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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第四十四話 波乱万丈だから話になる


 思わぬ遭遇と戦闘を経て、一息ついた自分たちは近場の小部屋で暫しの休息をとっていた。

 

「いやはや全く、助かったぜ。ありがとうよ……ふぅー、ふぅー、……あちっ」


 胡坐を掻いて地べたに座り、熱々のコーヒーを冷ましながら啜っているのは余所のパーティーの癒し手(ヒーラー)

 名を『ラコステ』と言うそうで、今は互いの手持ちの情報交換に追われていた。


「それで、モンスターハウスは結局入らなけりゃ分からない、と?」

「そうだな。……罠がある事は入る前から分かってた、だが、狭い室内であの数だとな。ウチのパーティーじゃどうしようもなかったし、あのままなら俺も死んでた所だ」


 正味、コチラのパーティーであっても室内と言う条件下では生還するのは難しかろう。あれはあくまで通路の中で一方的に殴り倒せたから成立していた状況であって、彼らのパーティーのように後衛がタコ殴りにされて生還できるなどそうはない筈。

 その後衛が一番しぶとかった、彼のような例を除いては、だが。


「コチラも各所の罠に関する情報を頂けたのでお相子ですよ。……ですが、ここから先はどうするおつもりで?」


 自己回復が可能でかつ戦闘技術も持っているのなら、並大抵の障害は屁でも無いだろう。無論それと来た道を正確に戻れるかどうかは別の話。

 地図はあっても帰路の罠が再起動していない保証は無いのだから、一人で戻るのは至難の技だろう。


「……正直、区切りの良い所までは同行させて貰えると有難い。このエリアでは置いて無いが、この先には迷宮の途中で帰還できる装置が設置されているんだ。出来ればそこまで連れて行ってもらえると助かる」


 死に戻り、という方法もあるにはあるが、そちらのルートは選ばないらしい。尤も、徒にここで死に過ぎると、イベントエリアでの行動に制限が掛かると言うそうだから、極力生還を目指す姿勢が正しいのだろう。

 少なくとも、ゾンビアタックを利用しての迷宮攻略は運営の望む所ではないようだ。

 

 まあ、そんな絵面を見たい視聴者が居るとも思えぬ以上、これは当然の措置と言える。


 しかし。


「まさか、ヒーラーの方に入って頂けるとは、大助かりですね」

「ホントにな。……よくここまで回復なしに突破できたもんだよ」


 ジャンク殿と顔を見合わせ頷き合うが、いやはや全く、どんなパーティー構成になっているのやら。

 聞いた話では向こうのパーティー、他にもヒーラーが居たと言う話では無いか。余っている様ならコチラにも一人くらい欲しかった所だ。


 尤も、この五人の中から一人抜くとしたら誰が良いか、なんて。

 正直自分が抜けるのが一番良さそうな選択肢なので、絶対話題には出さないが。


「取り敢えず、もう少し休んでから先に進もう。各自MPを回復させて、アイテムの確認も怠るなよ」


 そんな事を考えている間にもジャンク殿はテキパキと次の指示を出している。

 出来れば自分も装備の確認をしたい所だが、生憎殆どインベントリの中はすっからかん、回復アイテムが二、三個転がっているだけだ。

 剣や鎧の手入れと言っても、その為の用具も何も無いのだから、刃毀れが無いかどうかを探すくらいしかする事も無い。


 とは言えそれは自分に限った事では無いようで、他の面々も手持ちのアイテムを確認したら殆どが手持ち無沙汰になっている。

 今もせせこましく準備に余念が無いのは、触媒の残数を確かめているのだろうモーラス君と、恐らくはここまでの道中でアイテムを散々に使い倒したのであろうラコステさんだけ。

 

 見ればジャンク殿と旅鴉は、車座になって手元のカードで遊んでいる。

 無論ドアを締め切った部屋である以上、ここが安全なのは事実だが、それにしたって気を抜きすぎてはいないだろうか。


「ん?アスラ、お前も交ざるか?」


 緩んだ顔でコチラを手招くジャンク殿。気を赦してくれたと言えば聞こえはいいが、これは単に手を抜いているだけと違うか。まだここは迷宮の中であろうに。


「あまり怖い顔をしない方が良いですよ。それに、貴方が一番気を張っているのですから。こんな時くらいは張り詰めた糸を緩めなければ、ぷつりと切れてしまいますよ」

「なら、自分に変わってお二人で警戒してくれるんですよね?少なくとも、そうしている中に交じったとして、それで気が休まるかは別問題です。……機会があれば、後でまた誘って下さい」

