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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第四十六話 厄介な仕様と厄介なプレイヤー


 イベント内での迷宮探索行の二日目。

 道中仲間と逸れた冒険者を拾い上げ、ボスを順調に薙ぎ倒したその先で、何とも厄介無そうな敵性プレイヤーと接触してしまった訳であるが、それに対するコチラ側の反応はと言えば。


「チッ、随分と面倒な相手に好かれているな、アスラ」


 渋面を浮かべ、苦々しい口調を隠しもせぬジャンク殿を筆頭とした、視線に射竦められながらも未だ戦意を滾らせている側と。


「む、むむぅ。勝機は在るのか?今すぐ降参とかしたら逃げられるか?」


 大分腰の引けている発言をしているモーラス君のような、明らかな実力差から逃げ腰になっている側とに分かれていた。


 とは言えそれも比率的には2:4の割合であり、ハッキリ言ってここで戦おうとしているのは自分とジャンク殿だけなのだが。


「ふうむ、格下を甚振るのは趣味では無くてな。お前たちには一つ有益な情報をやろう」


 そんなコチラの姿勢を察した『ガズル』が、まるで取引とでも言うかの様に優しく声を掛けてくる。

 これから敵対しようと言う間柄とも思えぬそれは、而して敵対を決定的な物にするだけの情報だった。


「今回のイベント、地図を埋めることでもポイントを稼げるが、他陣営のプレイヤーを倒す事で更に多くのポイントを稼げるのだ」


「背を向けても構わぬが、ただの利敵行為にしかならぬ。とだけは言わせて貰おうか」


 堂々と、その手に握る大剣の切っ先を向けながら、穏やかな顔をして話す内容は実に物騒な代物で、そのギャップに頭がこんがらがりそうになる。

 


 尤も言っている内容は実に簡単、ただこの場で戦え、と言うだけの事なのだが。

 


「覚悟決めろ、お前ら。ここでこいつを仕留められれば、その分こっちのポイントが凄まじい事になるだろうよ」

【今から合図するから、全員で後ろの通路に突っ込むぞ。後方は俺とアスラで押し留めるから、前衛はラコステ、お前に任せる】


 ジャンク殿が先程話した内容を、一部改竄しながらパーティー全体へと通達する。

 流石にここで一人殿やりますでは、無用な混乱を与える可能性もあるので仕方がないが、その話しぶりだと後々コチラに問題が生じる可能性も否めないのだが。

 まあそれこそ仕方の無い事か。

 

「ついでに言えば、ここで足止めできないと、他からポイントを根こそぎ奪い取って行きかねませんね。グループの勝利の為にも、ここが踏ん張り所です」

「そうは言っても、相手は『火竜の鉤爪』だぞ?あのトップオブトップを相手に、お前勝ち目があるって言うのかよ?」


 ラコステさんは随分と弱腰な様子であるが、そんなにも凄い物なのだろうか。火竜のナントカとやらは。


「相手も人ですよ。勝ち筋なんて、その気になれば幾らでも用意できるでしょう?」


 まあ、タイマン張れれば勝てないとまでは言わないが、いい勝負は出来る筈だ。

 無論向こうも周りに仲間がいるから、その前提自体成立しないのは言わぬが花だが。


 そんなやり取りをしていたからか、向こうの方にも動きが見える。


「足止め、足止めか。……甘く見られた物だな」


 ゆるりと構えた大剣の切っ先を下げ、コチラへと透徹とした眼差しを向けるガズル。

 立っている場所は変わらぬはずだが、背丈の違いか、それは酷く上から見下されているようにも感じられる視線であった。


「一つ言っておく。俺のイマジア(固有魔法)はその名を『絆の力(フレンドリスト)』と言ってな。効果は単純、フレンドになった相手が成長した時、その内の一部を俺自身にも適用できるって代物でな」


「分かるか?お前らが頼りにしているそこの男、そいつの力が俺にも同じように流れているんだ」


「容易く逃げられるとは思うなよ」


 ゆっくりと、殊更に重量を感じさせる動作で以って、再度大剣の切っ先を掲げたガズル。

 右手に鉤爪の如き大剣を、左手には紋章を刻み込んだ方楯を、そして全身に鎧を纏ったその様は正に中世の騎士その物で。その身に纏う威圧感は、今まで戦ってきた歴戦の戦士たちにも劣らぬ威容。


