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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第四十五話 急転直下の超展開


 とは言っても、いくら気を引き締め直したところで、たかが一層分深く潜った程度でそうそう環境が変わる筈もなく。

 目に映るのは相も変らぬレンガ造りの果てしない廊下と、壁際で燻る松明の群れ。


 いや、一つ訂正か。不気味に影を作り出す松明の間隔が、前回よりも大きめに取られているように見受けられる。


 何だかんだ、ステージが一つ進んだと考えれば順当な難易度の上がり具合か。

 今の所は角灯(ランタン)一つで事足りているが、場合によっては追加の光源も必要になってくる頃合いかもしれない。


「どうだ、今の所難易度に変わりはなさそうか?」


 極彩色に輝く回廊を通って現れたジャンク殿が、開口一番に問いかけてきた。

 考えて見れば、始めの迷宮を数えるのならばここは二層分下った場所になる。そろそろ大きな変化があっても不思議ではないか。


「少し暗くなって来ています。この先は、明かりの確保も必要になりそうですね」

「その場合は、……シャティに頼むか」


 まあそれが妥当な線だろう。自分やジャンク殿は戦闘中は手が塞がるし、旅鴉は言うに及ばず、モーラス君も触媒の使用などで手を空けていたい所だろうから、そうなってくると戦闘中に手を空けられるのはシャティちゃんだけになってしまう。

 出来れば避けたい所だが、消去法で考えるなら致し方のない事か。


「まあ、まだ暫くは平気でしょう。問題は、暗闇系統の攻撃を使ってくる相手がいないかどうかですが。……ラコステさん、そこの所はどうでしょうか」


 ゆったりとジャンク殿に続く形で回廊を潜って来た残りの四人、その中ほどに位置していたラコステさんに話を振る。


「いきなりだな、オイ。……少なくとも、そんな敵は見てはいないな。勿論、俺たちが出会っていないだけの可能性もあるから、警戒はするべきだろうな」


 面食らった様子ではあったが、少し考え込んだ後そう話す。

 目の動き的に嘘を言っている様子も無いから、これは信じても良いだろう。


「なら、少し隊列の距離を詰めるか。今なら回復もあるから、多少の被害を受けるとしても、全体の連携の保全を優先したい。……アスラ、それで良いな」


 ジャンク殿がコチラへと目線を向けて尋ねてくるが、コチラに反駁の用意はないのでそれには素直に頷くだけ。


 改めて隊列と警戒についてのおさらいをした後、迷宮の中を少しばかりの距離を取って先行する。

 罠に関しては相も変わらず、手心があるんだか無いんだか分からぬ様相の物ばかり。足切りと考えれば納得も行くが、それにしたって配置が露骨に過ぎるだろう。

 或いはこういった事には不慣れな人員だったか。罠の殺傷力は十分だが、人の心理の裏を突いた様なあくどい配置にはなっていない。

 これでもう少し込み入った要素が有ったなら、罠だけでも十分迷宮としての障害になっただろうに。

 

 とは言え、すべてのパーティーに斥候が配置されるとも限らないのだから、この位の難易度が妥当なのか。もう少し深く潜れば罠の配置や種類も変わるかもしれない。

 或いは罠で進行速度が停滞する事を恐れたのであれば、もう少ししたら悪辣な罠も目立つようにはなるだろう。

 

 少なくとも、現状のように簡単に突破できる物はこの位の浅さまでの筈だ。

 

 ついでに言えば道中の戦闘も、実に呆気なく蹴散らして掛かれる程度でしかなく、後方の雰囲気は実に和気藹々とした物である。

 無論それが油断に繋がってはいけないが、そこはしっかりとジャンク殿が引き締めている為、自分が気にする必要は無いだろう。


 道中の戦闘ではゴブリン種のモンスターに加え、新たに動物型とゾンビタイプのモンスターが追加されたが、そのどちらもが既に戦闘経験のある相手。

 いっちょ前に波状攻撃でも気取っているのか、次から次へと挑んでくるが、この程度では既に消耗もなく倒せてしまう。

 

 幸いにもモンスターが罠を利用する様子もない為、目新しさの欠片も無く。鎧袖一触に屠っては、少ししてやって来る新たな集団を掃討するの繰り返し。


 全く以って順調で、実に拍子抜けな展開だ。


「アスラ、流石に連戦でしんどいから、何処か休めるような所を探してくれないか」


 とは言え流石に堪えたか、未だ元気溌剌なのは自分だけで、皆連戦を前に疲弊してしまったらしい。


「ああ、それならこの先に広間がある筈だ。恐らく俺たちのパーティーが途中まで攻略した場所と同じだろうから、その広間を越えた先に拠点に戻る為の転移装置もある筈だぜ」


 役職的にか、まだ元気な方のラコステさんがそう話す。

 それでも回復しながら前線の露払いまで熟すのは流石に負担だったのか、息はすっかりと上がってしまっている様子。


 見れば肩で息をしているジャンク殿はまだマシな方で、少年少女はすっかりと杖に縋って眦を下げてコチラを見ていた。


「広間の中に敵は?」

「居なかった筈だ。……こんなに敵が来てた記憶は無いから、もしかしたら違うかもしれん。その場合はすまんな」

「まあ、その時はその時だ。最悪シャティの魔法で遮蔽を作って、その中で小休止としよう」


 そう言う事になったので、一足先に偵察に出る。

 通路を曲がった先には、ラコステさんの言う通りの大広間が。とは言え通路は二つ空いているので、もしかすると構造が違う可能性も出てきたが、探していればその内発見できるだろう。


