第9話
side : エラル
どうやら私は家族に嫌われているようだ。今まではただ会話がないだけで、それなりに仲良くやっていると思っていたが、最近になって家族が露骨に私を避けている気がする。
前世のようにあからさまに悪口を言われたり虐待されたりするわけではないが、今の家族にされるくらいなら、むしろその方がマシなんじゃないかと思ってしまうほどだ。
典型的な例を挙げると、最近では食事を食堂で一緒にとることはなくなり、毎食部屋に届けられて一人で食べるようにと言われている。朝や夜に挨拶しに行こうとすると、来なくていいと言われる。
弟たちも同じで、特に母上が弟たちと私が会わないようにしているのが私の目から見ても分かるほどだ。いくらなんでも、弟たちの部屋の前に護衛兵まで配置するのはやりすぎだと思う。
私は別に裏切り者でもないのに。正直これくらいなら少し寂しくても何とか耐えられると思っていたが、最近では外に出て気分転換しようとするたびに、皇宮の警備隊全員が総出動して私を止めに来る。
私が外に出ると混乱を招く、などというとんでもない理由を持ち出してまで、だ。外に出ればここ数年で親しくなった人たちと話すことで寂しさを紛らわせたのに、それすらできなくなった。
そのため、最近では必然的に部屋の中でしか生活できなくなってしまった。ここまでされては、気まずさに負けて食堂や弟たちに会いに行くこともできない。
本を読んだり、豪華な部屋で暮らすのも悪くはないが、それも一日二日ならともかく、毎日この生活が続くと気が変になりそうだ。あまりにも退屈すぎて、皇宮で働くメイドや執事に一言二言話しかけることが、人生の楽しみになってしまうほどだ。
それすらも、仕事の邪魔になるかと思って頻繁にはできなかったが。うーん。いっそのこと誰かが襲いかかってくるなら、素直に殺されてあげてもいいと思うくらいには平気だけど、前世の経験は私にとってかなり辛い記憶なので、もう一度同じことを経験するのはさすがに遠慮したい。
単に悪口を言われたり殴られたりすることではなく、すでに家族の温かさを知ってしまった今、彼らに無視されるのは前世よりももっと辛い。
「好き」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」だと初めて聞いたときは変な言葉だと思ったが、今ではその言葉の意味がはっきりとわかる気がする。その言葉を最初に言った人も、きっと私と同じような経験をしたのだろう。
「だから、最近そんな悩みをしていてさ。うちの家族の性格上、理由もなく人を仲間外れにするような人たちじゃないから、やっぱり私のどこかが間違っているか、何か過ちを犯したからこんなことになったんだと思うんだ。もし何か思い当たることがあれば、教えてくれるとありがたいんだけど。」
私の話をずっと呆れた表情を隠せずに聞いていたエリーゼは、話が終わるとまずため息をついた。まあ、一国の皇子がこんな情けない悩みをしているのだから、呆れるのも無理はない。でも、私にとっては世界で一番重要な問題なんだ。
「うーん……そうですね、とりあえず思い当たることはないですね。」
「そんなこと言わずに。何でもいいから短所みたいなものを言ってくれないかな。この瞬間だけは身分とか気にせず、気楽に話してくれていいから。」
「急に言われてもですね……強いて言えば、空気が読めないところ、ですか?」
「うーん、それは衝撃だな。これでも空気を読むことにかけては誰にも負けない自信があったんだけど。」
「まずその認識から改めた方がいいと思いますよ。」
エリーゼは再びため息をつきながら言った。少し前のパーティーで仲良くなったエリーゼは、私に対しては絶対にため口を使うよう強要してくるくせに、自分は敬語以外の話し方を絶対にしない。前世も現世も通じて初めてできた友達だから、もっと気楽に話してくれたら嬉しいのに。
「ところで、人形はちゃんと置いてきたんですか?この前みたいにこっそり出てきちゃダメですよ。」
「ああ、うん。ちゃんと置いてきたよ。あれ、見るたびに不思議なんだけど、あまりにも自分とそっくりで不気味なくらいだよね。」
前に一度こっそり出てきたせいで、皇宮が一度ひっくり返ったことがあって、それ以来はエリーゼが用意してくれた、私とそっくりな人形を置いて出てくるようにしている。
その人形は、よく観察しなければ本物の人間と区別がつかないほど精巧に動くもので、外見も本物とまったく同じで、簡単な動作もできるものだ。
