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アルティメット  作者: 奇逆 白刃
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古獣

「俺達の後、誰かに継いでもらいたいんだ。あんた、探してくれないか」

おれが知っている中で究極の刃物使いにそう言われてから、はや六百年ほど。その頼みを忠実に引き受けた、かつ人に変化できるおれのおかげでまだあのグループは息づいている。

「これで、後はおまえ一人が生き残りだ。願わくば、その血を続けていけ。決して、その誇りを忘れぬ様にな」

千五百年もの寿命を誇る妖狐がそう言って尽きたのも、三百年前だ。最期は変化を解き、白い狐に戻っていた。

先に死んでいった奴らは、いいよ。けど、残されたおれはどうなる?

もう千八百年も生きた。けどまだ、八千二百年くらい残っている。そんな孤独、耐えられない。

三人目の主人公、つまりおれは灰色狼だ。生まれたのは、世界が融合した年。その頃は、仲間も沢山いたのに。寿命は約一万年だから……おれが死ぬより早く、多分世界が終わってるなきっと。

名前は……うーん、そうだな。正直言って、無い。何故かって……それは、付けてもらった事が無いから。

ああ、でも一つだけ。六百年前の友達にずっと呼ばれてた名前がある。それでも、名乗っとこうか。

狼灰爪輔(ろうかい しょうすけ)

いかにもそのまんまな名前だけど、うんまあ、無いよりはいいか。いいよな。

年齢は、実年齢からゼロを二個取ればそれっぽくなる。つまり十八って訳だけど。

えっと身長百六十八センチ、体重四十八キロ……こんなもんだっけ。

そして髪型に特徴なし。漫画なら、男子の中に間違いなく一人はいる、つまりはいたって普通だ。

まあいいや、ともあれ。

ついさっき、世にも奇妙な生物を目にした訳だけど、それに付いては多くを語らない。ていうか、そのせいでこういう過去を振り返る事になった。

あの妖狐にそっくりな純白の狐とか。

あの体術使いの二つ名の様な、真っ赤で巨大な蛇とか。

あの弓矢使いの二つ名の様な、真っ青な針のヤマアラシとか。

他にも沢山の……かつての仲間、友達、それを思い出させる奴も、そうでない奴も、皆が一斉におれの前に現れ出て来たんだ。そして、おれにぶつかって来て……消えた。それだけだ。

そして今、おれの胸元には硬くてしっかりとした木片が掛かっている。

それは、ほんの数年前、人間によって切り倒されて無くなってしまったはずの樹。

おれが生まれた頃にあった、絶大な力を持つ神が住んでいた神殿、その跡地に生えて来た樹。

そのせいか、それ自身も強大な魔力を持って育って来た樹。

緑樹帝。

長い間魔力を使ってきたおれには分かる。これは、その欠片だ。

どうしてここにあるんだろう。一体いつから?……分からない。

ふと、溜息をつく。

不覚にも、奴が現れた事に気付かなかった。

「あ」

「へ?」

突然の声に瞬時に振り返ると、そこにあったのは確か二年くらい前に見た顔。

「おまえは、確か……」

そう、確かあのグループの一人だ。覚えている。刀も持っているし、間違いない。

それに見間違えようのない、銀色の髪、瞳。一目惚れと言ったら何かが変だが、おれがそんな感じで声を掛けた奴だ。不思議な血を引いていたあいつに似てたから、嫌でも目をひいたってのもあるけどな。あいつが誰なのかまでは、別の話になるから言わない、けどな。

と、そいつが口を開く。そういえば、まともに会うのは初めてなんじゃないか。果たして第一声は、

「泣いてる……」

って、うげ。マジか。嘘だろ。おれは慌てて目をこすった。おそらくは目から出たのであろう液体が手に付く。おっとこれはまずい。久々に、洒落にならない痴態だな。

赤面して黙り込んでしまったおれに、そいつは慌てた感じで言葉を紡ぐ。

「あっ、ちょ、大丈夫か?ていうか、あの俺は」

「知ってる」

というより、そもそも何故おまえがここにいる。

この山は時折出没する猛獣(おれ)のせいで立ち入り禁止のはずなんだが。

だからこそ、おれはここに棲んでいるのに。誰にも会わないように気を付けてたのにな。

「あーそれはその、家に帰るつもりが道に迷「なるほどそうか分かった理解したよじゃあ送ってやるから一緒に来い」……ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ」

