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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第三章 それは初めてのお祭り騒ぎ
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第三十六話 和気藹々と茶番劇


 紆余曲折を経て漸く探索の下準備を終えた我らは遂に古ぼけたドアの向こう、暗闇に包まれた迷宮へと脚を踏み入れたのである。


「?おい、どうして直ぐに引っ込んだ。何か罠でもあったのか?」

「いや、何も無いのを再確認していただけですよ」


 紆余曲折がありつつも、遂に踏み入れたのである!



 そんな茶番は置いておいて、潜り抜けたドアの向こうは想像通りの別世界。或いは薄暗い地下迷宮を模したようなこの装いは、大方の想像通りの結果と言う事も出来得るか。

 何れにせよ、隊列を組んだ自分たちの目の前に広がっていたのは、果ての見えぬ迷宮の入り口であった。


「取り決め通り直進中は先行しつつ、曲がり角で一旦合流まで待機してますね」

「頼むぞ。出来れば最初の敵は全員で当たりたいからな」


 レンガ造りの狭苦しい通路の中、壁の両側に掲げられた松明が不気味に揺らめく影を映し出している。しかし等間隔に明かりがあるのは痛し痒しだ、いくら進めど目は暗闇に慣れないし些細な異変も影の中に隠せてしまう。これならまだ真っ暗闇の中の方がマシだとも。


 コツコツと、一度足音を立ててみる。不自然な響きは特に聞こえず、想像通りの迷宮と見てもいいだろう。魔眼にも現状変化は起きていないので、今の所は何の変哲もない通路の様だ。


 暫く先に進んだものの、これと言った変化は無いまま今回最初の曲がり角へと突き当たる。二又の道とはまたご丁寧に。こそっと先を確認し、後は後続を待つばかり。

 何時でも剣は引き抜けるように構えていても一向に変化のないまま時間は過ぎ、退屈に押し殺されそうになった頃、漸く向こうの方から押し殺した話し声が聞こえて来た。


 ゆっくりと二度床を叩くと共に、パーティーチャットで咳ばらいを一つ。取り決め通りの合図に反応したのだろう、向こうの話し声も止まりややあって大柄な影が姿を見せる。


「成程な、ここで分かれ道か」


 それは鉄枠の盾を構え鎧に身を包んだ戦士殿の姿、少しして見えてきたのは小さめな二つの影と一つの長い影。言わずもがな呪術師ちゃんと大魔道士君、そして吟遊詩人の彼の物だ。

 それにしても、おっかなびっくりな少年少女の初々しさと、落ち着き払った男共の対比とは実に絵になる構図である。ここだけでもなかなかの撮れ高具合だろう、あとでサムネにしていいか聞かねば。

 

「どちらに向かいましょうか。今の所情報は皆無の為、どっちに進んでも大差はないと思いますが」


 ここでバシッと新情報の一つや二つ、出すことが出来れば恰好も付いたのだろうが。無い袖は振れないのだ、仕方がない。


「敵が出そうな方って言っても分からねえか」

「それが分かれば苦労はしませんね」


 無茶を言うものだ。今の状態でそれが分かるなら、斥候など必要ないでは無いか。

 

 だが、まあ、そう言われるならば。


「それなら、左の方にそれらしい気配が。何となく、ですけどね」


 昔から、この手の勘を外した事は無いのだ。この世界であってもそれなりの確度は保証しよう。


「……情報は、無いんじゃなかったのか?」

「ええ、そうですね。……何も無くとも、敵が居るかは判りますよ。何となくで良いなら、ですけどね」


 苦虫を噛み潰したような顔をして、重く一度頷いたきり黙ってしまった戦士殿。そんな空気を嫌った訳では無いのだろうが、会話が途切れる寸前の、絶妙なタイミングで大魔道士君が話の中に割り込んで来た。


「どうやっているんだ、その『勘』とやらは。もしや、魔法を用いていたりするのか?」


 驚くほど目を爛々と輝かせ隊列も無視して突っ込んできたが、さっきは君、戦闘に巻き込まれたくなかった様な口ぶりだったろうに。何時宗旨替えなどしたのだろうか。

 それは兎も角むんずと掴まれた服の裾が、どうにも離れる気が無い事を証明しているようにしか思えないのだが、一体何時の間に掴まれたのやら。動きは捉えていた筈なのだが、まさかそれこそ魔法の類いを用いられたのか。

 これが素の実力だと言われたら、それこそいよいよ以って彼が大成する未来以外、見えなくなってしまうと云うに。


「本当に勘なので原理については不明ですが、一説によると『君は空気中に散布されている魔力濃度に対して反応しているのかも知れないねぇ。より強大な敵を見出すために、より脅威度の高い敵を見逃さない様に。そうあって欲しい誰かが、そうなるよう願ったのかも知れないよぉ』との事です」

 

「…………説って何だ、説って」


 ぼそりと呟かれた言葉は、はて、一体誰のモノだったのか。


「まあ、無意識の内に魔力を辿って敵を見つけているのでしょう。実際無視して進んだ場合、敵を見つける確率は低めですが、勘に従うと十中八九見つかるので」


 取り敢えず、言うべき事だけは言っておこう。それにどちらでも構わないのだ、どうせいずれは見つかる物、早いか遅いかの違いでしかない。


「なら左に向かうぞ。……敵が居たら、二体までならその場でこちらが合流するまで待機してくれ。それ以上なら一旦戻って来て作戦会議だ」

「了解です。それでは先行しますね」


 ふむ、及第点といった所か。出来れば威力偵察からの殲滅も視野に入れて欲しいのだが、先ずはこのパーティーの練度や連携を確かめたいのだろうから仕方がない。


 そうして進んだ左の道は、一見先程までと何ら違いが無いようでいて、その実些細な違いが散りばめられていた。

 

