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第260話 新人魔法少女、滾る 中

 俺と三木主任、それに美祢(みね)ちゃんの三人でビルの地下深くにある訓練施設へ移動する。


 ここはサッカー場ほどの広さがあり、天井も高く魔法少女の俊敏な立体移動にも対応できる場所だ。


 さらには施設の一区画には足場のような構造物が組まれており、障害物や遮蔽物のある中での本格的な戦闘訓練が可能となっている。


 もちろん壁面や床天井には魔法結界による耐衝撃加工も施されており、多少暴れても建物に被害が出ることはない。


 ちなみに部屋の隅に普通のトレーニングマシンも設置してあるのだが、そのどれもが超上級者向けの高負荷仕様となっている。


 もっとも、魔法少女に変身したあとの身体能力を考慮すれば、どれだけ意味があるのかは定かではないが……


 余談だが、佐治さんは生身でマックス重量を上げるとのこと(本人談)。


 体内の魔力練って気合と根性を出せば余裕だそうだ。


 あの人、種族が人間じゃなくて怪人寄りなんじゃないかとたまに思う。



 ――そんな訓練施設には先客がいた。


 施設の片隅で一心不乱に身の丈の倍はあろうかという巨大な槌をブンブンと素振りしているのは――



「あっ、廣井さん……と三木さん。お疲れ様です」



 俺たちが入ってきたのを認識して、朝来(あさご)さんが素振りを止めた。


 無論、魔法少女姿である。


 どうやら学校帰りにここまで直行してトレーニングをしていたらしく、すでに汗だくだ。


 彼女は変身を解除したあと、首にかけたタオルで汗を拭きつつこちらに近づいてくる。


 トレーニングウェアも揃えているあたり、もしかしてジム代わりに使っているのだろうか。


 まあ、魔法少女なら施設を管理している部署に申請すれば無料で使えるから別にいいのだが……



「その子は……もしかして新人の子かしら?」



 そして当然ながら、俺たちの隣にいる美祢ちゃんに視線が向くわけで。



「初めまして、小山内(おさない)美祢と申します」



 すぐに美祢ちゃんが朝来さんにお辞儀をする。


 そんな彼女を見て、朝来さんは少しだけ胸を張りながら応じる。



朝来蒔菜(あさごまきな)よ。ふぅん……あなたが小山内さんの妹さんなのね」


「いつも姉がお世話になっております。朝来先輩、よろしくお願いします!」


「へ、へえ……」



 最初は値踏みにするような視線を美祢ちゃんに投げかけていた朝来さんだったが、先輩、と呼ばれた途端になぜか挙動不審になった。


 耳は赤らみ落ち着かなさそうに視線が泳ぎ、口元がへにゃっと緩んでいる。


 そういえば朝来さんの学校生活については謎が多い。


 まあ彼女がぼっちなのは以前『鑑定』したときに知ってしまったわけだが、やはり後輩ができるのは嬉しいのだろうか。


 よくよく考えたら加東(かとう)さんも能勢(のせ)さんも年上だし、キャリアも上だ。


 アンリ様はは後輩だがひとつ年上だし、そもそもアンリ様に先輩後輩の概念がないからな。



「そ、それで皆はここに何しに来たのかしら? 皆でトレーニング?」


「実は彼女の魔法少女衣装と武器の最終調整と簡単な模擬戦をする予定でして。朝来さんも見学していきますか?」



 と言ってから、俺は三木主任と美祢ちゃんを見る。


 一応二人に確認を取っておこうと思ったのだが、三木主任は俺が振り向いたところで頷いた。



「別に構わないッスよ。特に隠すようなものでもないし、今後は一緒に行動してもらうかもしれないッスからね。先に動きを見てもらっていた方が受け入れやすいんじゃないスかね」


「私も構いません。それよりも、先輩にも動きを見てもらえたら嬉しいです。よろしくお願いします、朝来先輩」


「へ、へえ……じゃあ、お言葉に甘えて見学させて頂こうかしら!」



 朝来さん、美祢ちゃんが『先輩』という言葉を発するたびに身体がビクンとなっているけど大丈夫だろうか。


 それと美祢ちゃん、朝来さんの反応を敏感に感じ取って『先輩』と連呼しているあたり、意外と人たらしの才能があるようだ……


 そんなわけで、朝来さんが見学することになった。




 ◇




 最初に実施したのは、魔法少女に変身した状態での運動能力検査だ。


 基本的に、変身した状態では変身していない状態の十倍から数十倍の筋力を発揮できるとされている。


 この数値は各人によってかなり変わってくるものの、たいていの子は地球に居ながら月面に立っているように感じられるはず、だそうである。


 もちろん三木主任の調整でなるべく普段の感覚に寄せているそうだし、そもそも反応速度なども向上しているので厳密には同じではないのだが、それでもこれまでの身体感覚とはかなり違うはずだ。