熟練者が作るほど人形は本物に近づいていくと聞いたことはあるが、私としてはあれくらいでもう十分に驚いたので、わざわざそれ以上の人形は見たくない。それにしても、ただ外に出ただけで大騒ぎとは。もう私は爆弾扱いか。
「贅沢な悩みだとは分かっているけど、正直なところ、私も人間だから、だんだん不満がたまってきて、最初の気持ちを忘れてしまいそうで怖いんだ。」
「辛くて寂しい時は、いつでも私のところに来てください。他の皇族の方々とは違って、私は絶対に皇子様を冷たく扱ったり無視したりしません。ただし、私と会うことは絶対に秘密にしてくださいね。」
「うん。そのくらいは分かってる。いつもありがとう、エリーゼ。」
未婚の娘が外の男性と会っていることが知られたら、とても迷惑をかけることになるから、エリーゼと会ったり話したりすることは誰にも話していない。唯一の友達を失いたくないし。
「光栄なお言葉です。それより、エラル様。どうしても寂しいなら、私と一緒に北亜共和国に留学してみませんか?人と交流したいなら、人が多いところへ行くべきです。あそこへ行けば、きっとたくさん友達ができますよ。」
「北亜共和国に留学?俺の立場でそんなこと可能なのかな?それに、帝国学校にも通ったことないし。」
「まったく関係ありません。それに、皇子様が留学するのは両国の外交のためにも良いことではありませんか?何より、新しい環境で新しい人たちと出会うのはワクワクしませんか?」
「新しい人たちか……うーん……」
「それとも、いっそ一緒に亡命でもしちゃいます?」
「いや、それは無理だ。いくらなんでも、それはエリーゼにあまりにも迷惑だ。」
「……あ、あはは。ごめんなさい、エラル様。ちょっと冗談が過ぎましたね。」
「でも、留学か……かなり魅力的な提案だけど、費用とか色々必要なんじゃない?」
エリーゼは私の言葉を聞いてじっと私を見つめ、口を開いた。
「正直におっしゃってください、皇子様。本当は、行くと言ったら家族がすんなり送り出すんじゃないかと怖いんでしょう?」
「……君には嘘つけないな。」
「皇子様がお金を持ってないなんて、ありえませんよ。」
「一応、皇子だからそれなりにはあるけど……」
「いえ、そのことじゃなくて……いえ、いいです。」
「? いずれにしても、エリーゼの言う通りだ。俺、家族があっさり送り出してくれそうな気がして、それが怖いんだ。」
いつかは消えるか、死ぬべき存在だとは分かっているけど、私も人間だから、今のような状況でもなるべくなら家族と離れたくない。
「心配しなくても、たぶん最初は皇室の皆さん、きっと皇子様を引き止めますよ。」
「……本当にそうかな?」
「残念ながら、皇子様が期待している理由ではないと思いますけどね。」
「……それはそうだろうな。」
常識的に考えても、戦争が終わったばかりの国の皇子が外国に出るのは、色々と見栄えも良くないし、もし私が外で何か過ちを犯したら、それはそのまま外交問題になってしまうから、皇室としては無用なリスクは取りたくないはずだ。ましてや、私のような落ちこぼれならなおさらだ。
「でも、利点もあるのは確かですから、皇子様が強く主張すれば、きっと送り出してくれますよ。皇子様だって、いつまでもこのままじゃいられませんよね?男なら広い世界を一度は経験し、様々な人々と交流を積むべきです。」
正直、少し心が動いた提案だった。一度言うだけでも言ってみようか。エリーゼと一緒に行けるなら、新しい人たちと仲良くなれなくても、今のような寂しさは少しは和らぐ気がする。それに、さっきは否定したけど、亡命というのもかなり興味をそそる話だった。いつ死んでもいいと思いながら生きてきたけど、人の心とは本当に移ろいやすいものだ。
あれほど欲しかった家族ができて、それさえあれば他はどうでもいいと思っていたのに、実際に人の温もりを知ってしまうと、それを手放したくなくなって、愛する家族にいつか殺されると考えるたびに、胸が引き裂かれるような痛みを感じる。
分かってはいたけど、私は本当に芯がなくて欲張りな人間だ。どうしようもない奴だ。だから、いっそ逃げてしまおうかという考えが最近よく浮かぶようになっている。
どうせ結果としては私さえ消えればいいのだから、死ぬか失踪するかは関係ないし、家族の手で殺されずに済むなら、弟たちの手を血で汚さずに済むなら、それはお互いにとって良い提案なのではないかと思う。
「とにかく、エリーゼの言いたいことは分かった。明日の朝、一度お伺いして話してみるよ。」
