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ウォーデン・グランマティカ  作者: 二楷堂禅志郎
第二章 それはささやかな一歩
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第二十一話 長丁場の敵は士気


 腰の剣に手が伸びたのは、多分ただの偶然だった。だが、飛来した銃弾を咄嗟に払い退けられたのは、嘗ての修練が今になって実を結んだ事の証左であったのだろうと、今さらになって思うのだ。


「アスラッ、無事か!」


 後方からウッドワスの慌てたような声が響くが、それに対して悠長に返事をする余裕は今の自分には無いらしい。遠間からゴトゴトと響く特徴的な足音、間の悪い事に哨戒のロボット兵だけでなく重戦闘装備の防衛ロボットまでお出ましの様だ。


 続く銃撃を避ける為に身を投げ出しながらも視線を巡らす。ちらりと視界の端に映るのは、二体の警備ロボットの姿。防衛ロボットはまだ現場に到着してはいないらしいが、それならばまだやり様は有るか。


 素早く跳ね起きる様に身を起こし、反動のままに警備ロボットの方へと向かう。胴部に備え付けられた二丁の銃器が素早くコチラへと照準を向けるが、如何せん弾速自体は現実の物より大幅に劣るのだろう。見てから避けるのは流石に難しい所があるが、射線から身を外していればそうそう当たる物でもない。


 二機のロボットを回り込む様に近付くと共に、口の端へと『ストーンバレット』の詠唱を乗せる。初級の呪文故に移動しながらでも問題無く詠唱できているが、これがより上位の呪文であったりもっと効果の高い呪文であったりした場合には、移動を始めとする各種動作にも影響が出てしまうらしいのだ。実際ウッドワスは詠唱している隙に攻撃を受けて、自分の目の前で一度呪文を暴発させているほどだ。


 そんな話は置いておいて、接敵したロボットの片割れへとコチラからの攻撃を仕掛ける。この戦闘初めての攻撃は、最早お馴染みとなった「ストーンバレット」との同時攻撃。それも最近覚えたばかりのちょっとした工夫を加えたバージョンだ。


 魔眼を開くと剣先から発射された石弾との間に、薄っすらとした魔力の線が引かれているのがよく見える。そうして本来であれば射出された位置を示すためだけのそれを、強引に手元から魔力を追加で注ぎ込んで更に押し出すようにする為のレールに変えるのだ。これによって石弾の速度も威力も通常の物とは比べ物にならない程、一気に向上したのである。

 

 そうして強化した石弾を狙い澄まして銃器の基部へとぶちかます。金属製のロボットにただの石では分が悪いだろうが、コチラの石弾は強化に強化を重ねた代物、更には只の一撃で破壊できずとも当然の如くその後の追撃が控えているのだ。これで破壊できない訳が無い。

 実際これまでもこの方法で初撃は上手く決めてこれている。問題はここから先の動きなのだが、防衛ロボットがまだ戦場に姿を見せては来ないので楽にこの二機は処理できるだろう。


 確かに機械の性として銃撃の精度はかなりの物である。しかしだ、精度が高いという事は、そのままコチラ側が想定した通りの場所に攻撃が飛んでくるという事でもあるのだ。そして幾ら強力な威力を秘めていようと、息も付かせぬような弾幕を張れようとも、目で見切れる程度の弾速では、自分の姿を捉える事など出来得はしない。まして射撃精度を高める為か、機体上部、銃器が接続されている基部の旋回速度がそう高くないのでは、それなり以上の戦士相手ではそもそも通用しないに違いない。


 ストーンバレットのクールタイムを待つのも惜しいと速攻を仕掛けては見たが、想定通りに事は進み。防衛ロボットがコチラに来る前に二機の警備ロボットは破壊、無用な戦闘は避けるべしとスタコラサッサと自分たちは逃げ出したのであった。


 言い訳をさせて貰うのであれば、本当に防衛用に構築されているロボット相手では今の自分達では刃が立たないのだ。自分だけなら幾らでも方法があるのだが、ウッドワスが居ることを考えるとあまりに迂闊な手段を取ることも出来ず、その場合二人して火力不足に陥るために逃げるしか対抗手段が用意できないのだ。

 恐らく互いに奥の手は隠しているのだろうが、隠しているが故においそれと披露するわけにもいかず、結局微妙に効率が良いんだか悪いんだか分からぬ状況になってしまっているのが現状である。