 まあ、ちょっと走るだけでも自動車みたいな速度が出るし、軽くジャンプしただけで垂直に2メートルくらい飛んだりするわけだからな。


 当然ながらこの状態では戦闘どころか日常動作すらままならない。


 ……のだが。



「はっ! ふっ! ……あの、どうでしょうか?」



 訓練施設の足場をまるで猫のように飛び回ったあと、スタッ! と俺たちの目の前に着地する美祢ちゃん。


 しかも最後の着地は3回転バク中のうえ途中で2回転半捻りまで加えるというやたら難度高そうな技をキメたうえで、だ。


 さすがに着地時は勢い余って少しばかり上体がブレていたが、まあ問題になるような話ではないだろう。



「す、すごいね美祢ちゃん……」


「凄いッスね、美祢ちゃん……」



 思わず俺と三木主任とで感嘆の息を漏らしてしまう。


 そういえば彼女は体操部だったっけ、と思い出す。


 最近はパルクールとかも齧っていたと言っていたから、もしかしたらこういう機動を想定して特訓していたのかもしれない。


 それにしても、一発目からとんでもない身のこなしを見せた彼女に才能の片鱗を見出すには十分なものだった。


 まあ、3回転バク中2回転捻りが実戦で役に立つかと言えば、俺の経験上役に立たない気もするが……自らの身体能力と運動神経の高さを見せつけると言う意味ではこれ以上ない説得力ではある。



「へ、へえ……やるじゃない」



 そして俺たちと一緒に見学をしていた朝来先輩といえば。


 最初は余裕の表情で美祢ちゃんの動きを眺めていたが、気づけば腕を組んでおり、俺たちの元に着地したところを見た後は顔を引きつらせていた。


 まあ、分からないでもない。


 新人がいきなり猫みたいな身のこなしをしたうえ3回転バク中2回転捻りとかを見せつけてきたらそういう顔にもなるだろう。



 ちなみに当の朝来さんはといえば、変身していないときの運動神経はそこまでよくはないそうだ。


 以前本人に聞いた話では、体育の成績はたいてい1か2で、良くて3くらいと言っていた。


 まあ、魔法少女変身時はそれなりに動けているから……特に問題はないのだが、それはさておき。



「とりあえず、調整はほとんど必要ないみたいッスね。一応、着地時にちょっと重心のブレがあるみたいッスから、そこが改善点スかね」


「えっ、今ので分かったんですか!? 確かに、少しつんのめる感覚があったんですが……そういうものだと思ってました」



 三木主任の的確な指摘に、美祢ちゃんが驚きの表情になる。


 確かに俺も美祢ちゃんの身体のブレには気づいていたが、単純に慣れていないだけかと思っていた。


 その辺はさすがプロの目ということか。



「ま、いろいろな子を見てるっスからね。変なクセがつかないよう、あとで補正しておくッス」


「お、お願いします」



 その後、何度か武器を所持した状態で足場を飛びまわったり床の上で走ってもらったりしたあと、三木主任による最終調整箇所の洗い出しを行った。


 そして、いよいよ俺を敵に見立て戦闘訓練も兼ねた武器の試運転を行うことになった……のだが。



「じゃ、あっちの広い方で試験をやりましょうかね」



 三木主任が訓練施設の中央に皆を誘導しようとした、その時だった。



「ちょっと待った!」



 先ほどまで黙って見学をしていた朝来さんが、突如の前に躍り出てきたのだ。


 しかも魔法少女姿に変身済みだ。



「どうしましたか朝来さん。何か気になる事でも?」


「次は戦闘訓練よね?」


「まあ、そうですが」



 なぜか朝来さんはドヤ顔をしている。


 意図を図りかね、三木主任と顔を見合わせる。


 そんな様子を眺めながら、朝来さんが先を続ける。



「だったら、手本があった方が良いわ。その役、私が買って出ようと思ってね」



 ……なるほど。


 なんとなく彼女のやりたいことを察した。


 要するに先輩風を吹かせたいのだ。


 いや、さすがにそれは語弊があるかもしれないが……とにかく後輩にいいところを見せたいということなのだろう。


 もちろん、今のうちに自分の実力を見せつけておきたいという意図もあると思われる。



 まあ、確かに彼女の言い分も一理ある。


 美祢ちゃんも俺が相手よりも同年代の朝来さんが相手の方がやりやすいだろうし、先輩魔法少女の観点から色々気づいた点を指摘できるかもしれない。


 いくら佐治さんに次ぐ脳筋タイプの朝来さんといっても、さすがに初心者には手加減するだろうし、ダメならすぐ止めればいい。


 うん、悪くない案だな。



「いいでしょう。美祢ちゃんもそれでいいですか?」


「もちろんです! 先輩、よろしくお願いします!」


「でゅふ……じゃなくて、私に任せておきなさい! しっかりと貴方を指導してあげるわ!」



 なんか朝来さんの口から変な音が漏れた気がしたが、気のせいだろう。



「じゃ、朝来さんもよろしくお願いします……美祢ちゃんは新人なので、ちゃんと手加減してくださいね?」


「手加減? どうして?」



 なぜか美祢ちゃんの隣に並んだ朝来さんが首を傾げた。


 というか、なんで二人で俺に向かって武器を構えているんですかね?



「あの、二人で模擬戦闘をするんじゃないんですか」


「まさか」



 朝来さんがニコニコ顔で言い放った。



「セイラとルナとアンリにはいつも拒否られるけど、負けっぱなしは性分じゃないし。この機会を逃す手はないわ!」



 あー……そっちかー……




 ちなみに結果を言うと。


 最初に吶喊してきた朝来さんを5秒で沈め、美祢ちゃんは武器の性能試験を兼ねて動作を見たので約30秒で試合終了となりました。


 さすがにまだまだ負けんよ。

※美祢ちゃんの武器の話は次話でやります。

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