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episode:09

*サブタイトルが無いのは仕様です。


5月2日 午後9時45分


ブロロ、とアイドリング音を鳴らし続けるエンジンを停め、シートに身を預ける。

流石に、疲れた。

気を抜くとそのまま眼を瞑ってしまいそうに成る。

何とかそれを、愛と勇気と情熱と闘志で堪え、無線機のスイッチを握った。


「こちら、滝本。西側の封鎖が完了した」


<<ご苦労様、勝幸君。光司君の方ももう間もなく終わりそうだ>>


「意外と早く終わりましたね。ところで、館内の様子はどうです?」


<<館内は粗方、君達が殲滅してくれたからね。残るは掃除、と言ったところだよ>>


「……あぁ、やっぱ片付けるのは俺達の仕事ですよね?」


<<ははは……私も手伝うから、頑張ろうか。あぁ、大矢君も終わったようだね>>


『あー、こちら大矢。これ、使い方合ってんのか?』


<<大丈夫、聞こえているよ光司君?>>


『おぉ、おやっさん!南側の封鎖は完了したぜ?所で、立体駐車場のシャッターを開ける事は出来るか?』


「駐車場のシャッター開けてどうするつもりだ、大矢?」


『滝本か?いやな、今、目の前に赤十字のマークの付いたトラックが停まっているんだわ。ほら、負傷者とか居るんだろ?』


<<確かに、今ここには民生品の医薬品しかないからね。光司君、危険は無さそうかい?>>


『外に居るゾンビも殆ど駆除したしな?俺一人でも大丈夫そうだ』


「そうか、ぞれじゃぁ、頼む。俺は一応、1Fを見回っておくから」


俺の言葉を最後に、通信が途切れる。

ベストの胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけると俺は89式を持って車を出た。





Devastated City Story

episode:09





「こりゃぁ、また……派手にやり過ぎだろ、俺達」


まず、最初に眼に入ってきたのは大量のゾンビの死骸。

足の踏み場に困るほど横たわる多種多様なゾンビ達は一様に頭を吹っ飛ばされ、死骸からは内臓やら何やらが辺り一面に飛び散ってスプラッタな惨状を作り出している。

次は、大量の瓦礫。後先考えず、兎に角ゾンビ掃討だけを目的にぶっ放した結果、"クライシス・ゾーン"も真っ青な壊れ具合を作り上げている。

……要するに、辺り一面銃痕だらけ。ガラスは飛び散ってるわ、壁の表面は崩れているわで、廃墟といった言葉がしっくり来る。

余り深く考えると頭が頭痛に襲われるので、深く考えないようにしながら薬局のブースからリゲインを持ってきて飲む。


「48時間、戦えますか?ってか?――む、空しい」


一人でボケて、一人で突っ込むのがこれほど空しいとは……

迫り来る眠気と頭痛をリゲインで撃破した俺は、食料品ブースへと向かった。




食料品ブースに、ゾンビは居なかった。

恐らく、ゾンビ襲撃で大混乱に陥ったからだろうが、あらゆる商品が床に乱雑に落ちている。

中には、避難中に落としたと思われる鞄や携帯、食料品の入ったままのカゴの姿も見受けられる。

その中を突き進み、バックヤードに足を踏み入れた瞬間、いい加減に嗅ぎ慣れてきた匂いが俺の鼻を突いた。


「――親父さん、バックヤードに血の匂いが充満している」


89式を構え、無線機を操作して親父さんに送る。


<<原因は、私の口よりも直接見たほうが早いだろうね……お勧めはしないが。大丈夫、そこにゾンビは居ないよ>>


「だと良いんですけどね……」


89式を構えたまま、扉を開く。

照明は付けられておらず、仕方無しに肩に付けているL字型ライトのスイッチを入れる。


「――仲間割れでもしたんですか?」


壁と言う壁に銃痕が刻まれ、床にはSATや新型迷彩柄の防弾ベストを着た男達が横たわっている。

それぞれが、MP5-Jや機関拳銃、89式や64式を抱えたまま、でだ。


<<奴等を追い出した後、私は各出入り口の鍵を閉める為にフロアを離れていた。僅か、数分だ。その間に――彼等は、そこで殺し合いを始め、皆死んでしまった>>


「何故です?奴等を追い出したのなら、ここはもうほぼ安全と言っても良い状態だったはず。なのに、何故殺し合い等を?」


<<分からない――分からないんだ!壊れたバリケードを封鎖し、店内に散らばっていたゾンビの死体を処理すると、彼等は言っていた。にも拘らず、彼等は仲間同士で殺し合い、全滅した>>


ゾンビの処理に突然の殺し合い、か。

しかも、場所は狭い通路。壁には大小様々な銃痕が刻まれている?

