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石の記憶番外編 海と空 恋は紺碧の色


第2章 新しい扉

大学の入学式。

真里亞は、少し緊張しながらキャンパスを歩いていた。

周囲には、新しい友人たちと楽しそうに話す学生たち。

サークルの勧誘をする上級生。

掲示板の前で立ち止まり、大学案内を眺める学生。

何もかもが新鮮だった。

そして――少しだけ怖かった。

「……隣、いい?」

不意に声をかけられた。

振り向くと、そこには明るい笑顔の女の子が立っていた。

チョコレート色の肌に、太陽のような明るい笑顔。

真里亞は少し驚きながら頷いた。

「はい」

女の子は嬉しそうに隣へ座った。

「ありがとう。私はクリスティンよ。あなたは?」

「真里亞……真里亞です」

「真里亞ね。よろしく!」

「よろしくお願いします」

クリスティンはにっこり笑った。

それだけだった。

けれど、その何気ない一言が、真里亞には嬉しかった。

自分から誰かに声をかける勇気は、まだなかった。

だからこそ――。

「一緒に入学したんだもの。仲良くしましょう?」

「……うん」

真里亞も笑った。

それが二人の出会いだった。

数日後。

昼休み。

「真里亞、サークル見に行かない?」

「サークル?」

「そう。せっかく大学に来たんだから、何かやってみましょうよ」

「でも、私、何が向いてるか分からないわ」

「だったら、いろいろ見て回ればいいじゃない」

クリスティンに連れられて、真里亞はキャンパスの一角へやって来た。

そこには、いくつものサークルが並んでいる。

スポーツ系。

音楽系。

演劇系。

そして――。

『日本文化研究会』

「日本文化……」

真里亞が足を止めた。

すると。

「おっ!」

大きな声がした。

テーブルの向こうから、一人の青年が飛び出してくる。

「新入生!」

「は、はい?」

青年は真里亞の顔をじっと見つめた。

そして――。

「君、その顔立ち……日本人?」

真里亞が目を丸くする。

クリスティンも目を丸くする。

青年はさらに一歩近づいた。

「頼む!」

「え?」

「日本文化研究会に入ってくれ!」

「ええっ!?」

青年――日本文化研究会会長、トム・ヤマモトは、真里亞の両手をがっちり握った。

「君みたいな人材を待っていたんだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

真里亞が慌てる。

「トム! 初対面の女の子に何してるの!」

横から女性の声が飛んだ。

「リアナ、邪魔するな!」

「邪魔するわよ!」

リアナがトムの襟首を掴んだ。

「いきなり『日本人?』って聞いて、いきなり入部を迫る人がどこにいるのよ!」

「ここにいる!」

「威張るところじゃない!」

その横で、別の青年が腕を組んで頷いた。

「まあ、トムがこうなる理由は分かるけどね」

「ブライアン!」

「日本文化研究会は現在、会員数が慢性的に不足している」

ブライアンは淡々と説明する。

「特に文化行事の準備を担当できる人間が足りない。さらにトムは『日本文化を研究するなら日本人の視点も必要だ』という持論を持っている」

「だからって!」

リアナが頭を抱える。

「顔立ちだけで勧誘するな!」

「いや、でも重要だろう!」

「何がよ!」

「説得力!」

「どんな説得力よ!」

その間にも、研究会の仲間たちが集まってくる。

「会長、この人入ってくれたら大きいですよ!」

「いや、まず落ち着いて話をしよう」

「でも会長、今年まだ一人も捕まえてませんよね?」

「言うな!」

「先月も三人に逃げられましたし」

「言うなと言っている!」

真里亞は、目の前で繰り広げられる光景を呆然と見つめていた。

そして隣のクリスティンを見る。

クリスティンは――。

笑っていた。

「面白そうね」

「え?」

「このサークル」

「……そう?」

「うん」

リアナが二人に気づいた。

「あ、ごめんなさい。こんな連中だけど、悪い人たちじゃないの」

「こんな連中とは何だ!」

トムが抗議する。

「こんな連中よ!」

即答だった。

ブライアンが小さく笑う。

「まあ、否定はできないな」

「ブライアンまで!」

クリスティンは楽しそうに笑った。

「私、見学してみたい」

「本当か!?」

トムの目が輝く。

「もちろん真里亞もだよね?」

クリスティンが振り返る。

「え?」

「一緒に見学しましょうよ」

真里亞は、もう一度研究会の看板を見る。

日本文化。

歴史。

伝統。

そして――目の前の、あまりにも賑やかな人たち。

少し考えてから、真里亞は笑った。

「……うん。見学してみたい」

「やったー!」

トムが両手を上げる。

「今年の新入生第一号!」

「まだ入部してない!」

リアナのツッコミが飛ぶ。

「見学ですからね!」

「分かってる!」

「絶対分かってない顔してる!」

研究会の仲間たちが笑い出した。

真里亞も、つられて笑った。

大学に入ってから感じていた緊張が、いつの間にか消えていた。

隣には、出会ったばかりのクリスティン。

目の前には、騒がしいけれど楽しそうな日本文化研究会。

そして――。

「ようこそ、未来の研究会員!」

「だからまだ入ってないって!」

リアナの声がキャンパスに響いた。

真里亞は思った。

もしかしたら。

大学生活は、自分が思っていたよりずっと楽しいものになるのかもしれない。

こうして真里亞とクリスティンは、日本文化研究会という新しい世界へ足を踏み入れることになった。

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