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第271話 魔法少女、強敵と対峙する ②【side】

「はっ、そんな見せかけの子供だましなど、私に通用するものか」



 白銀の魔力に包まれた黒い魔法少女を一瞥して、『1番』――『不知火(しらぬい)』は鼻で笑った。



 確かに、目の前の魔法少女は多少なりとも魔力が増加した気配がある。


 雰囲気も剣呑なものへと変わった。


 だが、それだけだ。


 所詮は児戯。


 所詮は雑魚の悪あがき。


 事実、これまであの黒い魔法少女も黄色い魔法少女は懸命に自分を攻め立てていたが、ただの一度たりとも効なダメージを負わせられていない。


 確かに魔法少女たちは、これまで戦ってきた者たちの中では屈指の実力者と言えるだろう。


 そもそも、自分の『鬼火』を何度も喰らってまだ生きている者は初めてだった。


 だが彼女たちの攻撃は、ただの一度も不知火に届くことはなかった。


 ゆえに彼女がそういった反応を見せるのは当然のことだった。



 不知火がこの世に生じて幾千年、西の大陸からこの『日本(ひのもと)の国』に渡ってきてから千余年。


 不知火は最初(はじめ)から今まで、常に最強だった。


 もちろん、大陸でもこの島国でも、自分を滅しようと、あるいは調伏しようと数々の人間や自分の同類――この国では現在、連中を怪人と呼ぶらしい――が押しかけてきた。


 全員がもれなく雑魚だった。


 ごくまれに自分と多少なりとも渡り合える強者も存在した。


 中には手傷を負わせる者もいた。


 それでも自分を敗北に追い込むような者はただ1人として存在しなかった。


 何しろ自分の『鬼火』をいくつか投げつければ簡単に消し炭になってしまうのだ。


 よしんばそれをかいくぐり自分に攻撃を当てたとしても、攻性結界『陽炎(かげろう)』により反撃を受け致命傷を負ってしまう。


 ごく稀に敵の攻撃が通り多少の傷を受けたことがあったが、それも治癒能力『浄火』によりあっという間に癒えてしまう。


 これでは勝負も何もあったものではない。


 戦いはすぐに飽きてしまった。



 もっとも不知火とて、人間や怪人がまったく嫌になったというわけではない。


 自分に敵意を向けて来る者は基本的に好きだ。


 その敵意と自信が恐怖に変わり、そしてさらに、逃れられぬ死の運命に晒されたあと、その顔が絶望に染まる瞬間を見るのは堪らない愉悦だった。


 そんな連中の中でも、自分の足元に這いつくばり意地汚く命乞いをする者たちの姿は実に滑稽で愉快だった。


 もっとも、そういう連中の無様な様子をひとしきり堪能したあとは、しっかり消し炭にしてやったが。



 そんな彼女ゆえ、一度は人間に成り代わって連中を支配することも考えたこともある。


 実際、この島国に渡ってくる前の数千年の間に、手慰みに幾つかの小国を滅ぼしてみたこともあった。


 ふらふらと流れ着いた土地の王を殺しその地位を簒奪した。


 だが不知火は己の個の強さゆえ、人間の(まつりごと)など毛ほども分からぬ。


 反抗してくる者は強ければ愉しんで殺した。


 (おもね)るものはつまらないのですぐに殺した。


 全土で反乱が起きたら、それを蹂躙した。


 やがて国が滅びた。


 それを3つか4つほどそれを繰り返したあと、飽きてしまった。



 新たな混乱と強者を求めて、この島国に渡ってきてからはしばらくの間楽しめた。


 大陸ではほとんど殺し尽くした、強き者たちもたくさん残っていた。


 だが、結局大陸と同じことだった。


 そして……自分が蟻の中で王を気取る象だと気づくのに、そう時間はかからなかった。


 だから不知火は表舞台から姿を消した。


 千年ほど、眠りにつくことにしたのだ。


 さすがにそのくらい時を飛ばせば、人間と言えども多少は自分と渡り合える力を持つだろうと期待して。



 そして現在。


 不知火は目覚めてすぐ、人間たちが昔とは比べ物にならないほどの武力を有していることに気づいた。


 さすがに自分を滅ぼし得るまでとは思わなかったが、それでも歓喜した。


 ようやく、蹂躙しがいのある世界が到来したのだ。


 だが、長年の眠りゆえ魔力が枯渇していた。


 今では、往時の半分ほどの魔力しか残っていなかった。


 それではさすがに、全力で『愉しむ』ためには心もとない。


 幸い、魔力を高めるための手段は目覚めた場所のすぐ近くに存在した。


 その地どういうわけか異様なまでに魔力が蓄えられており、しかも他の地では見られなかった、『魔法少女』などという類稀なる強者が存在していた。


 おまけに他の地域から強力な怪人たちもかの地の魔力を狙い、終結しつつあるという。


 この機会を逃すのはあり得なかった。


 故に彼女は、この日、この地にやってきたのである。



 もっとも最初に出くわした怪人はまったく相手にならず、一瞬で塵と化した。


 だからこそ、自分の火球を何度受けても持ちこたえた目の前の2人には期待していた。


 けれども、どちらの攻撃も自分を傷つけることすらできなかった。


 ――ああ、この魔法少女とかいう連中も結局はこれまで屠ってきた有象無象と変わらないのか。


 ――新しい技も、結局は単に魔力を集めてぶつけるだけの技のようだ。



 そういう、圧倒的強者ゆえの失望という名の『慢心』があった。


 だから黒い魔法少女が視界から掻き消えると同時に自分の近くで白い閃光が走ったとき――不知火はその攻撃を避けようともしなかった。



 もっとも、仮に彼女が『それ』を避けようとしても無駄だっただろう。


 白い閃光が走ったことを認識したのは、それが自分の身体を通り抜けたあとだったのだから。



「…………ばかな」



 掠れた声が喉から漏れた。


 上半身と下半身が徐々にずれていくのが分かった。



 不知火の身体は、他の怪人と同様に魔力で構成されている。


 ゆえに、物理的な斬撃ならば、たとえその身体をバラバラにされたとしても『浄火』がたちどころに傷を癒してしまう。


 今も、不知火は両断された身体を再構築すべく傷口に魔力を集中させている。


 だが――



「なぜ、傷が癒えない。そもそも、なぜ『陽炎』が発動しなかった」



 不知火は、自分を取り囲むように攻性結界『陽炎』を張り巡らせている。


 当然上下左右前後、全方位にだ。


 その鉄壁の防御をかいくぐり、自分に斬撃を浴びせる手段があるというのか。あるわけがない。


 だが現実に、黒い魔法少女の攻撃は自分の身体を両断した。


 そしてその傷から体組織が自壊を始めている。治癒が追いついていない。


 まったく意味が分からない。


 だがこの現象を、不知火は知っている。


 他者――自分と戦ってきた怪人たちが、その最後(・・)に散々見せた現象だ。


 つまりは――死。



「……あり得ない」



 ここにきてようやく自身の慢心を悟った不知火が、元の位置に戻った黒い魔法少女を見据えた。


 ひらひらとした西洋風の服に、彼女の身の丈を越える大きな鎌。


 その刃は魔力で構成されているのか、青白く光っている。



 そうか。


 不知火はそこでようやく悟った。


 あれは死神だ。


 自分の魂を刈り取り、冥府へと連れてゆく者。



「いやだ、まだ私は――」



 それが不知火の最期の言葉になった。

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