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episode:00 『Night of the Living Dead』

恥ずかしながらも、戻ってまいりました。

5月2日 午後2時25分


「ヴァァァァァァァァ……歌い疲れた。喉が痛てぇ」


GWの真っ只中、俺達はカラオケに来ていた。

――野郎二人で。しかも、朝9時から。


「まぁ、五時間位ぶっ続けで歌ってたからな。流石に腹減った」


「確かに腹減ったな。うどん屋にラーメン食べに行くか?」


「何故にうどん屋でラーメンなんだよ」


「旨いんだよ、うどん屋の中華そば」


「確かに。さて、行きますか」


うどん屋にラーメンを食べに行く事を決定し、そそくさと脱ぎ捨ててあった上着に袖を通す。


「なぁ、滝本?流石にもうスーツは暑いだろ」


「年中黒スーツとオールバックは俺のジャスティス。あ、伝票持ったか?」


「おうよ」


大矢が伝票を持った事を確認し、扉を開いて――


「ァァァァァァ!!」


「「ウォァァァァァァァァ!!!」」






Devastated City Story






「滝本っ!早く閉めろって!早くっ!」


「閉めたいのは山々だがコイツ力強ぇんだよ!」


肩で扉を押さえるが、信じられんほどに強い力で扉を押してきやがる。


「えぇい、こうなったら最終手段!」


「テーブルの上に乗って何さらす気だこの野郎!」


「ライダァァァァァァァァキィィィィィィク!!」


「ちょ、待っ、クソォ!」


テーブルの上から、ライダーキック(と言う名の全体重を込めた体当たり)を敢行してくれよった大矢を、咄嗟にしゃがみ込んで避ける。

直後、大きな音と共に扉は閉まり、大矢はその場に墜落した。


「退けぇ、大矢ぁ!」


声を張り上げ、テーブを持ち上げ、天板を縦に立てて扉を固定する。

大矢?俺諸共、ライダーキックをぶち込もうとした奴なんか知るか。





――五分後


「で、結論から言いますと」


「何か知らんが、ゾンビが大量発生した。しかも、世界規模で」


歌うのに熱中しすぎて、ゾンビに囲まれてるのに気がつかなかったって、どうよ?


「ワンセグで放送見たが、何処の局も緊急特番組んでたぜ?ネットはどうだ、滝本?」


「俺の方は駄目だ。電話もネットも繋がりやしねぇ。多分、回線がパンクしてんだろうな」


「正に映画の"ゾンビ"だな」


「"ドーン・オブ・ザ・デッド"じゃ無い事を祈る。走るゾンビなんて、悪夢以外の何物でもねぇ」


ドアはテーブルとカラオケの機器で封鎖したから、多分大丈夫だろう。


「問題はここが二階で、窓から覗くとゾンビらしき不審者が全力疾走してるって事だよな?」


「早くも死亡フラグ全開だよこん畜生。喰い物も飲み物もねぇ、しかも外はゾンビが集結中。更に言えば、俺の膀胱はメルトダウン寸前だ」


「奇遇だな、兄弟。俺の肛門も非常事態宣言を発令してるぜ……」


嫌な沈黙が続き、外からはゾンビ共の"ウー"とか"アー"とか言う定番のうめき声が微かに聞こえる。

畜生、嫌だぞ俺は。何が悲しゅうて24にもなってダチの目の前でションベン漏らさにゃならんのだ。


「こうなったら、やるしかないよなぁ、大矢?」


「おう、クソ漏らすより遥かにマシだ!……ところで、便所に逃げ込んで何とか成るのか?」


「内側から鍵がかけられるし、水も出るだろ。更に言えば、モップとか、多少は武器になる物もあんだろ。多分」


扉もここより頑丈だろうしな?

ま、脱出はより困難になりそうだが。

しかし、そんな余裕は最早残されてはいない。

一刻の猶予も無いのだ。主に、俺の膀胱が。


「覚悟は良いか、相棒?」


「おうよ!便所までは10m。全力で走れば何とか成る!」


人間としての尊厳を守る為、戦う事を覚悟した俺達はそれぞれ、武器を手に取った。


「……武器がジョッキってのが、泣けてくるな」


「滝本はまだ良いだろ、俺なんてマイクだぞ」


……ジョッキとマイクを武器に、ゾンビと戦おうとする光景って、傍から見たら凄ぇ間抜けだろうなぁ。




「ウボァァァァァ!!」


「アァァァァァァァァ!!」


「ちょ、こっち来んな!向こう行け、向こう!」


「酷ぇぞ!俺を見捨てる気か滝本!っつーか、お前は元自衛官だろうが!なんとかしろ!」


「無茶言うな!自衛官っつたって、予備自衛官補だぞ!?」


大矢と押し問答を繰り広げながら、迫り来るゾンビ軍団から全力で逃げるべく、階段を駆ける。

トイレ?ドアを出た瞬間に数十体のゾンビに迫られりゃ、諦めるほかねーだろうが!