 無論、一人きりでここを彷徨う事と比べれば、今が良い状況である事は間違いないのだが。


「何とか撒けましたね」


 そんな事を考えつつ、先程のようにばったり道端で出会さない様気を付けながら進む事幾らか。後方から響いていた駆動音が聞こえなくなった事を確認して、漸く足を止めた自分は後ろへと向けて確認がてら声を掛けた。

 

「何とか、な。とは言え毎度毎度逃げ出していたんじゃ、何時まで経っても探索は進まんぞ」


 息も絶え絶え、膝に手を着きながらもウッドワスはそう答えるが、共通の認識は出来ているようで何よりだ。

 そうは言っても、単純にここの難易度が今の自分達のレベルに合っていないのだから、どうしようも無い話ではあるが。


「ですが現状あの重装に通用するだけの攻撃は、コチラの手持ちには有りませんよ?幾らか戦ってレベルも上がりはしましたが、あくまでコチラは剣士ですので」

「んなこたぁ判ってる。……てか、こんだけの戦闘でレベル上がるって、お前さんどんだけ低かったんだよ」


 何やら不審な者を見るような眼差しを向けてくるウッドワスではあるが、奇矯さで言えば甲乙付けがたいレベルで彼我は拮抗していると思うのだ。

 物語の類いならばいざ知らずドワーフの盗賊など現実に置いて見た事も聞いた事もない以上、レベル一桁で犯罪者となった自分よりも稀少性で言えば珍しい筈であり、この手の話題で一方的に自分だけが埓外に置かれるのは可笑しいと、一言苦言を呈させて頂こうではないか。


「んで、どうすんだ。恐らくだが、外に出るだけなら後はそう距離もない筈だぞ」


 ウッドワスがちらりと視線のその先には、塗装の剥げ掛けた案内板が置いてある。その言葉の通りに『出入り口』を意味するであろうアイコンは、ここからそう遠くない位置にあった。


「で?何の成果も無しに、尻尾巻いて逃げ帰れ、と?」

「そうは言っとらん。ただ、お前さんが俺を戦力として見ている様に、俺もお前さんを戦力として見ているんだ。……ここで逃げると言われては、な」


 多くは言わぬウッドワス。言わぬ、が、しかし。言いたい事は十二分に伝わっているとも。


「ご安心を、逃げませんよ。……焚き付けたのはコチラです、それでイモ引く様なみっともない真似、出来る物ですか」

「ふん、そこまでは言っとらんだろうが。だが、お前さんは逃げても問題ない立場だろう、何故こだわる」


 隣からの怪訝な視線を感じるが、それを彼が言うのだろうか。


「渡世の義理は、死んでも果たすのが仁侠でしょう。……別段自分がそうだとは言いませんが、それでも、そちら側の流儀に併せる時は併せますよ」


 郷に入っては郷に従え、当然の事ではないか。何より他者の、相手の面子を重視するのが仁侠と云う連中だろう。そんな相手がコチラの為に一肌脱いでくれたのだから、コチラも相応の物で返さなくては漢が廃ると言うものだ。


「……随分と、面倒臭そうな様子だな。お前さん自体は嫌いじゃないが、その性分、あまり関り合いになりたくは無いな」


 怪訝な者を見る視線から、可笑しな物を見る視線へと温度が変わったのが手に取るように判ったが、他者を尊重する事がそこまで可笑しな事だろうか。


「……無自覚か、救いようがねえな」


 ぼやきと共に溜め息を漏らすウッドワス。疲れ切ったような表情を浮かべているが、流石にその短足ではこの短時間での逃避行は厳しい物があったのだろう。盗賊を自称はしていても手先の器用さや足運びの秀麗さを殊更に強調する様なタイプでは無く、あくまでもその本分は隠形の方に置いているのだろうから致し方のない事だろう。こんな平日の真昼間に長時間の没入(ダイヴ)をしているのだ、運動不足のニートであったとしても何も不思議はない。……まあ、自分がそうでは無いのかと問われれば返答に困ってしまうのだが。


 それはさておき、片膝を着いて息を整えているウッドワスを横目に見つつ自分は傍らの案内板の解読に移る。闇雲に逃げ回っていた所で成果を上げる事は出来ない以上、必要なのは如何にローリスクハイリターンを望める進路を選び取れるかだ。こんな所に置いてある経路図からそれが読み取れるとは思えないが、今は少しでも情報が欲しい所であり、大まかな向かうべき方向や厄介な敵性ユニットの存在等、些細な情報であっても値千金となりうる要素はそこかしこに転がっている筈なのだ。それだけ今の自分たちは情報に欠けていると言う話でもあるが。


