第二十二話 ちょっとした寄り道
慌ただしくも日々の活力の素となる朝の騒動を乗り越えて、何だかんだの遺跡攻略後半戦。
前日にこれでもかと言わんばかりに重囲を整えたお蔭か、没入直後に敵に襲われる何て事もなく、無事ウッドワスと合流することが出来たのであった。
「息災か」
片手を上げてそう聞いてきたウッドワス。相も変わらずドワーフと見紛う様な背格好だが、その背に携えた大楯は一体全体何事なのか。コチラの事を聞く前に、報連相をしっかり果たすべきではないか。
「こいつか?こいつはさっき作った即席の盾だな。役に立つかは知らんが、有って損もあるまい」
自分は余程怪訝な顔をしていたのだろう、コチラから何か言う前に向こうから弁明をし出したのがその証左。無茶をしたのでなければ別段文句は言わないが、一応ここの攻略は自分の進退が懸かっている物だと認識しておいて欲しい物だ。
「まあ、良いですけど。……それなら、僕の剣ももう一本位用意出来ません?」
ついでにダメ元で一つおねだりしてみよう。この程度なら通れば儲け物だが、通らずとも問題は無い位に収まる筈。
そう思っての提案であったのだが、少々赴きが違ったらしい。
「何言ってやがる、俺が盾なんて構える訳無いだろうが。こいつはお前さん用だ」
ひょいと手渡された簡素な大楯、見た目のわりに重量はそこまで感じないのは素材が良いのか手抜きなのか。命を預けるには些か心許ない重さだが、取り敢えず戦地で徴収した装備と考えれば妥当なラインだろう、しかし。
「盾が欲しいなんて言ったっけ?」
自分は一言もそんな事は言っていない筈なのだが、どうして彼は楯を用意してくれたのだろうか。確かに今の自分の戦闘スタイルは片手に鉄剣一本ばかりを携えた、脳筋御用達のそれである訳だが、元が盾使いだ等とそれだけで推察する事など出来ないだろうに。実際自分は楯も使うが、本領は二刀に加えて魔法を使ってのチャンポン戦闘術であり、実戦で鍛え上げた我流の技故これと云った特徴があるような事も無い筈なのだが。
「勘だ、勘。……片手を空けているのは単に得物がないだけ何だろうが、そんなら空けたままにするより盾でも持っておいた方が生き残る目は高いだろう」
何だかんだ、見るべき所は見られていたらしい。とは言え一目見たくらいで見抜く様な達人も世の中には居るのだ、ここまで長々付き合っていたらバレるのも時間の問題であったと云う事なのであろう。
簡素な腕帯に腕を通し、申し訳程度に付けられた取っ手を左手で握る。質素と云うより貧相と言うべきただの鉄板然とした盾、この軽い手応えがしっくり事は未来永劫無いのだろうが、それでも戦の前に両手が塞がっているのはやはり気分が高揚する物だ。
「取り敢えずは、ありがとうと言っておきます」
「素直じゃないな。そんな事じゃ、社会に出たらやって行けんぞ」
「最後まで壊れなければ、その時には靴でも何でも舐めてあげますよ」
その分壊れた時には盛大に文句を言ってやろう。尤も、盾なんて壊すために有るような物だが。
それはそれとして、新しく手に入れた盾の具合は兎も角、探索途中で手に入れた剣の調子はどんな塩梅なのであろうか。手入れをするほど思い入れなんかが有る訳でも無いが、戦闘中に壊れる様な要因が無いかは事前に確認しておきたい所。そうして引き抜いた刀身は、特段歪みや罅が見受けられる訳ではないが、それでも材質からして中古品。至る所にガタが来ているのがこうして見てみると浮き彫りになってしまう。
「ウッドワスさん、これって修理とか出来ます?」
そうして見せるが対面の彼は渋い顔を隠す様子も無く、一刀両断に自分の嘆願を切って捨てたのだ。
「お前さんよ、俺はあくまで魔法使いで盗賊だぞ。多少小道具作りに覚えはあるが、剣の手入れなんかは専門外だ」
ぶっきら棒な言いぐさだが、今朝の成果を振り返ってのその発言は些か筋が通らないのではなかろうか。
「盾は作れるのに?」
「んな物、鉄板重ねて取っ手付けただけだろうが」
そう言われると何の反論も返せないでは無いか。と言うよりこれ、本当に鉄板重ねただけの代物なのか。それを聴いては盾として使うのも怖くなってきたのだが。これ以上反論を重ねては更に恐ろしい真実が転び出そうで、内実を問いただす勇気すらも萎んでしまうではないか。
