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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第五十一話 オタクの話はいやに長い


 すったもんだ、と言うには些か内容の薄い一幕を経て、無事パーティーに合流できたのだが、話を聞くと酷いこと酷い事。

 まさかガズル一人に、パーティーの過半数が討ち取られるとは、想定以上の被害である。


 とは言えど、どうやら向こうはそうまでは思ってもいない様子で、無事全滅は免れたと口々に言葉を交わしていた。


「正直なところ、自分あんまりガズルさんの事は知らないんですよね。……どんな方なんですか?」


 故にこうして聞いてみたのは、ある種当然の話の流れなのだが、そこからは出るわ出るわ、幾つも飛び出る武勇伝の数々。


 曰く、単身ワイバーンを討伐しただの、砦攻めで一人で城門を打ち破っただのと言う、眉唾物の話もあれば。

 現在確認されている中で、最大規模のプレイヤーズクランを束ねる頭領だとか、或いは配信ランキングでは常に五指に入る人気配信者だとか言う、比較的想像しやすい部類のものまで。


 それは武勇伝と言うに相応しい華々しき活躍の数々で、そんな御仁がどうして自分なんかにご執心だったのか。理解に苦しむとはまさにこの事だ。


「まあ、お前からしてみれば、そんな奴がなんで自分なんかにと思っているんだろうが。あの男、青田買いも嗜好の一部らしくてな。お前みたいな将来有望な奴は片っ端から勧誘して回っているらしいぞ」


 それはまた、随分とはた迷惑な物ではないか。

 自分のように、静かにさせていて欲しい輩もいるであろうに。

 とは言えそれ自体は分からぬでもない事柄故、あまり強く批判も出来ないが。


「それはそれは、光栄です?とでも返せばいいんでしょうかね?」

「まあ、それで良いんじゃないか。……どうやらお前は、向こうに付く気はないらしいしな」


 短い会話しか聞いてはいなかったろうに、それでコチラの内心を察することが出来るのだから、やはりジャンク殿は相応に人の上に立てる器をしていると言えるだろう。


 まあ、流石にガズルと比べてしまえば劣る部分も目に付くが。


「結局のところ、どうやってあの怪物を討ち取ったのだ?……こう言っては何だが、剣士殿一人で相手に出来る程、アヤツは容易い相手ではあるまい」


 そんな話をしていると、横合いからモーラス君が口を挟んで来た。

 魔術魔法に関しては、そこらのオタク顔負けのマシンガントークを披露する彼だが、それ以外の分野にはあまり興味は無いと思っていたのだが、どういった風の吹きまわしか。とは言え聞かれたのなら答える方がコチラにも()か。


「それは勿論、モーラス君の最期の呪文の効果ですよ。あれがあったから、何とかなったと言っても過言ではありませんとも」

「世辞はいい。いや、無論役に立たなかったとは思っていないが、だからと言って、あれが決定打になる類いの呪文で無い事は自分でよく判っている。……聞きたいのは、アスラ殿がどのようにして魔法、否、呪文を行使しているのかだ」


 ちらりと覗いたモーラス君の横顔は、少年特有のあどけなさと共に、何処か大人らしい精悍な顔付きとなっていた。

 そこには言葉尻の尊大さの欠片も無く、ただ真摯に自らの技量を、見識を高めたいとの意思しか宿ってはいない。


「アスラ殿は良く魔法の事を『呪文』と呼称しているな?それに加え、『MP』の事も『魔力』と呼んでいる」


 腕を組み、正面からコチラの眼を見据えるその姿は、いつかどこかで見た様な仕草。いつの世であれど、一つきりを追い求める探究者とはこうも似通う物なのだろうか。


「それらの区別、余人から見ればただの凝り性か、はたまた青臭さの発露かと捉えられても仕方がないが、我の目は誤魔化せんぞ」


 真っ直ぐに見詰める瞳の中、憮然とした面持ちの自分の表情が映り込んでいるのが良く見える。


「アスラ殿が何気なく区別しているその二つの要素。そこに貴殿の強さ、その重要な秘密が隠されていると見た」


 こうも真剣に語られたのだ。ある種の断定を含んだその言葉に、出来れば答えたい気持ちは有るのだが、今はコチラにもそうもいかない理由がある。


「出来れば答えて差し上げたいのですが、ここは往来ですし、何処かゆっくりと食事でも出来る場所に行ってからにしませんか?」


 別段ジロジロと睨まれていると云う訳でも無いが、それでも合流して暫く動かぬコチラに、周囲からは訝し気な視線が突き刺さっている。

 次いで言えばここは死に戻って始めに戻ってくる場所故に、往来を行き交う人影はその殆どがプレイヤーであり、コチラとしては極少数ならまだしも、あまり大規模に情報漏洩はしたくないのだ。


