episode:01 『Dawn of the Dead』
「おい、生きてると思うか?」
「常識的に考えれば死んでんだろ。が、悲しい事にゾンビなんて言う非常識が大量発生してるからなぁ」
「ゾンビ化してない事を祈るか」
「ブレーキ踏んでたみたいだから、ゾンビ化して無いだろ」
あの決死の覚悟は何だったんだ?と突っ込みたいのを堪えつつ。
命の恩人である運転手の生死を確認するべく、俺達は足を踏み出した。
電柱に衝突したまま、エンジンがアイドリング状態のまま停止しているトラックの手前、5m。
俺達は観葉植物と傘を持ったまま、様子を伺っていた。
「なぁ、大矢。ふと、思ったんだが」
「ん?どうしたよ」
「あのトラック、まさか転生トラックじゃねぇだろうな」
「……ゾンビ化した奴を転生させてどうするんだよ」
「いや、転生先が"バイオ"とか""ロメロ"の世界だったら需要あんじゃね?」
「あー、なるほど。こうやってゾンビを補充してるってか?」
「まぁ、嫌な転生にゃ変わらんがな。さて、そろそろ行きますか」
観葉植物を振りかぶったまま、という地味にキツイ姿勢のまま、トラックへと近づく。
「さて、ゾンビが出るか重体者が出るか」
「死人の方が可能性高くないか?」
「映画だと死体はゾンビ化するからな。だとすりゃ、どうやってゾンビ化を阻止しやぁ良いんだ?」
「やっぱ、ド頭をぶっ飛ばすしかねぇんじゃねぇのか?」
サイドステップに足を掛け、砕け散った窓ガラスで手を切らない様に注意しながら運転席を覗き込む。
「どうだ、滝本?やっぱ、ゾンビが居たか?」
「だとしたら生きちゃいねぇよ!……居るのは、職務を全うした自衛官だけだよ」
――5月2日 午後4時10分
「何やってんだよ、大矢ぁ!しっかり持てよ!」
「血で手が滑るんだよ!」
映画並の激突をぶちかましてくれたトラックのお陰でゾンビは周囲から一掃され、俺達はゲーセンの中にトラックに乗っていた自衛官2名の遺体を運んでいる。
運が良い事に、開店前だったゲーセンの中にはゾンビは居なかった。
勿論、扉は施錠されていたが所詮はガラス張りの自動ドア。周囲にゾンビが居ない事を良い事に、俺のパジェロでぶち抜いた。
「うし、ここで良いだろ。大矢、ゆっくり降ろせ、ゆっくりとだぞ?」
「おう、しかし死体を現実で見たのは初めてだが、吐くとか錯乱するとかしねぇもんだな」
「だなぁ……いや、もしかしたら普通の人はそうなるかもな。俺達は、あれだ。ネジがぶっ飛んでる」
「ゾンビ映画片っ端から見たから、耐性がついてんのかもよ」
「それにゾンビを自転車でぶっ飛ばしてたしな。何体か頭吹き飛んでたぜ?」
「まぁ、とにかく俺達はこの人達のお陰で命拾いしたって訳だ」
「武器と装備も手に入ったしなぁ……でも、流石に気が引けないか?遺体から装備をかっぱらうなんて」
「気が引けるし、罪悪感全開だよこん畜生。だが、考えても見ろ。この姿のままで生存者に遭遇してイニシアティブを取れると思うか?」
「取れんだろうなぁ……どう見たって、ヤクザと一般人Aだ」
「ヤクザ言うな!――うし、拳銃の方は両方とも弾が入ってるな」
ホルスターから抜き取った9mm拳銃の弾倉に弾が入ってる事を確認し、大矢に手渡す。
「凄ぇ、本物のじゅうだぜ」
「使い方はガスガンと同じだ。多分」
「多分って何だよ、多分って!」
「しかたねぇだろ、撃った事ねぇんだから」
スライドを引き、薬室に弾を込める大矢を横目で見ながら、俺はスーツを脱ぎ捨てて血だらけの迷彩服に着替え始める。
「おぉ、案外似合ってんな、滝本」
「茶化してねぇで、お前も着替えろ。準備が出来次第、次に向かうぞ?」
防弾ベストは――いらんな。ゾンビ相手じゃ、多分意味がねぇ。
鉄とホルスターを身につけ、曖昧な記憶を頼りに長革靴の紐を締める。
「次って、何処に向かうつもりだよ?」
「決まってんだろ――」
ここから500mも行かないところに、大手デパートの大型店舗がある。
こうなったら、もう自棄だ。テンプレ道理に行くしかねぇ。
「ショッピング・モールに立て篭もるのさ」