「そう、……まあ、いいや。それで、今日は何処から探索を始める予定です?」
「んなもん、特に決めちゃいねえが」
「それなら最初に警備詰め所を攻略しません?」
昨日一晩考えていたのだが、ボスへの攻略の為に怪しい箇所を先んじて潰す事にしたのは良いものの、潰す順番もフラグとして重要な可能性も否めない要素であり、その場合どこから先に攻略するのが一番楽になるのか様々な要因を挙げてみたのだ。その結果、詰め所を後回しにした場合そこから出てくるであろうロボット達が強化される可能性が高い事に思い至り、優先して攻略する対象として見ていたのだ。
「詰め所か、先に潰しておきたいのは分かるが、それで施設全体の警戒レベルが上昇する可能性もなくないか?」
「確かにその可能性は有るけれど、複数個所の制圧を考えた場合、最終的な脅威度を比べたら先に潰した方がお得だと思って」
少なくとも、案内板で確認できる詰め所の数は一つきり。表記の通りにここしかないのなら、先んじて制圧してしまえばそれ以上の脅威度の上昇は抑えられる筈。それに、あまり使いたい方法ではないが奥の手の一つも切れば重武装の防衛ロボットも倒せない事も無い筈であり、想定以上に性能が向上しなければ多少装甲が厚くなった程度ならば問題なく通用する筈だ。
仮定塗れで何一つとして確定事項が見当たらない想定だが、これまでの手応え的にはそう的外れでない確証がある。問題は詰め所の数や襲撃に伴う施設全体の警戒度合いの上がり方くらいの物だろう。
「どこから行っても、最終的には同じか。なら、お前さんの案を採用しようじゃねえか。当然」
「分かってますよ、何かあったらコッチが矢面に立つって事で」
そんな物言わずとも知れた事。そも、魔法使いを前面に押し立てるような戦法など、危急の場面でも無ければ通用すらしないだろうに。
「なら良い」
話の合間にも出立の準備を行っていたウッドワスが言葉と共に立ち上がる。コチラは既に準備万端、最後に互いの装備を確認し合い、二人掛かりで頑丈に積み上げられたバリケードを解体し、外へと通じる道を抉じ開け身体を捻り込む。
閉じ籠っていた部屋の外は灯りの少ない避難通路の一角で、それなりの音を立てていたのにも拘らず、辺りから警備ロボットがやって来るような気配は欠片も無い。念の為魔眼を用いて周囲を確認、凡その巡回ルートの下見は昨日の内に済ませていたが、日にちが変わってルートの変化があったような様子も無く痕跡一つ見受けられない。とは言え無駄に声を発する必要も無し、手招きでウッドワスに安全を知らせると共に剣を抜きつつ自分は通路へと身を躍らせた。
薄暗い灰色の廊下に規則正しく並ぶドア、正にゲームの中の研究所と云った風情のこの場所、出てくる敵性ユニットの情報から類推するに恐らくは機械系統の研究所だったのだろう、所々に転がっている資源や機材が悉く機械系統なのもそれを裏付けている。大抵のゲームである様に、機械、ひいては金属系の身体を持つ相手に物理攻撃、取り分け斬撃系統の攻撃は通りが悪い物と相場が決まっている。
実際の所、剣であっても鎧を着込んだ相手に対して有効打を入れる為の武術と云うものは存在するのだが、それは大抵剣の刃では無く持ち手の部分を使っての殴打がメイン、時たま組打ちの要領で鎧の隙間を狙う事はあるが、それとて鎧に対して真っ直ぐに撃ち込めと言っている訳では無い。
何が言いたいのかと言えば、剣士にとってここの敵は相性が悪いという事だ。
「鮮やかなもんだな。現実でも剣道とかやってんのか?」
拠点を出発してから暫く、幾度か回避できず警備ロボットと戦闘になってしまったその後に、ぽつりと思い出したようにウッドワスがそう漏らした。今まで向こうの事に触れては来なかった彼の発言であった為少々面食らってしまったが、何のことは無い。彼の情報はそれなりに本人や周囲の者から聞き及んではいるのだが、コチラの話は殆どしていないが故の事であるだけだった。
「いえ、体系だった物は特に。我流で鍛え上げる必要に迫られた時期がありまして、その時に試行錯誤して、どうにか形になった程度の代物ですよ」
きちんとした武芸を修めたような人物には程遠い。自分の剣は見様見真似の産物でしか無く、今とて少しばかり剣先を突き刺しすぎて負担をかけてしまったばかり、目標とする頂とは正しく天と地ほどの違いがある。
