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episode:05 『Monroeville Mall Part3』


電源の入っていない自動ドアを手でこじ開け、机やベッドで築かれたバリケードの隙間を潜り抜けた。

すると、そこには俺の想像を絶する光景が広がっていた。


「おかあさーん、お腹すいたー」


「はいはい、ちょっと待っててね?今、おねえちゃん達がマックでハンバーガー焼いてくれているから」


「わーい、今日はテリヤキがいいなぁ?」


俺は思わずその場に崩れ落ちた。









「嘘だと言ってよ、バーニィ……」


"ランド・オブ・ザ・デッド"の様な光景に出くわすのを覚悟してたのに、何ぞこれ?

え?何でこんな平和なんだよ。子供達なんか、嬉々としてゲーセンで遊びまくってんぞ?

しかも、女性の方々は色んな洋服着て楽しんでるし……

血塗れ迷彩服姿の俺が、異常なほど場違いな気がする。


「おじさん、大丈夫?怪我してるの?血がいっぱいお洋服についてるよ?」


突っ伏したままの姿勢で放心していた俺に、少女が声をかけて来た。

多分、小学2年生か、3年生位だろう。血塗れの俺が心配なのか、『いたいの、いたいの、とんでいけー』とか言いながら頭をなでて来る。

え?何、この可愛い生物。俺の妹と段違いじゃねぇか。

つーか、あの馬鹿妹。この位の時には既に「死ね」とか真顔で俺に言ってきたよな?

そう言えば、あいつ等無事なんだろうか?やべ、急に心配になって来た。


「おじちゃん、大丈夫なの?」


「あ、あぁ、俺は大丈夫だ、ありがとな?」


思わず撫でようとして、手が止まる。

やべ、ゾンビの血に塗れた手で撫でるとこだった。


「?どうしたの?」


「あー……手が汚れたままなの忘れてたわ。ごめんな、汚れてないか?」


「リサっ!勝手に走っていっちゃ駄目でしょ!お姉ちゃん、心配した――!?」


少女の後ろから現れた女性(推定、20代前半。巨乳)がその場に立ち止まった。

まぁ、そりゃぁ驚くわな。妹?を探してたら血塗れで突っ伏した自衛官と一緒に居るのを見つけたら。


「あ、すいません、俺は大丈夫――」


「――勝幸っ!?」


……は?


「勝幸、勝幸だよね!?ってか、勝幸でしょう!?アンタ、なんでそんな血塗れなのよっ!怪我は!?大丈夫なの!?っていうか、やっぱりアンタ、自衛官になってたんだ。そうだよね、昔から正義感強かったもんね?あの時も、苛められていた私を助けてくれたもん。あ、もしかして、今回も私達を助けにきてくれたんだ!よかったぁ、あのクソ野郎共に何時レイプされるかとビクビクしてたんだ!これでもう安心――」


「はいはいはいはい、ちょっとストップ。まぁ、落ち着け。良いから落ち着け。落ち着きやがれ!」


俺の声に驚いたのか、女はビックリした表情でこっちを見てくる。

…… こ っ ち み ん な 。

つーか、何なんだよこの女。行き成りクリス・タッカー並のマシンガン・トーク始めやがって。

んん?あれ?何でこの女、俺の名前知ってんだ?


「あの、大変失礼ですけど――何で俺の名を知ってるんですか?」


「……まさか、私の事忘れたとか言わないよね?」


ショートボブ。黒髪。

身長、推定170cm後半。巨乳。

ボン・キュ・キュのスレンダー美人。でも胸は別。

ぶっちゃけ、モデル並。特徴はマシンガン・トーク。

検索結果......該当なし。

但し、マシンガン・トークに関しては一件ヒットしました。

武川 泉美。中学の時の同級生。地味。


「ま、まさか……い、泉美じゃねぇよな?」


「あ、良かったぁ~忘れられてるかと思って焦っちゃったよ!……何、その眼」


「ぴ、ピーチなら、何時間でもしゃぶれるぜ」


「ニコラス・ケイジ?ってか、何言ってんのよ、唐突に。あ、やっぱり怪我してる!?」


「い、いや、大丈夫だ。ただ――」


「ただ、何よ?」


「人類の神秘を目撃して、精神汚染されそうになっただけだ」





――5月2日 午後6時20分


「――なるほど、あのオッサンが言ってた事がマジな訳だ」


「本当、マジ最悪だったわ、あのクソ自衛官。な~にが"食料が欲しければ俺のをしゃぶれ"よ!思わずぶん殴りそうになったわ。蹴り飛ばしたけど」


「あぁ、俺の自衛官像が崩れ去ってゆく……」


「何言ってんのよ、クズなのはあの二人だけ。他の人達は皆、私達を護る為に身を張ってたわ――皆、死んじゃったけど」


泉美と二人、ベンチに座って言葉を交わす。

右手に煙草、左手にはコーヒー。あぁ、久しぶりに癒される……


「あ、そう言えばお父さん知らない?防犯カメラに怪しい人影が映ったからって見に行ったんだっけ?」


「あ」


わ、忘れてたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!





「早まるな大矢ぁぁぁぁぁぁ!!!」


「ウォォォォォ!?何だ、何が起こった滝本ぉ!?やっぱり、酒池肉林が広がってたのか!?」


「逆だ、逆!めっちゃ平和なほのぼの空間が広がってた!例えるなら、"Survival of the Dead"だと思って入ったら"借り暮らしのアリエッティ"だったって感じだ!?」


「ロメロと宮崎じゃ違いすぎるだろ!?」


「あ、あのー……」


「「何だ!?」」


「ヒィッ!?わ、私はどうなるんでしょうか?」


「どうすんのよ、滝本?」


「そりゃ、勿論無罪放免――ってか、本当にすいませんでした」


いや、まさか家族+αを護る為だとは思いもよらなかったもんよ。

しかし――


「あ、あの、私の顔に何か?」


「――いや、何でも有りません。さ、中に入りましょう。ここじゃ、危険ですからね」


「なにさり気なくいい人を気取ってんだよ」


「だまらっしゃい」


俺は自動ドアを潜る二人を見送りながら、空を見上げた。


「――あのオッサンからどうやったら泉美みたいな美人が生まれるんだよ」



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