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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第二章 それはささやかな一歩
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第二十四話 苛烈なる中ボス戦


 耳障りな囀りが鼓膜を振るわせるより早く、振り切られた自分の腕が破裂音を発し、その次いでとばかりに壊れた機械部品が宙に舞い飛ぶ。

 目に優しくない赤色灯が唸りを上げて見境も無く辺りを照らし、心臓に悪い警告音が大音声で胃の腑を揺さぶりに係る中、無機質な灰色と白のツートンカラーに包まれた室内で自分は無数の敵に囲われながらの戦闘を演じていたのであった。


 今しがた破壊したばかりの敵機を捨て置き徐に周囲を睥睨する。目に映る敵影はその数六機、その内二機はコチラを狙える位置に居ないので一旦考慮から除外しても良いだろう。なので残る四機の射線を見つつ、そこから身体を外しつつ手近な敵機に接近できるルートを探せれば良いだけ。これで大容量のドラムマガジン搭載ですと言われれば流石に一旦逃げに回るしかないのだが、精々が六発装填それも単射では弾幕と言うには心許ない代物にしかなり得ず、単純に射撃の合間に身を寄せるだけで事足りてしまう。


 鋭く突きだした左の貫手、武装の接続部を穿ち内部機構を引き抜いたそのまま次の敵目掛け駆け出していくが、別段これは自分が戦闘狂であるかどうかとは違う次元に位置する話であって、単に敵に囲まれている状況で足を止めるのは自ら死にに行くような物だというそれだけの理由故の行動なのだ。ついでに言えば現状はまだ素手でも対応出来てはいるが、剣があるに越した事はないので早急にそこまで辿り着きたいとの意図もある。

 

 内心この後のルートを考えつつ足早に駆けていくそれだけで、面白いように身体が前へ前へと突き進む。まるで馬にでも乗っているかの様な疾走感だが、それを為しているのが自分の足であると云うのが正にゲームと言った所であろう。勢いに任せてそこらの壁でも走り回って見たい所だが、今はそれよりも需要度の高い案件が幾つもあるのだ。遊びを楽しむのはその後でも良いだろう。

 すり抜けざまに壁から抜き取った剣を逆手でぶら下げつつ、疾走の勢いを助走に変えて後方で遊兵となっていた二機の内の片割れへと一撃を叩き込む。掬い上げる様に放った一撃は、目論見通りに警備ロボットをかち上げて放物線を描きながら重武装の防衛ロボの足元へと転がしていった。


 その後の顛末を語る必要は無いだろう。ただ言える事は、残る敵影は四と一。そろそろ手仕舞いの時間という事だけだ。


 不安定な足元にぐらつく重装は一旦目標から外して置いて、今の内に警備ロボの方をもう一、二体は減らしておきたい所なのだが、急速に減らしすぎたせいで各々の射線が良い具合に開けてしまっているのが頂けない。

 そう考えながら動けば、予想通りに飛んでくる弾幕はコチラの移動ルートに上手く被さるようになっているでは無いか。決して相手の戦術思考がこの短時間で研ぎ澄まされたと云う訳でも無く、単に遮蔽物が減ったから有効弾が増えただけなのだが、その()()が今は余計なのだ。

 そうして手近な一機を狙おうとしたその矢先、重装から飛んできた攻撃には流石に引き下がるしか今の自分にも選択肢は無く、その隙に態勢を立て直された重装の後ろに警備ロボットは隊列を組んで並んでしまう。


 その厄介極まりない光景に舌打ちが心の底から漏れんとしたその時、自分の背に向けて意識の外へと捨てていた声が届いてきたのだ。


「おいアスラ、二発までなら撃てるようになったぞ」


 ちらりと剣を介して後ろを見れば、そこには扉の影に隠れるようにしてコチラを窺うウッドワスの姿があった。感知されない様にとの用心からか頑なに物陰からは出ない様にしているが、それでも精一杯にその小さな身体を伸ばしてコチラに近づこうとしているのがよく分かる。流れ弾と言えど彼にとっては致命傷になり得る威力であるにも関わらず何とかして参戦しようとするその根性、見上げたものと讃ずるべきか意地汚いと唾棄するべきか、実に評定に困るラインの行動である。


「なら、合図出すから後ろの奴等の前に一発撃って、後は流れで『いのちだいじに』」

「『いのちだいじに』な、了解したぞ」


 ここまで潜伏し続けて、おいしい汁だけ吸おうという魂胆は実に狡いが、それでもこの場面で追加の一手を得られたのは棒銀という他ないだろう。元より自分で計算外に置いていたと言われては反論のしようも無いのだが。


 そうして即席の作戦を立てたは良いものの、本格的に参戦してきた重装ロボットの苛烈な攻撃の前に中々切り返しの糸口が掴めず、あちらへこちらへ右往左往を繰り返す内、気が付けば随分と壁際へと詰められてしまっていた物だ。丁度よく敵機の後背に位置する場所にウッドワスが居座っているのだが、問題はコチラが反撃できる態勢に無い事か。

 

 さりとてここで焦って見たとして急に問題が解決する訳でなし、急がず焦らずゆるりと行こうではないか。


 ボスの攻撃に合わせるように掃射される銃撃は少々厄介な物ではあるが、ボスの巨体が邪魔をして満足に射界が取れていないのはコチラにとっては救いと言えよう。ボスが重装備ながら近接戦闘仕様なのも向こうの展開に不利な要素となっているのだが、設計者はそこの所考えて制作しなかったのだろうか。


 そうして餅つきの如きボスの攻撃を回避しつつ、取り巻きの射撃が同士討ちするように動き回っていたその最中、不意に敵機の動きが止まる。思考が瞬時に周囲の状況を探り出そうと奔るその間に、漏れ出すように反射的に口から言葉が転び出たのだ。


