第266話 社畜と怪人大戦争①
小一時間ほどの打ち合わせ(?)を終え、怪人たちが帰ったあと。
会議室は珍しく重苦しい空気に包まれていた。
一時的にせよ、怪人と手を組む。
それだけでも一大事だというのに、どうやら『土蜘蛛』という怪人は先日の合宿で発生した襲撃案件の黒幕らしいのだ。
結果的にこちら側に人的損害がなかったから良いものの、まあまあの大騒ぎだった。
戦闘訓練は中途半端に終わってしまったし、俺や魔法少女の面々はともかく、桐井課長や現場調整課の皆様はかなり怖い思いをしただろうしな。
抵抗感はかなり大きい。
「さてはて、どうしたものかのう……」
社長殿が腕組みをしつつ、深いため息とともにそう漏らしたのは当然のことだった。
もっとも……結論を言えば、俺たちは怪人らの提案を受け入れることになった。
こちらも怪人たちとの戦力差を考慮すると、向こうサイドで勝手に潰し合ってくれた方が都合がいいという判断だ。
それと、夜叉氏が怪人たちの素性や想定侵攻ルートを提供したのも大きかった。
社長と桐井課長は彼が挙げた怪人の名の大半を知っていたらしく、結構な大物がやってくることに驚いていたが、それも決め手になったようだ。
敵の情報が事前に分かっていれば、効率よく対策が立てられるからな。
もちろん夜叉氏から提供された情報については、これから『現場調整課』などを通して裏を取ることになる。
だが諸々の状況を総合的に判断すると、彼が嘘は吐いている可能性は低いだろう……というのが社長の見立てだった。
ただ、土蜘蛛氏については……正直、信用に値する怪人ではないというのが俺を含めた全員の見解だ。
何しろ先日の襲撃事件について悪びれる様子もなく怪人をけしかけたと話したあげく、まるで貸した漫画の感想を聞くようなノリで、彼女が作成(?)した蛙怪人との戦闘について俺に感想を求めてきたからな。
空気が読めるとか読めないとかそういうレベルですらない。
ただのアホか、そうでなければただの戦闘狂だ。
まあ……そういう彼女のエキセントリックな性格ゆえ、俺たちをハメようとしている意図はないと判断したのも、連中の提案を一応受け入れることにした理由の1つではあるのだが。
もっともこの共闘体制について当然ながら『一応』が付く。
こちらとしては怪人2人を完全に信用することなどできないからな。
彼らが嘘吐きというわけではないだろうが、怪人は基本的に人間に害をなす存在だ。
知能も人間かそれ以上。
こちらを陥れるため、あえて接触してきた可能性は排除できない。
もっとも、この点については先方も承知済みだった。
いわく共同戦線を張るといっても、あくまで互いに利害が一致している間だけの紳士協定。
この情報提供も、俺たちの動きをある意味拘束し予想しやすくするための手段。
あとは当然、今後の敵情視察。
さらに言えば、もう一人ほど夜叉氏サイドに協力的な怪人が存在する。
彼は夜叉氏や土蜘蛛氏に比べると戦闘力が劣るため戦線に出てくることはないが、ある程度の支援は受けることになる。
そういう趣旨の話を、夜叉氏はわざわざ俺たちにしたのだ。
それが彼なりの誠意だったのだろう。
もちろんこちらとしても、二人だけが相手だと思っていないし、敵情視察は想定の上で本社に招き入れているから問題はない。
そもそも主戦力となる魔法少女の皆さんの大半は学生なので本社にいないしな。
ということで、連中と交わした取り決めはざっくり以下のとおりである。
ひとつ、連中が他の怪人と戦闘中に俺たちは積極的に絡みに行かない。
ひとつ、連中に魔道具による支援や魔法少女たちによる援護は行わない。
ひとつ、もし他陣営が話を持ち掛けてきたとしても、同じような取り決めはしない。
結果として共同戦線というよりは相互不干渉協定みたいな取り決めに落ち着いたが、互いに歩み寄れるのはこのくらいが限度だろう。
