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episode:06 『Zombie Killer』


「――あの、ひとつだけ約束して頂けませんか?」


2Fに繋がる自動ドアの前で、親父さんは真剣な表情で口を開いた。


「恐らく、気が付いていられると思いますが……この先にはもう、女子供しかいません。彼女達は、僅か数時間の間に想像を絶するような恐怖に見舞われてきました」


親父さんは、そこで一旦口を止め、俺達に背を向けた。


「GWの始まりだったんです。なのに、こんな事になってしまって……外は化け物に囲まれ、数時間前までは暴力がここを支配していました」


「親父さん」


「あいつ等の眼を盗んで、鍵を開けたんです。私、こう見えてもここの警備主任を務めていましたから……周りの男達と一緒に、そこから武器を奪いました」


「親父さん!」


「必死だったんです!このままでは、娘も何れ奴等の餌食にされると!周りの人達も同じでした。だから、皆で立ち向かったんです……」


「もう、良いって、親父さん。おい、滝本!黙ってないで、何とか言えよ」


「――黙ってろ、大矢」


親父さんは肩を震わせながらも、話を続けた。


「だけど……はは、やっぱり、素人がプロに勝てるはずも有りませんでした。何とか追い払う事は出来たんですが――大勢が、死にました。相手はたった二人だったのに、だから――」





Devastated City Story

episode:06 『Zombie Killer』





「なぁ、このままで良いのかよ、滝本?」


「良い訳ねぇだろうが、畜生……」


"だから、後数時間だけでも彼女達に暴力や恐怖とは無縁の、最期の時間をあげて下さい"

それが、親父さんが口にした"理想郷"の本当の姿だった。

ゾンビに襲われ、家族を失い、救援に来た自衛隊は撤退し、命令を無視してまで残った自衛隊は壊滅。

しかも、その後は生き残った自衛官による恐怖の時間が続いていた。

――俺達がアホみたいに歌って騒いでた間に、外じゃこんな悲惨な出来事が"日常"になってやがった。


「でも、どうすんだよ滝本?親父さんの話じゃ、後数時間も持たないんだろ?」


「あぁ、既に一階のバリケードが複数突破されてるらしいからな。今の所、何とか持ちこたえているみたいだが――」


「ドンドン増えてるらしいしなぁ……しかも、俺達が引き連れてきちまったし」


「ゾンビを排除して、バリケードを再構築できりゃぁ良いんだが」


「"プラネット・テラー"みたいに、足に銃を仕込んで大暴れするか?」


「アホ抜かせ、俺はまだ五体満足だよ」


「だよなぁ……いっその事、親父さんの言う通りに従って、食料と水を貰って逃げるか?」


「大矢、それ本気で言ってんのか?だとしたら、撃つぞ?」


「殴るじゃなくて、撃つかよ……ブラック・ジョークに決まってんだろ?」


大矢はそう言うと、空になった紙コップを握りつぶしてゴミ箱に放り投げた。


「ナイス・シュート」


「あんがとさん――さて、滝本。ここで問題です。ここには武器が余るほど有るんだよな?」


「あぁ、命令を無視した一個小隊はここで篭城する心算だったらしいからな」


大矢はその言葉を聴くと、にこやかに笑みを浮かべながらあるDVDを取り出した。

……何処から取り出したんだ、それ?


「オリジナル版の"ゾンビ"だ。いやぁ、欲しかったんだよね、これ」


「何十回も見てんだろ、お前――おい、まさか」


「そのまさか、だよ。作中で、主人公達はモール内のゾンビを掃討してただろ?安全地帯に逃げながら」


「……周りには自衛隊が乗り捨てていった車両が転がってるし、店内を把握してる親父さんも居る。やれるか?」


「何言ってんだ、滝本ともあろう人が。やるんだよ、俺達で」


店内には無数のゾンビ、外には依然として増殖中のゾンビの群れ。

映画と違って、上空からの支援は無い。


「大矢、やっぱ、現実的には無理――」


「ネガティブ!ネガティブ!――現実、なんて言葉は負け犬が使う言葉だって言ってたの、誰だ?」


――俺だよ、こん畜生。


「あぁ、そうだよなぁ、大矢。現実、なんて言葉で枠を作ってちゃ何も出来ねぇ。忘れてたわ」


「そうそう、俺達にネガティブは似合わねぇ、ポジティブ過ぎるのが俺達だ」


「はは、間違いねぇな――さて、行きますか」


「おう!ド派手にぶっ飛ばしてやろうぜ!映画の"人狼"みたいな感じでよぉ!」


「強化装甲服とMG42でも持ってきな」





――5月2日 午後7時15分


「本当にやるんですか!?無茶ですよ!」


「無茶でも何でもやんなきゃ、あの子達は後数時間でゾンビの餌になっちまう。それは寝覚めに悪そうだからな」


「つーか、悪夢だろ、滝本」


「だけど、幾らなんでも無茶すぎますよ!たった二人で、何百ものゾンビを掃討するなんて……」


「親父さん、キャラ代わってるよ」


「これが素なんです――って、話をはぐらかそうとしても駄目です!」


「あー、はいはい。大丈夫だって、俺達には不可能は無い!……多分」


「多分かよ」


「実際には腐るほどあるけど、無視してるだけだからな。それに、二人じゃないですよ、親父さん。なぁ、大矢?」


「え?」


「おう、この店内の隅から隅まで熟知してるのはおやっさんしか居ないからな。だから、カメラを見ながらこれで支援してくれ」


大矢はそう言いながら、無線機を手渡した。


「これは……」


「自衛隊の置き土産の無線機ですよ。あぁ、一応、これも渡しておきます」


ホルスターから拳銃を抜き取り、親父さんに渡す。


「弾は補充しておきました。後は、薬室に弾を送り込んで引き金を引くだけです」


「だが、君達はどうする心算――ランボー?」


親父さんはそこで初めて気が付いたのか、呆然とした表情でそう呟いた。


「いや、寧ろ"コマンドー"だな」


89式に、何故か有ったSATのタクティカルベストと両腕と両膝のプロテクターを装備。

あぁ、勿論、迷彩服は新品だ。何故か袋に入ったままのがあったから。


「持てるだけの弾薬も持ったしな?だから、おやっさんは安心して俺達を支援してくれ」


「まったく……君達は本当に無茶をする心算なんだな?」


「「それが俺達のジャスティス!」」


あ、ハモった。


「はは……分かったよ、君達を信用する。だが、危ないと思ったら直ぐに逃げてくれ。勝幸君に何かあったら、私が娘に殺されてしまう」


「え?俺は?」


「あー……うん、その、何だ。頑張れ、大矢」


「チクショォォォォォ!!リア充め!お前なんか、ゾンビに喰われて死んでしまえ!」


「そしたら真っ先にお前を襲ってやる」


「スイマセンデシタ」


そんなやり取りをしながら、俺達は一階へと続く階段へと足を進めた。


「勝幸君!光司君!」


親父さんに呼び止められ、振り返ると親父さんは俺達に向かって深々と頭を下げていた。


「親父さん」


「おやっさん……」


「ありがとう。君達のお陰で、私にも希望が沸いてきたよ……成功させよう」


俺と大矢は顔を見合わせると、同時に親父さんに向かって見よう見まねの敬礼を送った。


「任せといてください」


「おやっさん達の未来、俺達が切り開いて見せますよ!」


親父さんに背を向け、階段の扉を開く。


「なぁ、大矢?こんな時に流すBGMは何が良いと思う?」


「決まってんだろ、滝本」


「「"21世紀を手に入れろ!!"」」



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