 手の内を開示したのは、コチラに向けての威圧の一環なのだろうが、悔しい事にそれは確かに効果的だ。

 少なからず、今のパーティーの動きが自分を軸にしている事は、今であれば理解している。


 説明からして凄まじい能力に思えるが、そんな物効果量にしたら微々たる物。実態は取得経験値の1%未満程度が不労所得で手に入る程度の代物の筈だ。


 ……自分で言っていてなんだが、それでも十分強力な能力の範疇か。

 何もせずとも成長できるなら、自分で積む以上の修練を重ねられるという事で。即ち人より多くの経験を積めるという事でもある。そんな能力、強く無い筈無いだろう。



 だが、そちらがそう来るなら、コチラにも考えがある。


「ならば、コチラも一つ明かしましょう」


 切っ先を向けながら、コチラも殊更ゆっくりと口を開く。


「自分の固有魔法は、その名を『鈴鳴り具足』と言いまして、その効果は『発動時の魔力量に応じてステータス強化能力を持った装備一式を身に纏う』と言う物です」


 どうやら時間稼ぎをしたいのは向こうもコチラも同じようだし、向こうの考えに乗っかってやろう。

 少なくとも、逃げる為の態勢を整える程度の時間は欲しいのだ。


 故に、茶番であるが、少し付き合って貰おうでは無いか。


「分かりますよね、()()()()()


 一歩、摺り足で間合いを詰めると共に、澄んだ音を鳴り響かせ、具足の擦れる音がする。


 全身を鎧うのは、日本古来の甲冑のような意匠のそれ。鈴の類いが付いている訳では無いのだが、不思議な事に、身動ぎに応じてシャンシャンと鈴が鳴る様な音がする、実に不思議な鎧であった。

 

 片腕である為少し不格好な見た目ではあるが、効果自体に支障は無い。

 次いで言えば、少しばかりの裏技によって下駄を履かせても貰っているので、殿を務めるくらいは十二分に出来る筈だ。


 実際、一瞬で鎧を身に纏った自分の姿に、向こうのパーティーメンバーは少なからず動揺を隠しきれない様子であり、ガズルの眉間に一筋の皴が浮かんだのも見て取れる程。


 このままであれば問題なく押しきれそうだが。さて、そう上手く行く物だろうか。


「ククッ。だってさ、首領(ドン)。これなら、アタシらも本気を出しても良いんじゃないかい?」


 動揺を抑え込む様に、或いは格下と見做した相手に気圧されたと思いたくないのか、やたらと高圧的に前に出て来た狩人姿の女が一人。

 鞭を持つ手が随分堂に入ってはいるが、一体どんな職業をされているのか。こんな場所で出会わなければ、少し話を聞きたい所だ。


「そうだな。オレたちにも見せ場を用意して貰わにゃ、商売あがったりだぜ大将!」


 ガズルの隣に控えていた、道着姿の大男がそう吠える。

 一瞬前まで気圧されていただろうに、それでも切り替えて前に踏み込めるその度胸。どうやら添え物として見做せるほどに、程度が低い訳でも無いらしい。


「別段、手を出すな等と言うつもりも毛頭ないが、……そのけったいな呼び名だけは如何にかならんか?流石に気恥ずかしいぞ」


 対面のガズルも並び立つ事を許しているのだ。気を抜いて掛かれる相手ではなく、一度威圧を挟んだ以上、向こうも手を抜いてはくれない筈だ。


「それじゃ、盛大に始めさせて貰うとするかね!」


 前へと出てきた女狩人の声を受け、後方の神官姿の男が杖を掲げる。

 支援系統の呪文だろうが、今は流石に妨害できない。ここは通すしかないだろう。


 ガズルは見た目の通りに前衛騎士と見て、隣の道着姿の男も前衛か。さすれば、後は……。


「通しませんよ。……まさか、見えていないと思っていましたか?」


 振り抜いた鉄剣の切っ先が、その先にあった不自然な影をするりと撫で斬る。

 松明の灯りに揺らめくでも無く、誰の足元にも繋がらぬ影など、隠形の類いにしては随分と杜撰な代物だ。それこそ魔眼が無くとも見逃しはしない。


「マズッ!」


 咄嗟に後方へと飛び退いたのは、向こうの単なる失策だ。

 影に徹する気概であれば、ここは刃に向けて飛び込んで一人の首は落とす所。自身の生存を一義に掲げた暗殺者に、落とせる首など在りはしない。


 残して置いた一回分の魔力で以って、鉄剣の切っ先を抜き穿つ。ここまで酷使してきた数打ち故に、多少無理に動かすだけで、ポロリと刀身が柄から抜け落ちる程おんぼろなそれ。