 そうして矯めつ眇めつ眺めてみれば、そら、耳寄りな情報が盛り沢山。


「『倉庫』『試験区画』『警備詰め所』。ウッドワスさん、貴方なら何処から狙いますか?」


 大まかにお宝がありそうな場所を上げてみるが自分は襲撃側に立った所で略奪の類いは手を出した事が無いために、とんと当たりが思い浮かばないのだ。こう言った物はやはり専門家に頼むのが筋と云う物だろう。


「…………試験区画、だな」


 とっくりじっくり、時間を掛けて長考したウッドワスが言葉少なにそう答える。恐らく二人の思考はそう遠くは無い筈なので、こうして導き出された答えは自分の考えとも合致する筈なのだが、そうでなかった場合はどうした物か。

 

「その心は?」

「一番警戒心が薄い筈だ。倉庫の物は撤退時に軒並み持っていかれているだろうし、詰め所はロボットたちがうようよだ。その点試験区画なら、最悪でも計測用の機器なんかの大掛かりな資材が動かせずに残っている筈、それらを解体して持って帰れれば金にも出来るし資源として利用もできる、何より……」


 饒舌に話していたウッドワスがそこで急激に言い淀む。咄嗟に周囲を見回すも、特に敵の気配を感じはしないが一体どうしたと云うのだろうか。


「……何より、研究所のボス敵は『実験体』や『試作機』と相場が決まっている」


 ……ふむ、なるほど。


「現状、普遍的な敵の突破にも手古摺っているのが解っていて、更に格上の敵を狙うと?」


 言い淀んでいたのは其処が原因か。向こうとしてはある程度のリスクは許容範囲内、一度の死に戻り程度ならば再度の攻略で突破できれば収支としてはプラスになる、とそう云った考えなのだろう。考えとしては分からなくも無い、自分としても急ぎの用事でなければ十分思考の天秤に乗せられるだけのリスクとリターンだ。だからこそ、ここで方針が割れる原因にもなったのだが。


「逆だ。……さっきはああ言ったがここがゲームである以上、普通に通用口なんかから出られる筈が無い。ならばどうするべきか、ゲームならば()()()()()()()()()な以上、()()()()()()()()()()とも考えられる」


 確かに。そう納得させられるだけの論拠がそこには在る。ボスを倒さなくとも出入りできるエリアもあるだろうが、事こう云った閉鎖環境下(クローズドエリア)においてボスを倒す事無く、問題を解決する事なく出ることが出来る等と云うことはそうそうある様な事では無い。それを踏まえて考えれば、反論する事は難しいのだが。


「なら、先に周りから攻略するって選択肢は?」


 それこそ詰め所等ボスの取り巻きが沸いて出てくるギミックには持って来いの施設だろうし、倉庫の中にボスへの特効アイテムが眠っている等と云う展開もありきたりな物だろう。そう言ったある種のお約束、フラグの類いを踏んでからでなければ討伐出来ないボスもゲームの中にはありふれているし、取り分けこんな所に居るタイプのボスは、ギミックマシマシと相場が決まっている物だ。


「それで此方が疲弊する事を考えると若干収支は赤字かと思ってな。最悪今すぐにでも突撃して死に戻ってから最短で挑むのでも、イベント開始には間に合うだろ?」

「……イベント参加の余裕は欲しい。でも、負け前提で挑むのは性に合わない」


 我ながら無茶苦茶な事を言っているとは思うのだが、それでもこればかりは簡単には曲げられない。最悪自身の敗北が戦況全体の勝利に繋がるなら受け入れる事も出来るのだが、単なる捨て駒、坑道のカナリア扱いは戦略的な意義があれど、心の底からは認められないのだ。

 

「なら、どうする」

「一発で突破する。……ギミックは確認できる限り踏み潰して、万全の状態でボス戦に挑む。それでめでたしめでたしで行きましょう」


 呆れたような視線を頂戴したが、満更でも無いのは表情で分かっているぞ。ゲーマーならば、初見でのボス攻略程燃える物も無かろうて。



 さて。何だかんだ存在しているのかも分からないボスへの闘志を盛り上げたは良い物の、正直言ってそろそろスケジュール的な問題が頭にチラついてくる時間であって、それはコチラもあちらも変わらないらしく。結局のところボスへの挑戦、ひいてはギミック周りの攻略は次回へ持ち越しとなり、今回は身体を休める為の簡易の拠点獲得の為に時間一杯まで奔走する事となったのであった。

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