 それは流石に時期尚早にも程がある。


「ま、そうだな。おんぶに抱っこだったが、勝利したことに違いは無いんだ。そこらの店で、祝勝会でも開こうや」


 周囲を見回しながらの自分のその言葉に、ジャンク殿も同調するように視線を巡らせながらそう答えた。

 幸いここら一帯は、プレイヤーが利用する事前提の区画らしく、住宅はこれっぽっちも見ないくせに、やたらと飲食店や宿屋ばかりが豊富であった。


 コチラの認識としては余計な一幕を挟んではいるが、他の面々からしてみれば激戦の直後だ。

 人心地付いた身体が休息を欲するように、心の方も休ませる必要があるだろう。


 そんなこんなで手近な店を見繕い、小ぢんまりとしたものではあるが、我等は急遽祝勝会を開いたのであった。

 


「それで、どうなのだアスラ殿。……我の見立てとしては、固有魔法に紐付けた一種の制約、いわゆる『縛り』と言われる物と見たが」

「早すぎませんか?料理が来るのを待ってからでも遅くは無いと思いますよ?」


 そうして店内に入って席に座ると、開口一番モーラス君がコチラ目掛けて問いかけてくる。

 せめて料理くらいは頼ませてはくれない物か、或いは飲み物一杯程度で構わないのだが。


 等と言い募りたくとも、真正面で瞳を爛々と輝かせたモーラス君の姿を見ては、言葉を重ねるのも躊躇してしまう。


「仕方ありませんね、取り敢えずお茶を一杯お願いします」


 後の料理は好きなように、と言葉を継いだのは自分だが、まさか奢りと勘違いしていないだろうな。

 豪勢に頼んだその料理、ちゃんと自分たちで支払うんだろうな。


 胡乱な視線を向けるコチラにも気付かずに、ワイワイ騒ぐ隣の三人。それに構わず、対面のモーラス君はずっとコチラを見詰めていた。


「まず第一に、『MP(エムピー)』って何の略語でしょうか」


 出来れば飲み物でも飲んで、一息吐いてから話を始めたかったのだが、そうもせがまれては仕方がない。少し早いが話を始める事としようか。


「ふむ。……一般的には『マジックポイント』や『マジックパワー』と言った物か。作品によっては『メンタルポイント』とルビを振っている物もあるな」


 少し視線を逸らしながら考え、その果てにモーラス君が語ったのは一般的なMPの概念。


「ええ、そうですね。……で、それらの語句に、『魔力』と言う単語は直接的に結びつく物でしょうか?」


 詰まる所は、創作物の話だ。

 

「辞書などの一般的な概念として、魔力とは『人を惑わす怪しい力』として認識されていますね。それがメンタルだのマジックだのに、どのようにして繋がったのでしょうか」


 故に、モーラス君は自分の問い掛けに対して言葉が詰まる。

 元々この世界にあるMPの概念は、魔力の概念と繋がってはいなかったのだから当然だ。それが何時から同一視されるようになったかは定かでないが、始めに混同した者は随分と不勉強だったのだろう。


「まあ、これは主題では無いので今日は置いておきます。大事なのは、自分がどうしてそれらの語句を使い分けているか、ですよね」


「前提として、この世界には『魔力』と呼ばれる力が満ちています。これは何故かと言うと、この世界では『エーテル』が観測できるからです」


「『エーテル』とは、言ってしまえば概念の根源、とでも言うべき物でしょうか?ありとあらゆる物質、それらを構成する要素を極限まで削り落としていったその果てに残る、世界の成り立ちや根幹にかかわる何種類かの要素、それが『エーテル』です」


「主に『赤』『緑』『黒』『白』『金』の五つの色で表され、それぞれ『動物的特質』『植物的特質』『鉱物的特質』『精神的特質』そして最後に『エネルギー的特質』と言う物を表しているのです」


