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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第四十三話 心機一転、或いは本領発揮


 熾烈を極めたボス戦、その後の宿での休息を挟み、各々シャンとした顔つきとなった本日の行程はといえば。


「本日は、向こうの『一ノ門』から挑戦するとしましょう。……難易度的には三つとも変わりないようですが、一ノ門が一番情報が多いので先の予測も立てやすいですし」


 今回旅鴉が引率してくれるのは、街の東に位置する『一ノ門』だそうで。

 

 各々旅鴉からの情報で必要とされるものを用意したあと、小一時間ほどで目標の門の前に再集合したのであった。

 

「よし。皆、準備はいいか。……まだ初日だ、くれぐれも無理はしないように」


 ジャンク殿の言葉に全員が頷く。そうして見上げた一ノ門は、見るからに古びた石造りで、門の奥からひんやりとした空気が漂ってくる。

 門が備え付けられた広場は街の喧騒が嘘のように遠ざかり、代わりに静寂が周囲を支配していた。


 流石にここに罠はないだろうが、一応門の仕組みを軽く確認してから扉に手をかけ、慎重に優しく押し開く。

 軋むような音を立てて開いた扉の先に見えたのは、前回同様、薄暗い通路がどこまでも続く光景であった。


 念の為、足を踏み入れた瞬間魔眼を起動させる。通路の床に見えるのは、幾つもの魔力で色付けされた足跡の数々。

 前情報の通り、随分多くのプライヤーがここを通って進んだらしい。と言うか、やはりこのパーティーの初動はだいぶ遅めだったのではないだろうか。


「先客がいるようですね。……足跡を見る限り、他の人達は大分前に踏み込んだようです」

「だろうな。一番情報が多いってことは、それだけ多くの奴らが踏み込んでるってことだ。……だとしても、この先何があるか判らん。気を引き締めろよ」


 ジャンク殿のその言葉に、旅鴉は懐から年季の入った手帳を取り出し、ページをめくる。

 前回開いたそれとは異なる手帳、恐らく本命の情報はそちらに記載しているのだろう。


「情報通りなら、出てくるのは基本的ゴブリン系の魔物の筈です。……ただし、ここからは罠があるそうなので、皆さん気をつけてください」


 彼の言葉に若い二人が緊張を露わにするが、何、こちらは一応斥候なのだ。

 致命的なものに関しては、しっかりと見抜いてみせようとも。

 


 そう思いつつ踏み込んだ迷宮の空気は、街のそれとは全く異なる物だった。

 

 

 冷たく淀んだ空気に張り詰めた緊張感。そして、どこからか聞こえてくる微かな物音。


「コチラも警戒しますが、他との戦闘の余波で不意に敵が来ないとも限りません。常に周囲には気を配っていてくださいね」


 警告の声に無言で頷く一同。既にここは戦場であり、無駄口を叩かぬ点は実に宜しい。


 前回同様距離を置いて迷宮内を先行する。大まかな造りはそう変わらず、未だにレンガの壁に松明の灯りが等間隔に揺らめいていた。

 道中罠があれば先んじて解除し、出来なければメンバーが揃うのを待ってから通過方法を指示して通過。敵に関しては最早ゴブリン如き何の痛痒にもなりはせず、鎧袖一触、振り払って邁進している。

 別段昨日に比べて全員のレベルが上がっているとかそんな話では無いのだが、単純に互いの動きが分かって来た為、無理なくフォローをし合えているのが理由だろう。

 

 始めに旅鴉が相手の動きを止められるなら、後は順繰り逃れた者からはっ倒せばいいだけの事。

 シャティちゃんの拘束呪文も想定以上の強度があるし、正直先手が取れれば早々このパーティーに負けはない。


 しかし、少しばかり課題がある。


「思った以上に、先行組が虱潰しにしてくれている様ですね。……明日は集合時間を早めてもいいかもしれませんね」


 どうにも順調に攻略が進み過ぎているのだ。無論それが悪いとまでは言わないが、難易度が段階的に推移しないのは先々で問題になりかねぬ要素故、出来ればそれなりに苦戦するところもあって欲しい所。

