第二十話 てんやわんやの大捕り物
斯くして突拍子も無く始まった遺跡探索であったが、当初の予想通りにその道中は艱難辛苦に塗れていたのであった。
「アスラッ、屈め!」
遺跡に乗り込んだその直後、敷居を跨いだ正にその瞬間に罠が作動し、飛んできたギロチンの刃であわや頭と身体が泣き別れになる五秒前であったのは本の序の口。
「『透明まんと』効果無いんだけど!」
「クソがっ!熱感知式だ、ぶっ叩け!」
ウッドワスの『透明まんと』が効かない警備ロボットに追いかけられた先、袋小路で唐突に起きた銃器と剣のファンタジー世界での死闘に。
「バカ野郎がっ、音を立てるな!」
「そっちの方が煩いだろバカ!」
大量の警備ロボットに襲われて命からがら逃げだしたは良い物の、その先で音感知式の罠部屋に入り込んでしまった事や。
「なんかすごい道具とかで開けられない?マジで」
「お前さん、俺を何だと思っとるんだ。……本格的に手詰まりだな、こりゃ」
口にするのも憚られる形式のオートロックな部屋に、二人揃って監禁されかけたり。
「良いか、何度も言うが俺は盗みが専門だ。鍵開けなんかは得意じゃない」
「カードキータイプのロックに、ファンタジー世界の開錠技術が通用するとは思えませんけどね」
『認証失敗、認証失敗……対象のログを確認できません。排除形態に移行します、周辺職員は至急退避してください』
門に偽装していた中ボスクラスの敵と出合い頭の遭遇戦を演じる事になってしまい、結局は撃破した物の門が壊れて通れなくなったりと。
詰まる所、自分たちの初めての遺跡探索は散々な結果に終始しているという事であった。
「いやはや、これは困ったな」
そう軽い口調で話してはいるが、既にウッドワスの装備は軒並み破損し現地で徴収した端材を使って補強した、なんとも貧相なおんぼろ揃いになっており。斯く云う自分の装備も道中くすねた頑丈なだけの鉄剣一つに、なぜか転がっていた安全帽を被った実に奇妙な格好となってしまっている。
その上、その他の収穫など何もなく、自分の方は鉄剣と安全帽でお釣りが出るがウッドワスの方はと言えば、破損した鶴嘴の対価として見るには如何にも足りぬガラクタばかり、総評で見ればとんだ大赤字と云った所であろう。それに加えて。
「困ったってレベルじゃない気がするけど、帰り道分かるの?」
何せ散々に追い立てられ逃げ惑ったその結果、二人して帰りの道程すら覚束無いのだ。そもそもここまでの経路を考えた場合、愚直に戻ればそれこそ死に戻り一直線と言うものだろう。これはなんとも悩む展開である、何せ大した成果が出ていないのだからここで死に戻りしたところで失うのは先行投資的な装備一式のみなのだ、正直下手に探索して成果が出ているよりもここで一旦戻った方が賢明まである気がしないでもない。
無論、その場合に装備を整えて再度来たところで攻略できるかは別の問題となるが。
「死に戻りするならここじゃなくても良いだろう。もう少し探索してからの方が、次回の為にもなる筈だ」
「そうしてお宝見つけて死に戻るのも葛藤するようになる奴ね、わっかるー」
「いや、ホントそれが怖いな。生への執着をここまで持ちたくないと思ったのは、これで人生二度目だぞ」
「へー、案外少ないんですね」
それ故ここで無駄話に華を咲かせているのも決して現実逃避ではない、きちんと意味のある行動なのだ。
「それで、魔力は回復しましたか」
ドワーフの様な格好の癖に、普段のメインウェポンは鈍器だと豪語している癖に、ウッドワスはなんと魔法使い型のビルドらしいのだ。イメージに合わない事この上ないが、短い手足で戦おうと思えば接近戦よりは遠距離での戦闘の方が不利を負わないのは当然の事、それを鑑みれば盗賊の真似事をしている方が余程イメージとも適性ともかけ離れた選択肢だろう。
それにしてもこの世界で魔法を使うと云うのは案外難易度が高いらしく、盗賊との二足の草鞋を履いているウッドワスでは多少規模の大きい攻性魔法を二、三唱えた程度で直ぐガス欠になってしまうらしいのだ。なんとも面倒な話である。
「と言うか、何でそんなに燃費悪いんですか?」
自分の方など、戦闘開始時に幾つかの補助魔術を掛けて以降は何も魔法を使わないので、そこいらの魔力のやりくりの機微は判らないのだが、それにした所で『ファイアーボール』三発でガス欠になるのは燃費が悪すぎるだろう。
「お前さんは『戦士型』で『魔術スキル』を使っているから判らんのだろうが、『魔法スキル』を使う際に『魔法使い』以外のビルドを組んでいると、MP消費量がとんでもなく増えちまうんだよ」
「魔法を使いたいなら素直に魔法使いになっていろ、と?」
「そう言うことなんだろうよ。良い迷惑だぜ」
まあ、理論としては判らなくもない。如何に理外の物に見えようとも、魔法には魔法なりの法則が、理屈があるのだ。それを理解した上で魔法の力を用いようと思えば一朝一夕では足りないのも当然の事、運営からの俗事に現を抜かすなという忠告の一つなのだろう。
