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第60話 社畜と第二のダンジョン

 足元に出現した石蓋は、明らかに地下へと続く扉だった。


 隠し扉らしく縁に取手らしきくぼみがある以外は、何の変哲もないのっぺりとした石床に見えるが……そもそもこんな場所にこんなものがあること自体、不自然だ。


 もしかしたら、以前はこの一帯が建物の内部だったのかもしれない。


 もちろん他の廃墟のように苔むしていたりひび割れていたりすることもない。



「…………」



 石蓋を見て、ゴクリと生唾を呑み込んだ。


 これは多分、ダンジョンへと続く扉だ。



 まさかこっち側で見つかるとは思っていなかったが、確かにこの一帯にはいくつもの廃墟が埋もれていた。


 ダンジョンが存在する可能性は十分にある。



「どうしよう、クロ」


「…………」



 もちろんクロは何も答えず、俺をただじっと見つめているだけだ。



「そうだな……」



 少しだけ立ち止まって考える。


 まあ、俺にしか視えない隠しダンジョンが目の前に出現したら……入らないという選択肢はないよな。



 とはいえ、すでに周囲はだいぶ暗くなってきている。


 あと一時間もしないうちに森は闇に沈むだろう。



 ……よし、決めた。



 ちょっとだけ内部がどんなものか確認してから帰ろう。



「よっ……と」



 もともとスキルで強化された腕力のおかげもあって、石蓋はあっさりと持ち上がった。


 内部は、地下へと続く急な階段になっていた。


 数十段ほどで、深さは地下5、6メートルくらいだろうか。


 そこからは平坦な通路になっている。



 そして案の定というか、階段の奥にゆらゆらとゆらめく光が見えた。


 ここからでは見えないが、おそらく松明の火だろう。



 廃墟と同じ年代の建造物だろうに、照明がついたままだ。


 生暖かい、埃とカビの混じった独特の匂いが吹き上がってくる。


 この感じ。


 やはり、この階段の奥はダンジョンだと確信する。



 そう思うと、奥に進んでみたいという衝動が胸の内に湧き上がってきた。



「よし、それじゃあちょっと奥まで確認して……おっと」



 思わず階段を降りようとしたところで、ぐいと後ろに引っ張られた。


 見れば、クロが俺の服の端を噛んで引っ張っている。


 なんだかちょっと不機嫌な様子だ。



 そこで冷静になった。



「おっと……そうか。もう夕飯だよな」



 宿場町からここまで来るのに、三十分ほど歩いてきている。


 ダンジョン探索をちょっとでも始めてしまえば、ついつい夢中になって地上に戻るときには周囲は真っ暗になっている恐れがあった。


 一応懐中電灯やスマホなどの照明器具は持っているが、帰り道で夜行性の魔物に遭遇しないとは限らない。


 それに冒険者登録初日から無理はするなとリンデさんに釘を刺されている。


 今日はもう戻ったほうが無難だな。



「ゴメンな、クロ。さっさと戻ろう」


「…………フスッ!」



 当然だ、とばかりに鼻を鳴らされた。




 ◇




「お。ちゃんと戻ってきたね、偉い偉い。『無理しない』ってのは冒険者の一番大事な素質だからね。アラタさん、なかなかいい感じだよ!」


「あ、ありがとうございます」



 宿に戻ったら、リンデさんにめっちゃ褒められた。


 ……依頼そっちのけで思いっきり道草食おうとしていたなんて言えない。



「じゃ、少し早いけどご飯にしよっか」



 俺の姿を見て安心したのか、リンデさんは夕食の支度を始めた。


 キッチンカウンターの奥、竈の上に載った鍋からはシチューの良い匂いが漂ってきている。


 と、そこで気づく。


 鍋のサイズが小さい。


 宿で使うものというよりは、完全に家庭用サイズだ。



「あれ、他の方っていないんですか?」



 確かに人が少ないと思ったが、そういえば食堂には俺とクロ、そしてリンデさんしかいない。


 と、リンデさんが食事の準備をしつつ苦笑した。



「あー、この宿ってめちゃくちゃ辺鄙な場所だし、依頼とかもあんな感じだから……冒険者どころか旅人だってほとんど来ないし、アラタさんがひと月ぶりのお客さんなんだよね。だから、ふふ……今夜は二人っきりだね♪ なんちゃって」


「そ、そうなんですか」



 リンデさんが繰り出した魅惑のジョークはさておいて、それで経営成り立つのだろうか……




 夕食は美味しかった。




 ※クロは猪肉を焼いたものをお腹いっぱい食べました。

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