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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第三十八話 連日のボス戦闘は気疲れする


 さてもかくも、気合を入れて臨んだ推定ボス戦闘。不可思議な紋様を揺らめかせる扉を開いたその先は、予想通りにだだっ広い大広間が一つ。


 等間隔に据え付けられた松明からは不思議な程に強い光が放たれ、先ほどの通路とは比べ物にならない程の広さだと云うに、明るさだけならコチラの方が明るく見えてしまう程である。


 一歩二歩、慎重に歩みを進め広間の中ほどまでは進んだものの、しかし一向に変化は訪れない。

 恐らくは全員揃ってから出現するタイプのボスなのだろう。


「取り敢えず、隊列を維持しながら入って来てください。恐らく五人揃ったら戦闘開始です」


 後ろの方で恐々見守る四人に対し、聞こえるように声を張り上げ言い募る。

 これで出て来てくれたら楽だったのだが、そう簡単にはいかないらしい。


 ゆっくりと前に出てくる彼らを尻目に警戒の目を向け続けるが、やはり何の変化も起こらぬまま。

 少し下がって隊列に混じるも、静寂が広間に漂うだけであった。


「……アスラ、貧乏籤引いてくれるか?」


 故に、戦士殿からそう言われるの致し方のない事なのだろう。

 まあそれも信頼から来た台詞と考えれば、やる気に繋がると言うものだ。


「骨は拾って下さいね。出来れば海の見える、小高い丘の木の下に埋めて頂ければ」

「不吉な事言うんじゃねえよ」


 笑いながら軽口を叩き合う、実に気安い間柄に見えるが別にそんな事は無い。ただ戦士としての共感が、互いにここを一つの危地と認識しているのだろう。

 


 ゆるりと剣を抜き放ち、広間の真ん中へと歩き出す。

 大仰な構えなど特には取らず、散策にでも出るような気構えで歩みを進める事、それは四歩目を踏み込んだ時であった。


 ゆらり、と一斉に松明の灯りが大きく揺れる。風もない地下であると云うにも関わらず、その揺れは留まるを知らずどんどんと振り幅が大きくなっていく。

 不意に、壁や天井を向いていた一同の視線が広間の中央に吸い寄せられた。


 なるほど。確かにゲーム側である程度の制御を行っているのだから、こうしたプレイヤー側の意図せぬ挙動を強いる事も仕組み上出来得なくは無いのだろう。

 実に不快極まりない物ではあったが、本題はこれからなのだ。不平不満は後でぶつける事としよう。


 そんな思いを抱く自分の目の前に現れたのは、これまた分かりやすく偉そうに構えたゴブリン酋長(チーフ)が一体と、その周りを固める有象無象の雑兵共。

 チーフは一人豪奢そうな金の飾りをぶら下げているが、他の素材が取り巻きと同一では滑稽さしか際立たない。或いはそれを目的にしているのならば、運営は随分と趣味が悪いと言えるだろう。


 別段一人でやってやれなくもない数と質に下がる意味はないのだが、リーダー殿のお達しだ。素直に彼の指示に従い連携して当たるとしよう。


 周囲の暗さに惑うたか、出てきたばかりで棒立ちな面々に向けてついでのプレゼントを投げ渡しつつ、ゆるり並足で後へ下がる。

 水の魔術に雷の魔術、当然合わせれば効果抜群な代物の出来上がりだ。


 ようやっと周囲の状況を理解した長が号令の雄叫びを上げた瞬間、その足元に仕掛けた呪文が効力を発揮し瞬間的にゴブリンの()()の動きを止める。

 初級呪文の『ショック』に『水たまり』、その効果は不意を突いたところで一瞬その動きを止めるくらいにしか役に立たないが、一瞬でも止まれば良いのだ。元の『ショック』の呪文でも言った気がするが、挙動の制止など一瞬あれば十二分。まして()()を相手に出来るのならば、その一瞬は数字以上に大きな物となり得るのだ。


 酋長の声に反応し、一斉に襲い掛かろうとしてきたゴブリンたち。当然その対象は一番近い自分なのだが、手前に居た二匹の足が縺れた事で、後ろが団子のように詰まってしまう。

 もう少し知能があれば瞬時に迂回も出来ただろうが、とは言えそれでも十分時間は稼げている。今回は想定以上に時間が稼げたことで隊列を組み直す事すら出来てしまったが、本来奇襲の一撃を防げるだけで十分戦略的には勝利なのだ。


 とは言え簡単に話が進んだのはそこまで。

 体勢を立て直しコチラに向かうゴブリンどもの身体には、うっすらとした赤色の魔力の靄が纏わり付いているのが見て取れる。


 流石は群れの長と言ったところか、しっかりと魔法による支援は出来たらしい。それを阻害するための『ショック』だったのだが、その程度では止められないのか、はたまた間に合わなかっただけなのか。

 どちらにしてもボス戦相応に強化されてしまった筈、道中相手にしたゴブリンよりも格段に手強い相手になっている事だろう。


「敵はゴブリン五体にチーフが一体、ゴブリンは強化済みの個体です。……どうしますか」

「押し通る!……躓いた二体は旅鴉に任せる、何しても良いから足止めしろ。俺がチーフと一体受け持つからお前は残った二体含め、迅速に処理して回れ。二人は俺の支援メインで、要請があったら向こうにも手を貸してやってくれ!」


 リーダーからの迅速かつ明確な指示に、パーティーの面々が弾かれたように動き出す。

 戦士殿の左脇に構えたままの自分の傍を、猛スピードで通り過ぎたのは吟遊詩人。トレードマークのとんがり帽子をたなびかせ、その手にはハープでは無く小振りの投げ矢を携えていた。