「それを知っているのなら、尚の事効率的な休息法を会得しておくべきだったのでは」
呼吸による魔力の循環しかり陰陽道の気息法しかり、古来より魔法や神秘の力と生命の息吹きとは密接に関わって来ているのだ、それを考えれば休息時に自らの身体を魔力で満たすための呼吸法の一つや二つ、魔法使いならば使えて当然の事なのでは無いだろうか。
「バカを言うんじゃねえよ、こんな危険地帯で休息によるMP回復なんぞ出来るか。戦闘中でも回復可能なスキルなんてトップ層でも持っている訳ないだろう、それが出来たなら魔法使いはいくらでも攻撃可能になっちまうじゃねえか。そんなバランス崩壊に繋がるようなスキル、終盤ならともかくこんな序盤で手に入る訳あるか」
そんな物なのだろうか、まあ一応は本職が言うのだからそうなのだろう。チラリと横目で見ていたステータス画面から目を離す。新規スキルを習得できたと浮かれていたが、この分では暫く日の目を見る事は無いようだ。
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Title:脱獄囚 New
Name:アスラ
Class:冒険者
Level:8
Status
・STR15
・VIT15
・AGI15
・DEX15
・INT20
・MND15
LAK09
CHA25
BP:30
所有スキル(残り1枠)
・剣術
・補助魔術
・探索
・解体
・考古学
・初級土魔術
・錬金術
・魔力収錬法 New
・心眼 New
ルーン
・『見』 熟練度:04
・『表』 New 熟練度 01
固有魔法
・『魔眼』
・『郷愁の魔眼』
と言うか今さら気付いたが、称号欄が『服役囚』から『脱獄囚』に変化してしまっているのだがこれは一体全体どういう事なのか。リアルタイムで運営から観測されているという事なのか、或いは一定の範囲を出る事で自動的に切り替わるようになっていたのか、無論どちらであっても大した違いは無い事に気付いてはいけない。ついでに新規スキルの説明をすると、『魔力収錬法』の方は呼吸によって自身の身体に充ちる魔力を循環、充填するためのスキルであり、副産物として魔力の急速回復を可能としている。一方『心眼』スキルの方は自身の視覚に依らずに周囲の状況を認識、識別出来るようになるスキルの事だ。どちらも便利なスキルではあるが、態々スキル枠を使ってまで習得する必要があるかと言われれば疑問符が付く類いのスキルだ。
因みに新規で習得したスキルはどちらもBPを消費せずに習得出来た代物である為、無駄に経費が掛かっている等と云うことは無いのだが、今後必要な機会が無ければ速やかにスキルの控え枠へと移動する事になっている。
悲しいかなスキルの枠は10と決まり切っている以上、不要な物から切り捨てていかなければならないのだ。まあ、やりようによっては10を超えてスキル枠を拡張する事も出来るというから、場合によってはその手法を取る事も視野には入れているのだが。
スキルがなくとも出来る事であれ、あった方が楽になるなら断然ないよりもある方が良いのだから当然の事だ。
「それで今はどの位まで回復しましたか」
「二発は連続して撃てん、その程度だな。もう少し時間を掛けるなり、或いは火力を絞るなりすれば二発目も撃てる様になるだろう」
その程度なのであれば、そろそろ河岸を変える頃合いだろう。確かにここの連中は硬い相手が多いために自分の剣では今一つ突破力に欠けるのも事実、なれどそれはあくまでも一撃の下に戦況を切り崩せるかどうかの話であって、時間を掛けても良いのであれば、或いはタイマンを張れるのであれば当初の予想よりかは自分だけでも切り抜けられるのを確認しているのだ。故に今は万全の状態を保つよりも、囲まれない様に迅速に立ち回る方が生存率が高くなる。
「なら、移動しながら回復に努めてください。三体までなら、一方向だけなら僕が受け持てます。ウッドワスさんは退避して頂ければ、問題なく処理できるでしょう」
「移動しながらじゃ、焼け石に水だぞ」
「回復した後に囲まれていても同じ事です。……そちらが生還を諦めたのだとしても、僕は早く帰りたいので諦める気はありません」
彼の呪文による突破力は実の所喉から手が出るほどに惜しいのだが、そんな事はおくびにも出さないようにしながら煽り立てる。中々に負けず嫌いの気がある彼の事、諦め半分であったとしても何の成果も無しに撤退する等本心では腸が煮えくり返るほど怒り心頭の筈であり、こうも煽られては一人イモを引くなど出来る筈が無い。
「ほう、……いいぜ、その挑戦、受けて立つとも。……後で後悔しても遅いからな」
ほら、掛かった。
「ええ。思う様、お天道様の下で煽り返してくださいね」
さて、やる気になったのは良いのだが、ここから先は一体どうした物だろうか。取り敢えずは、壊れた門の先に進む手段を見つける方向で考えてみよう。
そう考えて踏み出したその矢先に巡回の警備ロボットとの戦闘になったのは、まあ一旦置いておこうか。




