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ライト系は初めてかもしれません。……ライトか!?
もしかしたら、後に色々修正をするかもしれません。
需要があるか不明ですが、宜しくお願いします。
「キモいんだよ、ブース」
「お前がいると空気が汚れるんだよ」
「教室くんなよ、ガリ子」
嗚呼、なんて残酷な言葉を軽々と平気で言えるのだろうか。
私はふるふる震えながら、長い前髪の隙間から垣間見える目の前の男子を見た。
ふむ、いつもの顔ぶれのモブA、B、Cの3人組である。
思わず舌打ちをしそうになって、慌てて如何にも怖がっていますといったような仕草で震えあがって取り繕っておいた。そう、別に脳みそガキんちょレベルの3バカトリオに囲まれたって、私は屁でもない。それよりも、このいじめを遠巻きに見つめておろおろ心配してくれている穴下音来太君と、その穴下君の様子を見て私に助け舟を出そうとしている棒上達狼君の、この2人を私は見たいのよっ!!!
「おい、佐藤、鈴木、田中! 言い過ぎだぞ!」
おおっと、いつものように棒上君が声を掛けてくれた。いいねえ、相変わらずのイケメン具合。ぶっちゃけ、顔の方も絵に描いたようなイケメンだ。ただし、1970年代の漫画を彷彿とさせるようなキラキラしい感じの……そう、瞳に星とか散らばってるような、あんな感じのイケメンだ。だから、棒上君を見ていると妙に懐かしい気持ちになるの。
つか、こいつら本当に日本人に多い名前ベスト5の中に必ず入っていそうな名前だこと。あ、全国の佐藤さん、鈴木さん、田中さんには謝らないとね。こんなクズと一緒にされちゃ迷惑だわよね、ごめんなさい。全国の佐藤さん、鈴木さん、田中さんに申し訳ないから、呼び名はやっぱりモブA、B、Cで良いわよね。
モブABCは揃いも揃って、ちぇっと舌打ちをしてから、棒上君に噛みついた。
「なんだよ、棒上。今日もヒーロー気取りかよ」
「今日は穴下の騎士だけじゃなくて、こんな不細工の騎士も兼任か?」
「イケメンは大変だねえ」
なんだ、これ。聞いている方が恥ずかしくなる程の小学生染みた嫌味じゃん。え、ここはやっぱり私も協調性を持って、この茶番劇の仲間に入った方が良いのかなあ。でも、なんて言えば良いんだろうか。
『やめてよ。棒上君は穴下君だけの騎士なんだから! もう、穴下君の穴の中の中までちゃんと知りつくした間柄なんだから! 主従関係的には穴下君の方が上だけど、やっぱり肉体的関係においては棒上君の方が上よね、やっぱり! ほら、棒で上なだけに……』
あ、これは言ったらヤバいって私でも分かるわ。でも、本当に言いえて妙よね~。棒で上だなんて。んで、穴で下だなんてさ。更に幼馴染っていう関係性も相まって、私にしたらもはやただのごちそうでしかないわけなのよ! この、腐女子的視点から言わせてみればよ!
こう考えているのは私だけじゃない筈。きっと、このクラス……うぅん、クラスだけじゃなくてこの県立東條高校の全校生徒に聞けば必ず数人は共感してくれる筈。そして、同じ妄想をしている筈なのよ!
嗚呼……。
私と同じ思いを胸に抱いている方、どなたかいませんかー!!!
同じ妄想なんておこがましいこと言わないから!
誰か私の妄想話に付き合って下さ-―――いっ!!
モブABCの戯言を、イケメン(ただし1970年代の漫画)棒上君が一蹴してくれたおかげで、私はなんとか逃れることができた。
棒上君という騎士と穴下君という姫との輝かしいツーショットに後ろ髪を引かれながら、私は高校をダッシュで後にした。今日は、さる乙女ゲーのイベントのライブDVDの発売日なのよおおお! 勿論、私は予約済みだ。だがしかし、駄菓子菓子。このはやる気持ちを押さえられませんでしてなあ!