 とんとん拍子に進んでしまった新兵程、撤退戦で役に立たない奴もいない。


「アスラ、明日の話をするのは気が早そうだぞ」


 そう言うジャンク殿の指さす先には、コチラに向かってくる人影が。

 すわ、件の不審者かと武器を構えて見せれば、人影は泡を食って慌てて自分の後ろを指さし始めた。


「済まん!トレインだっ、助けてくれ!」


 俄かに騒々しさを増した通路の向こう、薄っすらとした明かりに照らされ映るのは、大小様々なモンスターの影。

 ゴブリン主体と聞いていたのだが、向こうに見えるのは随分毛色の違う影たちだ。


「モンスターハウスに引っ掛かっちまった!ウチは俺を残して全滅、道中他のパーティーには会っていない!」

「お前さんのジョブは!」

「ヒーラー兼遊撃、でも回復は今使えん!」


 迅速に情報交換を終えたジャンク殿が一同に振り返って指示を出す。小さく舌打ちが聞こえたのは気のせいだろう。


「アスラ、一当てして足止めろ、全部じゃなくていい。モーラスとシャティは撃ち過ぎない程度に魔法で敵を削れ。旅鴉、いつものの前に一発ド派手に頼むぜ。……アンタは一旦下がって息整えてから遊撃に回ってくれ、回復は俺を後回しにしていい」


 怒涛の指令に、されどモーラス君もシャティちゃんも慌てる事無く耳を傾け、互いに行使する呪文の内容をすり合わせている。

 この数時間の間に随分と腕を上げた物だ、コチラも先達として鼻が高い。


 しかし、流石にこの数相手に手加減してでは骨が折れそうだ。多少は本気で相手をしようか。


 何時もの呪文にちょっとしたアレンジを加え、先頭集団目掛けて放り投げる。

 それに気付いたモンスターが逃げる素振りを見せたものの、後方から多数の敵が追い立てて来ているような状況下で避ける事など出来よう筈もなく。

 目論見通りにモンスターの群れは眼前で以って大崩れ、狭苦しい通路の中大渋滞を発生させる。


 ここまでお膳立てをすれば、後は上手い具合に調理することも出来るだろう。何せコチラのシェフは歌って踊れる凄腕だ。活け造りも串打ちも、何でもござれの仕事人。

 仕留め損なうなど在りはしないだろう。


「仕方ないですねぇ、ワタクシの本業は支援なのですが。……まあ、良いでしょう。吹き飛びなさい『雷神の猟矢(インドラーストラ)』!」


 裂帛の気合と共に投げ放たれた投げ矢が十重二十重に分裂し、一塊になったモンスターたちを蹂躙する。

 

 一撃の威力が低かろうとも、数と言う物は何時も偉大だ。

 無論、適切な範囲の中に納まるのであれば、の話だが。


 現に、今目の前で起きている事態のように、狭い通路に殺到したせいでにっちもさっちも行かなくなるような事もある。

 彼らにはこれを教訓として次回活躍されることを、パーティー一同心よりお祈りいたしております。


「これで、足を止めます。今のうちに攻撃を!」

「この我輩、攻撃だけが脳ではないぞ!弱体化とて使えるのだ!」


 そして後衛の支援が充実すれば、前衛はより好き勝手に暴れ回れると言うものだ。


「アスラッ、削れるだけ削って良いが、ヘイトは稼ぎ過ぎるなよ!」


 言われずとも分かっていると言いたいが、こうも入れ食い状態では多少の欲も出ると言う物。

 無論制限はしようと思うが、多少くらいならやりすぎても問題あるまい。


 駆け出しざまに呪文を一つ、追加で一つ詠唱を重ね堰き止められた群れの前、良い感じに大物を削げる位置に立つ。


 それにしてもこのゲーム、多少ならば既存の呪文の詠唱を改造し、自分の思うままに効果を追加、削除できるようだが、一体全体手を出せる範囲は何処までなのか。

 これでは『ルーン』を用いずとも、自分だけの呪文を構築できそうな気がするのだが。或いは、そこまで行って漸くスタート地点なのだろうか。


 詠唱の内容から手を加え、自分だけの魔法を作れ、と言う事なのか。全く以って期待以上の展開だこと。


 まあそれは置いといて、先日構築したばかりの呪文を発動させる。『礫弾投射(ストーンバレット)』の呪文に合わせて、初級風魔術から改良した『空力制御(ガスト)』の呪文を重ねた一品。弾体に指定した物品を、前後から押し出し引っ張るこの呪文。直線加速は随一だ。


 左の拳で殴りつけるように加速させた鉄剣が、空を切り裂き飛翔する。

 当然のようにその道中に溢れる魔物は膾切り、曲がるでもなし止まるでもなし一直線に敵陣を切り裂くその様は、まさに痛快の一言だ。


 出来ればもう少し削りを入れたい所だが、群れの中ほどに空いた大穴目掛け、敵さんが方方から寄ってきている。あまりここに留まっていると、ジャンク殿の邪魔になってしまうだろう。

 そうして素早く下がって場を空ければ、入れ違いに出て来たジャンク殿が敵を抑えて再度壁を作り出す。


 多種多様な敵がいたが、嵌った連携の前には無力な物。

 何だかんだと時間を掛けつつ、されど被害を被る事なく。


 唐突に出くわしたモンスターパレードは処理されたのだった。


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