 振り抜いた衝撃ですっぽ抜けたと勘違いしてくれたら助かるが、それでこの好機を無下にするのも忍びない。ここは全力で落としに掛かるか。


「はや、ゆでに、『■■■■(サトゥラミィ)』」


 一閃。打ち出された刀身が、正しく音を切り裂き宙を穿ち、名もなき暗殺者の頸を撃ち抜く。ついで響いた轟音が、女狩人の遠吠えを掻き消すように空気を揺るがした。

 位置関係的に他の者を巻き込む事は出来なかったが、周囲の耳目を集めるには十二分な成果の筈で。


「今だっ、走れ!」


 時を逃さずジャンク殿の号令が轟く。


「ッ、ハハ!やられたな大将、先鋒は頂くぜ!」


 すかさず背を向け逃げ出す皆を、追撃に出たのは道着姿の大男。

 タッパと言いガタイと言い、実にすこぶる恵まれた身体。動作に無駄がない所を見るに、現実でも同じような体型の様で、何らかの流派に属する武術家と見た。


「剣を捨てて、それでオレを止められるってかぁ!?」


 雄叫びを上げると共に、大跳躍。足に輝く魔力を見るに、どうやらピーキーな自己強化系の魔法の様だ。

 文字通りに一足飛びに距離を潰した大男。そのまま後方へと攻撃を加えれば良いだろうに、なぜか着地したのはコチラの目の前。寸暇も置かずに左右の拳打が襲い来る。


 リズミカルなその連撃は、而して威力よりもコチラへの牽制を多分に含んだ代物で。体捌きにより上手い事コチラの退路を断つような動きから、向こうの戦略が透けて見える程だった。


「それで?」


 とは言え、だ。


 どれ程打ち込んで来た所で、鎧の上からでは素手の打撃など大した痛手になりはしない。

 無論鎧通しの類いであれば、致命傷の一つや二つ、受けていても不思議ではないが、それはあくまで尋常の素材の鎧の話。


 元より鎧通し等と言うのは、鎧の構造と素材に精通していればこその代物であって、素人が考える様に一つの技で全ての鎧を無効化出来るような物でも無いのだ。


 或いは、通常の技の中に紛れ込ませたスキルによる貫通攻撃に光明を見出していたのかもしれないが、それこそ最初の隠形が通じなかった時点で考慮から外すべきだったな。

 魔眼であれば、受けても良い攻撃と、受けてはいけない攻撃の区別くらいは簡単に付く。


「うおりゃぁ!」


 一向に攻撃が効かない事にしびれを切らしたか、大技を打とうと構えを取る大男。


 全く以ってなっていない。ここで隙を見せる等、どうぞ殺してくださいと言っているような物だろうに。


「では、これで手仕舞いです」

「マズッ」


「それは、勘弁して貰おうか」


 インベントリからの抜き打ちで、不意を突いて落としに掛かった切っ先は、而して横から突き出された異形の大剣の峰に阻まれる。

 ゆっくりと歩いていたガズルが、遂にコチラに合流したか。


 見れば後方の神官と狩人の距離も随分縮まり、その分コチラは後方の通路から離されてしまった形で。

 撤退を考えていれば実に厳しい状況だが、元よりコチラは捨て奸。この状況は巡りが良いと言えるのだが、それにしてはガズルの視線が実に気になる。


「グラスとアズマが手も足も出んか。思った以上に手札を隠していたな、アスラよ」


「単独であれば確かに守り通せたやも知れんが、これはパーティープレイであり、そしてルール無用のダンジョンアタックだ」


 その言葉に剣を構えた自分に対し、ガズルは何故か一歩下がって陣を組む。

 見れば大男との間に神官と狩人を挟み込む様なその陣形は、恐らくウチの道中の陣形と同じような意味合いの物で。


「済まんが、使えるものは親でもこき使う主義でな。……この迷宮の魔物、それも使わせて貰うぞ」


 何やら、通路の方から足音が断続的に鳴り響く。前から後ろから、この場所目掛けて地鳴りのように響き渡るそれは、ガズルの言が正しければ人為的に引き起こされたモンスターの氾濫か。


「……やってくれましたね」


 恐らく、向こうに逃げた皆も、この群れの何処かに捕まってしまっている筈だ。

 そして、これから来る魔物の津波。それを捌きながら、どれだけこいつらを足止めできるか。


 なかなかの難題ではあるが、殿に立候補したのは自分なのだから、ここは立派に職務を全うせねば。


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