹とでも見られるのだろう。外に……街に出れば微妙な視線を感じることもある。

 街のど真ん中で人通りもまだ多いが、咎める人は殆ど居ない。まあこんなチンピラに絡まれに行くのは俺でもごめんだからな。


「風菜」

「ん、行こっか」


 基本的にこういうのに絡まれた時は無視するスタイルを貫いている。俺は男だと主張すれば早い話だが、以前それをやると何故か逆ギレして襲い掛かって来られたことがある。返り討ちだが。


「おいコラ、人が声掛けてんのに無視すんのは酷くねーか」

「っ!」


 集団の1人に肩を掴まれて阻止された。結構な力だったので筋肉痛も相まって痛みが走り、少し顔を顰めてしまった。

 が、こいつらには別の反応だと思われたようだ。


「お? なかなか良い反応するねぇ。安心しろって、優しくしてやるからよ」


 素直に寒気が走った。ナンパのその先を見据える奴に絡まれたのは初めてかも知れない。少し痛い目を見てもらおうかと思っていると隣からプチンって音が聞こえた気がした。


「私のお兄ちゃんに手を出すな!! 【アクアスライド】!」

「へぶぁ!?」


 綺麗に風菜が出した水流に流されて行った。私のって所には突っ込みを入れたい所だが、まあ素直に感謝すべき所だろう。今の状態で魔法はあまり使いたくない。


「リーダーが流されたぁぁぁぁ!!」

「いや、ていうかお兄ちゃんって……コイツ男なのか!?」

「ごぼごぼ……男でもその顔ならアリだ! とっとと捕まえろぉ!!」

「「「いえっさー!」」」


 ふざけんな、ナシに決まってんだろ。


「……風菜」


 ちらりと目配せをすればこくりと頷く妹の姿。


「【ウォーターヴェール】」

「【サンダースピア】」

「「「あばばばばばばば!?」」」


 水と光……相手を痛めつけるには非常に相性の良い属性だ。風菜の使った【ウォーターヴェール】は対象に水の膜を張るだけの最初級魔法だが……。


「しばらくそこで悶えてろ」


 そこにちょっとサンダー系の光魔法を打てば効果倍増だ。『拷問に使えそうだよねこれ』と女子が言うような言葉では無いものを風菜が昔言っていた記憶がある。


「久しぶりに使ったね、これ」

「コイツらが調子に乗りすぎなんだよ」


 やりすぎと思わなくもないが……だいぶ手加減した方だ。数十分すれば痺れと痛みも治まるだろう。その間は床を舐めながらピクピクしてる姿をこの人混みの中晒すわけだが。


「視線が痛い、行くぞ」

「そりゃあ美人女子2人がこんなことしてればねぇ」

「俺は男だ。後さりげなく自分を褒めるな、寒い」


『うわ、ひっどい!』という言葉を無視して歩き出す。威力はかなり抑えた魔法を放ったつもりだったが、さっきより痛みが強くなっている。さっさと済ませて帰った方が良さそうだ。

 弁当屋とか色んな飲食店とかが目に付くが、さてどこにするか……。


「いつものファミレス行こうよ」


 と、追いついてきた風菜に道を遮られながら言われた。まあ……どこでも同じか。


「結局そこか……まあいい、行くぞ」


 家から近く、味も良質な割には値段が安めと俺ら学生には結構人気のある店だ。母さんが疲れきって夕飯を作る気にならない時などよく利用している。

 来た道を数分戻って目的のファミレスへと到着し、中へと入る。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