「先ずは一投、喰らいなさい『雷神の猟矢(インドラーストラ)』!」


 乾いた立木を切り裂くが如く、快音を響かせ擲たれた一本の矢。それは瞬く間に二本三本とその数を増やし、戦士殿を迂回しようとしていたゴブリン二匹に雨矢のように襲い掛かりその足を釘付けにする。

 息つく暇なく、矢継ぎ早に繰り出される投げ矢の技。狙われたゴブリンどもはその場を動けず、見事に彼は自らの任を全うして見せたのだ。これは後れを取る訳に行くまい。

 

 まだ地面に足を取られた体勢から、起き上がりきってはいない残りの二匹。その隙を逃すまいと、自分は一足飛びに距離を詰める。


 その動きを察知したのだろう。先程の強化は伊達で無いと言うのか、ゴブリンは外見に似合わぬ素早い動きで地面を転がるように逃げる。だが、残念。コチラの方が一歩早い。

 抜き放たれた剣が、まず一体のゴブリンの腕を掬い上げた。骨を切り飛ばす心算で放たれた一撃であったが、而してそれは予想に反して肉を斬り裂いたところで止まる。

 

 道中出会ったゴブリンたちとは、強化の有る無しに関わらずコチラの方が数段上か。無策でやり合えば手痛い反撃を喰らっていても可笑しくはない。

 しかし、あくまでそれは複数同時に相手をしたらの話。片割れの動きは確実に鈍らせ、同時に相手をせずに済む以上、そう長く時間を掛ける心算は無い。


「グルギャアアア!」


 手入れはしているのだろう。鈍く輝く刃を閃かせ、残りの一体がコチラに向かって襲い来る。一撃を見舞った後の隙を狙ったつもりか、そうであるならまだまだ甘い。


 剣を振り上げた姿勢のまま、腕を身体に巻き付け腰を捻る。ずれた重心そのままに、右足を踏み込めば重さに傾いだ切っ先は、ゴブリンの胸に届かんばかりにしなだれる。

 咄嗟に翳された剣を折り、重くのし掛かる様にゴブリンへと突き込まれた刀身は、その臓腑をくり貫き強かに石畳へと突き立った。


 多少目標からは外れたが、それでもこの傷、出血量、ゴブリンの生命は風前の灯である。

 それを向こうも理解したのだろう。役には立たぬ柄を投げ捨て、両手で突き立つ剣を掻き抱く。

 己が命を捨てても怨敵へ一矢報いんとするその姿、実に天晴れ。だが甘い。


 背後から迫るのは大口開けた片割れのゴブリン。喪った両腕に見切りをつけて、残った牙で抗おうと言うのだろうが、そうは問屋が卸さない。


 突き立つ剣に全体重を掛けるように、左手一本で身体を押し出す。

 ふらりと傾いだそのままに、一切重力に抗わぬ様に流れた身体は背後に迫るゴブリンへ、しなだれかかる様にしてその人中へと強かに肘鉄を押し込んだのだ。

 

 攻め気に逸ったゴブリンに、その激痛を堪える術はなく。大きく開いたその口の端、申し訳程度に掛けられた指二本で容易く地面に引き倒され、挙げ句痛みに開いたその喉首を右の踵で押し潰された。

 振り上げた右足は鎧の見た目不相応に軽く、特段攻撃的な装飾の類いが有るわけでもない。しかし、マナ結晶は籠められた魔力の総量に応じて硬く頑強になる特性がある。

 まして曲がりなりにも男性の全体重を乗せた踏み込み、ゴブリン程度の喉首に耐えきれる重さではない。


 手早く始末した二匹を尻目に、インベントリから剣を引き抜き次なる獲物目掛けて駆け抜ける。


 横目で見ればジャンクはうまい具合に盾を用いてゴブリンの攻撃を捌き、そのゴブリンの身体をチーフの攻撃との間に挟み込む様に往なしては、致命的な一打を受けぬように立ち回っている。

 決して回復まかせなだけではない、熟練の戦士としてのその動き。惜しむらくはその経験に当人の身体能力が追い付いていない事だろう。

 あれが所謂『プロゲーマー』か。基礎の熟達、技術の応用、どれをとっても一級品だが、些か当人の想定レベルが高すぎる。あれでは早晩スタミナ切れで沈むに違いない。


 それに対して旅鴉の立ち回りの如才なさよ。初撃こそ一気呵成に押し込んでおきながら、その後は四肢の末端を狙いつつ、隙あらば急所を狙うスタイルで上手い事二体のゴブリンを押し留めている。

 ゴブリン共の動きを見るに多少は無理押ししたい様子だが、それをした途端初撃の様な擲弾の嵐が襲い掛かる事間違いなく。そうなれば彼らの身命は風前の灯火、それを考えれば今こうして膠着状態に持ち込んでいるのは十分仕事をしていると言えなくもない。

 

 実際自分がやられていれば、コチラの想定した作戦でコチラ側がやられる事になっていたのだから、あれらの考え行動は決して悪手ではないのだ。

 悪手であったのはコチラ側の二体がやられて直ぐに、後衛目掛けて神風特攻しなかった事くらい。せめて攻撃のリソース削りくらいはして逝ったら良かろう物を。


「横槍失礼仕る!」

「いえいえ。下拵えは済みましたので、後はご随意に」


 迫る自分の姿に動揺した所を、更に急所への投げ矢によって揺さぶられ。良い所無しのままに沈んだ二体。

 残るは戦士殿の相手取るチーフと取り巻き一体きり、慎重にされど大胆に。手早く畳んでしまおうか。

 

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