「今だ!」


 自らの声に弾かれるようにして瞬時に距離を詰めたその前で、取り巻きの射線を遮るように盛大な爆炎が吹き上がる。それが未だ隠れたままのウッドワスの掌から投射された『ファイアーボール』の呪文の効果であったと、そう気付いたのは吶喊したその後の事で、その瞬間脳裏を過ったのは絶好の機会であると云うその事実一つ。


 思考が回る暇もなく、黒色の煙の中へと一目散に突撃する。向こうのセンサーが熱源感知式である事は道中の様々な事件で判明しているのだ、高々36℃程度の人体の熱、呪文の力で作られたものと言えども炎の中で捉えきれるものではない。


 握り潰さんばかりに鉄剣の柄を力を込めて握りしめ、背を見せる程に大きく、刀身を担ぐように構えを取る。黒一色の右目の視界の中、極彩色に輝く左の視界の中には狙うべき敵機の姿が克明に浮かび上がって見える、ついでにウッドワスの視界からも姿を隠せたのは僥倖という他無いだろう。

 

 右腕を通して刀身に纏わせた鉄錆色の魔力、それをさらに濃縮させて刀身の延長線上にマナの刃を形成し、追加で峰に当たる部分を『礫弾投射(ストーンバレット)』の呪文の効果で加速させる事により、目にも留まらぬ斬撃を繰り出すこの業。

 あえて呼ぶのであれば『魔力撃()()()』とでも称するべきそれを以って、一刀両断、四機のロボットは胴を二つに引き裂かれて崩れ落ちたのである。唖然としたウッドワスの表情が瞼の裏に浮かぶようだ。


 そんな事を思いつつも剣風に吹き散らされた黒煙が晴れ行く中、コチラ目掛けて拳を振り上げる重装の姿がうっすら視界の端に映り咄嗟に回避の姿勢を取るが、良く良く攻撃の向かう方向を見ればその拳の先にはウッドワスの姿があるではないか。


「避けろ!」


 警告が咄嗟に口を衝いては出たが、それで間に合う物だろうか。既に振りかぶられた重装の拳は天井を擦るほどに構えられ、見上げんばかりの大きな背丈を更に巨大な代物に変貌させている。大人の頭一つほどもあるその拳、ましてやそれが総金属製とくれば柔な人体など一溜まりもない。


「問題ない!お前さんは自分の仕事だけ考えとれっ!」


 大見得切って言い張っているが、そちらは盗賊兼業魔法使いなのだろうに、どうやってボスの一撃を防ぐと言うのか。さりとてコチラが今から出来る事もない以上、また、向こうを狙った攻撃の隙がこれ以上ない程の絶好の機会な事も事実であり、成り行きに任せるしか無いのが歯痒いことだ。


 無理筋だろうが彼が一矢報いるその様を、せめてこの目に焼き付けようと見遣る中、彼は逃げるでも避けるでもなく鉄の拳を迎え撃たんと両手を構え、徐に詠唱を始めたのである。確かに相手の図体は、巨大と言っても天井に頭が擦れる事はない程度の巨体であり、拳の大きさもあくまで頭一つ分程度の代物。防ぐ事は不可能では無いだろう。 だがそれも、盾を構えた戦士であればの話であり、軽装の魔法使いが盾も無しに防げる程生易しい代物ではない筈だ。

 現に、自分の視界に映る床はボスの攻撃で所々陥没し、実に身動きの取りづらい状態になってしまっている。それだけの攻撃を防げる程、彼の装備も能力も高くは無い筈なのだが、何を考えているのだろうか。

 

「構えておけよ、アスラッ!チャンスは一瞬だぞ!」


 大音声に叫んだウッドワスであるが、もしも相手が音声認識機能を搭載していたらどうする気であったのか。作戦もろバレはかなり手痛い失策となり得るぞ。それよりも彼は此処からどう動くつもりなのか、固唾を呑んで見守る視線のその先で、ウッドワスは盛大に攻撃呪文をぶちまけたのだ。


「喰らえっ、重複詠唱(デュアル)『ファイアーボール』!」


 詠唱の完了と共に放たれたのは煌々と輝く炎の球体。遠目からは何の変哲もなく見えるそれは、されど比較対象を得る事で言いようの無い違和感を発していた。


 単純に、()()()()()のである。


 本来であれば、大人の頭一つ分程度、今まさに激突せんとしている鉄の拳と同程度の大きさであった筈のそれが、何故か今は拳を二回りは優に超える程の大きさへと変貌してしまっているではないか。確かに呪文の効果は詠唱文を改変する事で修正可能になりはするが、少なくとも彼が唱えた呪文は只の『ファイアーボール』だった事は間違いない以上、手妻はそこに隠されてはいないのだろう。唯一のヒントは詠唱の前文に付いていた文言だが、それだけで呪文の効果を改変できてしまう物なのだろうか。


 想像だにしなかった現実に思考が脇道へと逸れていくのを感じる中で、それでも身体は事前に下された命令に忠実に従って動き出していた。

 

 スローモーションに流れゆく視界の中、火球と鉄拳とが衝突する様が良く見えたが、次の瞬間炸裂した閃光に右の視界が潰される。流石に火力特化の火属性呪文、それもカウンター気味の直撃ともなれば鉄の拳と言えど無事では済まなかった様子、左の視界の中には爆ぜ散る拳の姿がよく映っていた。


 そして、衝撃に傾くボスの足元、不自然な姿勢から立て直そうと必死に駆動しているのであろう関節部へと、違う事無く突き立った自分のマナの刃の姿も克明に映し出されていたのである。

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