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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第二章 それはささやかな一歩
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第三十二話 一件落着?


「まあ落ち着いて下さいよ。お相子って事で良いじゃないですか、ね、全部水に流しましょ」

「チッ、仕方ねえからそうしてやるよ」


 上目遣いと言えば聞こえは良いが、甘さの一欠片もない殺気ばかりの眼光を向けられてはそんな悠長な事も言っては居られず。

 さりとて向こうの失態が原因ではあるし、この場で角突き合わせてどうこうする意味もない以上、じゃれあい程度のやり取りにしかなりはしない。


 そのくらいには互いに胸襟を開けたし、それ以上踏み込めない程度には壁もある。

 ここで終わるのが寂しい程度には名残惜しさも感じるが、これ以上付き合っていたら知る事が、知られる事が嫌になることもあるのだろうから、今別れるくらいが丁度良いのだろう。


「……改めて、扉にも奥の部屋にも罠の類いは無さそうだな」

「コチラの魔眼にも特にそれらしき反応は有りませんね」


 ゆっくりと周囲を確認し、安全を確かめてから二人して部屋の中へと踏み込んでいく。さっきそれをしていれば無駄な話をせずに済んだのだが、今さら遅いと言うこともあるまい。


 そうして踏み込んだ先の部屋、質素な扉のその向こうにはやはりと言うかなんと言うか、同じように簡素な棚の並んだ部屋があった。

 道中入った倉庫よりませせこましい室内には申し訳程度の備品が置かれ、最低限の作業が行えるだけの作業机が隅の方に押しやられている。


 床がごみで溢れ返っているような事が無いだけ上等だろうと、無意味な擁護をしたくなる程度には生活感も使用感も皆無なその部屋の中央に、しかしてこれ見よがしに据え付けられた高級そうな機材があった。


「あれが、お宝ですかね」

「そうだと思いたいな。ここまで来て無報酬じゃあ、流石に文句の一つも言わなきゃなぁ」


 そう言いあいながら互いの出方を探る自分とウッドワス。

 ここまできて罠では無いのだろうが、されど得体の知れぬ物品に不用心に手を出す訳にも行かず二人してまごついていると、不意に機材が稼働する様な音を立てだし微動し出すではないか。


「ちょ、チョット何したんですか!」

「お、お前さんの魔眼じゃないのかっ、俺は何もしとらんぞ!」


 まあこれがボスの討伐報酬の類いなら、ある程度は自動で動いても不思議では無いのだが、それはそれとして目の前でやられると心臓に悪い演出この上ない。もしも何かしらの収穫あってのこの展開なら、最悪回れ右して全力ダッシュも辞さないだろう。


 逃げたくとも逃げられないこの展開、次があったら何としても運営に文句を言ってやらねばなるまい。

 そう思いながら必死になって二人でその場に立ち竦んでいると、不吉な煙と共に幾つかの光るボールが吐き出し口から勢いよく排出されてくるでは無いか。

 咄嗟に受け止めたから良い物を、もしも後逸した結果壁にでも当たったらどうなっていたのだろう。想像したくもない結果しか浮かばないのでそれ以上考える気は無いのだが、道中の進め方やボスの討伐方法以外で報酬が減る事はあり得るのだろうか。それ以上は言葉にしないが。


「おいっ!手荒に扱うな!爆発でもしたらどうする」

「左手一本しか無いんだから、この位は大目に見て下さい。それに、危ない物では無いようですよ。……少なくとも、今の内は」


 白く光り輝く五つのボール。大きさも重さもすべてが同一のこの物体、触れた事で開示された名称も全く以って同じ物だったのだ。


「まさかとは思うが、こいつが『発掘品』か!」


 ふんだくるようにしてその内の一つを強奪したウッドワスだが、いくら興奮していると言ってももう少しやり様があったのではなかろうか。右腕があったら切り捨てていても可笑しくは無かったぞ。


