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episode:12 『Smooth Criminal part3』


5月3日 午前1時12分


防火扉の前で、俺は89式を構えながら耳を澄ましていた。

聞こえてくるのは、下品な笑い声と甲高い女の声。


「しっかし、上手いことやったねー、隆!」


「あぁ、俺も驚いたぜ。まさか、ちょっと煽っただけであれほどまでに乗ってくるとはな。奴は真性の馬鹿だよ」


「隆、これで私達は生き残れるんだよね?」


「あぁ、ご丁寧にも車を用意してくれたからな……これに乗って逃げれば、もう大丈夫だ」


――チッ、あいつ等封鎖したトラックに乗って逃げる心算かよっ!





Devastated City Story

episode:12 『Smooth Criminal part3』





「――泉美、親父さん、聞こえているか?」


<<あぁ、聴こえるよ勝幸君>>


『聴こえるわ。勝幸、金髪と女が西側に、残りのクソ坊主二人が南側に向かってるわ……ここからじゃ、南側は死角になって撃てない』


「了解、親父さんはモニターで監視を続行してくれ。泉美は――」


『西側の二人を狙っていれば良いのね?』


「あぁ、頼む――状況開始だ、奴等の好きにさせてたまるかよ」


音を立てないように気をつけながら、足を踏み出した――その時だった。


「――ごめんなさい」


彼女――山田さんの声と共に、俺の首に衝撃が走る。


「ごめんなさい、ごめんなさいっ!ごめんなさい!」


顔を涙でグチャグチャにしながら、何度も逆手に持った包丁で俺の首や顔面を突き刺してくる。

――これで終わりかよ。最低の物語だったな、クソ。

自分の体からアホみたいに流れ出る血を、霞む目でなんとなく見ていた。





「――本」


うっせぇ、こちとら包丁で滅多刺しにされて疲れてんだ。寝かせろ、あと五分くらい。


「おい、――」


だから、うるさいって、大矢。


「おい、滝本っ!バスが着いたぞ!」


「……ん?あれ?」


「何寝ぼけてんだよ。ほら、バス着いたぞ?」


「大矢?え?何、この展開」


「……何、スローモーションで飛び立ってく鳩みたいな顔してんだよ。さっさと降りるぞ、滝本」


「お、おお」


何がどうなっているかよう分からんが、とりあえず手に握っていた為に汗でベチョベチョになった230円を投入してバスを降りる。


「――栄か?」


「滝本、どうした?なんか様子が変だぞ?」


心配そうに見てくる大矢に、嫌な夢を見たとだけ言って足を進める。


「嫌な夢、か」


「おう、嫌な夢だ。せっかく来たんだから、そんな夢なんかわすれてパーと行こうぜ、大矢!」


「――そうだな、滝本。今だけでも楽しもうぜ?」


「お前も、何か変だぞ大矢?」


「お前よかマトモだ」


「違いねぇ」


二人で笑いながら大須の方へとゆっくり歩き出す。



街は何時も通り平常営業実施中。

間違っても、ゾンビが走り回ってたりしない。

大須に着いた俺たちは、毎度のパターンである個人経営のフィギュアショップを巡り。

赤門通りから少し入った所に出来た某大手ショップでコスプレ店員が顕在している事を確認し。

ゲーセンでサイレントヒルを連コインでクリアしたりして過ごしていた。


「やっぱロジャー君は怖いわ」


「あの血塗れウサギが夜道に立ってたら、全力で逃げるね。俺は」


「いやいや、大矢君。それよりもっと怖い者が居るじゃないですか」


「なにさ?」


「――深夜にマックの前でベンチに座ってるドナルドさん。あれを見たときは本気で焦った」


いや、マジでビビるって。信号待ちでふと、横見たら居るんだよ?