私がこの高校に決めた理由っていうのが、このオタク専門店が通り道だってのが主たる理由なの。
だから、私は幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、とエスカレーター式に上がる筈だった私立のお嬢様高校を蹴って、この公立高校にした。
ぶっちゃけ、ワタクシ超良い所のお嬢様でして。
おほほ、うふふ、ごきげんよう。なあんて言っていた。
うん。君たちの言いたいことは分かる。
「らしくない」だろう! そんなこと、分かってる! でも、人間慣れってのは怖いものだよね。というか、他を知らなかったってのが第一だったんだと思うんだけど、そんなに苦じゃなかった。そこしか知らないからね。
仲の良い子もいた。親友と呼べる子もいた。でも、ある時出会ってしまったの。これが運命の出会いってヤツなのかしら……。
あの時……忘れもしない中学二年の夏のことだった。
一番仲の良い理世ちゃんと亜澄ちゃんの3人でお勉強会を開くことになり、ウチに招待した。まあ、いわゆる考査前の恒例行事みたいなものだ。お勉強会という名の、お喋り会みたいなもので、一通り勉強してからはウフフなんて笑いながら、お土産に頂いたアイスを三人で頬張ったりしていた。そこで、理世ちゃんがノートと間違えて、俗に言う薄い本を取り出してしまったのだ!
『……理世様、これは?』
理世ちゃんが本とか漫画とかが好きなのは知ってた。でも、それは明らかに巷で有名な(お嬢様な私でも知っている)コミックの主人公の男の子が、脇役の男の子と手を握っていた絵だった。うん。手を握っているまでならまだしも、唇と唇が今にも合わさりそうな距離で、お互いがうっとりと見つめあっているじゃあありませんかっ!
『あああああ!!!!』
今までに聞いたことのない雄たけびを上げて、理世ちゃんはその薄い本を隠した。
『ななな、なんでもないのっ!!』
なんでもなくはないだろう、その雄たけび。理世ちゃんのそんな声、今でも後にも先にもこの時だけだ。
私が首を捻っていると、横で亜澄ちゃんが震え始めた。そして
『理世様、あなたもお仲間だったのね!!』
突然の叫び声。
え、ナニゴト。
『亜澄様……もしやあなたもなの!?』
『わたくしは、商業誌の方がメインなんですけれども……』
『嗚呼、なんという楽園なの! こんな身近にお仲間がいただなんて!』
『理世様、楽園ではなくてよ。ここはシャングリラでしてよ』
『嗚呼。神はわたくしを身捨てたりはしなかった! ホサナ、ホサナ!』
え、ホサナってイエス様がエルサレムに入った時に群衆が叫んだ言葉だよね。確か、私たちをお救い下さい的な。それから、私たちを救って下さる的な感じになったんだっけ。世界史苦手だから忘れちゃったよ。
疎外感に耐え切れずに、おずおずとそれはなんですの? なにがホサナなんですの? と聞いてみた。
そしたら、ホサナは別に関係なかった。
とりあえず、この出来事がきっかけで私も怖いもの見たさに足を突っ込んだが最後。
這い上がるのって凄く時間が掛るけど、堕ちてくのってすごい勢いだよね。アイザック・ニュートン先生の万有引力を身を持って体験したよ! 物理的にじゃないけどさ。
そんな訳で、私は今でも彼女達が一番の親友だ。
むしろ、戦友と言ってもいい。家族の理解を得るのに時間がかかったし(注:理解はまだ得られていません。諦められているだけです。)。なにせ我々はお嬢様ということで、外聞を気にする家族達は私のネットショッピングに戦々恐々としていた。予約しても品物がこないとかザラにあった。他の2人もそうだというのだから、こんな所で財閥の権力を持ちこまないでいただきたい。
だから、私は声高らかに宣言したのだ。
『私は、公立の○○高校へと進学いたします!』
アニメグッズを手に入れるため!
BL漫画・小説・CDを手に入れるため!
好きな時に妄想をするため!
通学途中に専門店のある公立高校へと!!
説明が長すぎだわ!
早くDVDを手に入れねばならないと言うのに!