噂の3
<<実証のない噂>> 主演「少年様、石様」
彼岸の川に向かって少年は石を投げる。
川の水の上を跳ね飛びながら進んでいく石。
そして、石は批岸の岸辺に流れ着く。
「そっちにその人渡したよー!」
少年は叫ぶ。
「渡し人のお仕事ご苦労さん」
批岸の岸辺から返ってくる言葉。
そうここは、地獄の入り口の岸辺です。
<<楽したいと思っている人の噂>> 主演「十六夜様、皐月様」
『十六夜社長!この始末書全部読んでください♪』
皐月の声が聞こえると、目の前に始末書の書類の山が落ちてくる。
「俺に楽させるつもりはないのか!?」
十六夜社長は訴えるように叫ぶ。
悲痛の叫びにも似ていた。
頭上から皐月の声が返ってくる。
「ありません♪」
天使の囁きというよりは、悪魔の微笑みに近い声だった。
ここで、夢が覚める。
目の前に山積みにされた書類……正夢だった。
ため息と軽い願いを呟く。
「一日でもいいから、楽したいな……」
十六夜社長のただ一つのお願いの言葉。
<<少女を拾った噂>> 主演「皐月様、十六夜様」
血溜まりの夜中の路地に佇むのは幼い少女。
生きていた人間は同じ人間に殺された。
少女は言う
「どうして、動かないの?お父さんとお母さん」
今にも泣きそうな声は、路地に転がる肉塊を両親を差す言葉を伝える。
雨が小降りに降り出した。少女の表情は、雨に濡れた性で、泣いてるようにも見える。
誰かに、後ろから頭の上に手をポンッ!と置かれる。
振り返らない少女に通りすがりの男性は言います。
「これは噂だ。お前の両親はお前の小さい頃に死んだんだ。だから、これはお前の両親じゃなく、噂の塊だ」
「噂?」
「この噂は、俺がこの平凡な世の中に噂として伝える。それとも、噂にしないでおくか?」
年齢不詳の男は淡々とした口調で、少女に訊ねる。
どこか優しく、淋しさのある声で、少女に訊ねる。
少女は顔をすこしだけ左右に振る。
噂にしたほうが、楽になれる。
両親は殺されたより、死んでいたの方が良い。
男は夜空を見上げる。季節は5月の皐月だ。
「俺は今、助手が欲しかったんだ。お前の名前は今日から皐月だ」
「さつき?」
「良い名前だろ?」
「うん!」
5月の季節に、私は皐月と名前を変えた。