「いやな事想像させんなよ……あ、また献血やってんな」


「するのか、大矢?」


「馬鹿言うな、俺達が献血したらとんでもない事になるだろーが。それより、腹減った。うどん屋でラーメン食わね?」


「OK,例のうどん屋で良いか?」


「つーか、そこしかねーだろ」


「今日もお姉さんいるのかねぇ?」


「……彼女にばらすぞこの野郎」


「ん?何か言ったか大矢?」


「うんにゃ?ほら、さっさと行こうぜ?腹減った」


大矢にせかされ、俺達はうどん屋があるパチンコ屋の階段を降りていった。




「――やっぱ、旨いな大矢」


「おう、このシンプルさがたまらんぞよ」


「しかも、安いしな」


ネギとメンマ以外に何も具が入っていない、シンプルすぎるラーメン。

だが、そこが良い!つーか、何でこんなに旨いんだろうな、うどん屋のラーメンって。


「……やっと、食べられたな?」


「はぁ――やっぱ、あれは夢じゃねーのかよ、大矢」


食べ終わって箸を置いた直後。

周りの景色が、うどん屋から伊東屋のフロアへと変貌した。

ちなみに、大矢の姿もカジュアルから血塗れ自衛官に変わってた。


「残念ながらなー」


「語尾を延ばすな、なんかムカつくから」


「はいはい。話を続けるぞ?」


「おう」


「まず、第一に俺と滝本は現在、絶賛瀕死中だ」


まぁ、滅多刺しにされたしな。


「俺は守山駐屯地に到着して力尽きた。お前は?」


「お前さんが助けた女子高生に、包丁で滅多刺しにされた」


「はぁ!?なんぞそれ!!」


そりゃぁ、驚くわな。つーか、俺も驚いたわっ!


「凄いだろ?まさか俺も人間に殺されるとは思わんかった」


「いや、マジで意味が分からんぞ……」


「安心しろ、俺もよく分からん――所で、何でお前は死にそうなんだよ。ゾンビと間違われて撃たれたか?」


「半分当たり。駐屯地の近くにユニーあるだろ?あそこから出てきたゾンビ軍団に襲われてな」


「何、そのバーゲンセール」


「新年の福袋目当てに殺到した客を思い出したぜ……で、転倒しちまって、仕方なく全力疾走」


またそのパターンかよ。


「応戦しながら走ってたんだがよ、道路を封鎖する形で展開していた自衛隊の皆さんにゾンビごと撃たれた」


「OK,把握した。次は?」


「第二に、多分だが俺達は死なない。あ、不死身ってわけじゃねーぞ?」


「どういうことだ?」


「いやな、左腕以外は見事に直りかけてるんだわ。結構な数の怪我だったのに、その殆どが」


「自然治癒力の向上か?なんつーチートだよ、それ」


「道端に落ちてるハーブや栄養ドリンクで回復する人達も吃驚だろうよ。まぁ、その代わりに――」


「肉体の限界が先に来るか。確か、体細胞の分裂には限界があるんだよな?」


「そう言うこった。ゾンビのお陰さまで脳の活性化は100%。それに伴い肉体は強化されるが、体細胞の分裂には限界がある」


「どっちにしろ、限界は近いって事かこん畜生!」


「まぁ、そう言うな滝本。それで、第三の話だが」


「……俺達には対ゾンビウィルスの抗体が出来てるかもしてんのだろ?」


「ビンゴだ、滝本。俺の左腕の侵食、あれ以上進んでないんだわ」


「マジか?って事は、この惨劇は――」


「「止められる」」


ははは……マジかよ、なんだよこの展開。


「そう言う訳でだ、滝本。俺もお前も、簡単に死ぬわけにはいかん」


「そうだな、俺だけでも駄目。お前だけでも駄目だ、ワクチン作るには比較対照がなきゃいかんだろうし」


「俺と滝本の血の中にある抗体が一致すれば、このクソッたれな状況から抜け出せる」


大矢の姿がぼやけ始める――時間か?


「滝本、俺は必ず救援部隊を引き連れてそっちに向かう。だから、絶対に死ぬな」


「分かってるぜ、相棒。後、少しだ――もうひと踏ん張りするさ」


そう言った直後。

周りが、光に包まれた。



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