「ああ、いや、済まんかったな。返すぞ」


 殊更睨み付けた心算なんぞは無かったが、自らの行動に感じ入る所は有ったのだろう。

 素直に謝罪をすると共にコチラにボールを差し出してはきたのだが、とはいえ今の自分には持てないので、それに関してはもうそのまま持っていて欲しい位のものだ。


「じゃあ、それはそちらの取り分と言う事で。残りの配分を考えましょうか」


 合計五つの光る『発掘品』、奇数なのは意図した物か偶然か。これが運営の想定通りの報酬ならば、大幅な定員割れで攻略できたのは運が良かったと言う他あるまい。

 無論、出た物を返すような行儀の良さとは自分もウッドワスも無縁であるからして、ありがたく頂戴するのだが。


 既に一個はウッドワスの物として、残りの四個をどのようにして分けるのか、それが最大の問題だ。


「因みにだがアスラ、これの『アイテム化』の手法は何なんだ」

「この子たちは、太陽の光を浴びせるだけで良いようです。……この機械自体が長期保存用のフリージングパックのような代物の様で、その解凍方法が日光に当てる事だとか。ここの研究内容はさっぱり分かりませんね」


 巨大ロボットと長期保存技術、技術系統として見るならば統一感が無さ過ぎるだろう。こんな所で何が研究されていたのか、深堀すれば色々な情報が出て来そうな物だが、生憎そこまで昔の事を正確に観測できるほど自分の魔眼の性能は高くない。或いは『ルーン』に対する熟練度が上っていれば話は違っていたのかもしれないが、今言った所で詮無き事だ。


「なるほど、ならここで中身を見る訳には行かねえのか」

「そうなりますね、なので」

「恨みっこ無しで、互いの持ち物には不干渉と行こうじゃねえか」


 安牌はそこら辺のラインだろう。下手に中身が分かってしまえば、そこから諍いに発展する可能性が無きにしも非ず。後腐れない方が互いにすっきりと別れられるし、無用な感傷を抱かずに済むという物だ。


「取り敢えず、俺が二個のお前さんが三個で良いか?」

「ええそれで良いかと。選び方はどうします?」

「お前さんが三個選んで、俺は残りの一個とこの一個で良いんじゃないか。どうせ中身は分からんのだ、何を選んだ所で違いはあるまい」


 まあそうなるだろうな。これが直ぐに中身が分かると言うなら話は別だが、何時開封できるかも分からない以上無駄にこだわっても仕方のない事。

 ささっと三つを選んでインベントリの中へと入れる。触れてさえいれば収納可能なのは随分と助かる機能な事だ、これが動作も必要と言われたら随分と面倒な事になっていたに違いない。


「補足ですが、直に太陽光を当てないといけないので外に出たらインベントリから出してくださいね。それとこの機械、かなり大型の物に対しても使用できたようなので、開封時には周囲に注意してください」

「おっかない事をいきなり言うな、お前さん。……外でインベントリから出したら、その瞬間に潰されたりしないか?」

「……流石に、そこまでの危険物は入っていないんじゃないですかね。デストラップにも程があるでしょ、それは」


 無いと、無いと思いたい所だ。長期保存が主目的なので大型の家財が入っている可能性は無いと思うが、逆に後世へ残したい遺物の類いが混ざって無いとまでは断言できないのが恐ろしい所。ゲームのコンセプト的にも、前史文明の崩壊理由如何によっても、情報の保全と簡易な伝達手段として見れば全然あり得る選択肢なのが猶更怖気を掻き立てる。


「最悪、屋内で出して、野外に転がすようにすれば大丈夫な筈。保護機能もあるのでその位では中の物も壊れませんし、それで逆さまになって出てくる事も無いようですし」


 裏を返せば上下の位置情報の固定機能なんぞ、そのような使用法を想定していなければ付けない様な機能がある辺り確信犯の類いかも知れない。尤も出てくる物が丸い球なので上下の判別が付きにくいのは有るのだが、それでも上下の向きを示す印の一つでも入れておけば良いだけの話。これを作った人物は、相当性根が捻じくれ曲がった人だったに違いない。


