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突発的シリーズ

夢で見た何か

作者: レイヴン

 気が付けば、私は奇妙な館にいた。


 暗く、幾何学模様のような色が渦巻く床を、私は歩き出す。


 こんな館、私は今まで歩いたこともないし、見たこともない。


 そのはずなのに、この混沌とした世界はどことなく、私がいつしか見たことがあるような光景だった。


 私の意識がぼうっとしているのにも関わらず、私の足は考えとは別に、勝手に歩いていく。


 こつり。こつり。広いのか、狭いのか、ぐにゃぐにゃした道に澄んだ私の靴の音だけが反響して、空しく私の耳に届く。


 足元だけを映していた私の瞳がふと持ち上がって、目の前には一つの扉があった。


 今度は私の腕も勝手に動いて、青みたいな、赤みたいな、紫みたいなドアノブを掴んで、かちゃりと小さな音を立ててドアが開かれた。


 進んだ先には、何も、本当になにもない部屋だった。


 家具らしいものも置いてなくて、天井にはランプや蛍光灯なんかもなくて、でも部屋が見える程度には明るくて……そんな、変な部屋。


 私が振り返ると、そこにあったはずのドアもいつの間にかなくなっていた。


 私は前に向き直る。すると、今度は何もなかったはずの壁に、一枚の絵が飾られていた。


 近付いてみると、その絵は絵ではなく、ただの真っ白なキャンパスだった。


 伸ばした指先で軽く触れても、ただざらついた表面を感じ取るだけ。


 何故こんなものがあるのかは私にはわからない。私は絵から離れる。


 扉があったはずの壁を見ると、どういう理屈かさっきの扉がまたあった。


 これでやっとこの部屋から出られる。安堵して顔を綻ばせた私は扉の下へと駆け寄った。


 ドアノブに手をかけて、回す。


 でも、その扉はがちゃりと重い音が鳴るだけで、びくともしなかった。


 ……開かない。私は何度もドアノブを回したり、押したり引いたりしてみる。だけど、それでも扉は開かない。


 どうして、と私が声を漏らした時、後ろから





 ずるり。





 音が聞こえて、私は驚いて後ろを振り返る。見渡した部屋には私以外にはなにもなく、あるといえばさっきの絵だけ……その絵を見て、私は目を見開いた。


 真っ白だったはずのキャンパスに、青色をした指が描かれている。その指は、まるで絵の額縁を掴むような、そんな形に描かれていた。


 その意味がよく理解できなくて、私はまた扉に向き直る。


 まただ。目を離した隙にまた形が変わっている。今度は扉に文字が浮かび上がっていた。


 何か、数字のようなもの。暗号のような文字列の下には、いくつかの白い枠と奇妙なボタンがあった。


 これは、この暗号を解読できたらこの部屋から出られる、というお決まりのパターンだと私は気がついた。でも、私にはこの文字達の示す答えは全くわからなかった。


 違うとは思うけど、とりあえず適当にボタンを押して、またドアノブを回す。がちゃり。やはり扉は開かなかった。





 ずるり。





 また聞こえた音に私はバッと振り返り、絵を見る。


 キャンパスの中の青い手が、今度は肘まで見えるようになっていた。その肘も、やはり指と同じで青色をしていた。


 私は、その光景からこれから起こるだろうことを想像した。想像してしまった。


 私は急いでドアノブをがちゃがちゃと捻り、ボタンをかちゃかちゃと押した。……扉は一向に開かない。


 この扉が開かなければ、私の身が危ない。何も考えられなくなって、焦って何度も手が滑ったりしながら、私は必死に扉を開けようと藻掻く。


 藻掻いているうちにも、後ろからはずるり、ずるりと音が聞こえてくる。何度目かわからない操作の後には、ついにべちゃり、と何かが落ちる音まで聞こえてきた。


 まずい。まずい。まずい。まずい。時間がない。時間が無くなっていく。扉は開かない。音は次第に近付いてくる。


 私の瞳に涙が浮かぶ。どうして。どうしてこの扉は開いてくれない。こんなにも必死に、死物狂いでお前を叩いているのに。


 私はドアノブを回すだけでなく、ついには扉自体を力一杯叩いていた。


 出して。私をここから出して。お願いだから。ここから早く出なくちゃいけないのに。ここに居てはいけないのに。


 狂ったような思いはいつしか叫びになり、部屋に反響した。





 ……ぺたり。





 私の背中に、冷たいなにかが触れた。


 ドアノブを握った手が、びくんと震える。もう、体全体が震えている。



 後ろに、大きな気配を感じる。それは、私よりも大きく、大きく……それこそ、私を飲み込んでしまいそうなくらい大きく。



 体が動かない。どう動かせばいいのかわからないし、動いたらどうなるのかもわからない。



 今度は肩に何かが置かれる。微かに見えたそれは、絵に描かれていたような、あの青い手。




 振り返ってはいけない。振り返ったら、きっと取り返しのつかないことになる。





 だけど、私の首は見えない手に掴まれたようにギリギリと回っていく。






 やめて。振り返ったらいけない。やめて。







 首だけでなく、体も回っていく。青い手から、青い腕が見えるようになる。








 見てはいけない。これを見てはいけない。絶対に目にしてはいけない。私は力を振り絞って目を瞑った。









 体の動きが止まる。目の前に、何かがいる。










 怖い。怖い。目の前のものを見るのが怖い。見たくない。そう願っても、私の瞼はゆっくりと震えながら開かれていった。












 ―――私がみたもの。それは―――



















――――――紅い


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