……ありえねーだろ、これ。

いや、確かに殺し合いしたんだろうけど、こいつ等は。

現に、其々の対角線上に死体があるしな?けど――普通は、これほどの戦闘になる前に切が付くはずだ。


「……それこそ、ガン=カタ同士の戦闘じゃなきゃこうはならんだろ」


<<ガンカタ?>>


「いや、なんでも有りません。親父さん、一階はこのまま封鎖しちまいましょう。万が一、って事も有りますから」


<<そうだね、こっちにも食料や飲料水が十分に運び込まれているから大丈夫だ。このまま封鎖してしまおう>>


「えぇ、そうしましょう。今すぐ戻ります」


無線機のスイッチを切り、その場を後にしようとするが――


「やっぱりか、クソッ!」


背後に"気配"を感じ、振り向きざまに89式の銃底を喰らわせる。

しかし――


「マジかよ……」


ゾンビは衝撃により、数歩後ろへ下がるが――頭は吹き飛ばず、"健在"だった。


「新種のゾンビってか!?冗談じゃねぇぞ!!」


89式を素早く構え、指きり射撃で目の前のゾンビを倒す。

だが、それを待っていたかのように周りの死体も動き始め、俺はゾンビ12体と対峙する形となった。


「頭にぶち込んでも、吹っ飛ばないだけで"死ぬ"には変わりねぇのか――だったら、簡単だな」


一体目のゾンビが起き上がってこないのを確認し、俺は突っ走ってこようとするゾンビに向かって引き金を引く。

最早、心地よささえ感じてきた反動が、肩を叩き、それに比例する形でゾンビ共はその場に崩れ落ちる。

総てのゾンビを倒すのに、三分も掛からなかった。

俺の撃った銃弾は、当然の様にゾンビの頭を貫通している。


「……冗談じゃねぇぞ、畜生」


まるで、全身の力が抜け落ちたかのように、その場に膝から崩れ落ちた。


「大矢、聞こえるか?」


『滝本か?丁度良かった、今から連絡する所だった。こっちは今、3Fの駐車場に居る所だ』


「あぁ、わかった。下に降りて来い、話がある」


『――いや、悪ぃがこっちに来てくんねぇか?生存者を保護したんだが、しくじっちまってな?』


「――!?大丈夫なのか!?」


『駄目だな。この状態じゃ、長くは持たん』


「直ぐに行く。その場で待っててくれ」


『了解。あ、一人で来いよ?』


「分かっている」


無線のスイッチを切り、89式を抱えて立ち上がるとエレベーターに向かって走った。



――5月2日 午後9時52分



「大矢!何処だ!」


「こっちだ、滝本!」


声のした方を振り向くと、大矢が片手を挙げていた。

その脇には、5人の人影が見える。


「彼等が生存者か?」


「あぁ、そうだ。何を考えてたのか知らんが、素手でうろついていやがった」


男三人に女二人、か。

全員がブレザーの制服姿って所を見ると高校生か?


「あ、あんた、自衛隊員か?一体、どうなってんだよ、これは!」


一番背の高い、金髪の男が口を開く。

と、同時に――


「ここは安全なんだろ?なぁ、安全なんだよな?」


「こんな時の為に税金払ってんだから、何でさっさと助けに来なかったんだよ!」


「そうよ!怖かったんだから!どこに行っても化け物だらけで、怖かったんだから!」


まるでダムが決壊したかのように一斉に喋り始めた。

……あぁ、もうウルセェ!俺は聖徳太子でもフォレスト・ガンプでもねぇんだよ!


「あー、はいはい、分かった、分かったから!俺が出てきた自動ドアあるだろ?そこから2Fに降りれば他の生存者が居るから、誰かに聞いて食い物と飲み物を分けてもらえ。あぁ、それと服を着替えても良いぞ?なんせ、着る服は腐るほどあるからな」


