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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第二章 それはささやかな一歩
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第三十話 収束砲は何時の世もロマン


 気合を入れ直したのは良いものの、未だ緑の巨人は手に持つ機関銃を乱射していて近付くだけでも一苦労な事には変わりない。

 ウッドワスの方にはヘイトが向いていないのが救いだが、コチラの方も何時までも逃げ続けられる訳でもない以上、そろそろアクションの一つでも起こさなくてはならないだろう。


「さて、新技のお披露目には些か荷が重い場面ではありますが、ここらで一仕事していただきましょうか!」


 砲弾の雨を掻い潜りながら詠唱するのは使い慣れた土魔術ではなく、先刻覚えたばかりの『初級雷撃魔術』の方。慣れぬ詠唱故につっかえつっかえなそれは、規定の時間の倍近くを掛けて放たれた。


「これでも食らえ、『ショック』!」


 初級の名に恥じぬ地味で控えめなエフェクト、効果もエフェクト同様実に細やかで詰まらない物だ。だが、タイミングさえ見計らえば、この呪文以上の効果を発揮できる代物は少ないはずだ。

 

 その効果は単純明快、指定した対象にごく短時間の麻痺状態を発生させるだけ。

 それ以上でもそれ以下でもないが、それこそ攻撃動作の途中に挟み込むことが出来れば最高の結果を導き出せることだろう。


 目論見の通りに効果を発揮してくれた呪文のお蔭で、煩いくらいに泣き喚いていた砲火も今はしんと静まり返って停止している。好機といえば好機なのだろうが、向こうからの合図が来ていない以上止めに至るにはまだ遠い。


 とは言え直接的には止めに至らずとも出来る事なら幾らでもある。

 駆け寄りざまの軽い一閃。コチラへ向けられた砲口への斬撃は、手傷を負わせるには至らずとも銃撃のタイミングをずらすには十分な一撃。これで即座にどうなると云う訳では無いが、少なくとも先の『ショック』と合わせて十分な量のヘイトは稼げた筈だ。

 出来ればこのまま巨人の後方へと回り込みたい所なのだが、それで向きを変える手間を惜しまれてウッドワスが狙われては本末転倒。ここは今暫くわざとらしく巨人の眼の前で無様なダンスを踊ることに終始していようではないか。


 早くも三代目となった剣を片手に機を伺うが如く、これ見よがしに巨人の射線に絶妙に被らぬ位置取りを意識し歩を進める。

 一息に距離を詰めて剣を振っては付かず離れずの位置取りを保ち、時には砲口の前に身を晒して攻撃を誘う。

 

 そんないみじくも涙ぐましい自分の努力はそれから数分の時を経て、ようやく実を結ぶ事となったのである。


「よし!こっちの準備は整ったぞ、次の装填の隙に撃つ!」


 そんな待ちに待ったウッドワスからの合図、それを契機に良くも悪くも戦況は一変したのである。



 最早幾度振ったかも分からぬ程に振るった剣が遂に根本から折れたのと同時、少しずつ削れていった巨人のHPが七割を割った瞬間に、分厚い装甲の隙間から蒸気を噴出させながら巨人が立ち上がって走り始めたのだ。

 


 驚天動地とはまさにこの事か。狙いを付けようとしていたウッドワスも、位置取りを計算しながら仕留める機会を伺っていた自分も咄嗟の事に対処できず。気付いた時には後の祭り、幾許かの距離を取った巨人は今まさに腰元から胡乱気な筒を取り出して、放り投げようとしている所であった。

 巨人の元ネタを考えれば実に宜しくない展開であり、ここから挽回できるかどうかも分からない程絶望的な状況である。あんな物十中八九手榴弾の類いに違いなく、この体積比率でそんな物が炸裂した場合飛んでくるのは拳大の破片では済まない。文字通りの一撃必殺、それも運ゲーの類いが始まってしまう。

 こんな時こそ役立って欲しい『ショック』の呪文はクルールタイムが回り切っておらず使えないが、使えたとしても最早間に合わないだろう。


 ウッドワスの方は如何にか遮蔽を活かして生き残って貰う事にワンチャン掛けたとて、今のままではコチラはどうしようもなさそうだ。こんな所でゲームオーバーとは、全く以ってついていない。



 まあ、諦める気はさらさら無いが。



 刀身へと魔力を宿すその要領で、全身を覆うマナの鎧を形作る。補助具にあたる鎧も無しにこの形態を展開するのは初めてだが、誰しも最初は初心者から始める以上、ぶっつけ本番であったとしても何ら問題は無い筈だ。


 心中から沸き上がる鉄錆色の魔力。かつての輝きなど見る影もなく無様に色褪せたその様は、正に今の自分の心境をつまびらかにされている様で落ち着かない所があるが、さりとて如何に鈍ろうとも自らの命を預け続けていたこの技を、今さら失敗などする筈もなし。

 

 身体を包む淡い燐光が俄にくっきりとした輪郭を描き出し、瞬く間に全身に鎧を身に纏う。

 久方振りに帷子を着込んだが、随分と重く感じる物だ。マナで編まれたこの甲冑に重さなど、在って無きが如しであったと云うにすっかりと衰えてしまったらしい。或いは纏う鉄錆の色の如く、今の己の心境が関係しているのかも知れないが。