 ……ボス攻略で戻れなかったのは、ある意味想定外ではあったのだが、それもあっても任意帰還の装置なのだろう。

 

 或いは、迷宮間はランダム接続であるが故に、ある程度は進んで欲しい部分があるのかもしれない。


「取り敢えず、広間は在りましたけど、道は二つありましたね」


 出来るだけ足早に戻り報告すると、パーティーの反応は面白い位に綺麗に分かれた。


 休める事を喜んでいる少年少女と、これから先の展望が不透明な事に渋面を浮かべる年長者たち。実に対照的で、どこか可笑しな光景である。


「……まあ、良いか。一先ず休んで、それから先の話をしよう」


 しばし黙考していたジャンク殿がそう告げる。

 どちらにしろ進まなければ道は無いのだ。来た道を戻った所で見つかるのは轍のみ、ならば新雪を踏み抜いてその先へ、という事だ。


 それにしても。


「随分と広いスペースですね。ボス戦の広間と同じくらい広いんじゃないですか?」


 上を見上げればきりがない、とまでは言わないが、それでも十分首は痛くなる程に高い。

 恐らくは地下迷宮をモチーフにしているだろうに、こんなスペースを作ってどのように活用する気だったのか。娯楽半分と考えても、使い道が思い当たらない。


 少々腑に落ちない部分はあるが、休息を取るのであればエリアが広いに越したことはない。少なくとも、このパーティー内に広間恐怖症のような奇特な症状を持つ人間はいないようだし、気することはないだろう。


 なんて考えながら即席のかまどを囲み、旅鴉謹製の料理に舌鼓を打っていると、通路の先から俄に話し声が聞こえてくる。

 こんな場所で出くわすのであるから相手は同業者に違いないのだが、それにしては背筋がなんとなく泡立っているのは、何故だろうか。

 


「ほうれ、言った通りであろう。こちらに来れば良い事があったではないか」



 新たに広間に姿を表した一団、その先頭に立つのはいつか見たような堂々たる体躯を誇らしげに逸らした偉丈夫が一人。その後にも、これまた手練が連なっている。


 まるで誰憚る事も無いかのように、のっしのっしとコチラ目掛けて歩いてくるのは、確か。


「お久しぶりですね?『ガズル』さん。奇遇、と言ってしまっても良いのでしょうか」


 何時だかのボス戦闘でご厄介になった御仁、たしか『火竜の鉤爪』とか言っていた一団の首領だったか。

 あの時の優男は一緒には居ないらしく、その脇を固めるのも揃いの鎧を身に着けた一団などではなく、思い思いの装備に身を包んだ戦士たちだ。


「はっはっはっ、『お久しぶり』と来たか!この短い期間に随分と良い出会いがあったようだな、アスラ。我が事のように嬉しいぞ!」


 腹を抱えて、と言う程ではないにしろ、快活に笑いながらも距離を詰めようとする偉丈夫の姿にピンと来る。


「久闊を叙するのも悪くはないが、それはイベントの後に取っておこう。この後は祝勝会を予定しているからな。アスラ、お前も我らの一員として参加するか?お前のための席は、常に空けてあるんだが」


 それに気がついたのだろう。向こうも無理に詰めようとするのではなく、立ち止まって戦列を整えるのを優先したか、じっくりとコチラのパーティーを見詰める。


「それは、貴方方の頭上に輝く、黒い三角形のマークと関係がある事ですかね」


【ジャンクさん。合図したら向こうの通路に飛び込んでください。出来れば先頭はラコステさんにおまかせして、殿を務めて頂けますか】


 ここいらが限界だろうか、既に向こうのパーティーは戦闘準備を整えている様子。

 或いは、向こうにとっては既にここが敵地であったか。油断の一欠片もない構えを見るに、楽に逃がしてくれそうにない。


「そうだな。残念ながら、今回のイベント、お前さんとは別陣営に配属されてしまったようだ」


【アスラ。お前はどうする気だ】


 残念と言うなら、もう少し顔を隠せばいいものを。

 喜色満面で言われても、ちっとも信用できないではないか。


「そう言えば、『ガラク』さんは一緒じゃないんですね」

「そのようだな。……アヤツが敵に回るのも、それはそれで残念な事だ」


【時間は稼ぎますので、帰還装置を探してください。後は任せましたよ】


 それにしても、このパーティーチャットとやらは何とも凄まじい代物だな。

 面と向かって会話をしながら、後方の味方と密談を交わせるのだから何ともはや。向こうでこれがあれば大助かりであったと言うに。


「さて、そろそろ準備も済んだ頃合いか?では、無粋な語り合いはここ迄。これより先は、互いの剣にて語るとしようか」


 ぬらりと引き抜かれた大剣は、実に厳つい鍵爪のように歪曲した刀身をしていて、それを片手で扱うのだから全く持って尋常ならざる代物に見える。


 ある種ボスよりボスらしい、化物との一戦がここに幕を開くのであった。


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