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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第四十一話 未成年飲酒は厳禁


 大苦戦の末どうにか突破した、イベント初めてのボス戦闘。

 その後に待っていたのは何とも色鮮やかな街の風景。人混みと活気あふれるこの情景が、イベントの趣旨を忘れさせようと目論む類いの物なのか、はたまたここまでがチュートリアルで、本番の迷宮探索は此処からなのか。どちらかによっては今後の身の振りも変わるのだが、それは兎も角先ずは旅塵を落とす所から始めよう。


「お前の言うとおりだが、こんな所で分かれても集合するのは困難だぞ。だからと言って一塊になって歩くのはバカ臭くないか?どうするつもりだ、アスラ」


 ジャンク殿の言葉は至極真っ当な代物だが、しかし彼の眼には行き交う人通りは見えてはいないのだろうか。


 ひのふのみ、通りの人混みから良さげな相手を見繕う。成功率は余り高くもなかったが、まあ、この世界ならばどうにかなるだろう。


「そんな物、こうするに決まっているではないですか。…………すいません、そこなご婦人。この近くでそれなりに値の張る、それでいて街の人たちと卓を囲める宿は在りませんか?」

「あらやだねぇ、こんなおばちゃん捕まえて『ご婦人』だなんて。それで、人気の宿かい?それなら向こうの通りの三本杉の看板の宿屋がおいしいシチューを食べられるわよ」


 第一村人ゲットだぜ!

 なんて冗談は改め、どこの世界も奥様方は話好きと相場が決まっている。

 取り分けその街に居を構えている奥方であれば、街の施設に関して様々な話を知っているものだ。


 その後も何だかんだと色々な話を聞かせて貰ったが、取り敢えず「三本杉の宿屋」なる情報を頂けただけでじゅうぶんなので、そろそろお暇したい所。

 と言うか皆は何処へ行ったのか、まさかとは思うが、自分を置いて先行したのではあるまいな。こちとらパーティー唯一の斥候であるぞ、置いてきぼりにしてどうするのか。


 結局解放されたのはそれから暫く経っての事、その間にちゃっかり皆で下調べをしてきたらしく、自分達はスムーズに宿の予約を取ることが出来たのであった。


 


「皆さん、本日の功労者に対して随分な仕打ちじゃありませんか、あれは」


 がやがやと賑やかな食堂にて、自分たちは少し遅めの昼食と洒落込んでいた。


 それなりに広めの店内には所狭しとテーブルが並び、今の時間帯であってもそれなりに席は埋まっている辺り、あのご婦人の慧眼は素晴らしきものと言えるだろう。

 少なくとも、酔客の数より素面の面子の方が多そうな時点でかなり治安は良さそうだ。


「そう怒るな。お前を早く休ませてやりたいと、みんなで考えた事なんだからよ。少しは大目に見てくれや」


 大きな匙でシチューを掬い上げながらジャンク殿はそう答えるが、目線が手元に向いている辺り優先順位の別はつくぞ。

 そして突如槍玉に挙げられた三人の振る舞いの対称さよ、慌てふためく少年少女は兎も角として、したりげな笑みを浮かべて追加の酒を頼むんじゃないよそこの呑兵衛は。吟遊詩人何だから、ここは一席ぶって情報なり金子なりをせしめる所じゃないのか。何を一人楽しんでいるのやら。


「そんな眼で見ないで下さい、アスラさん。これでも一度、挑戦しては見たんですよ」


 対面の男の本業を訝しんでいた事に気付かれたか、肩を竦め陽気に笑いながら旅鴉はそう答えた。

 陽気ながらも笑みの形になり切れていない目を見るに、結果は聞かずとも判る事だが、一応情報共有の為に一通りの顛末を聞いておきたい所である。決して酒の肴にしようなどと言う魂胆ではない。


「それで、どうだったんですか?」

「いやそれが、全く何も得られず仕舞いで。……そもそもここの宿ではそう言った仕様を想定していないようですね。『演奏したいなら向かいの酒場でやって来な』だそうですよ」


 まあ、遅めとは言え昼間は昼間だ。こんな時間から酔客に暴れられでもしたら商売あがったりな以上、予防線を張っておくのは当然の事か。

 とは言え、聞きたい事はそれだけではない。


「それで、他に情報は?」

「それに関しては、色々と分かってきましたよ」


 ごそごそと、懐を漁り何やら年季の入った紙片を取り出した旅鴉だが、それでどうしようと言うのか。懐紙と言うにはあまりに小さすぎるその面積、手品にでも使う気か。


「まず第一に、先ほどまで私たちが居たあの迷宮。あそこの名前は『選択の回廊』だそうで、あそこを通過するまでに取った行動如何で、そのパーティーの行く末が決まったそうですよ」

