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第265話 社畜、怪人たちと対峙する

 定刻の少し前に、アポ通りの会社名を名乗る男女2人が本社を訪れた。


 2人は受付で念のためのボディチェックを受けたのち、受付のお姉さんと警備のおっさんに伴われビル30階にある会議室へ。


 余談ではあるが、受付のお姉さんも警備のおっさんも三木主任より戦車砲弾の直撃にも耐える例の防御結界魔道具をそれとなく渡されているとのこと。


 当然、2人を案内した会議室は対怪人用に急遽『遮音結界』を施してある。



 段取りとしては、まず俺たち『別室』の面々で対応。


 その後危険がないことが確認でき次第、社長が合流……という流れである。



「お待たせしました」



 受付より案内が完了した旨の連絡を受け、俺たちも会議室へ。


 怪人を名乗る2人組は、真面目そうなサラリーマン風の男性と和服の銀髪少女という取り合わせだった。


 2人とも大人しく椅子に腰かけており、すでに受付のお姉さんが配ったと思しきペットボトルのうち和装少女の方は半分ほどに減っている。


 警戒心は……まったくなさそうだな。


 というか、こちらに対する害意も敵意も見受けられない。


 和装少女の方は完全に寛いでいる。ある意味強者のムーブである。



 あえて2人の印象を述べるならば、地下アイドルを売り込みに来たマネージャーとその本人、言ったところだろうか。


 まあ我が社はテレビ局でも芸能事務所でもないわけだが。



 一瞬『鑑定』を掛けるべきか迷ったが、ひとまず判断を見送った。


 怪人ならおそらく反応はしないだろうが、替え玉……というか普通の人間が怪人の代理人としてやってきた可能性も少ないながら考えられたからだ。


 それに今は、お互い社会人として対面している。


 個人的な判断で動いて一触即発の状況を作り出すわけにはいかない。



 そして初対面同士の社会人が最初にやることと言えば。


 そう、名刺交換である。



「『夜叉』と申します。この度は忙しい中、お時間を割いて頂きありがとうございます」



 男性の方は俺たちを認めるとすぐに立ち上がり、位置的に一番近くにいた俺に慣れた所作で名刺を差し出してきた。


 名刺は簡素かつ一般的なもので、太めの明朝体で会社名や住所、それに名前が印刷されている。


 どこにでもあるような、中小企業の社長さんの名刺といった印象だ。


 ただ、その名刺には『夜叉』の文字はひとつたりとも見当たらない。



「ああ、失礼。さすがに怪人としての名刺などありませんからね。ですが、『表』の肩書をお伝えした方がお話しやすいかと思いまして」



 俺の様子を察したのか、夜叉を名乗る男は苦笑しつつ、そう言い訳をした。


 彼が差し出した名刺は、彼がコンタクトを取ってきたときに名乗った会社名や社長名と一致している。


 事前に会社名をインターネットで検索したところに、一応まともに事業を営んでいるらしく会社HPが存在し、ご丁寧に社長の近影まで載せてあったのだからさすがに間違いはないだろう。


 まあ、そっくりさんが化けていたりHPの写真が別人である可能性もなきにしもあらずではあるが……それを言い出すときりがない。



「……これはご丁寧に。廣井と申します」



 そんな心中はおくびにも出さず、俺は笑顔を浮かべながら名刺を交換する。


 これまで何百何千回と繰り返し、骨の髄まで染みついた動作だ。


 仮に相手が人外であろうが何の問題もない。


 今の俺ならば、神や悪魔を前にしても動ずることなく名刺を交換できることだろう。


 ――これが(社畜)の極みか。


 ちなみに桐井課長や佐治さんも、社ち……ビジネススキルも相当なもので、特に佐治さんは本物のビジネスパーソンのごとく笑顔で名刺交換とお辞儀をこなしていた。



 一方和装少女というと、俺が名刺を差し出すと困ったようにはにかんだ。



「ああ、私は『土蜘蛛』という。すまないけど私は名刺をもっていないんだ。そんな機会もなかったしね。構わないかな?」


「それは失礼いたしました。それでは私の名刺だけでも」


「うむ、ありがとう」



 と、土蜘蛛氏は俺から名刺を受け取ったあとも他の人のもとに行かず、なぜか距離を詰めてきた。


 思わず身構えるが、彼女には害意は見て取れない。



「ふぅん……やっぱりこうして近くで見てみると、なかなかいい男だねぇ」



 彼女は俺にしか聞き取れない小さな声でそう呟き、俺の頭のてっぺんからつま先までを舐めるように眺めている。


 何だこの子……中身セクハラおじさんかな?