「そうか、それならまあ、良いのか?…………それよりだ、ここからどうやって脱出する?」


 無理矢理言い聞かせた風なのは恐らく自分の思い違いだろう、その証拠に彼の目は次の難問へと既に向かっているのだから。


 そう、地下深くまで降りてきた自分たちが地上に出るためには、それと同じだけの高さをこれから登り詰めねばならぬのだ。

 はっきり言ってかなりの難行と言えるだろう。


 ()()()()()()()()()()()()、の話だが。


「あの機械、あれはワープゲート的な物と思って良いんだよな」


 そう言うウッドワスの目線の先には厳しい構えの大きな門柱が数本、部屋の隅の方にどんと聳え立っているではないか。

 そこに繋がれた各種機材の点滅するランプを見るに、未だ動力源には繋げられ、何時でも使用可能な様子に見える。


 それはそれとして、これ見よがしに配置されたスイッチの色が()種類あるのは何故か。

 まさかとは思うがここは元々資料室なんかでは無かったのではなかろうか、上にある施設自体後付けの類いであったとするなら、ここはかなりの厄ネタに違いない。


「……解る範囲で答えますと、どちらのスイッチを押しても外には繋がる様ですね。その先に関しては、何も書いていないので判断のしようがありません」

「そこに関しては仕方ないだろ。……最悪の話、ゲートの向こう側が破壊されてて使用不可って可能性だってあり得たんだ、通じてるだけありがたいと思うべきだろ」


 まあ、向かう先が分からないのも問題だが、最大の問題は別にある。


「それよりも、ですよ。……あれ、明らかに()()()のスペースしかありませんよね?」

「応、そうだな。……ついでに言えば、残りのエネルギー残量っぽいゲージを見るに、どれも使用できるのは一回こっきりって感じか?」


 三種類のスイッチが有るのだから三回までは使用可能なのだろうが、パーティーで来ていたらここで強制分断とはいかなる罠なのか。最悪残りの人員は徒歩で帰らなくてはならないのだろうかと疑問が過る。


「まあ何だ、恨みっこ無しで丁度良いじゃねえか。……俺はこの赤いボタンにするが、お前さんはどうする?」


 さっぱりと、何も気負う事はないと言いたげにコチラを見ながら話しているが、それで何故赤色を選ぶのか。一番危険そうな色だろうに。


「コチラを気遣っているんですか?」

「バカ言え、これは投資だよ。さらなる財宝を手にする為のな」


 あっけらかんとそう言う彼の横顔に、翳りの色は欠片も見ない。

 だとすれば一から十まで本心からの言葉という事になるのだが、このおっさんは若人を口説き落として何がしたいのか。


「それなら僕はこの青を。……それと、別れる前に、フレンド登録しませんか?」

「何でフレ登録くらいでそんな腰が引けてるんだ。お前さん、さては友人少ないな」


 からからと笑いながらも手を上げてくれたのは優しさなのか憐みなのか、何れにしろ振り上げた手は下ろせんぞ。

 心地の良い乾いた音を立てたハイタッチ。少しばかり屈んだコチラに心なしか背伸びしたウッドワスと云う絵面には、どこか可笑しさを感じはするが、それもまたご愛嬌と言うべき物だろう。


 そのまま言葉を交わすでもなく一足先にゲートの向こうへその姿を消したウッドワスだが、予想通りゲートが閉じると共にスイッチの色は暗色へと変わり、文字盤らしき部分に数字の羅列が出現する。

 この数字の減りを見るに時間を掛ければ同じスイッチを使用する事も出来そうだが、その場合はここで()()は待つ必要がありそうなペース。やはり強制分断と見ていいようだ。

 そうなると隣の黄色も気にはなるが、まあここは安牌と思われる青色のスイッチでいいだろう。これでイベントに間に合わなかったらこれまでの苦労もすべて水の泡なのだから、冒険なんぞするべきではない。


 ゲートを潜り抜けるその最中、気紛れに振り返っては見たものの、視界は極彩色のヴェールに包まれ何も見えることは無く。

 余りの光につい目を瞑ると、次の瞬間には鼻孔を擽る爽やかな風の香りが吹き付けてくる。


 目を開ければ広がるのは一面の緑、仰げばそこには青色が。

 こうして漸く、自分は地下の牢獄より帰還する事に成功したのであった。

 

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