「しゃあない、それならそろそろ出発するか」


 億劫そうに腰を上げ、傍らの盾を手に取るジャンク殿。元より手ぶらな旅鴉は散らばったカードを集めて仕舞い、それで準備完了とのこと。

 ラコステさんもしっかりと休息は取れた様子で、槍を片手に佇んでいる。


「うしっ!それじゃ心機一転、攻略を再開するぞ!」


 応っ!と突き上げられた拳たち。

 三々五々と上がったそれは、前回よりも一揃いと言えるタイミングで。そんな所からもこのパーティーの結束が高まったのが垣間見れて、嬉しさと共に感慨深さを感じてしまう。


 一人加わった事で少々変わった隊列も、まあ無難と言えば無難な類い。

 どちらにしても、斥候である自分には無関係なこと。戦闘中の立ち位置さえ間違えなければ問題もなく。

 結果として、更に安定感を増したパーティーでの戦闘は破竹の勢いで進み、何とあっさり次のボス戦闘も一発でクリアしてしまったのであった。


 元々安定感は高い構成だったが、そこにヒーラーが加わる事で多少の被弾も問題なく捌くことができ。かつ中衛として立ち回れる事から、始めから旅鴉が支援に専念する事が出来るようになった為、磐石の体制で回せる様になったのも大きい。


 ついで言えば、精神効果属性の搦め手を多用するタイプのボス相手に、呪歌による精神支援と癒し手の治療が有れば無傷で切り抜けられるのも当然の事。

 これが片方しかなかったのなら苦戦も必須だったのだが、そうは行かなかったのが運の尽きだ。


 戦闘後にゆっくりと座りながら雑談を交わす余裕があるほど、前回のボス戦とは打って変わって快調に突破出来てしまった訳だが、これに慣れるのも少々怖い部分があるな。

 出来ればラコステさんに常駐してもらうか、あるいは彼の回復支援に並ぶ程の魔法を誰かが構築するか。そうでも無ければ今後の戦闘に支障が出る可能性すらあるだろう。


「いやはや、本当にヒーラーが居ると安定するぜ。なあアンタ、これからもウチのパーティーで働かないか?」


 故に冗談めかした口調でジャンク殿が勧誘していたのも、恐らく本気半分の域であった筈だ。

 

 少なくとも、ジャンク殿が内心不満を抱えていようと、このパーティーでの攻略に価値を見出しているのは事実。

 何だかんだと言いながらも、常にパーティーの事を考え動いているのがその証左。案外彼は逆境に、自ら突っ込みたがる性質なのかも知れない。


「すまんが、今のパーティーも何だかんだ気に入っててね。俺含めソロでやってた奴らなんだが、このイベントの後も正式にパーティーを組まないかって話もしているんだ。なもんだから今の所勧誘は受け付けていないのさ」


 とは言えそれで靡く程ラコステさんも軽い男ではないようで、あっけらかんと話してはいるが、元のパーティーを語る瞳は実に真摯で澄んだ色をしている。

 全く、どいつもこいつも一匹狼でもあるまいに。


「意外ですね?戦闘可能な癒し手なんて、何処でも引く手数多だと思うのですが」


 故に素直にそれを言葉にしたのだが、それに対してラコステさんは随分と不思議そうな顔をした後、苦笑交じりに話し出す。


「あんた、意外にパーティーは組んだ事無いのか?そうは見えないが……。まあ一つ言っておくと、固定面子ならある程度出来る事は限られている方がやりやすいのさ。少なくとも回復なら回復に、攻撃なら攻撃に特化している方が、普通のパーティーでは重宝されるぜ」

「分業制と云う訳ですか、完全固定なら分からなくもない考えですね。まあそれも、見解の相違と言う物でしょう」


 笑いの中に紛れる苦み。今まではソロだったとの言葉も見るに、パーティー関係で昔何かあったのだろう。

 それでも今は気の合う仲間と組めているようだし、それこそ竜の落とし胤が竜ならざると言う物か。


「そう言う事なら仕方がねえな。そんで、ラコステさんよ。この先の地図は有ったりするのかい」


 そうしてグダグダ話を長引かせていると、痺れを切らしたのかジャンク殿が横から間に割り込んで来た。

 ボス戦を終えて休息も完璧、事前情報ではここから先は迷宮が連なっているという事だが、どうやらある程度は先に進んでいる様子のラコステさんの先導もあれば、スムーズに事が運びそうだがそうは問屋が卸さぬらしい。


「それに関して確約は出来ねえな。この先は何処に繋がるかもランダムらしいから、俺の持ってる地図一つで勝負するには些か分が悪すぎる」

「んじゃ、出たとこ勝負か。……何時も通りだな」


 開いたドアのその向こう。前回同様豪奢な扉のその先には、極彩色の回廊が待ち受けている。


 さて、次の迷宮ではどんな光景が待っているのか、実に気になる塩梅だ。

 彼をしっかりと元のパーティーに帰す為にも、気を引き締めて掛からねば。


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