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好きですと言わないための練習会シリーズ

“好き”ですと言わない練習会(過呼吸寸前)

作者: 月見酒
掲載日:2026/01/23


「……今日は、ちゃんと言います」


Aがそう言った瞬間、

場の空気が一段階、重くなった。


喫茶店の奥。

いつもの席。

逃げ道みたいな非常口が、今日はやけに遠い。


「言うって……?」


Bが眉をひそめる。


「“好きです”とは言わない。

 でも、ここまで言わないと無理だってところまでは、言う」


Cが小さく笑った。


「それ、ほぼ告白じゃん」


「違う」


Aは即座に否定した。


「違うから、練習なんだろ」


声が少し荒れている。


「……じゃあ、どうぞ」


誰かが促す。


Aは息を吸って、吐いた。

それだけで胸が痛い。


「毎日考えてる」


一言目から、もう危うかった。


「連絡来ない時間も、

 何気ない一言も、

 あの人が無意識でやってる優しさ全部」


喉が熱くなる。


「それを、

 “友達だから”って顔で受け取るのが、

 もう限界」


Bが視線を逸らした。

Cはカップを握りしめている。


「好きです、って言えば楽なんだと思う」


Aの声が、少しだけ震える。


「振られても、

 嫌われても、

 終わるから」


ここで一気に、空気が張りつめた。


「……でも」


Aは続ける。


「終わらせたくない」


誰かが、小さく舌打ちした。


「それ、ずるくない?」


Dだ。


「楽になりたいけど、

 今の関係は失いたくないって」


「分かってるよ!」


Aは思わず声を荒げた。


「分かってるから、

 こうやって……!」


言葉が詰まる。


「……練習してるんだろ!」


店内の視線が、少しこちらを向いた。


沈黙。


Bが、ぽつりと言う。


「私さ、前に言った」


全員がそちらを見る。


「結果、終わったよ。

 関係も、期待も、全部」


Bは淡々としているのに、

言葉だけが刺さる。


「でもね」


Bは続けた。


「後悔はしてない。

 しんどいけど、

 言わなかった自分よりは、マシ」


その瞬間、

Aの胸の奥で、何かが崩れた。


「……それ、卑怯だ」


思わず漏れた。


「言えた人の言葉じゃん」


Bが、少しだけ目を見開く。


「言えない側は、

 毎日、未遂なんだよ」


声が、完全に感情に引っ張られている。


「言わなかった日を、

 自分で正当化し続けるんだよ」


Cが、耐えきれず口を挟む。


「じゃあさ、

 もう言えばいいじゃん」


その一言で、

Aの視界が一瞬、白くなった。


「言ったら……」


Aは立ち上がりかけて、

ぎりぎりで踏みとどまった。


「言ったら、

 この場所に来る理由も、

 ここにいる意味も、

 全部なくなるだろ!」


声が大きすぎた。


店員がこちらを見た。

Aは慌てて座り直す。


「……ごめん」


誰も、すぐには何も言わなかった。


しばらくして、

Dが疲れたように言う。


「これ、

 言わない練習会じゃなくてさ」


全員が顔を上げる。


「言えない自分を、

 延命してるだけじゃない?」


誰も反論できなかった。


コーヒーは、もうぬるい。


Aはカップを見つめながら、思う。


今日ここで言わなかったことは、

本当に正解だったのか。


それとも、

また一日、

自分を先延ばしにしただけなのか。


「……次も、来ます」


Aはそう言って、立ち上がった。


それが宣言なのか、

逃げなのか、

自分でも分からないまま。


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