「……何だよ」

そいつの腕を掴んだままおれは立ち止まった。早いとこ、この予想外かつとんでもない事態から解放されたいんだけどな。全く、今日は久々の厄日だ。

しかしそいつは精一杯睨むおれに笑いかける。しかも、あろうことかこんな事をのたまった。

「ここであったのも何かの縁ってことで、話でもしないか?」

「はあっ?」

駄目だ変だ何かが変だ今日は何かが狂ってる。おれはしゃがみこんで頭を抱え、そいつを無視した。分かったもう止めよう。冗談は止めてくれ。

「ちょっと、な。相談なんだ」

悪いがそんなことに興味は無い。そいつはおれの気をひこうとでもしているようだが、おれはなおも無視を続ける。

「頼む、無視しないでくれ。不思議な奴にあったんだ、今日。分からないけど、もしかしたらお前が知ってるかもしれない」

うん?……ふむ。不思議な奴、とは。瞬間、おれの脳裏にさっきの動物達が蘇る。なるほど、確かに不思議でもある。と、いう事はだ。

そっか……それ、おれもなんだな。

マズい、そうと分かるとちょっと興味湧いて来た。おれの耳がぴくん、と反応する。けど、まだおれは動かない。ま、心はひたすら超高速の反復横跳びを繰り返してるけど。

とはいえ、表面上おれは何も言ってないのに、そいつは諦める様子を見せなかった。一人でずっと離し続けるとか、周りの目にどう映るかみたいなの、考えてないのか?

「えっとそれで……ああ、そうだ。俺の名前、言ってなかったな。先、言っとくから。俺は―運命雷牙っていうんだ」

本人では苦し紛れにやっと思い付いた、そんな言葉だっただろう。

しかしおれにとって、それが遂に決定打だった。

大きく肩を揺らしたおれは勢いよく立ち上がり、雷牙と名乗ったそいつに向き直る。

心臓が、バクバクと音を立てていた。

「今……今おまえ、運命って」

「言った、けど」

驚いた表情のまま固まっている雷牙。でも、気にならなかった。

そうか……そういう、事か。

不意に何かが、繋がった気がした。

おれに起こった事と。

雷牙が、おれの所にやって来た事と。

そもそも、おれが雷牙に目をつけたのも。

あいつに、似ているように思えたのも。

だから、もしかしたらその相談も、おれと同じような事なのかもしれないから。

「ようし、分かったいいだろう」

半ば強引に動悸を押さえ付けたおれはにやりと、雷牙の肩を掴む。パッと見おれより十五センチは背ぇ高いな。いいけど別に。

「お、いいのか。ありがたい」

雷牙もつられる様にして笑う。喜びというよりは、むしろ安心という感じの笑いだった。立ちっぱなしもなんだから、二人並んで、そこらへんの木の下に座る。

「さぁて、じゃ、聞かせて貰おう。おまえがここまで頼み込んでおれにしたかった相談とか、おまえの事とか、おまえの事とか。後、おまえの先祖の事とおれの友達の事もな」

「お前の友達とか、何で俺が知ってるんだ」

「おっと……まぁそれはおいおい、な」

「何か、含みのある物言いだな」

そりゃまぁ、含みあるから。当然だよ。

もちろん、そんな事顔には出さないけど。

「それじゃあ、どこから話そうかな」

そう言って、雷牙は本題に入りそうなそぶりを見せた。おれは目を閉じ、背後の幹に頭をもたせかける。

「え、っておい、寝るなよ」

「寝ないよ。それより早く話せ。ほんとに寝てやるぞ」

「ひどいな。……っとその前に。お前の名前は?そういや聞いてなかった」

あぁ。そういえば言ってなかった。おれは自分の名……もとい、六百年前の呼称を口にする。

「なるほど。なんか珍しい苗字だな」

「……」

何だよ。どーせおれにネーミングセンスなんか無いよ。

「年齢は?」

「……十八だけど」

「あ、年下だったのか。俺は十九だからな」

ああそうだよ。けど前は年上だった……いやいや違う、今でも年上だったな一応。

そしてそこまで確かめてようやく、雷牙は自分の話を始めた。

おれは目を閉じている。寝てやる、とかさっきはああ言ったけど、それは嘘だ。

寝たりなんかしない。するもんか。

せっかく、過去の思い出に包まれることが出来るかもしれないのに。

後悔も自責も何も無い、ただの懐かしく、楽しかった思い出として。



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