「……あの?」


「うんうん、今日はこのためだけにも来たかいがあったというものだよ。今後ともよろしくね、廣井くん(・・)?」


「は、はあ……」



 土蜘蛛氏はもう一度俺の顔を眺めまわしたあと、桐井課長と佐治さんから片手で名刺を受け取るとさっさと長机に座った。


 ……椅子ではなく長机にである。


 まあ、もう怪人の挙動にいちいちツッコんでも仕方ないと思ったのか、誰も何も言わなかったが。


 ちなみに夜叉氏は普通に長机の椅子に腰かけた。




 ◇




 一通り自己紹介が終わったところで2人が暴れる危険性は低いと判断し、桐井課長が社長(ソティ)を会議室に呼び出した。



「ふむ……貴様らがそうか」



 ソティは大人姿で会議室に入ってくると、怪人たちを一瞥して鼻を鳴らした。


 そんな彼女を一目見て土蜘蛛氏が『んん!?』と目を剥く。


 彼女の反応は、社長の不遜な態度に対するものというよりも『誰だこいつ!?』みたいなニュアンスに見えた。


 もしかして、彼女は社長の真の姿を知っているのだろうか?


 だがさすがに今すぐここで何かを言うつもりはないようだ。


 彼女は気持ちを落ち着けようとしたのか、ペットボトルの残りをゴクゴクと一気に飲み干した。



 ひとまず社長は簡単な自己紹介とともに2人へ名刺を配り、すぐに席に着いた。


 かなりピリピリした雰囲気を放ち続けているが、大丈夫だろうか。


 特に土蜘蛛氏への視線が厳しい。


 そういえば彼女は社長によく似た顔立ちをしている。


 なにか因縁でもあるのだろうか。



 そんな張り詰めた空気の中、夜叉氏が話題を切り出した。



「……さて。雑談をする仲でもないですし、さっそくですが本題に入りましょう」


「ほう、なんじゃ。言うてみい」



 社長が顎をしゃくり、夜叉氏に先を促す。


 というか、いつもの口調が出てますよ……


 だが緊迫したこの状況では、誰も彼女の口調にツッコむ者はいない。



 社長の言葉を受け、夜叉氏が続ける。



「今夜、関東一円に住まう怪人たちがこの街の支配権を争うための戦争が行われます。その数は、我々が把握しているだけでも10名を確認しています」


「今夜……10名……!?」



 桐井課長が絶句する。


 10体程度、大したことがないとは……思えなかった。


 今いる魔法少女たちはかなり強いと思うが、中堅以上の怪人相手なら何人かで協力する必要があるだろう。


 そういう強さの奴らが、一気に10体。


 夜叉と土蜘蛛を加えれば12体だ。


 さらに、そのうち何割かは妖魔を引き連れてくるだろう。


 仮に俺や佐治さん、それに社長が出張って各個撃破に成功したとしても、その間に街が崩壊しかねなかった。



 ……これ、普通に警察案件なんじゃないか?


 と思ったが、そう言えば公安の怪人とか怪異対策の部署ってめちゃくちゃ小さいんだっけ。


 というか我が社のような民間企業に業務委託するようなレベルだ。


 仮に対処できる人員を増やすにしても、時間的に間に合わない可能性がある。


 もちろん、通報と相談はすべきだろうが……それで期待できるかといえば何とも言えなかった。



 おそらく夜叉氏がこの話を持ち掛けてきたタイミングからしても、国が介入しづらいタイミングを見計らってのことだ。


 ……面倒なことになった。



 そしてそうまで言われれば、さすがの社長も黙っていない。


 大人姿ではあるが、怒りのオーラとともに強烈な魔力が溢れ出している。



「つまり貴様らは、ワシらにわざわざ宣戦布告をしにきたという理解でよいのじゃな? この場で滅され(みずか)らの命を開戦の狼煙にしようとは、実に見上げた根性じゃのう」


「と、とんでもありません」



 だが夜叉氏は慌てて首を振った。



「我々……少なくとも僕と『土蜘蛛』は皆様と争う意思はありません。特に僕は人に害をなすこともなく、この街の近郊で何百年も静かに暮らしてきた。今さら魔法少女や陰陽師に滅せられたくないし、怪人たちの抗争に関わるつもりもない」


「……ならば何じゃ」



 凄む社長を真っすぐ見据え、夜叉氏が真剣な顔で口を開いた。



「僕と『土蜘蛛』で怪人の数を半分に減らします。それまで、どうか共同戦線を張ってはもらえませんか」

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