 出来ればこのまま盾の方も形成したかった所なのだが、生憎そこまで魔力を回せる余裕もなく。不格好な鉄剣一つを伴としてここから先へ参ろうか。


『そのまま攻撃の準備を、礫の類いは一つたりとも通しはしません』


 手早く告げながら一足飛びにウッドワスの前へと躍り出る。『無銘』とは言え身体強化の粋を凝らした珠玉の術式、今までの強化が児戯に見える程隔絶したその性能は、これしきの窮地を覆すには十分すぎる程の代物だ。

 そうしてウッドワスを庇うようにして剣を構え直した次の瞬間、中空にて炸裂した手榴弾が四方八方へと鋭い破片を撒き散らす。『無銘』により強化された動体視力と反射神経があってなお、剣一本では捌き切れない程の速度と物量が襲い来る。


 眼にも留まらぬ剣閃が、縦横無尽に空を裂く。

 真後ろに通る起動の弾こそ剣身で弾いて逸らしているが、流石に剣一本では手も回らず。威勢の良い啖呵とは裏腹に瞬く間に後手へと回らされ、無理矢理鎧を当ててどうにかこうにか凌いでいる始末。


 直撃こそ避けてはいるが、鉄錆色の鎧はあっという間にズタボロの貧相な有り様へと変貌してしまっていた。


 巨人の攻撃から一秒足らず、それも向こうからしたらジャブの様な攻撃でここまで追い込まれてしまうとは、衰えとは実に恐ろしい物だ。

 されど無傷とは言えずとも、凌いだ事には変わりなし。今更振り返らずとも背後から感じる魔力の高まりが、向こうの準備は疾うに出来ている事を知らせてくる。


「良くは分からんが、撃っていいんだな!」

『何時でも、コチラの準備は出来ています』


 返答の直後、間髪入れずに撃ち放たれた一つの火球が彗星の如く青白い尾を引いて飛翔する。

 まるで逆再生のフィルムを見ているかのように、地上から宙目掛けて駆け登る星が空を一筋に切り裂くと同時、視界を白く染め上げる程の高熱と閃光が戦場一帯を包み込む。

 

 爆風が一瞬にして煙を吹き飛ばしたその先には、無惨に装甲をひしゃげさせた巨人の姿が一つ、ぽつねんと傾いで立っていた。

 余程の衝撃だったのだろう。直撃を受けたと思われる胸部装甲のみならず、胴部や肩部を覆っていた装甲の殆どが剥離し中のパーツが剝き出しになっているのが、離れたコチラからでも良く見える。


 よくもまあこんな代物を只人の身で振るえた物だ。どのような対価を捧げればこれに比するだけの火力を今の自分が出せるのか、いくら考えを巡らせようと答えの一つも出て来やしない。

 だが、注文通りの結果なのだ。文句なんぞを付ける前に、自分のやるべき仕事をしよう。


 幾度振るったかも分からぬ程に付き合ってくれた数打ちの鉄剣、マナによる汚染は疾うに済み、刀身を形成する鉄錆色も心なしか澄んだ色合いに変化している気がしないでもない。疑似マナ結晶へと変じさせた魔剣擬きを大上段に構え砲身と見立て、『無銘』を形成するマナを還元、燃料としてその中へと注ぎ込む。

 螺旋を描く様に圧縮しながら注ぎ込まれる高密度のエーテルが、周囲の魔力を吸い込むことで刀身目掛けて空気が渦を巻いて取り込まれて行く。本来あり得ない筈の物理現象に干渉する程の濃密なエーテルが、可視光すらをも歪ませて照準の向こうに見える巨人の姿を酷く歪な影へと変え、遂には体内の魔力にすら干渉し急遷移を引き起こし身体の各所からマナ結晶が漏出しだす。


 出来ればもう少し威力を収束させたかったのだが仕方がない、流石にこれ以上は暴発の危険も高まって来るし、そも、そろそろ痛みで意識が飛びそうだ。


『――――――――!』


 全力で退避と叫んだが、さて向こうには聞こえただろうか。自分の耳が馬鹿になっているだけだと信じたいが、まあここまでの規模の破壊だ、疾うに逃げうせている事だろう。


 構えた剣を振るでも無く、ただコルクの栓を抜く様に、籠めていた力を抜き放つ。瞬間全身へと負荷が圧し掛かると共に、意識が飛んだかと思うほどに何も感じなくなる。数拍を置いて襲い来るは情報の洪水、轟音と閃光と衝撃と痛みとetc.etc.……一瞬の内に電気信号を詰め込まれ過ぎた脳漿が、安全の為に一時的にブレーカーを落としたと悟るのはいつも決まってすべての事が済んだ後。


 不気味に明滅する視界の中、散々に吹き飛ばされた広い室内の惨状と、至る所に残骸を吹き飛ばした緑の巨人の骸が転がる。


「……散々だけど、勝ったって事で、良し」


 ()()()()()()()を庇いつつも重力には抗えず前のめりに倒れ込む。出来れば治療したい所だが、生憎と視界の端にチラつくのは滑らかな断面を見せる、肩から先に()()()結晶。ご丁寧にステータス欄にも治療不可の文言と共に数えきれない程のバッドステータスが付いている。


 取り敢えず、急務は無くなった右足の代わりを求める所からだろうか。半分きりの視界の中で、速足にコチラへと向かってくるウッドワスの姿を見ながらそう益体も無い考えに耽るのであった。

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