手入れの為の道具にすら事欠く現状、出来るだけ剣に負担は掛けたくないのだがそうとばかりも言っては居られぬ。上辺に穴が開いたばかりの新品の盾擬きを見て、ふとため息が小さく漏れた。
「それより、この盾もう少し如何にかなりません?銃弾一発で穴空いちゃったんですけど」
三枚重ねた鉄板をただの一発で貫通する銃弾が凄いのか、三枚重ねでもその程度の耐久性しかない鉄板の方が凄いのか。どちらを褒めれば良いだろうか、今の自分にはその区別も付けられそうにはない。幸い鋼材自体は今しがた破壊したばかりのロボットから取れるのだ、材料には事欠かないのだから多少重くなったとて耐久性を上げて欲しい所なのだが。
「何度も言うが、魔法使いに無茶言うなよ」
「魔法使いなら無茶振りされるのが当然では?カボチャの馬車とは言ってないんですから、まだまだいける範囲ですよ」
「なら俺の本職は盗賊だ。馬車どころか靴も満足に作れはしないさ」
ああ言えばこう言う、全く以って屁理屈ばかりを言う口だ。
「そも、お前さんが自分で改良するって選択肢は無いのか」
「既に挑戦しましたよ。……その結果がここに開いている穴ですが、何か?」
不器用だった覚えは無いのだが、どうした事か上手く手先が動かないのだ。補修程度なら自分でも可能だろうと気安く手を出したは良い物の、どうにも上手い事調整することが出来ずに派手に手を滑らせて穴を開けるは鋼板に罅が入るはと、散々に痛めつける結果になってしまったのだ。
「ぶきっちょだなぁ、……しょうがない、一旦貸して見ろ」
ぼやきながら手を出すウッドワスに一言言ってやりたい気分だが、物証が目の前にあるのだ。今は何を言っても意味は無い。そうして仕方なく渡した盾は、ほんの数分でロボットの表面装甲をリサイクルした追加装甲を引っ提げて新品同然のチューンナップを施されていたのであった。
「……何でそんなに器用なんです?ステータス高かったりするんですか」
当の本人は自分の事を器用だとは言わないが、それでもこうしてあり物から装備の類いを機材も無しに作り上げられるのだ。中の人が相当手先が器用な性質なのか、はたまたキャラクターの器用さやスキルのレベルが高いのかのどちらかでも無ければ説明が付かない。
「一応は小道具作りの為の『彫金スキル』を取っているからな、それの効果はあるのかもしれん」
「それで言えばコチラだって『錬金術スキル』があるんですけどね」
一度しか使えていないし、なんならこの状況に追い込んだ一番の原因とも言えるスキルだが、伸びしろは感じているスキルなのだ。使用機会が少なすぎる所為とは言ってはいけない、このスキルの悪口を言っていいのは被害を直接被った自分だけだ。
「なら、それが理由かもしれないな」
「何ですと?」
故に、このウッドワスの発言には少々苛立った声が出たのも仕方がない事だ。
「生産系統のスキルには、大別して二つの分類があると言われているんだがな。一概にこうとは断言できないが、スキルの使用に大規模な設備や機材を必要とする『大規模生産型』のスキルと、その場その場のあり物で使用できる『簡易生産型』のスキルに内部じゃ分かれているって噂だぜ」
尤も、理由を聞けば納得しかいかない話ではあったのだが。
「俺の持っている彫金や簡単な道具で行える『木工』なんかが簡易型で、『鍛冶』や『錬金』、後は大型の家具なんかを作る様な『大工』なんかも大規模型って言われているな。前者は何処でもスキルを使えるのが利点だが、道具の質でアイテムの効果が上昇したりしないのが欠点だ。その逆に、専用の設備が無いとスキルを使用できないが、設備の質で加工アイテムの効果を引き上げられるのが後者のスキルの利点だそうだ。……その代わりに、設備を使用しない生産行動にペナルティが入るって噂だったが、どうやら本当だったらしいな」
なんとまあ、目玉が飛び出るような新事実。まさか錬金にそんな落とし穴があったとは、確かに専用の設備が無いと使えないのは面倒だとは思っていたが、それ以外にも欠点が有っただなんて。……正直な話、取った事を後悔しているスキル不動の一位になりそうで、今の内から戦々恐々としているのだが、ここから挽回できるのだろうか。そう思わずにはいられない、ほんの一時の休息時の一幕であった。




