第1話:『運命の出会い!スポチャン部』
中学3年の進路希望調査の日。春野紗月は、進路調査票の空欄をじっと見つめていた。
教師が紗月の席の隣に立ち、穏やかに声をかける。
「紗月、お前の成績なら明峰高校だろう? 県内トップの進学校だし、将来のためにも――」
「はぁ…」と紗月は曖昧な返事をする。
(明峰高校って、頭が良い人ばっかりの学校だよね。…でも、なんか違う。)
3年間美術部で平凡に過ごした紗月は、漠然とした焦りを抱えていた。
(何か、面白いことないかな…私、何がやりたいんだろう?)
その夜。リビングでソファに座り、ゲーム画面を見つめる紗月。手元にはお馴染みの「ビーハン(ビーストハンター)」のコントローラー。
「あんた、進路決まったの?」
姉の春野彩花が、制服姿で部屋に入ってきた。彼女は風舞高校の2年生だ。
「うーん…明峰高校、勧められてるけど…」と紗月が渋い顔をする。
彩花はソファにドカッと座り、スマホを取り出した。
「そんなのつまんないじゃん。ほら、これ見て。」
画面には体育館で激しく打ち合う「スポーツチャンバラ部」の動画。剣と剣がぶつかり合い、素早く動く部員たち。
「……なにこれ。」
「スポーツチャンバラ部。うちの学校にあるんだよ。」
紗月の目が動画に釘付けになる。剣の音が響き、躍動感が溢れていた。
「すごっ…これ、完全にリアルビーハンじゃん…!」
「でしょ? あんた、こういうの好きそうだなーって思って。」
彩花の何気ない一言に、紗月の心がざわついた。
(これ…これだ!)
後日、進路相談室。紗月は教師に向かって言い切った。
「私、風舞高校に行きたいです。」
「…風舞? 何でだ?」
「スポーツチャンバラ部があるからです!」
教師は呆れたように笑う。
「紗月、お前の成績なら明峰高校に行けるんだぞ? わざわざレベルを下げるなんて――」
家庭でも母親が食卓でため息をつく。
「紗月、本当にいいの? 明峰に行けば将来も安心なのに…」
「いいの! 私、風舞高校でスポチャンやる!」
母親が困った顔をすると、彩花が横からフォローを入れる。
「別に良いじゃん。紗月、今まで何かに夢中になったことなかったしさ。」
「お姉ちゃん…」
母は黙り込み、紗月は小さな拳を握った。
(反対されても…私、ここで何かを始めたい!)
桜が舞う春の日、紗月は風舞高校の校門をくぐった。
「…ついに来ちゃった!」
校内では勧誘の声が飛び交い、体育館では部活動紹介が行われていた。
「次は、スポーツチャンバラ部です!」
アナウンスが流れた途端、目の前で剣を構える部員たちが一斉に動き出す。
「構え!」
「――ッ!」
ビシッと決まる構え、風を切る剣、軽快な音。そして相手を一撃で仕留めるその姿――。
紗月の心が震えた。
(これだ…! これ、やりたかったやつ!)
練習場に行くと、部長らしき先輩が声をかけてくる。
「新入生? やってみる?」
紗月は目を輝かせながら答えた。
「やります! ビーハン仕込みの必殺技、出します!」
「……何それ?」
ドヤ顔で構えた瞬間――空振り。自分の足を叩いて「いてっ!」と叫ぶ紗月。
部員たちは吹き出す。
「必殺技どこ行ったんだよ!」
「まぁまぁ、最初はそんなもんだ。」
夕暮れの体育館。部活終わりに小太刀を手に持ち、紗月は真剣な目で前を見据える。
(親も先生も反対したけど、やっぱりここに来て良かった。)
窓の外に夕日が差し込む中、小太刀を構える紗月の姿が映る。
「私、ここで――ヒーローになる!」