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第39話 社畜、新兵訓練に参加する

「これから朝の鍛錬だ。ヒロイ殿も練兵場まで来るといい」



 張り切った様子のロルナさんに連れてこられたのは、砦の中庭にある運動場のような広場だった。


 規模としては、サッカーのグラウンドより二回りくらい小さい感じだろうか?


 そこでは砦にいる兵士たちが武器を取り訓練に励んでいた。



「おらおら槍兵、突きが遅いぞ! そんなへっぴり腰じゃオーク兵のデブっ腹に押し返されちまうぞ! 歩兵どもはもっと腰入れて剣を振れ!」



 と、彼らに大声を飛ばしているのは……もちろん兵士長のフィーダさんだ。


 トレードマークの大剣の代わりに、同じような長さの木剣を片手でブンブンと振り回している。


 まあ、あれで訓練している兵士の皆さんをシバいたりはしないだろうが……迫力はたっぷりだ。



「おっ? ヒロイ殿じゃねーか。六日後にやってくるんじゃなかったのか?」



 と、目ざとくこちらを見つけたフィーダさんが、副官らしき人に訓練の指揮を任せたあと近づいてきた。



「フィーダさん、おはようございます」


「おうよ。もしかして、さっそく俺好みの品を仕入れてきてくれたのか? ならもうちょいで朝練が終わるから、その後見せてくれよ。あと、そっちのクロちゃんも軽く撫でさせて……うおっ!?」


「…………!」



 フィーダさんがしゃがみこみ例の気色悪めな笑顔でクロを撫でようとしたら、スルリと躱されてしまった。



「……ま、気位が高い仔は嫌いじゃないぜ……?」



 そう言うフィーダさんは完全にショボーンな顔になっているが、ここはフォローした方がいいのだろうか。


 したらしたで傷に塩を塗り込みそうな気がする。



 そんな様子に空気を読んだのか、ロルナさんが話を切り出した。



「すまない、兵士長。今日のヒロイ殿は商いで来たわけではないのだ。実は……」


「ロルナさん、そこは私から説明します」



 とはいえ、さすがに彼女にすべてを説明してもらうわけにはいかない。


 俺はフィーダさんに事情を簡単に話した。



「なるほど。なんだかんだ、あんたも男だったってことか。いいぜ、そういう話は大好物だ」



 言って、フィーダさんがニヤリと笑いながら頷いた。


 どうやらクロに振られたショックからは立ち直れているらしい。


 ちょっとホッとする。



 フィーダさんが続ける。



「こっちは練兵のプロだ。俺が引き受けてやるよ」


「待て。兵士長、ヒロイ殿は商人だぞ? 貴様の兵たちと同じようには――」


「あー、分かってる分かってる」



 ロルナさんが慌てたように言い募るが、フィーダさんはヒラヒラと手を振って彼女の話を制止した。



「ヒロイ殿については個人技訓練の方でいろいろ見てやる。だがまあ、せっかくだからゆっくり見物していってくれ」


「あ、ありがとうございます」


「わ、私も見学していこう!」



 フィーダさんの計らいは俺にとって大変ありがたいものだが、なんかロルナさんが大事にしてたおもちゃを取られた子供みたいな顔になってるけど大丈夫だろうか?



 それはさておき。


 格闘漫画やバトル漫画などの知識ではあるが、格闘技や剣道においては見学するのも修練の一つと聞いたことがある。


 見取り稽古……だったっけな。



 そして俺は『模倣』によりそれを『スキル』として習得することができるようになる。


 ここはしっかりと見物させてもらうことにしよう。



 俺は兵士たちの集団戦闘訓練をつぶさに観察する。



 …………。



 おお、なるほど。


 集団戦ではこういう風に攻撃を加えるのか。


 となると、多数の敵に襲われたときの立ち回りは……こういう感じか。



 なるほどなるほど。


 魔眼のせいかこれまでの戦闘経験のおかげか、ただ見ているだけなのにスッと自分の身体に戦闘の様子がしみ込んでくる。



 ……兵士たちの訓練が終わる頃には、一対多数の基本的な立ち回りが理解できていた。



 もしかして、スキルも取得可能になったのでは?


 そう思いステータスを呼び出してみると……



 《模倣:レベル1 により『乱戦の知識(基礎)』を習得できます 取得マナ:1,000》


 《『乱戦の知識(基礎)』:少数対多数における立ち回りの基本を、身体感覚レベルで実行できる》



 《模倣:レベル1 により『剣術の心得(基礎)』を取得できます 取得マナ:1,000》


 《『剣術の心得(基礎)』:ノースレーン王国周辺で主流の剣術の基礎を身に着けることができる》



 《模倣:レベル1 により『槍術の心得(基礎)』を取得できます 取得マナ:1,000》


 《『槍術の心得(基礎)』:ノースレーン王国周辺で主流の槍術の基礎を身に着けることができる》



 おお、出てきた出てきた。



 これは全部、今後の為にもマストでは? 


 取得コストも低めだし、今すぐ全部取得しておこう。



「待たせたな、ヒロイ殿。……んん? なんか雰囲気が変わった気がするが……気のせいだよな?」



 と、集団戦訓練が終わったフィーダさんがこちらにやってきてそんなことを言ってきた。



「そ、そうでしょうか?」



 さすがに『模倣』でスキル取得をしたなんて言い出せず、俺は営業スマイルを浮かべて誤魔化した。



 いや……このスキル、チートすぎてなんか使うの申し訳なくなるんだよなぁ……


 だって普通の兵士さんなら、こうやって厳しい訓練の果てに身につけるものなわけで。



 とはいえ、俺は俺でそんな呑気なことを言える状況でもなく。


 いずれロルナさんやフィーダさんの役に立てるよう、今日習得できるものはしっかりとすべてを吸収させて頂くことにする。



 ていうか、スキルを取得しただけで雰囲気が変わるものなのだろうか?


 その辺はよく分からない。


 フィーダさんが特別に勘が鋭いのかもしれない。


 ちなみにロルナさんは特に俺をチラチラと見てくるものの、何かを言ってくることはなかった。



「よし、じゃあやっていくか。あんたは自分は武器なし、相手は武器ありの戦闘を想定してるようだが、最初はどっちも武器ありでの感覚を掴んでおいた方がいいだろう。おい、誰か木剣を一本貸してくれ。それと……よし、お前。ヒロイ殿の相手をしてやってくれ」


「ハッ!」



 そんなわけでフィーダさんから木剣を受け取り、練兵場の真ん中に立つ。


 ちなみにクロは状況を察したのか大人しく練兵場の隅っこ……ロルナさんの隣にちょこんと座り込んだ。


 彼女がちょっとほっこりした表情になっているのが微笑ましい。



「……ジョシュと申す。お相手、務めさせて頂きます」



 俺の前に進み出てきたのは、中堅といった感じの兵士さんだ。


 歳は二十五歳くらいだろうか?


 かなり鋭い雰囲気で、こちらを品定めするような視線を送ってきている。



 端的に言って、強そうだ。



「こちらこそ、よろしくお願いいたします」



 言って、俺も頭を下げた。


 挨拶は大事だからな。



「では」


「はい」



 ジョシュさんが木剣を構えたので、俺もそれに倣って木剣を構えた。

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