 口では答えずに指を2本立てる。


「2名様ですね。こちらへどうぞー」


「何か今日人多いね?」


 黙ってついて行ってたが、風菜の言葉を聞いて周りを見渡す。何かいつもよりがやがやしてるとは思ったが……。


「……言われりゃ確かに多いな」

「何かあったっけ……」


 悩んではいたが答えがわかるはずもなく、そのまま席へと案内された。


「こちらにどうぞ。ご注文が決まりましたらお呼びください」


 で、店員は丁寧にお辞儀をして去って行った。


「私いつも通りでいいや」

「俺もいつも通りでいいな……」


 俺ら兄妹。ここに来ると大抵メニューに触らない。利用し過ぎたせいで好みの物が完全に固定され、ほぼそれしか頼まなくなっている。顔見知りの店員すら居るレベルだ。

 すぐに店員に注文を告げ、取り敢えず風菜にドリンクバーを取りにいかせた。

 この賑わい、どうも1箇所を中心に起きているようだ。明らかに人が密集しているところがある。


 しばらくして風菜がグラスを両手に帰ってきた……何やら慌ただしい様子で。


「お、お兄ちゃんお兄ちゃん!!」

「うるせぇ……どうした?」


 グラスでも割ったか? それなら他人の振りしないとな。

 喜びと驚きが混ざったような声質だからそういう訳ではなさそうだが。

 グラスの一つを俺の前に置き、自分のを1口飲んでから風菜が再び口を開いた。


「フェルトちゃんが居るよ!」


 脳がその言葉を処理するのに5秒ぐらいかかった。見間違えをする様なこともなさそうだし……。


「どこだ?」

「あそこ」


 そう言って風菜が指差した先は人混みのほぼ中心。

 成程……やたら背の低いエルフが1人で店に居ればそりゃ見物人も増えるだろう。そもそもエルフがなかなか人間領に来ないしな。店にとってはいい迷惑だろうが……。


「同時に席離れるのもあれだしな、お前ちょっと顔出してこい。ていうか動きたくねぇ」

「んー、分かった。じゃ行ってくる」


 本音と建前を同時に吐き出して風菜を見送り、少し肩を回して痛みを確認。


「……」


 走る痛みをうっとおしく思いつつ、携帯をいじりながらジュースを口に付けてると……ちょうど店員がやってきた。


「あ、璃緒くんだったの」

「ん?」


 顔を上げると目の前に居たのは顔見知りの女性店員だった。ちょくちょく利用する以上、割と知り合いが出来てたりする。


「あぁ……ども」

「久しぶり……なのかな?」

「最近はあまり利用してなかったですからね」

「そうなんだ。じゃ、こちらオムライスとハンバーグセット……あれ、風菜ちゃんは?」


 人混みが出来てることろを指差し、


「あの群れの中心が知り合いだったんで会いに行ってます。そこ置いといてください」

「へぇ、そうだったんだ。それじゃごゆっくり」


 顔見知りと言えども仕事、きっちりと丁寧な礼をして去っていった……と思ってたら振り向いた。


「あ、デザート要る?」

「頼んでません」

「久しぶりに会えたし、私の奢りとして出すよー?」

「ぐっ……」


 なんでこう揺さぶりに来るのか……。揺らいでると分かってニヤニヤしてるし。


「………………じゃあ、お願いします」

「はーい♪」


 好意をばしっと蹴り落とせない自分を何とかしたい。そう思いながらスプーンを手に取ってオムライスへと伸ばす。


「お兄ちゃん、フェルトちゃん連れてきた!」


 聞こえた声に顔を上げ、風菜の隣を見ればそこには小柄の耳の長い人間……ではなくエルフ。やはり全く見た目が変わっていない。


「久し……ぶり、璃緒……。席、お邪魔する……ね」

「ん、久しぶりだな」


 どうやら料理を持ってこっちの席に移動しにきたようだ。皿を持って……ないな、浮いてる。サイコキネシス系魔法の無駄な使い方だ。


「風菜、お前のそこに置いてある」

「お、ありがとー」


 俺の向かい側に風菜、その隣にフェルトがちょこんと座る。2人で色々話しているが、女子特有の話題というものなので参加はせずに黙々と食事を再開。

 こうしてみるとホントただの背の低い女子中学生みたいな感じだが……。


「そういえばフェルトちゃん、何でここに?」

「おしご……と」

「仕事?」


 若干気になってたことなのでこの話にはフェードインすることにした。普段は立場上エルフ領に居ることが多いのだが、やはりこっちにも遊びに来たわけではないらしい。


「魔法障壁の……点検と……改良出来……るかの、下調べ……」

「改良の必要があるのか?」

「最近……突破されて、るって……よく聞くか……ら」

「……」


 合点がいった、例外モンスターだ。何だかんだあまり街中では見ないのだが、それは先輩達の努力の甲斐があってこそだろう。実際はかなりの例外モンスターが入ってきてるようだ。

 一瞬迷った。コイツに協力を頼めばどれだけコトが楽に進むのか。だがダメだ、先輩も言っていたがこれは人間領の問題だ。むやみやたらにエルフの協力を仰ぐ訳にはいかない。


「……? 璃緒、どうし……たの? 」

「なんでもない」


 これ以上は考えるのをやめとこう。まさか心を読むような魔法があるとも思えんが、有り得ないって言葉が通用しないのがコイツだからな……。


「あや……しい……」

「いやほんとに何でもないから」


 ずずいっと顔を近づけるな。


「お待たせしました。いちごパフェです……あ、風菜ちゃん、久しぶり!」

「あーっ、どうも!」


 ナイスタイミング。流石に店員が乱入となればフェルトも引き下がってくれた。何でこう俺の周りはサイコリーディング紛いの事をやれる奴が多いのか。


「最近見てなかったですけどシフトと合ってなかったのかな?」

「かもしれないねー。あ、璃緒くん。パフェここ置いておくね」

「……どうも」


『エルフさんもごゆっくりー♪』と去っていったあの人、ちょうどオムライスを食べ終わった辺りでデザートを持ってきたのは偶然なのか狙ってたのか。空いた皿を持っていってもらい、ちまちまと食べ始める。ていうかデカイなこれ。メシ要らなかった気がするぐらいデカイ。