 敢えてなのだろう、松明の灯りが高めの位置に配置され、壁の色調自体も前の通路より暗めの配色となっている。

 足元の石畳も起伏が激しくなっているように感じるが、そこまでいくと流石に被害妄想の部類に入るだろうか。


 何れにしろここで魔物と出会した場合、新兵だけで組ませた小隊ならば、手酷い損害を被ること間違いなしだ。


 そんな内心の考えが通じた訳ではなかろうが、進んだ先の暗がりにぼんやりと光る瞳が浮かび上がる。


 その数()()、多少の高低があるのは背の違いを示しているのだろう。かつてと違い何を話しているのかは判らないが、笑いの調子を鑑みるに大した違いもない筈だ。


 それにしても、背を屈め影に紛れるようにして進むだけで感知出来ないとは、流石は雑魚の代名詞『小鬼(ゴブリン)』と言えよう。群れているだけで警戒のけの字も感じられない体たらく、手に持つ武器も光を反射しない程錆びれ果て、端から見れば遊んでいるだけとしか思えない。


 或いは、彼らは本当に遊び気分なだけなのかも知れない。

 怠惰で無精な彼らを統率出来るような、そんな強大な存在が居なければ、小鬼など多少知恵の回る害獣と大差ないのだから。


 この程度の代物相手に背を向けるのも業腹だが、暫定リーダーの御達しだ。一度戻って作戦会議と参ろうでは無いか。

 


 行きはよいよい帰りは――等と言うが、あいつらが相手では帰りの方が余程楽な物。警戒心の欠片も持たないあいつらは、耳から仕入れる情報の十割を何処か別の場所に放っているのだから、多少足音を立てた程度で気付かれる事など起こりはしない。向こうであれば、別だったのだが。

 

 揺らぐ松明の灯りを避ける様にして来た道を戻る事暫し、遠目にぼんやりとした明かりが一つ浮かび上がる。少し低めの位置でゆらゆらと不規則に揺れるあの明かり方。


「『角灯(カンテラ)』ですか、随分と用意の良い人が居たんですね」


 声を掛けると同時に人影がビクついた気がしたが、一体どうしたと言うのだろうか。


「あまりこっちを脅かすなよ。お前は慣れているのかも知れないが、こっちは初めての環境にビクついているんだからな」


 大仰に肩を竦めながら戦士殿はそう宣うが、少なくともそれなりに死線を潜った経験のある御仁だろうに。後ろで意味深に笑っている吟遊詩人も怪しいが、少なくとも対人戦の経験は、戦士殿がこの四人の中では抜きん出ている筈だ。


「この先にゴブリンが四匹、武器を持って屯していましたよ」


 それは兎も角報告だけは迅速に。報連相の出来ない斥候程、無能な味方も居やしないのだから。


「四体か、微妙な数だな」


 戦士殿が頭を抱えるのも無理はない。たかが小鬼の四匹程度、多少なりとも腕に覚えがあるのであれば、容易く屠れる程度の相手。わざわざ連携の確認の為に相手するまでもない。

 

「出来てコチラは手出し控えめの上、ジャンク殿にヘイトを集めての立ち回りの確認程度でしょうか」


 まあ新兵揃いのこのパーティーには丁度良い位の相手だろう。それにこういった小柄な相手と組み合うのは、手練れであっても不覚を取らないとは限らぬ状況。一度全体の基礎を見直すと考えれば、浪費してしまうであろう時間も必要経費の部類と言えるかもしれない。


「……その場合、アタッカーが居ない気がするが?」

「モーラス君、乱戦かつ室内で使用可能な呪文の持ち合わせはありますか?あるならモーラス君を、無ければシャティさんの毒を主軸として立ち回れば良いかと」


 別段どちらでも問題は無い。場合によってはコチラも注意を惹き付ける位はしても良いが、そこまでせずとも十分対処は出来るだろう。


「幾つかあるが、余り強力な物ではないぞ?」

「別に問題は有りませんよ?火力が高すぎるよりも、適正な火力を出せるかの方が重要ですからね」

「ふむ、それなら任せたまえ!打って付けの術がある!」


 ならばこのまま話を進めてしまって構わんだろうか。

 ちらりと視線を戦士殿へと向けてみると、苦い顔をした彼はコチラを見て頷きを返した。


「取り敢えず、一回見せて貰っても良いか」

「ふむ、良かろう。……刮目せよっ、これが我が魔道の神髄であるっ!」


 大魔道士殿の自信満々な言葉とは裏腹に、彼が繰り出したのは手の平に収まるサイズの小さな火の玉。それが複数、まるで蛍のようにフワフワとあらぬ方へと飛んで行く。


「これが『妖精の火(フェアリーファイア)』!直接的なダメージは低いが、命中した対象を暫くの間、魔法の光で照らし出すのだ!」


 成程、確かに乱戦の中で敵の位置を把握するにはもってこいの呪文だ。おまけにこの光、隠蔽効果も打ち消すというオマケ付きだと言うのだから、地味ながらも状況によっては非常に有効な一手となる事間違いない。話の調子さえ普通であれば、今すぐにでも大魔道士として認められても可笑しくは無いだろうに、全く以って今一つ惜しい御仁である。


「思った以上に凄い物が飛び出てきたな、これなら十分だろ。……初めに俺が挑発するからその後シャティがデバフを、モーラスは今の奴を頼む。旅鴉の支援はヘイトを余り稼がない奴を先に、その後は様子を見ながらそっちで判断してくれ。……アスラは、取り敢えずヘイト稼がないように立ち回ってくれ」


 随分と、また扱いに困ったような物の言い方だがそれならそれで構うまい。

 一旦は見に回らせて貰うとしよう。

 

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