俺の言葉を聴くと、高校生(多分)達はブツブツと文句を言いながら入り口へと向かう。


「あぁ、言い忘れてたが1Fには降りるなよ?ゾンビ(の死体)がウジャウジャ横たわってるから!」


「うるせーよ、ジジイ!」


金髪の男が振り向き様にそう言い放ち、その後をそれぞれが文句を言いながら付いて行った。


「……大矢、俺ってジジイか?まだ24なんだが」


「安心しろ、俺も言われた。ったく、何度、車内で撃ち殺してやろうかと――「あ、あの!」――ん?まだ、居たのか?」


大矢の言葉を遮るように、隣に居た長身の女子高生が意を決したように口を開いた。


「あ、あの、この隊員さん、私達を助ける為に戦ってくれて、その、えっと……」


「あー、落ち着けって。ここには、もう奴等は居ないから大丈夫だ。な?滝本」


「そう、もう大丈夫だ。怖かっただろう?さ、皆と一緒に下に行って休むと良い」


俺と大矢は、何かを言いたそうにしている女子高生を出来るだけ優しく入り口へと誘導する。


「あの、ありがとうございました」


「なぁに、気にすんな!」


エレベーターの扉が閉まり、2Fから動かない事を確認すると俺は大矢の方に振り返った。


「――で、何処を噛まれた?」


「腕だ。見てくれ、もう腐り始めてる」









大矢はそう言いながら、血塗れの左腕を捲くる。


「ひでぇな、肉が削ぎとられてる」


「あぁ、だが問題はそこじゃない。痛みがねぇんだよ、まったくな?」


「痛みが無い?」


「おう、どんなに動かしても痛みは無いし、出血も止まってる。しかも、だ。見てくれ」


大矢が噛まれたのは、掌の上の部分。

だが――


「肘の所まで変色してるのか?」


「おう、どうも腐っているみてぇだ。それに――」


「異常なほど、"冴えている"、だろ?」


「……お前もか、滝本」


「あぁ、今思えば可笑しいんだよ。全力疾走しても軽口を叩けたり、銃を撃てば撃つほど上手くなったりな?普通は、こうもいかないだろ」


「――俺もMT車なんて初めてなのに、直ぐに運転する事が出来たしなぁ……やっぱり、あれか?俺達は感染してんのか?」


「多分――いや、絶対にな。じゃなきゃ、説明がつかねぇだろうが」


「チート乙!って訳にはいかねぇか?」


「そりゃねぇだろ、大矢。多分、だがあのゾンビ共と同じで脳のリミッターが切れてんじゃないか?」


「はぁ……ま、あんなけゾンビの血をあびてりゃぁ、嫌でも感染するか。って、事は、この腐りの速さはそれが関係してるのか?」


「その点に関してはなんとも。だが、死んでもゾンビ化は決定事項です」


「――マジで?」


「マジ。さっき、一階で銃で撃ち殺された死体がゾンビ化してた」


「先に自分で頭撃って死ぬってのは駄目か?」


「多分、それは大丈夫だな。頭撃ったら動かなかったから。――だが、大矢。それは最終手段だ」


「あぁ、分かってるよ滝本。それは"全部が終わってから"だ」


「脳のリミッターが解除されてんなら、何もしなくても死ぬ」


「おう、しかも、俺の場合はゾンビ化が激しい勢いで進んでるからなぁ……」


そこで一旦口を閉じ、ポケットから煙草を取り出して火をつける。


「なぁ、大矢。特攻隊の人達も、こんな気持ちだったのか?」


「何とも言えんが……少なくとも、俺は今、おやっさんやお前の彼女達を生きさせたいと思ってるぜ?」


「俺もだよ、相棒……俺達に残された時間は少ない。その間に別の安全地帯に逃がす必要がある」


「だな。"ゾンビ"みたいに食料目当てに襲ってくる暴徒とかも出てくるかもしんねぇしな」


「幸いにも、ここから守山駐屯地までは近い。あそこは、第十師団の本拠地だ――発生から一日も経ってねぇんだ、まだ十分に可能性はある」


「そこで、俺の出番って訳か?ゾンビ化し始めてる俺をおいて置くのは危険過ぎるしな?」


「我ながら最悪の手段だよ。出来る事なら直ぐにでも拳銃自殺してぇ位だ」


「やるなよ?お前が居なくなったら、誰がここを守る?」


そういいながら、横倒しになっていたバイク――偵バイを起こし、大矢はそれに跨った。


「滝本、次ぎ合う時は――あの世、だな」


「いいや、大矢。どうせなら、もっと良い所――九段の社ってのはどうだ?」


「良いな、それ?遺体は無くとも、魂はそこにあるってか?」


「ご先祖様と肩を並べるってほどでも無いけどな?」


違いない、そう笑いながら大矢はエンジンを吹かした。


「それじゃ、行きますか……じゃぁな、戦友」


「あぁ、またな――相棒」


そのまま大矢を乗せたバイクは一気に加速し、姿を消していった。


「"未来は決まってなんかいない、運命は自分で切り開くもの"……だったよな、確か。なぁ、大矢。俺達で運命やら絶望やらをぶっ飛ばしちまおうぜ?」



Devastated City Story

episode:09 『Goodbye, My Friend!』

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