「よっしゃ、出口には誰も居ねぇぞ!」


「OK、このまま駐車場まで突っ走れ!俺のパジェロ(ミニ)で逃げんぞ!」


「鍵あける暇なんてあんのかよ!?何でリモコンキー付いてるエブリィで来なかったんだ、この馬鹿!」


「あれは仕事用だっつってんだろこのダボ!」


ガラスの扉を押し破るかの如き勢いで開き、俺達は駐車場へと躍り出た。

が、しかし。


「……なに、この映画版"バイオ"のエンディング」


「大矢君、適切な説明をありがとう。つーか、ここまで成るのに何で気づかなかったんだ、俺達」


「電話鳴ってたのに無視して熱唱してたからじゃね?」


「いやいや、普通は店員が駆け込んで来るだろ」


「駆け込む前にゾンビに襲われたら意味無いよね――って、アホな事を言ってる場合じゃなかったぁぁぁぁぁ!!」


「ちょ、馬鹿っ!叫ぶなって――キタァァァァァァ!!」


「お前も叫んでんじゃねーか!」


「うるせぇ!とにかく、走れ!馬車馬の如く!」


「出来れば馬車の方に乗りたいんですけど――って、横からも来たぁぁぁ!!」


「安心しろ、前からも来たから」


「安心できるか滝本ぉぉぉぉぉ!!つーか、何でてめぇはそんなに冷静なんだよ!」


「冷静?冷静な訳があるかぁぁぁぁ!!この状況で冷静になれるほど過酷な人生を送ってはおらんわ!」


前後左右から迫ってくるゾンビから逃げるべく、俺達は車を乗り越え、自販機の隣にあったゴミ箱を全力で投げつけ、自転車を振り回した。


「あぁ、もう、"デッド・ライジング"みたいになってきたぞ!?」


「ゾンビがウヨウヨよって来る様は正にその通りだな、大矢ぁ!」


だが、そんな些細な抵抗も空しく、俺と大矢は隣接するゲーセンの壁へと追い詰められていった。


「あーあ、これで俺の人生は終わりかよ。ゾンビに喰われて終わりって、最悪じゃね?」


「つまり、俺達は主人公じゃなくて一般市民AとBか?」


「脇役ですらねぇのかよ」


「いや、ほら他の生存者と合流してないから主人公にも脇役にも成れそうも無いわな――なぁ、大矢。俺達、楽しかったよなぁ?」


「"フェイス・オフ"かよ……だが、確かに楽しかったな、俺達。最後の最期まで馬鹿テンションで突っ切れたしな」


「間違いない。俺一人だったら、涙と鼻水と涎と小便撒き散らしながらガタガタ振るえて終わりだ」


思わず笑みが浮かぶ。

恐らく、隣に居る大矢も笑ってるんだろうな。多分。

ゾンビ共は空気を読んだのか、走るのを止めて両腕を突き出しながらジリジリと俺達に向かってくる。


「俺もだよ、滝本――じゃ、最期に一発、派手に行きますか?」


そう言いながら、大矢は傘立てに入っていた傘を手に取り、俺は横にあった観葉植物を持ち上げた。


「特攻かけるってのに、武器が傘と観葉植物ってなんともしまらねぇなぁ……」


「なぁに、俺達にはそれ位いで丁度いいんじゃね?」


「間違いないな――じゃぁな、大矢」


「おう、あばよ、滝本」


俺は観葉植物を振りかぶり、目の前のゾンビ野郎に向かって投げつける――










ブロロロロロロロ


キキー


グチャグチャ


ドン








「……え?何、この展開。いろんなゾンビ映画見てきたけど、この展開は無かったわ」


「つーか、死んだよな、運転手。凄ぇ勢いで電柱に突っ込んだぞ?ゾンビ諸共」







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