いずれにせよ。
今夜怪人たちが大勢この街に侵攻してくるならば、俺たちは俺たちでその対策を立てなければならない。
◇
『別室』のオフィスに戻ったあとは、今夜行われる作戦行動の準備を進めていった。
他の事務仕事が全部明日以降に後ろ倒しになるので気が滅入らなくもないが、誰かと会う予定が入っていなかったのは不幸中の幸いだろう。
とりあえず、その場にいなかった『現場調整課』と『装備課』へ情報共有するために打ち合わせの要点をまとめた資料を手早く作成していく。
郷田課長と三木主任は、万が一のことを考え社長が出席させなかったからな。
「ええと、怪人たちの侵攻は23時頃からでしたっけ」
「彼らの言い分を信じるなら、ですけどね」
俺の何気ない一言に、同じく事務作業中の桐井課長がPCと睨めっこをしながら応じる。
彼女は怪人たちの言い分をあまり信じていないようだ。
まあ、無理もないが。
「戦力差はどう考えます?」
「可能ならフル対応できるような体制を組むべきでしょうが……魔法少女の数が足りませんね。マスコットの皆さんについては補欠の方々に声を掛けます。以前の大攻勢のときと同じく、町域全体を『遮音結界』で封鎖する必要がありますからね」
「他の地区で活動する魔法少女の子たちは来れないんですか?」
「今日いきなりは多分難しいでしょうね。それについては、社長が同業の陰陽師の方に声を掛けると言っていましたから、多少の戦力補充はあると思います。先方の都合もありますから、完全に当てにして作戦を組むわけにはいかないでしょうが……」
「なるほど」
そういえば、そんな話をかなり前に聞いたような気がする。
妖魔を討つ陰陽師……か。
なんだろう、想像すると妙にワクワクしてしまうな。
和装でお札とか使うのだろうか?
「それと、小山内さんの妹さんにも出動してもらう予定です。マスコットも決まっていませんが、仕方ありません」
「いきなり複数の怪人との戦闘ですか。なかなかハードな初陣ですね……」
「こればかりは仕方ありません。きちんとサポートを受けられるよう、『現場調整課』としっかり擦り合わせをしておきましょう」
「了解です」
もっとも『現場調整課』による作戦指揮は的確のようだし、美祢ちゃんの戦闘スキルはすでに即戦力レベルだった。
コミュニケーション能力もそれなりにあるし、魔法少女の先輩方の後ろで行動する分にはそれほど危険に遭うことはないだろう。
まあ、実戦になれば俺たち『別室』は見守ることしかできない。
彼女を含め魔法少女の皆さんが十全に戦えるよう、しっかり下準備を進めていこうと思う。
「それにしても今日は完全に徹夜コースだな……廣井、お前のとこのクロは大丈夫なのか?」
と、佐治さんが書類と格闘しつつも俺に話題を振ってきた。
「スマホを持たせてあるので、一段落したら本社まで来るように連絡しておきます。自分としても、一緒にいた方が安心ですからね」
「うむ、それがいいだろう。……廣井、またクロを撫でてもいいか」
「構いませんが、私ではなくクロに許可を取ってからにしてくださいね」
佐治さんは先日の一件でクロが気に入ったようだ。
扱いが完全に人んちの飼い犬に対する態度のそれなので少々複雑な気分ではあるが、実際その通りなので文句をいうことはない。
まあ、仔狼姿のクロは全人類を魅了する可愛らしさだからな。
こればかりは致し方あるまい。
ちなみに桐井課長はクロの話題が出てくるたびチラチラとこちらを見てきたが、何かを言ってくることはなかった。
そんなこんなで会話をしつつも手早く資料をまとめ、関係者にサクッとメール。
その後すぐに郷田課長から電話がかかってきたので、打ち合わせの概要をさらに説明。
その後は再び『現場調整課』と『装備課』を交えて作戦会議を行い……あっという間に夜がやってきた。




