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ふたりのフツウ  作者:


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2/7

第1話 お久しぶりです

 久我湊は行雲高校一年一組の生徒になった。

その証明として紺のブレザーに赤のネクタイ、グレーのズボンに身を包んでいる。


 昨日は入学式で一日が終わり、今日は午前中に担任の意向でクラスメイトとの懇親会があった。午後には体育館で部活紹介が行われ、その後は教室に戻って部活体験の説明を聞いた。


 そして今、湊はようやく自由の身になったところだ。


「よーやく先輩と同じ高校になれた。長かった…でも、これからだ。これからがスタートラインなんだ!」


 廊下の隅でボソボソと独り言を呟く湊。

道行く生徒たち自身を「変な人を見る」冷ややかな視線を向けていることなど、まったく気にしてはいない。


 湊は既に達成感に満たされ、心は浮き立っている。


 湊は部活動紹介の時間を終え、これから体験入部の時間へと向かう。目指す場所はもう決まっている。


 あの人がいる場所だ。


「和室……どこだ?」


 部活動パンフレットに掲載されている校内図を広げて見るが、簡易的すぎて逆にわかりづらい。2階の隅の方にあることはなんとなく理解できるのだが、具体的な方向がつかめない。


 まだ入学したばかりで校舎の構造に慣れていない湊には、この程度の地図では心許ない。


 いっそ誰かに聞くかとキョロキョロと辺りを見回していると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「そこの迷える子羊よ、茶道部へ。茶道部へ来るのです」


 おっとりとした、まるで本物の神父のような優しい語り口。その声に全身が反応する。


 心臓が大きく跳ねた。バッと振り向くと、


予想通り——


 和哉先輩が「茶道部はこちら→」とデカデカと赤い字で書かれたプラカードを首にぶら下げて立っていた。


 学ランや袴姿もよかったが、ブレザーの先輩もやはり魅力的だ。紺のブレザーに赤のネクタイがよく映える。自分と同じ制服のはずなのに、先輩が着ると別次元の格好良さに見える。不思議なものだ。


「久しぶりだね、湊。行雲高校にしたんだね」


「綿貫先輩! 3年ぶりです!」


(向こうから話しかけてくれた。嬉しい。嬉しすぎる! 和哉先輩だ!)


 その 相変わらずおっとりした喋り方で、その柔らかな雰囲気が俺の心を溶かしていく。

彼の声には何処か人を癒す暖かさがあるのだ。


「先輩は何してるんですか?」


 湊は心の中で暴れる興奮を必死に押し殺し、できるだけささやかな笑顔を心掛けて、先輩の首から下げられているプラカードに目をやりながら尋ねた。


 あまり感情を表に出しすぎると、重いと思われるかもしれない。


「僕は部室への誘導係だよ。副部長と後輩に『あなた、デカいんだから目立つでしょ』って言われちゃってねー」


「一応部長なんだけどなー」と頭を掻きながら、少し不服そうな表情を浮かべる先輩。その仕草さえも愛らしい。


 羨ましい。身長もそうだが、何より先輩とそんな気兼ねなく話せる副部長と後輩とやらが湊には心底羨ましい。どんな人物であろうか。まさかライバル出現か?


 ちなみに余談だが、湊は中学時代から6センチほどしか伸びていない。159センチが165センチになっただけだ。それに対して先輩は、中学の時点ですでに175センチはあった。今はもっとあるだろう。見上げる角度が、あの頃よりさらに急になっている気がする。


(なんだこの差は! 俺の成長期、どこいった!)


 もっと先輩との身長差を縮めなければ。

放課後、牛乳を買いに行こう。

いや、物理的な距離じゃなくて、心の距離を縮めるべきか。


「俺! 手伝います!」


 思わず元気よく挙手をし、子供ように勢いよく宣言してしまった。


「え! 大丈夫だよ。それより部室行きな?」


「いえ! それより、先輩と話しておきたいです。それに、どっち道紹介が始まるまでには和室に行くんですよね?」


 少し強引だったかもしれないが、せっかく再会できたのだ。この機会を逃すわけにはいかない。3年間、この瞬間を待ち続けてきたのだから。


「まあ、そうだね。じゃあちょっと手伝ってもらおうかな?」


「はい!」


 先輩の承諾を得て、俺の心は喜びで満たされる。


 やった。これで少しでも長く、先輩と一緒にいられる。この時間を大切にしなければ。


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