「はい!必ずですよ、エラル様。そして、陛下と皇后様がどうお答えになったかも、私に教えてくださいね。」
「分かった。」
私は翌朝、食堂に行き、食事中の父上と母上に、北亜共和国に留学に行ってもいいかとお伺いしたが、こっぴどく叱られた。特に父上は食べていたものを吐き出すほど、気分を害されたようだった。
少しでも柔らかい雰囲気で話したくて、朝に訪ねたのに、食事中に余計な邪魔をしてしまった。申し訳ないことをしてしまった。ともかく来たからには、一応話すだけでもと思って、エリーゼが用意してくれた留学の理由を一生懸命説明したが、二人とも私の言う理由には特に関心を示さず、父上は「本当の理由は何だ?」と聞いてきた。
しかし、寂しくて留学に行きたいなんて口が裂けても言えず、もごもごするしかなかった。当然その態度は父上と母上の怒りをさらに煽る結果となった。叱られる覚悟をしていたその時、食堂の扉が開き、秘書官が慌てて入ってきた。
「へ、陛下!急ぎご覧いただくべき書簡が届きましたので、無礼を承知で拝謁をお願い申し上げます!」
「構わん。何事か言ってみよ。何がそんなに慌てているのだ?」
た、助かった……。心の中で安堵のため息をつきながら、感謝の気持ちで秘書官を見つめた。
「そ、それが北亜共和国から届いた書簡でして……」
「北亜共和国だと?この時期に、なぜ突然?」
「直接ご覧になった方がよろしいかと。」
秘書官が差し出した手紙を読んだ父上の顔も、困惑で歪んだ。
「……北亜共和国の首相、グラフニス・リ・ファイの娘が我が東亜帝国に留学したいと?突然、これはどういうことだ?……いや、待て。エラルよ、もしかして……?」
不思議そうな顔で私を見る父上だったが、私としても予想外のことで、特に返答することはできなかった。
「なるほど……先を越されたというわけか。」
確かに。私が留学に行く可能性は低かったとはいえ、北亜共和国の首相の娘がこちらに来ることになれば、それを迎える皇子である私が北亜共和国へ行くのは、今の時代から見てかなりおかしくなる。前世のように交換留学制度があるわけでもないし。
「ふむ。先を越されたとはいえ、考えてみれば悪い話ではないな。しかし、優位に立つのはもう難しくなったな。すまぬ、エラルよ。情けない父を許してくれ。」
「私が許すなど、とんでもないことです。むしろ、確信が持てずに遅れて申し上げたことが申し訳ない限りです。」
実は留学の話は昨日エリーゼから聞いたばかりで、私としてはできるだけ早くお話ししたつもりだったが、父上があそこまで言うなら否定はできなかった。
「いや、何事も慎重に対処するのは良い心構えだ。とにかく、秘書官はすぐに北亜共和国に歓迎の意を込めた返信を送るようにせよ。」
「はっ、陛下!」
「そして、エラルよ。エピオンとティラミスはまだ幼いゆえ、グラフニスの娘に対応できるのはお前しかおらぬ。悪いが、頼んだぞ。」
本来なら次期皇帝であるエピオンが他国の重要な来賓をもてなすべきだが、まだ幼いため、仕方なく私に頼まれるのだろう。父上の表情からも、その苦悩が読み取れた。父上には信用されていないかもしれないが、私は全力で対応する所存です。
「そして、もし留学してくるとしたら、きっと東亜帝国学校に通うことになるだろうから、悪いがそこに入学してもらえないか?」
「私の年齢で入れるでしょうか?」
「もちろん問題ない。わが国の帝国学校は、年齢や身分、特技に応じて学年やクラスが編成されているからな。今回やってくる北亜共和国の首相の子女も、お前と同じくらいの年齢だと聞いている。だから、お前には彼女のこちらでの生活の案内役を兼ねた監視役をお願いしたいのだ。」
学校に通えるなんて、思いもよらぬところからチャンスが舞い込んできた。どうせ留学したかった理由も、他の人とのつながりを作りたかったからで、家族と遠く離れずに済んだ今の方が、むしろ良い結果だと言えるだろう。
学校に行けば、少なくとも一人か二人くらいは友達ができるかもしれない。すでに楽しみになってきた。北亜共和国の首相の子女には、感謝を伝えたいくらいだ。来たらよくしてあげないと。エリーゼを紹介するのも良いアイデアだ。同年代の女性たちだから、きっとすぐに仲良くなれるはずだ。
「そういうことだから、彼女が到着したらエリーゼを紹介したいんだけど。いいかな?」
「……はい、本当に嬉しいです。」
? 全然嬉しそうじゃないけど。どうしてだ? 新しい友達ができるかもしれないのに、嬉しくないのかな?
数日後、北亜共和国から再び返信が届き、準備を整えて一か月後に派遣されるとのことだった。