「……」


 最早美味いだのと口には出さん。絶対にこの妹が弄ってくる。しばらく食べていると風菜も食事を終えたらしく『ご馳走様でした』と小さく囁き……何故か視線がこっちへ。


「……なんだ?」

「おいしそー……」


 どうやらパフェの方をガン見していたようだ。デザートの指定をしなかったので何を持ってくるか分からなかったが、メニューを見る限り結構高めなものを奢ってくれたようだった。


「1口頂戴?」

「スプーンがない」

「別に口付いてる奴でいいよ。お兄ちゃんが気にしないならだけど」


 今どき関節キス如きで恥ずかしがるようなヤツはアニメの世界にぐらいしか存在しないだろう。俺も気にしないタチなのでそのまま風菜の前にスライドさせた。どっちにしろこのサイズだと食べ切れる気がしないので元より分けるつもりだったのだが。


「うわ、美味しい! いちごの酸味とクリームの甘味が絶妙!」


 どこのグルメリポーターだと心の中で突っ込みつつ、戻ってきたパフェを食べようと……。フェルトからの視線を感じた。


「……食うか?」


 こくんっと心なしか嬉しそうな感じで頷くフェルト。遠慮しがちなのか、こういう所では喋ろうとしない。

 フェルトの前にズズズッとスライドさせた。

 おずおずとした様子でスプーンを手に取り、やたらと少ない量を掬いとって口に運んだ。


「ん……おい……しい……」

「フェルトちゃん遠慮しすぎだよー」


 戻ってきたパフェを食べつつ、風菜とフェルトの会話を聞き流し続ける。『もっとがばーっと食べればよかったのに』だの『お兄ちゃんだから問題ない』だのツッコミを抑えるのが大変だった。

 3分の1ほど食べた辺りで胃が限界に近付いてきたのでそのまま無言で風菜の前までスライドさせる。


「ん? どうしたの?」

「甘いものは別腹と言うが俺は限界だ。後はやる」

「おー、やったー!」


 そのままパクパクと食べ始めた。よほど気に入ったらしい。もう少し財布に優しければたまに頼んでも良いんだがな……。いつかあの店員さんには礼をせねばなるまい。


「はい、フェルトちゃん。あーん」

「ふぇ……? いや、大丈……夫だよ……?」

「だから遠慮しないのー! どうせこの量私1人じゃ食べれないし」

「ん……なら……あー……ん」


 目の前の微笑ましい光景を努めて目に入れないようにしながら適当に携帯を弄って時間潰し。それから15分後ぐらいには割と大きかったパフェがきれいに2人の胃の中に収まっていた。


「ごちそーさまでした!」

「済んだか……? 帰るぞ」


 夕食を済ますという目的は果たしたのでさっさと帰ろうと立ち上がると、


「っ……」


 全身に鈍く響く痛みが。長らく座ってたせいで忘れていた。痛みは酷くなってるみたいだが。


「璃緒……あれ、使った……んだ」

「……さすが、一瞬で看破してくるか」

「もっかい……座っ……て」


 よく分からんが言われるがままにもう一度椅子に座る。とフェルトが俺の肩に手を乗せた。


「【フィールト・サイレンス】」

「……ん?」


 フェルトの手が光っただけで特に何も起きてはいないが……。いや、


「痛みが和らいでるな」

「抑えた……という、より……痛みを感じにく……くする魔法……。治ったわけじゃ……ない。無茶、禁止だよ……」


 麻酔みたいなものか……痛みが完全に引いた訳ではないがだいぶ楽にはなっている。


「悪い、ありがとな」

「ん……どういたし、まして……」


 楽になった身体を動かし、伝票を持ってレジへ。携帯にチャージしておいた電子マネーで支払いを済ませ、だいぶ暗くなった外へ。


「フェルトちゃんはどうするの?」

「魔法……障壁の確……認だけ、済ませて…くる」

「ん、じゃあ別れとくか。暇があったら家にも来ていいぞ。大歓迎だからな」

「うん……そうする……」


 そして家に帰ろうかと一歩踏み出した途端に、


 非常事態を示すサイレンが街中に鳴り響いた。

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