「と、言うと?」

「一つ目、仲良く攻略してボスを倒した場合。これは一般的なルートであり、その場合この『開拓の街』に飛ばされるそうですね。次にボスの攻略までに内輪揉め、或いはボス攻略中の仲間割れがあった場合。その場合は、『流刑の盆地』と呼ばれる場所に送られるそうですよ。大体のパーティーはこの二通りのルートの内のどちらかを通っているそうです」


 出るわ出るわ、このちょっとの間に集めたにしては随分な情報量だ事。手元の小さな紙切れ一枚に収まっているとも思えぬ量だが、その秘密は隣で手元を覗き込もうとしているモーラス君が明かしてくれるに違いない。


「成程、文明の利器とは斯様にして用いる物か。勉強になったぞ、吟遊詩人殿!」

「ちょっと、ネタばらしが早いですよモーラス君。こういうのは、もう少し引っ張ってからばらすのが面白いんじゃあないですか」


 ネタバラシをされたというのに露程も気にせず話を続けるあたり、この席順になってからこの時を虎視眈々と狙っていたに違いない。


「それで話の続きですが、この開拓の街は『フォックストロット』という名前の街のようですね。……他にも拠点となりえる街は()()あるそうですが、名前も聞きますか?」

「いや、要らん。……どうせ、AからF辺りまでの名前が付いてるだけ何だろう?」

「御名答!……安直ですが、分かり易い分には良い方でしょう。少なくとも、ここで変に凝った挙げ句何も伝わらなかった、よりは遥かにマシです」


 笑いながら話を続ける旅鴉、些かこの後の話は長かったので割愛するが、大事な部分はこの四点。


 一つ、この街を拠点として、三つの門から迷宮に挑めること。

 一つ、拠点となる街は七つ存在していること。

 一つ、迷宮内では同一チーム間での「フレンドリファイア」は存在していないこと。

 一つ、迷宮をいくらか進んだその先で、「正体不明のプレイヤー」に襲撃されたものが居ること。


「……中々、面倒くさそうな様子だな。特に、『迷宮内で他のプレイヤーに襲われた』ってのはヤバいな」


 集まった情報に対してジャンク殿が先陣を切って評価を下すが、全くもってその評定に異論はない。


「何故だ?襲撃して来るのであれば、返り討ちにすれば良いだけだろう?」

「その、()()()()()って情報がマズいんだよ。聞いてなかったか、同一チーム間でのFFは、今回のルールじゃ存在していないんだぜ」

「……じゃあ、どうしてその人たちは、襲われてしまったんですか?」


 視線を流せば旅鴉はしたり顔をしているし、ジャンク殿は渋面をしている。

 向こうは分かっているのだろう、故に理解が及んでいないのは幼い二人。否、シャティちゃんだけか。

 少なくともモーラス君は、返り討ちに出来る事は分かっているようであるし、ここははっきりと言ってしまおう。


「今後、迷宮の中では()()()()()()()()()()()()と遭遇する事もある、そういう事ですよシャティさん」


 自分の返答に目を白黒させて考え込んでしまったが、とは言えこれは、そう難しく考えるような事でもない。


「そもそも、このイベントの目標は『マップの解明』であり、その障害は他のエネミー。つまり、余所のグループのプレイヤーも、敵として全部ぶったおせば良いだけの話だ」


 ジャンク殿が簡潔に言ってくれたが正にその通り。余所には目もくれず一人数字と睨めっこする状態から、イベント進行の為に互いに邪魔をし合うような関係性になったと言うだけ。

 他のプレイヤーとの交流の機会が増えたと考えれば、ある種当然と歓迎するべき状態だろう。


 或いは、こうして少数から始めて、次第に触れ合うプレイヤーの数を増やすのが運営の目的なのかも知れない。

 祭り事での一喜一憂は平時のそれとは比べ物にならないとは良く言うし、ここで仲の良いプレイヤーの集団を幾つも作り、交友関係を広げさせるのが今イベントの裏目的と言うのは、実際普通にありそうだ。

 

 なにせこのゲーム、配信活動が前提の為、どうしたって個人個人で尖がった事をやりがちで、横の繋がり何ぞ全く以って無きに等しい。

 一般的なプレイヤーがどうかは知らないが、そうであるならここで知古を広げられるかどうかが自分たちにとって、ある種のターニングポイントともなり得るだろう。


「ま、取り敢えず旅鴉、一番簡単そうなルートを下調べしておいてくれ。金が掛かったらこっちに請求してくれて構わないから、明日までに頼むわ」


「んで、今日の所は解散、明日に備えて各自英気を養ってくれって所で良いだろう」


「そう云う訳だから、明日も頼むぜ、みんな」


 快活に笑いジョッキを掲げるジャンク殿。何時頼んだのか全員の手元にそれぞれの好みそうな飲み物がある、この手際の良さは旅鴉の仕業か。


 何であれ、ここはみんなで笑って乾杯と行こう。まだまだ先は長いのだから、無理せずゆるりと、楽しみ遊ぼうでは無いか。


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