「どのような物質も、突き詰めればこれらの要素から成り立っており、これらの要素抜きには成立しえないのです」


「とは言え、エーテルは普段目に見えません。さらに言えば感じる事も触れることも出来ません。それは何故かと言えば、エーテルはあくまでも『情報』であって、エネルギーそのものでは無いからです。付け加えて言うならば、エーテルあくまでも物質を構成する原基であって、物質そのものとは到底言えないからでもありますね」


「ですが、自分たちは普段様々な物に触れて生活していますよね?それを可能としているのが『オド』と呼ばれる物で、これは言ってしまえば情報を内包した物質的概念となります。これらオドは様々な情報を内包し、それをエーテルに与える事で物質としての体裁を整えている訳です」


「それらオドから情報を抜き取る、或いは不要な情報を内包する前の真っ新な状態のオドを、一般的には『マナ』と呼称している訳です」


「『エーテル』『オド』そして『マナ』、これらは世界を形作るに当たって必要不可欠な要素ですが、これら単体では物質は成り立ちません。これらの要素を組み合わせる為に必要なエネルギー、それこそが『魔力』と云う訳です」


「因みに魔力とは、言ってしまえば原子に対する電子のような存在であり、マナやオド、ひいてはエーテルにも内包されている要素ですね。これらを結びつける役割を果たすのが魔力、正確には魔素と呼ばれる要素であり、魔力とは魔素による結合や反応、仕事量を含めた包括的な名称という事になりますね」


「普段僕らも区別はしてませんが、電力と言ってもその内実は多岐に亘ります。ですが、誰もその電気が何を基に作られたのか、どのように運ばれ、どのように使われているのか。そんな事は気にしていないのと同じように、魔力も正確には様々な分類が出来ますが、そんな面倒な事はしなくてもエネルギーとして利用できるわけです」


 気付くと手元にお茶のグラスが届いて居たので、一呼吸置くためにも一口呷る。

 見ればテーブルは静まり返り、一同の視線はコチラに釘付けとなっていた。


「では、何故『魔力』と『MP』を区別しているのか、について話しましょうか」


 そこで言葉を区切り、一度周囲を改めて見回す。

 魔眼も併用してのその一瞥に、周囲で反応する者はない。

 盗聴の類いはこれなら心配せずとも問題ないか。


「この『ゲーム』における『MP』の立場は、システム的に設定された『リソース源』の一つとなります」


「魔法や魔術に関係する分、多数の要素を内包して成り立っていますが。あくまでシステム上の制約を受ける物であり、その内実は単なる数値上のデータに他なりません。言ってしまえば、ゲームとしての都合を優先した、プレイヤーにとって都合の良い概念、と言うことになります」


「それこそ、先ほど話にも出た電力と家電の関係に近い物でしょう。中の仕組みを知らずとも、操作の方法さえ解っていれば十分使える。最悪操作方法が解らずとも、何となくの直感で弄繰り回せば何かしらの結果が出る。そう言った代物と云う訳ですね」


 ここで言葉を再度区切る。意味有り気に視線を送れば、それに気付いたモーラス君は、我が意を得たりと頷きながら口を開く。


「つまり、スキルに含まれる詠唱が『ボタン』や『リモコン』の役割で、それに応じてシステムが勝手に内部で処理した情報の結果だけを取り出して見せた物が、我等が使っている『魔法』と云う訳だな。……確かに、こうして説明されてしまえば、納得のいく代物ではあるし、何より区別しない訳にも行かぬ情報だ」


 得心がいったのか、頻りに頷きながら話すモーラス君。隣ではシャティちゃんも深く頷き、手元のメモに一生懸命書き込んでいた。

 それに対し大人二人は疑問符を浮かべた様な顔で、何やら囁き合っているようだが、何か判らぬ事でもあったのだろうか。これでは追加の講義が必要かもしれぬ。


「だからこそ気になるな。『魔法』と『呪文』、()()違う?」


 じろり、と睨め付けるような鋭い視線を送ってくるモーラス君。

 その言葉は疑問符こそ付いているが、凡その推測は成り立っているからこその問いかけだろう。


「そうですね、……料理も冷めてしまいますし、一旦食事をしてから話の続きと行きませんか?」


 しかし、流石に出来立てほやほやの料理を置いてまで、議論に華を咲かせるのはどうかと思うのだ。

 ここは一旦間をおいて、話の続きはまた後にしよう。


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